現代龍騎士の憂鬱~隙のない高スペック部長と隙だらけのだらしない私~

影燈

文字の大きさ
3 / 31

第3話 藪の中へ連れ込まれる

しおりを挟む
とそこへ、部長がオフィスに戻ってきた。



「どうした?」



「どうしたもこうしたも、こいつが発注の数を間違えて大変なことになってるんだよ」



 川瀬が不遜に答える。



 だからわたしじゃないのに。



「1000個のところ100個」



 部長が資料を手に取る。



「そう。もう土下座するしかないな。如月、おまえ行ってこい」



 え、わたし一人で?



 戸惑うわたしの横で、冷静に部長が言った。



「責任は検収者にあるものですよ。土下座するなら川瀬さんの役目です」



「なんで俺が!」



 川瀬が激昂する。



「しかもこの発注、川瀬さんがしましたよね?」



 部長は発注の稟議書を川瀬さんに突きつけ、検収印を押す欄をさし示した。



 そこには確かに起案者川瀬の印が押してある。



「え、俺?」



 川瀬は闘護の手から書類を奪い取って食い入るように見つめた。



「そんなに見たって事実は変わりませんよ。とにかく、この事態をなんとかしましょう。如月さん、エービー社に連絡を取って在庫にあまりがあるか、ないなら最短でいつ発注可能か聞いてみて」



「あ、はい」



「わたしは納品先に再度数量の確認を取ってみよう」



 闘護は川瀬から連絡先を受け取ると、デスクへ戻って電話をかけ始めた。



 わたしはわたしでエービー社に電話を掛ける。



 川瀬は一人手持ち無沙汰にマウスをカチカチと鳴らしていた。

 



*******



 闘護と納品先を出たのは、夜の9時頃だった。



 エービー社に問い合わせたところ、在庫にあまりはないが、夕方仕上がると言うのでそれを待って新潟県にある納品先まで届けに行ったのだ。



 遅くなってしまったが、先方はグランドオープンに間に合ってよかったと言ってくれていた。



「部長、ありがとうございました」



 ここまで闘護が社用車のトラックを運転してきてくれたのだ。



 今も帰りの道を運転してくれている。



「いや。こちらこそ付き合わせて悪かった。わたしと川瀬だけでもよかったんだが、担当がいた方がいいと思ったんだ」



 納品先のクラックショップはわたしが注文を取り付けてきた店だった。 



 けれど、大口の注文で新人には荷が重いだろうと川瀬が自分でやると言い出した案件だった。



「おかげで丸くおさまってよかったよ。日頃の如月さんの対応がよかったからうまくいったんだ。ありがとうね」



「そんなーーわたしの起こした失敗だったので」



 発注数を間違えたのは川瀬だ。



でも、今言われたみたいにわたしが担当なんだから、もっと責任を持つべきだった。



「反省するのはいいが、あまり自分を責めるなよ。今回のことは勉強になっただろうが、君が悪いわけじゃない。むしろ、部長であるわたしの監督不行き届きだよ。すまなかったね」



 部長がわたしに頭を下げるので、慌ててしまう。



「家に着く頃は夜中になってしまうね。家の人は大丈夫?」



「一人暮らしなので、そのへんは大丈夫です」



「そうか。だけどこの先渋滞だな」



 闘護の視線に合わせてナビの画面に目をやると、次のインターから先が赤いラインで引かれていた。



 闘護がハイウェイラジオをつける。



 するとこの先で事故渋滞が発生しているとアナウンスをしていた。



 大型のトラックが横転して道を塞ぎ、解消の見込みはたってないと言う。



 そのタイミングでわたしのお腹が鳴ってしまった。



 やだ、最悪。



 そう思ったけれど、闘護はふっと笑って、



「高速降りて何か食べに行こうか?」



 と言った。



「すいません。お昼、カロリークッキーだけで」



「そっか。会議もあったしな。あんまり夜遅く連れ回してセクハラとか言われるのは勘弁なんだけど」



 いつもみている部長とは違う、少し砕けた言い方にわたしも少し安心する。もっとしゃべりにくい人かと思っていたけど、行きの高速で助手席に乗っていても緊張はするけど嫌な気はしなかった。



「言わないです。やきとり食べたいです」



「やきとり? ピンポイントだな。まだ新潟抜けれてないから、いい店あるかわからないけどいい?」



「このまま高速進んでトイレも行けなくなるよりはマシかと」



「それはそうだな。よしじゃあ次のインターで降りるよ」



 だけど、わたしたちは田舎を舐めてた。 



 東京じゃ朝まで営業している店なんてザラだけど、降り立った田舎の地では、24時間営業どころか『店』というものがなかった。



「ごめん」



 闘護がそう言ったのは、その寂れた街並みに対してだと思った。



 けれど違った。



「俺、ちょっと行かなきゃ」



「え、行くってどこにですか」



 闘護は最寄りの道の駅の駐車場に入り車を停めた。



「ごめん、ちょっとトイレ。すぐ戻るよ。車、鍵かけて待ってて」



 闘護はそう焦った様子で言うと、車を降りてどこかへ駆けて行った。



 一体なんだというのだろう。



 それから30分経っても闘護の帰ってくる気配はない。



 わたしもトイレに行きたくなってきた。



 道の駅はもう閉まっていたが、付随のトイレは開いているようだ。



 わたしは車を降りて、トイレに向かった。



 広い駐車場には結構な台数の車が停まっていた。



大型車の休憩スポットとしてもここは使われているのだろう。



 わたしが用を足して、トイレの出口を出たところだった。



 急に後ろから何者かにはがいじめにされた。



 口も抑えられて声も出せない。



タバコ臭い指がわたしの口にかまされる。



 これってもしかしてやばくない?



 わたしはトイレの建物の後ろの薮に引き摺り込まれていた。


************************************
この作品が少しでも面白いと思っていただけた場合は是非 ♡ や お気に入り登録 をお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...