愛しい人を追いかけて

がーねっと

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第一部 チュートリアル

第二話 私の魔力

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 まあなんだかんだあって、58時間以上経過したわけなんだけど。

「慣れない」

 はぁ、と溜息をつきながら身体を動かす。今度は普通に立ち上がってもポロリとかはなかった。

 逆にあったら多分悪魔と天使を動けるようになった瞬間殴ってると思う。思うだけでしないけど。

 そんなくだらないこと考えて私は1、2、1、2と言いながら屈伸運動をする。少しひざに違和感を感じながらも、スムーズに動く身体に感動したし、動けることに素直に感謝した。

 しっかし。

「ここからどうすればいいのやら」

 自分がいる場所を認識してさらにその思いは強くなる。大きな木の中。開いてる場所を見つけたが、下を見るとさすがにここから飛び降りようなんて思わない。

 すっげぇ高い。

 しかも、木の周りを大きな鳥とかへんなのが飛んでる。漫画とかゲームとかでたまに見る竜とかそういうのも飛んでて。大きい鳥と戦って食べられてた。

 この世は弱肉強食なんだなぁと切実に感じてる。

 まあ、たとえここから飛び降りたとしても自殺不可があるから例え肉片になっても生き返るとは思うんだけど。確証がないし例えできるとわかっていたとしてもこんな高さから飛び降りたくない。一体なんでこんなところにいるんだろうか。

「とりあえず。この身体に慣れることから始めよ」

 独り言を呟き自分の身体を確認する。まあ、基本的に日本にいたときと変わりはない。大きな変化があるとすれば背中にくっついている大きなわっかと二つで一つの異なる翼が生えてることくらいか。

 なんで翼なんか生えてるんだ。なんて思うがそういや私の中に入ってるの天使と悪魔だったわ。そりゃ翼も生える。草は生えないけど。

 でも、あの二人は翼があるようには見えなかった。もしかして仕舞えたりするのだろうか。翼に意識を集中させるけれどそもそも動かせないのに仕舞えたりするわけなかったわ。

 ていうか翼の動かし方なんて学校で習ったことないし。習うわけもないけど。

 どうやって動かせばいいの、これ。鳥さんはどうやってこの翼をバッタバッタ動かしてんの。私に教えて欲しい。切実に。

 そうだ。

「この翼を切り落としたらいいのか」
『いやいやいや!』
『さすがにやめてくれ!』

 悲鳴のような音が聞こえてきた。それは目の前に浮いている二つの玉だ。一つは白く。一つは黒い。これはもしかしなくてもリーズとインダークではないか。

 え、居たの。てっきり私の中に溶けていなくなったのかと。

『声に出ちゃってル!』
「ごめん」

 でも、目の前にずっと居なかったし。それに目を覚ましたときも居なかったから。最初から居てくれたら良かったのに。

『アオ。両手を前に出せ』

 リーズと思わしき男の声がそう言った。私は言われた通り両手を広げて前に出す。白い玉と黒い玉はふらふらとしながら私のほうに向かってきて手の上に乗った。

 その瞬間、じんわりと手のひらから熱が伝わってくる。そして、熱が身体の中心に来た時。私の身体がびくりと震えた。そして、全身が小刻みに震える。

 まるで、なにかを怖がっているかのように。

 まるで、すごく感激しているかのように。

 震えが。とまらない。

『アオちゃん。しっかりと抑えてくれないと爆発しちゃうヨ』
『目を瞑れ、アオ』

 いやいやいやいや、この状態で目を瞑れって出来んから! なんか熱と一緒に流れ込んできてる希ガス!!!

『感じてならきちんと受け取りなさいヨ!』
『自分の中で抑えこめ』

 二人とも簡単に言ってくれる。グッと歯を食いしばりながら目を閉じて流れてくるものを受け止めるように意識して。腹筋に力を入れる。

 なんか分からんけど受け止めて固めればいいんだ。

 ぎゅうぎゅう、と受け取ったものを抑え込んでいると背中に、頭に、お尻辺りがムズムズする。ムズムズする。そして、更に固めていくと最初に背中に変化があった。

 なんか。腕が二つ増えたような感じがする。感じがするだけで手みたいに何かを掴んだりってわけじゃない。感覚が増えたんだと思う。

 その次は頭。なんか。外から聞こえてくる悲鳴が更に大きく聞こえる気がする。あまりにも大きいから頭が痛くなってくるけれどここは我慢するしかないんだろう。

 そして最後はお尻の部分だ。なんか変な感じがする。腕が一本増えたような感じも受けるし、全く知らない生物を自分の中で飼っている感じもする。

 あ、いや、既に二つの生物が私の中に入っているけどさ。ソレとは別にって感じ。

『もう、いいワ』
『さすがアオ。初めからこんなに制御できるなんて思わなかった』

 なんか二人が話しかけてきているような気がするけれど、周りの音のが煩いし、ていうか二人の声もたいがい大きいから聞き取れない。しかもそのせいで頭がすっごい痛い。割れるって、マジで頭割れるって。どうやってすればいいのか分からない。

『塊をほら、アレヨ。翼と頭と尻尾に集めればいいのヨ』
『その後要らないものから意識を外して内側に集めればいい』

 相変わらず簡単に言ってくれる。ソレが出来たらこんなに痛がってないし、煩く思っていない。だが、私は基本やれば出来る子なはずだ。一回出来れば次は簡単に出来る。はず。まあ、二、三日してなかったら忘れちゃうけど。

 まず、意識を三つに分散させます。この時点で詰んでる気がするけど気のせいじゃなかろうか。

 うぐ、うぐ、と音を漏らしながら必死に三つに集めたものを分ける。そして、それぞれに集中しながら頭のものだけ中へと引っ込めた。そうすると背中の片方の翼も一緒にしまわれた。

「ん?」

 意識して片方だけ残った腕みたいな翼を動かし何色なのか確かめた。翼は白色だった。

 ていうか、少し動かすだけでもすっごい疲れる。今も少し息切れ気味で額には汗が浮かんでいるんだけど。

 え、翼動かすだけでこんな体力使うもんなの。やばい。この先翼を動かす機会が無さそう……! 頭の痛みはなくなったけど、体力消耗が激しいなんて聞いてない。

 抑え込むのは簡単なのに。でも、翼を使って空から助けに来たとか、翼を使って空からあの人を探すことも可能になるからやっぱりなんとかして使えるようにしておきたい。

『ふむ。流石に翼を扱うのは難しいか』
『そりゃそうでショ。魔法の扱い方が知らない子が短時間で翼を動かせるようになっただけでもすごいと思うワ』
『アオ、今は翼は辞めておいたほうがいい。それより、もう片方の翼も中にしまいこむのだ』
「なん、でぇっ……」
『魔力の使い方も分かんない子が翼を動かそうとしたってただ体力を減らすだけだワ』
『それなら先に魔力の使い方を教えたほうが効率がいい』

 私は二人の言い分を聞いて思う。

 起きたときに翼をつけたお前たちのせいでもあるだろ、と。ついでにそれなら最初からそっちを教えろ、と。そもそも、なんで翼が出したままになってたのかすごく気になる、というか問い詰めたい気分だけど、確かに私は何も知らない子だ。

 言われた通りにした方がいいんだろうなぁ。

 私は大きく息を吐き出して、尻尾の部分を中心に戻すように集中した。するとやっぱり翼も中へと仕舞い込まれる。

 連動しているのだろうか。

 ま、そんなの今はどうだっていいこと。一瞬でも気を抜けばまた翼だけが出てきてしまう。

 うぐぅ、と踏ん張りながら中に抑え込んだ。蓋、しておけば出てくることもないかもしれない。

 そう思って、蓋をするイメージにしたがそもそも私は抑え込んで球体にしただけ。蓋もするも糞もなかったわ。じゃあ箱の中に入れておく形にしよう。そうしよう。

『……抑えてもらったところ悪いんだけど、抑えてるモノを身体全身に纏わセて欲しイんだけド』

 ……悪魔め! 私はグッと両手を握り締め箱を開けて身体全身に纏わせようと意識を集中する。

 ……ぐぅ。これもすっごい体力使うじゃないのよぉ。でも、翼よりかはだいぶマシになっているからよしとしよう。

 そう自分自身を納得させていると突然ぐらりと視界が傾いた。

「お?」

 ゆっくりと地面が近付いてくる。

「おお!?」

 やばいやばい、とは思うけれど身体が思うように動かない。

「ぇぇえぇええぇえええええ!!?」

 頭からゴンっと地面とこんにちわした。痛くないけど痛そう! むっちゃいい音したよ。私の頭大丈夫かな。ていうか、身体がピクリとも動かないってどうなってんの。

『魔力切れだな』
『外に放出するんジャなくて纏わせるんだッテ言ったジャン』

 仕方ない子だなぁ、なんて声が気がした。気のせいかな。気のせいだね。うん。とりあえずくっそだるい。あー指一本動かせねぇわぁ。

『少し魔力が回復してから本格的に教えよう』
『そんな時間かからナイから安心シテ』

 時間かからないってどれくらいだよ。あー、体だるい。でも、確かに時間が経つにつれて体のだるさが軽くなっていく気はする。

 気はするだけであって、本当にだるさが軽くなっているのかなんてのは分からない。分からないけど指は動かせるようになってきたから回復している証拠だと思う。

 まあ、ここまで回復するのに15分以上はかかったのはどうやっても覆せない事実ですね。

 はー、マジないわー。本当これからやってけんのかな。大丈夫だと思いたい。切実に。

 ゴロン、と寝返りを打つ。ようやくここまで回復した。私は木の天井を見つめながらだるい体を動かして腕を、手のひらを上へとかざす。まあかざしたから何があるってわけでもないけど。

 自分の手をみるといつも小さいなぁ、と感じられるのがすごく嬉しいような、楽しいような感じがする。グー、パー、グー、パーと繰り返して最初はゆっくりだったのが段々と早くなっていった。

 そして、自分の感覚で大丈夫、となったところで勢い良く体を起こしてみると意外にもすんなりと起き上がることが出来た。まあ、起き上がるまでに5時間は無駄に過ごしてるんですけど。さて、時間も無駄にしちゃったし。

「本格的に教えてちょーだい」

 座りながらいつの間にか飛び出していた二つの玉を前にして笑顔で私はそう言った。








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