虐げられ女子がイケメン王子に助けられ〜魔導書士の戰話〜

影燈

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 だがその時だった。
「なんの騒ぎだ、これは」
 その声に、誰もが凍りついた。
 私は慌てて魔力をおさめる。
 部屋の入り口に立っている人物を認めた者から、弾かれたようにその場に平伏していく。
「蘆名さまーー」
 流匀の上擦った声がやけに響いた。
 そこに立っているのは主上にしか許されない、紫色の着物を身にまとった九孥蘆名その人だったのだ。
「何事だと聞いている」
 蘆名は当主の威厳たっぷりに流匀のことを睨みつけた。
 その目は全てお見通しだと語っていた。
「これは、その、私も一緒に壊れてしまったお数珠を拾って差し上げてたの」
 苦しい言い訳だ。
 部屋に撒き散らされた灰はどう説明をつけるというのだろう。
「ほら。早く拾いましょう」
 流匀は這いつくばって私のお数珠を拾おうとした。
 だがそこへ九孥は、私を優しく抱き起こしてから、流匀へは冷たく言い放った。
「君はもう我が屋敷への立ち入りは禁止だ」
「そ、そんな、どうしてーー」
「困るんだよ。君のような者に来られるとね」
「ひどいわ! 私はこんなにあなたのことをお慕い申し上げているのに!」
「それは君の一方的な感情だろう。ぼくには関係ない」
 女にはだらしないと評判の蘆名だが、随分きっぱりと言うのだなと意外だった。
「な、なによそれ。ふざけんじゃないわよ!」
 流匀を取り巻く気が急に変わった。
 私は避ける間もなく、首をつかまれていた。
「かはっ」
 首が、締まる。苦しい。
「やめろ! 木乎を放せ!」
 気づけば女中たちはみな気を失っている。
 流匀の邪気に当てられたのだ。その流匀は先ほどまでの美しい姿は跡形もなく、醜い姿に変じていた。
 気が、遠くなる。
 死ぬーー。
 そう思ったとき、急に私の喉が解放され、空気が肺を満たした。
 咳き込みながら顔を上げると、ぼとりと床に落ちる腕。
「ひっ」
 私は腰を抜かしたまま後ずさった。
 流匀は片腕を無くしたのに、痛みを感じてないようだった。
 血も溢れていない。
 もはや人のそれじゃない。
「魔物くせえと思ったら、やっぱりいやがったな」
 その場に姿を現したのは、繚厦だった。
 どこで手に入れたのか、ちゃっかり上官の服を着ている。
 その指には何かをクルクルと旋盤のようなものを回していた。
 流匀がもう片方の腕を伸ばしてきたのを、繚厦はその旋盤を投げて切り落とした。旋盤は円を描いて繚厦の指に再び戻ってくる。
 どうやらそれは外側が刃物になっているようだ。
 今私を助けてくれたのは繚厦らしい。
 私が礼を言おうとしたその時、
「きさま、陰者。何故ここにいる」
 九孥が繚厦に攻撃魔法を撃つ体制で構える。
 なに、この2人知り合いなの?  
「おれはもう陰者じゃない」
 繚厦は心外だとばかりに唇を噛む。
 繚厦が陰者って、なんのこと? 陰者といったらその国の王たる皇極に直属する隠密だ。噂でしか聞いたことがないけれど。実在したんだ。でも、繚厦がそれなの?
「陰の組織をそう簡単に抜けられるわけがない」
「やっぱり、ここへ来たのが間違いだった」
 繚厦は悔しそうだ。繚厦は、九孥に会いに来たのだろうか。
 探している人と、何か関係があるのだろうか。
 その時、腕を失い弱っていた流匀が急に飛びかかってきた。
 腕がいつのまにか生えている。何本も。
 もはや人の姿ではない。完全にそれは、
「魔物ーー」
 九孥が魔法弾を手に作るが、放たない。苦悶の表情を浮かべている。
 そうだよね。
 今は魔物の姿でも、もとは一族で親しくしていた者。
 私は九孥がそっけない態度とは違って非情でないことに少しホッとした。
 だが九孥のためらったその間に、流匀から毒矢が飛んでくる。実際の矢なのかはわからないけど、私にはそう見えた。
 瞬時に、繚厦の投げた旋盤が矢を砕き、同時に繚厦は流匀を、いや、流匀だった化け物を刀で斬った。
 悲鳴なのか雄叫びなのかわからない、低く響く咆哮をあげて魔物は煙と化して消え去った。
「一瞬の油断が命取りだよ。あの人はもう人じゃなかった。魔物に肉体も魂も喰われた時点で、あの人はもう死んでいる」
 繚厦がこちらに顔を向ける。
「そんなことはお前なんかに言われずともわかっている」
「それなら自己憐憫で周りに危険を及ぼすようなことをするなよ! 木乎が危なかった」
 私の名が出て、九孥は顔を顰める。
「木乎と知り合いか」
「知り合いってほどでもない」
「それなら良かった。害虫は駆除せねばならんからな」
 九孥の衣装が瞬時に変わる。
 先ほどより動きやすそうな形状は、戦闘態勢に入ったことを表していた。
「駆除される気はねえよ」
 繚厦も腰を落とし、迎え打つ気だ。
「がらではないが、彲の敵討ちだ!」
「待っ!」
 私が止める間もなく、九孥は強烈な魔法弾を放った。



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