la reprise 再演

九丸(ひさまる)

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初演

回想5

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 俺たちは短い間に何度も話し合った。
だが、結局平行線のまま一月末を迎えた。
一週間前に仕事先も辞めて、こちらでの整理も終わり、あとは明日離れるだけの状態になっていた。

 東京最後の夜は、二人で食事に出かけた。美廉は俺達が初めて一緒に訪れた、スペイン料理の店を予約していた。
美廉は、なるべくいつも通りでいようとしているように思われた。俺もそうだった。先延ばしにするわけではないが、今夜は二人の将来の話は抜きにして、単純に楽しみたかった。

 ぎこちなく始まった食事も、酒が入るにつれて会話も弾みだした。まあ、どうしても思い出話がメインになってしまったが。

「そういえば、俺まだ美廉に借りたままだったんだよね。カードの引き落としの残高足りなくて、四万円借りたじゃん。覚えてる?」

「当たり前でしょ。ちゃんと覚えてるわよ。ろくに使いもしなかったサングラスを買った時のね。大丈夫よ。返すのはいつでもいいわ。理久も引っ越しでお金かかったからね」

「悪いな。ちゃんと返すから、まあ、待っててよ。ところで、あのサングラス何処にいったんだろうね。あれのせいで初めて喧嘩したよな」

「サングラスのせいじゃなくて、理久のせいでしょ? 本当にあの時は、いつ別れてやろうって思ってたんだからね」

「あ、やっぱりそうだった? まあ、クズだったからね。まあ、今もそんなに変わんないか」

「そうね。多少ましになったような気はするけどね」

俺達は互いに笑った。

 食事も終わり、俺達は帰路についた。
アパートの前に着くと俺は立ち止まり、その外観をまじまじと見た。昔は白かったであろう薄汚れた壁で出来た、二階建ての小さな箱。ふとしみったれた感慨とも感傷ともつかないものが、俺を襲った。
美廉も俺の側に寄り添って、黙って見つめていた。
俺達は言葉もなく、肩を寄せあって部屋に歩き始めた。
東京最後の夜。
俺達は抱き合い、そして眠りに落ちた。
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