上 下
10 / 13

10

しおりを挟む
「あの蘆名さま」
 私は小走りで蘆名を追いかける。
「様はいらない。蘆名と呼び捨てろ」
 それにはまだ抵抗がある。
 お屋敷にいる時は、こんなに気軽な人だとは思わなかった。
 王城に行くにも、籠を使わずに歩くし。
 供も連れていない。
「私なんかがお城に出向いて、本当によろしいのですか」
「敬語もやめろと言ったはずだぞ」
 もう。
「そんな急に態度を変えられません」
 蘆名が立ち止まる。
「そう。それでいい」
 振り向き、白い歯を見せて笑った。
 溢れる気品。キラキラして見えるような魅力を振りまいて、蘆名は再び歩き始める。
「お前が王城に行くことは問題ない。だが、流石にもう少し人が欲しい。山越は危険だからな。私一人でお前を守ることができるか、心配だ」
「やまごえ」
 それを私もするのか。
「そういうことで、寄り道をする」
「どこへですか?」
「国の強者が集まると噂されている店があるのだ」
 
 ***

 その店に着いたのは、もう夕刻であった。
 時さしどりが時を告げながら飛び去っていく。
 嫌な雰囲気のする場所だった。
 腐敗臭というのか、道は暗いし、一刻も早く立ち去りたい。
 でも蘆名はその路地をぐんぐんと進んでいき、一軒の店に入る。
 私も仕方なく着いていくと、店は大勢の人で賑わっていた。
 それぞれ酒の入った徳利を抱えて、豪快に煽っている。
「ここで出す酒は美味いんだ」
 品のない店だ。
 私は気が進まなかったが蘆名の勧めもあって、出された酒を一口。
「美味しい」
 驚いた。
 華やかな香りで、まるでお花を飲んでいるみたい。
「みんなここの酒を飲みに集まる」
「つわもの、はお酒が好きなんですか?」
「それもあるし、この店が毎夜開催している武闘会で優勝すれば、飲食代が永久に無料となるからな」
「永久に、ですか。すごい、太っ腹なんですね」
「まあ、優勝者は五年に一度出るか出ないか、だからな」
「え、そうなんですか? 毎晩出ているのでは?」
「店側もそう優勝されては困るからな。優勝を阻む強者を雇っているのさ」
「なんだか、詐欺みたいな話ですね」
「まあな。挑戦者も怪我で済めば良いが、命を落とすこともあるからな
「そんな危険な競技がまかりとおってるんですか。領主様は何をしているのかしら」
 その領主が、隣にいるのを忘れていた。
「すまんな」
 蘆名は苦笑する。
「必要悪さ。それでこの街も統制を保たれているという部分もある
「そうなんですか」
「武闘会は裏庭でおこなわれる。見にいくぞ」
「見たくないです」
 人が争う姿なんて。
「見たくなくば目を閉じてろ。私からは離れない方がいい」
 確かに、周りを見回すと、私のことを妙な目で見ている男性が多かった。
「わかりました」
 この街にいる間は、蘆名から離れない方がいいな。
 そう思ったのに、
 早速私は蘆名とはぐれてしまった。
 お手洗いにいく間、待っててもらったのだけど、逆方向に来てしまったらしい。
 出口が二つあるなんて盲点だった。
 建物の中は入り組んでいて、迷路みたいだ。
 そういえば、私は地図が読めない。
 お屋敷のなかでも迷うくらい、方向音痴だ。
 ここを抜けたら、裏庭だろうか。
 私は狭い廊下に入り込む。
 しばらくいくと、開けた場所にでたけれど、そこは行き止まりだった。
 引き返そうとしたその時、私は急に肩を掴まれた。
「ここで何してんだい、姉ちゃん」
 いうなり、その男は私を床に押し倒した。
 悲鳴を上げようとする私の口を押さえてくる。
 酒臭い。
 見知らぬ男が、ニヤニヤしながら私のことを押さえていた。
 周りには、他にも男がいる。
 いずれも体格の良い、見るからに屈強な男たちばかり五人。
「お供の兄ちゃんと逸れちゃったみたいだなあ」
 私を押さえている男が、酒臭い息を吐いて笑う。
「兄貴、さっさと済ませてくれよ」
「そうだぜ。待ちきれねえ」
 周りの男たちが言う。
「わかってる。順番だ」
 順番って、何が。
 それを考えたら血の気が引いた。
「おまえら、押さえてろ」
 男たちが、私の右手と左手に分かれて押さえてくる。
 腰には男がまたがっていて、身動きが一切取れない上に、猿轡をかまされ声も出ない。
 男が、私の襟を強引に開いた。
「おお。なかなか上物じゃねえか」
 男の手が私の乳房をつかもうとした。
 


しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,166

虐げられた令嬢と一途な騎士

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,007

元虐げられた公爵令嬢は好きに生きている。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:273

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,130pt お気に入り:3,346

妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:7,716

処理中です...