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第四章:「大陸統一戦争」
第52話:黒の勇者
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風が鳴いていた。
森を抜けた先の空が、異様な色に染まっている。
灰と紫が混じり合い、まるで夜が昼を呑み込んでいくようだった。
「……この嫌な感じ、なんだ?」真司が剣の柄を握りしめる。
セリナは静かに呟いた。「神性の波動……けれど、歪んでる」
蓮は地図を広げ、視線を落とした。
「方角は東。かつての王都、アルゼリア領……」
言葉が途切れる。胸の奥に、重い既視感があった。
リアが眉をひそめる。「あんたの顔、変だぞ?」
「……あの方向に、“奴”がいる気がする」
“奴”。その言葉に、全員が言葉を失った。
悠真。
かつての勇者。女神に選ばれ、そして――堕ちた者。
⸻
黒い霧が、街を覆っていた。
人々の声はなく、代わりに呻きと祈りだけが響く。
その中心で、一人の男が立っていた。
神崎悠真。
もはやその面影は、昔のクラスメイトのそれではなかった。
肌は灰色に染まり、瞳は金の光を宿している。
その背後には、女神の紋章が浮かび上がり、黒い鎖のように体を束ねていた。
「……あの女神が言っていた。“異端者を滅ぼせ”と」
悠真の声は、どこか金属のように響く。
地面が震え、周囲の兵士たちが跪いた。
「勇者様……!」
「俺はもう勇者じゃない」
彼はそう言って笑った。
「俺は、神の“剣”だ。すべてを裁く刃。篠原蓮――俺はお前を滅ぼす」
⸻
その報告は、すぐに蓮たちのもとへ届いた。
斥候が血に塗れながら戻り、息も絶え絶えに言葉を絞り出す。
「ゆ、悠真が……! 黒い魔力に……!」
蓮は目を細めた。
「黒の勇者、か……」
真司が歯を噛み締める。「あいつ……本当に、もう人間じゃねぇのか」
セリナが魔力測定器を覗き込み、顔色を変えた。
「異常です……この魔力密度、女神の加護を超えている。まるで……直接接続されているみたい」
蓮が静かに頷く。「女神と、融合してる……」
リアが低く唸る。「だったら、斬るしかねぇ」
「待て、リア」
「でもよ、あいつはもう……!」
「それでも、かつての“仲間”だ」蓮はきっぱり言った。
沈黙。
リアが視線を逸らし、小さく息を吐いた。
「……分かったよ。けど、もしお前がためらったら――あたしが止める」
「頼む」
蓮の目はまっすぐだった。
⸻
夕刻。
黒雲の向こうから、雷鳴が響く。
蓮たちは王都跡地の丘に立っていた。
崩れた神殿の跡。その中央に、黒い魔法陣が蠢いている。
悠真がそこに立っていた。
「ようやく来たか、蓮」
声は低く、だがどこか嬉しそうでもあった。
「神に逆らった愚か者。ここで終われ」
「終わらせに来たのは、俺じゃなくてお前だ」蓮は剣を構える。
「ふっ……相変わらず、口だけは立派だな」
悠真の背後に、女神の光輪が現れた。
「加護の恩寵、《聖域黒化》――」
空が裂け、黒い光が降り注ぐ。
地面が反転し、聖なる紋章が呪詛の印へと変わっていく。
「これが……女神の力……!」セリナが目を見張る。
悠真の剣が光を帯びた。聖剣が、黒剣へと変わる。
「黒き聖剣《ネメシス》。神が俺に授けた第二の力だ」
彼は剣を振り抜き、空を斬った。
刃の軌跡から黒炎が放たれ、森を飲み込む。
「リア!」蓮が叫ぶ。
リアは狼の姿に変化し、炎を弾き飛ばす。
「こんなもんで燃やされてたまるかよ!」
真司が続く。「《紅蓮爆掌》!」
炎と炎がぶつかり合い、閃光が空を割った。
「邪魔だぁぁぁ!」悠真の咆哮が轟く。
彼の剣が振るわれ、真司が吹き飛ばされる。
「真司!」蓮が駆け寄ろうとした瞬間、黒い鎖が足元から伸びる。
蓮は咄嗟に剣を突き立て、鎖を断ち切った。
「これ……女神の呪縛……?」
「逃げられないぞ、蓮!」悠真が迫る。
その目には怒りと、そして微かに悲しみが混じっていた。
「お前さえいなければ、俺は今も勇者でいられた……!」
「違う!」蓮は叫ぶ。「お前を捨てたのは、神だ!」
「黙れぇぇぇッ!」
衝突の瞬間、世界が震えた。
黒と白の光が混じり合い、爆発する。
セリナが魔導障壁を展開し、全員を守った。
「これ以上は危険です!」
リアが歯を食いしばる。「でも、蓮が!」
光が収まった時――そこには、蓮と悠真、二人の姿だけが残っていた。
悠真は血を流しながら笑った。
「いい力だ……お前の“再生”、やっぱり神にも届く」
「お前……」
「俺は、もう戻れねぇよ。けど……お前だけは、生きろ」
悠真の体から、黒い光が漏れ出した。
セリナが息を呑む。「崩壊が始まってる……!」
「待て、悠真!」蓮が駆け寄る。
「来るな。俺はもう……神に取り込まれてる」
「それでも!」
「……ありがとな、蓮」
悠真の笑みが、一瞬だけ昔のままになった。
次の瞬間、黒い光が彼を包み込み、跡形もなく消えた。
⸻
沈黙。
誰も言葉を出せなかった。
風が通り抜け、焼けた地面を撫でる。
リアが拳を握りしめた。「……あいつ、まだどっかで生きてる気がする」
蓮はゆっくりと立ち上がり、黒い焦土を見つめた。
「いや。あいつは、“神の中”にいる」
セリナが静かに頷く。「……いずれ、取り戻さないといけませんね」
蓮は拳を握りしめた。「ああ。必ず」
その夜、蓮は一人、空を見上げた。
黒い雲の奥で、微かに光が瞬く。
それはまるで、悠真の魂がまだどこかで戦っているように見えた。
――そして、次なる戦いの火種が、確かに燃え始めていた。
森を抜けた先の空が、異様な色に染まっている。
灰と紫が混じり合い、まるで夜が昼を呑み込んでいくようだった。
「……この嫌な感じ、なんだ?」真司が剣の柄を握りしめる。
セリナは静かに呟いた。「神性の波動……けれど、歪んでる」
蓮は地図を広げ、視線を落とした。
「方角は東。かつての王都、アルゼリア領……」
言葉が途切れる。胸の奥に、重い既視感があった。
リアが眉をひそめる。「あんたの顔、変だぞ?」
「……あの方向に、“奴”がいる気がする」
“奴”。その言葉に、全員が言葉を失った。
悠真。
かつての勇者。女神に選ばれ、そして――堕ちた者。
⸻
黒い霧が、街を覆っていた。
人々の声はなく、代わりに呻きと祈りだけが響く。
その中心で、一人の男が立っていた。
神崎悠真。
もはやその面影は、昔のクラスメイトのそれではなかった。
肌は灰色に染まり、瞳は金の光を宿している。
その背後には、女神の紋章が浮かび上がり、黒い鎖のように体を束ねていた。
「……あの女神が言っていた。“異端者を滅ぼせ”と」
悠真の声は、どこか金属のように響く。
地面が震え、周囲の兵士たちが跪いた。
「勇者様……!」
「俺はもう勇者じゃない」
彼はそう言って笑った。
「俺は、神の“剣”だ。すべてを裁く刃。篠原蓮――俺はお前を滅ぼす」
⸻
その報告は、すぐに蓮たちのもとへ届いた。
斥候が血に塗れながら戻り、息も絶え絶えに言葉を絞り出す。
「ゆ、悠真が……! 黒い魔力に……!」
蓮は目を細めた。
「黒の勇者、か……」
真司が歯を噛み締める。「あいつ……本当に、もう人間じゃねぇのか」
セリナが魔力測定器を覗き込み、顔色を変えた。
「異常です……この魔力密度、女神の加護を超えている。まるで……直接接続されているみたい」
蓮が静かに頷く。「女神と、融合してる……」
リアが低く唸る。「だったら、斬るしかねぇ」
「待て、リア」
「でもよ、あいつはもう……!」
「それでも、かつての“仲間”だ」蓮はきっぱり言った。
沈黙。
リアが視線を逸らし、小さく息を吐いた。
「……分かったよ。けど、もしお前がためらったら――あたしが止める」
「頼む」
蓮の目はまっすぐだった。
⸻
夕刻。
黒雲の向こうから、雷鳴が響く。
蓮たちは王都跡地の丘に立っていた。
崩れた神殿の跡。その中央に、黒い魔法陣が蠢いている。
悠真がそこに立っていた。
「ようやく来たか、蓮」
声は低く、だがどこか嬉しそうでもあった。
「神に逆らった愚か者。ここで終われ」
「終わらせに来たのは、俺じゃなくてお前だ」蓮は剣を構える。
「ふっ……相変わらず、口だけは立派だな」
悠真の背後に、女神の光輪が現れた。
「加護の恩寵、《聖域黒化》――」
空が裂け、黒い光が降り注ぐ。
地面が反転し、聖なる紋章が呪詛の印へと変わっていく。
「これが……女神の力……!」セリナが目を見張る。
悠真の剣が光を帯びた。聖剣が、黒剣へと変わる。
「黒き聖剣《ネメシス》。神が俺に授けた第二の力だ」
彼は剣を振り抜き、空を斬った。
刃の軌跡から黒炎が放たれ、森を飲み込む。
「リア!」蓮が叫ぶ。
リアは狼の姿に変化し、炎を弾き飛ばす。
「こんなもんで燃やされてたまるかよ!」
真司が続く。「《紅蓮爆掌》!」
炎と炎がぶつかり合い、閃光が空を割った。
「邪魔だぁぁぁ!」悠真の咆哮が轟く。
彼の剣が振るわれ、真司が吹き飛ばされる。
「真司!」蓮が駆け寄ろうとした瞬間、黒い鎖が足元から伸びる。
蓮は咄嗟に剣を突き立て、鎖を断ち切った。
「これ……女神の呪縛……?」
「逃げられないぞ、蓮!」悠真が迫る。
その目には怒りと、そして微かに悲しみが混じっていた。
「お前さえいなければ、俺は今も勇者でいられた……!」
「違う!」蓮は叫ぶ。「お前を捨てたのは、神だ!」
「黙れぇぇぇッ!」
衝突の瞬間、世界が震えた。
黒と白の光が混じり合い、爆発する。
セリナが魔導障壁を展開し、全員を守った。
「これ以上は危険です!」
リアが歯を食いしばる。「でも、蓮が!」
光が収まった時――そこには、蓮と悠真、二人の姿だけが残っていた。
悠真は血を流しながら笑った。
「いい力だ……お前の“再生”、やっぱり神にも届く」
「お前……」
「俺は、もう戻れねぇよ。けど……お前だけは、生きろ」
悠真の体から、黒い光が漏れ出した。
セリナが息を呑む。「崩壊が始まってる……!」
「待て、悠真!」蓮が駆け寄る。
「来るな。俺はもう……神に取り込まれてる」
「それでも!」
「……ありがとな、蓮」
悠真の笑みが、一瞬だけ昔のままになった。
次の瞬間、黒い光が彼を包み込み、跡形もなく消えた。
⸻
沈黙。
誰も言葉を出せなかった。
風が通り抜け、焼けた地面を撫でる。
リアが拳を握りしめた。「……あいつ、まだどっかで生きてる気がする」
蓮はゆっくりと立ち上がり、黒い焦土を見つめた。
「いや。あいつは、“神の中”にいる」
セリナが静かに頷く。「……いずれ、取り戻さないといけませんね」
蓮は拳を握りしめた。「ああ。必ず」
その夜、蓮は一人、空を見上げた。
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