現代龍騎士の憂鬱~隙のない高スペック部長と隙だらけのだらしない私~

影燈

文字の大きさ
11 / 31

第12話 接吻

しおりを挟む
ちょっとドキドキしたけど、やっぱり誰にもジィが見えてないと確信できた。

「ジィ何が食べたい?」
 私が小声で尋ねると魚肉ソーセージを鼻先でつつくのでそれを買ってやった。

 それから自分用におにぎりとサンドイッチと棒付きの唐揚げを買って、近くの公園に向かった。

 ベンチに腰掛け、ジィに魚肉ソーセージを与えると喜んで食べた。咀嚼がする姿が可愛い。

 でも、ジィの姿は誰にも見えないけどソーセージは見えてるんだよね。ジィが見えない人が今の状況見たらどんなふうに映るんだろう。

 てゆうかそもそもなんで急に龍が見えるようになったんだろ。

「おまえはどこから来たの?」
 おにぎりを食べながら尋ねると、ジィは小首をかしげる。

「どこから来たのかわかんないのか」
 ジィは食べ終わって満足したのか、私の隣で丸くなって眠り始めた。

 ここは木陰で日差しも和らぎ心地よい。
 私もゆっくりごはんを食べてると、小さな男の子が駆けてきた。

 まだ小学校に上がったくらいだろうか?
 和服を着ている、珍しい。
 そのせいかなんだか雰囲気が今の子と違う。

「良かった! 蒼龍様! もうどこへ行ってしまったのかと思いましたよ」
 小さな子は私に見向きもせず、ジィに手を伸ばす。

「その龍、君の龍なの?」
 私が話しかけると、男の子はギョッとして
「私が見えるのですか?」
 と聞いてきた。

「え、うん。見えるけど……」
「何故です! 龍騎士様でもないのに!? いやもしかして貴方様も龍の乗り手でいらっしゃるのですか?」

「ごめん何を言ってるかちょっとよくわからないんだけど……」
「龍騎士様ではないーー? だけど私の姿も龍様も見えるとは一体どういうことでしょう……」
「あの、あなたは他の人には見えていないの?」
「そのはずですよ。今私は顕現しておりません。通常の人には見えない状態です。あっ」
 ジィが男の子の手を離れて私の肩に乗る。

「蒼龍様、無闇に人間に触れてはなりませぬ」
「ジィッ」
 ジィが反発するように鳴く。

「えっ。名をもらったと? まさか貴方蒼龍様に名付けをされたのですか!?」
「うん、ごめん。貴方の龍だと知らなくてジィって名前を付けちゃったの」

「なんということでしょう! 龍騎士でもないお方が、龍に名付けをーーこんなこと親方に知られたら……いや、そもそも私が蒼龍様を連れ出していること自体が問題。でも大切な龍様をやっぱり龍騎士様に授けたくはない……」

「どうしたの? 何か困ってることがあるなら力を貸すよ」
「ほんとですか!?」
 男の子は私の一歩前に出る。

 すると、急に和服から洋服へと変わった。
 半ズボンが子どもらしくて可愛い。

「私は玉藻と申します。これが顕現です。顕現しないと私は他の方には見えぬので、周りから見たら貴方は一人で喋ってる頭のおかしな人に見られてしまいますからね」
 つまり、他の人にも見える状態になったということらしい。
「それは、お気遣いいただいてどうも」

 するとジィもジィッと鳴くと、玉藻を真似たのか、若い男の姿に変化した。
「驚いた。ジィ様、もう人型に慣れるのですね」

 玉藻は感心しているが、私は目の前にいるのがほんとにジィなのだと信じられない。
 年齢は二十代くらいの長身さわやかイケメンだ。蒼い髪と瞳は、確かにジィのようだが。
 ジィはにっこり笑って、小さい子どもみたいに私に抱きついてくる。

「ちょっとちょっと、その姿で人前抱きつくのはまずいですよ」
 玉藻が慌ててジィを私から引き剥がす。
 ジィは不満そうに私の横に座る。

「ジィ様はあなた様にずいぶん懐いてますね」
 玉藻はどこか諦めたように息を吐く。

「そう言えば私の名前まだ教えてなかったね。如月キナです」
「キナ様」
「別に様はいらないよ」
「では、キナさん。おりいって頼みがあるのです」
「うん、いいよ」
「私たちをしばらく、匿ってはもらえないでしょうか?」
「かくまう?」

「実は、私たちは追われる身なのです。音夢にしばらく隠れていましたが、そこでは見つかってしまいます。隠れるにはこの現世がちょうどよく、ですが現世は物質世界。顕現している状態で生活できる拠点を探していたのです」

「ええと、よくわからないけど、家に住まわせればいいのかな?」
「はい。野宿や空き家でも良いのですが、誰かが拠点としている場所であれば結界が張りやすく、助かります」

「野宿なんて子どもがそんなだめだよ! いいよ、わかった。うちにおいで」
「ほんとですか!? なんとありがたき幸せ」
「おおげさだよ」
 私は思わず笑って、カバンから家の鍵を取り出して玉藻に渡した。

「私はまだ仕事があるから、先に帰ってて。夕飯までには帰るから、好きにしてていいよ。テレビはないけど、モニターがあるから好きな動画でも見てて。家の場所はね、」
「あ、大丈夫です。家の場所は、この鍵から読ませてもらいました」

「鍵から読む? そんなことできるの?」
「できますよ。私は精霊なので」
「せいれいーー」
 龍に精霊に、私は急にファンタジー世界に放り込まれてしまったようで。

 理解が追いついていないけれど、玉藻もジィも実際に目の前にいるので、なんだか不思議なことを自然に受け入れてしまう。

「ジィ」
 ジィが玉藻の手から鍵を持って、頭上に持ち上げて眺める。
 そこに付けた貝殻のストラップが、日に輝く。
 この貝殻、どうしたんだっけーー。
 思い出そうとすると、不意に頭痛がした。

 ジィは鍵と私を見比べて、全く不意に私に顔を近づけた。
 唇と唇が触れるーー。
「ジィ様!」
 玉藻がまた慌ててジィを引き離す。

「いけません! それは人間の世界では口吸いと言って、親しき男女が互いの同意の上で交わされるものなのですよ! 一方的になさってはいけませぬ!」
 ジィはまるで聞いてない様子で、私に頭を擦り付けてくる。

 姿は人間でも、中身はやっぱり子龍なんだなと思うと可愛くなってくる。
 でも、玉藻が慌てるのも無理なく、私は周囲の人の目を集めてしまっていた。
「ジィ様! その姿でなさってはいけません」

 玉藻はジィの手から鍵を剥ぎ取ると、
「行きますよ!」
 と言って、いきなり姿を消した。
 顕現、とやらを解いたのではなさそうだ。
 和服姿の玉藻も、龍の姿のジィもその場から消えていた。

 私が呆気に取られていると、頭の中で声が響いた。
『着きました。あの、差し出がましいようですが、少しお部屋を片づけさせていただいてもよろしいでしょうか?』

「あっ」
 私は驚きながらも、部屋が散らかっていたことを思い出して恥ずかしくなった。
『ごめん。気になるようだったら好きにしていいよ。今度頑張って片付ける』
『ありがとうございます。お仕事頑張ってください』
 プツッと通信の切れるような感覚。

 今のは、なんだったんだろう。なんか、電話みたい。だけど、電話じゃない、頭の中同士で会話しているみたいな感じ。
 ふと、前にもこんなことがあったような気がした。
 それを思うとまた頭痛がする。
 一体、なんなのだろうーー。






******************************
この作品が少しでも面白いと思っていただけた場合は是非 ♡ や お気に入り登録 をお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...