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第20話 試し
しおりを挟む闘護部長がそれを待つように深いため息をつく。
「状況を整理したい」
それは私も大いに同感だ。
「不知火、おまえも如月の力に気づいていて試しを行っていたということでいいか?」
闘護の問いかけに不知火は「うん」とあっさりうなずく。
「ぼくの送ったエーテルに闘護のもの以外の反応があった。てっきり闘護が処理するだろうとと思って放っておいたんだけど、何もしないから気になって様子をうかがっていたのさ」
「試しはいつ行っていたというんだ」
「出張の時、キナっち男たちに襲われたろ?」
闘護が顔をしかめる。
「おまえが俺を呼んだ時だな」
「そう」
「無茶なことを。もし俺が駆けつけていなければ危ないところだった」
「試しとはそういうものだろ。死ななければいい。キナッちは立派に力を使って闘護を呼んだ。合格だよ」
「それはそうだが。俺は如月を龍騎士にするつもりはない」
「それは無理だよ」
不知火はキッパリという。
「僕も一族の掟なんてクソ喰らえと思うさ。だけども、僕らにはそれに逆らう力もない。だったら決められた枠組みの中でうまく立ち回らなきゃ」
「それでも、」
闘護は大きなため息をつく。
「巻き込みたくなかった」
それから闘護は私を見て、
「すまない」
と頭を下げた。
「わけわからないだろう。私がすべて悪い。考えが甘かった」
「部長、頭を上げてください」
「ここでは部長ではないよ。これからは仲間だ」
「仲間ーー?」
「そう。我々は、君も、龍の乗り手。龍騎士だ」
龍騎士ーー。
私がそれだと言うの?
「だが心配しなくていい。君を危険な目に遭わせる気はない」
「頭数増えた分当番が増えるけどね。ところでその龍」
不知火がジィを見る。
「キナッちが名付けをしてしまったようなんだよね」
闘護もジィに目をやる。
「どうやらあの時話していた、持ち出された卵が孵化した龍のようだな」
「そうだよ。持ち出した育師もそこに」
不知火が何もないところを鷲掴みにする。
すると、玉藻の姿が滑り出てきた。
「玉藻」
私は玉藻が乱暴されるんじゃないかと心配になり、側に駆け寄った。
けれど、不知火も闘護も困ったような顔をするばかりで、怒っている様子はない。
「なんでこんなことをしたんだ、君は」
闘護の問いかけに、玉藻はジィを守るように立ちはだかった。
「あなた方龍騎士が龍にひどい仕打ちをするからです。私は見てしまったんです。
奴隷のように龍を扱い、挙げ句の果てには使い捨てにするところを」
玉藻は必死に訴える。
「私ども育師は龍様を大事に育てております。龍様は神獣。尊くいらっしゃる。
でもその龍騎士様はおっしゃいました。人間の方が龍より偉いと。
だから人が龍に乗るのだと。龍は自分の盾でしかないと。
弱ったら捨てて次の龍を買えば良いと。
私はそんな人のために龍様を育てているんじゃない。
だから、龍様をすべて逃がし、この卵を持って逃げたのです」
「そうか」
闘護はそう言うと、玉藻に向かって頭を下げた。
「心配をかけたね。同じ龍騎士として、謝る」
玉藻は驚いているようだった。
「龍騎士様が、そんな……わたしのような若輩の育師に頭を下げるなんて」
「龍騎士だからと言って一口にしないでちょうだいな」
不知火が、玉藻の前に出る。
「育師にだっていろんな人いるでしょう?」
「それは、そうですが……」
「ちなみに、逃した龍はもうすべて捕えられているよ」
「そ、そんなーー」
「というより、龍舎に自ら戻ってきたんだ」
「まさか。私は、龍たちにこのまま龍騎士のもとへ行けばどのようなことになるか
お話したのですよ」
「それでも龍は人のためになってくれるんだ」
そう言ったのは闘護だった。
「確かに名付けの契約というものはある。名を付けた主人に龍は仕え、どのような命令にも逆らえなくなる。
自分の身代わりになって死ね、と言えばそうするさ。けれど、そんなことを言う龍騎士は、少なくとも我が家の中にはいない」
「ですが私はこの目で見た。この耳で聞いた。そうでなければ、ここまでの大罪を犯すようなことはいたしません」
「君の言うこと、疑ってはいないよ。ただ、それは黒狐家に違いない。黒と白は元々は同じ家であったが、分離してそれぞれの考え方を持つようになった。
未だ共通の掟を持ってはいるが、黒は龍を使役と認識し、白は守神であるとして敬っている」
だが、
「我が身可愛さに龍を犠牲にする龍騎士が白にいるのも事実。玉藻の気持ちはよくわかるよ。俺も龍をこれ以上犠牲にはしたくない」
「おい」
と割って入ったのは不知火だった。
「代わりに民が犠牲になってもいいっていうの? お前はもう龍に乗らない気なの^_^?」
不知火が語気を強め、闘護を睨む。
「お前に負担をかけているのは申し訳ない。だけど、俺は龍にはもう乗らない」
「バカか。そんなことできるわけない。龍に乗れ、闘護瑠生」
不知火の言葉に、玉藻が反応する。
「瑠生様。あなた様は、瑠生様でしたか。実はこの蒼龍はあなた様の龍になるはずのーー」
闘護は恐れ入る玉藻の頭をポンと叩く。
「蒼龍を育ててくれてありがとう」
「あなた様のようなお優しい方が主人だと知っていれば、このようなことーー。私は間違っていたのでしょうか。蒼龍様はすでに名を」
「いいんだ。龍を頼んだのは俺じゃない。親方が勝手にしたことだ。俺はもう龍に乗るつもりはないから」
「じゃあ、どうするというんだ。龍騎士を辞めるというのか」
「わからない。ただ俺が乗るはずだった龍がいなくなった。それを聞いた時、それが免罪符になると喜んでいる俺がいた」
「まったく」
不知火はため息をつく。
「いずれにしろ龍がいないんじゃ仕方ないね」
「これまでのように龍の手は借りず鯰を倒すよ」
「龍に乗らない龍騎士か」
またため息。
「玉藻っちも余計なことしてくれたね」
不知火はじとっと玉藻を見る。
それから私に目を向け、
「仕方ない。キナっちに龍騎士として頑張ってもらうしかないな」
「待て」
私が驚くよりも先に闘護が身を乗り出す。
「それはダメだ。如月を危険な目に遭わすわけには」
「何言ってるんだよ。自分でもさっき仲間と言ってただろう?」
「だが闘いにはーー」
「闘護、勘違いするなよ。ぼくは漏れ人を救うためだけの試しを行ったわけじゃないぞ。鯰も増えている。龍の乗り手も必要なんだ」
「それはわかっている」
「いやわかってない! ばかな人間たちのせいで鯰は増える一方。力も増している。状況は逼迫しているんだ、こんな時に龍に乗れない乗り手をふたりも白狐は許さないぞ」
闘護がうなだれる。
「すまない。おまえの立場も考えず……」
私は思わず言った。
「すみません、私もわけわからないですけど出来ることはしますよ。みなさんの役に立てるなら。ジィもかわいいし」
私はジィの頭を撫でる。
すると闘護はなぜか辛そうな顔をした。
「可愛いから、きついんだ」
「どういうーー」
言いかけたその時。
大地が震えた。
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