上司がSNSでバズってる件

KABU.

文字の大きさ
1 / 50

第1話:#理想の上司がバズってる件

しおりを挟む
《#理想の上司はこうあってほしい》
「部下の失敗を責める前に、原因を一緒に考える」
「“ありがとう”と“ごめん”を言える人こそ、真のリーダー」

「……なにこれ、めっちゃ良いこと言うな」

深夜0時、ワンルームのベッドの上。
スマホを片手にスクロールしていた藤原真由(ふじわらまゆ)は、
思わず呟いた。

トレンド欄の1位には――

#理想の上司はこうあってほしい

というタグと共に、数十万いいねを稼いだ投稿が並んでいる。

「この人の文章、なんかあったかいな……」
真由はプロフィールをタップする。

投稿主:@WORK_LIFE_BALANCE
フォロワー:87,392
プロフィール:
“会社員です。働く人が少しでも笑えますように。”

「こういう人、職場にいたらいいのに」
ふと、笑ってしまう。

……いや、うちの課長は真逆だ。

頭に浮かぶのは、今日も厳しい声で資料を突き返した上司。

「藤原、またフォントずれてるぞ」
「“まあいっか”で済ませるクセ、まだ直ってないのか」

課長・柊(ひいらぎ)誠。
35歳、営業部のチームリーダー。
社内で「氷の柊」と呼ばれるほどのストイック男。

――でも、怒られても嫌いになれないのはなんでだろう。

(本当は、誰よりチームのこと見てるの、知ってるから……か)

そんなことを考えながら、
真由は無意識に“いいね”を押していた。



翌朝。
会社の休憩スペース。
出勤直後の真由は、コーヒー片手に同僚・成田(なりた)と雑談していた。

「真由、見た? あの“理想の上司”のアカウント」
「見た見た! あれ、超バズってるよね」
「うちの課長に見習ってほしいよな~、“ありがとう”って言える上司とか」

その瞬間、背後から声が飛んできた。

「成田、朝から何を騒いでる」

ピシッと背筋が凍る。
柊課長――本人登場。

「お、おはようございます、課長っ!」
「……おはよう。藤原、昨日の資料、修正版出してあるか」
「ひゃ、はいっ! すぐ確認します!」

成田はニヤついたまま、小声で囁く。
「……“氷の柊”登場」
「やめて! 聞こえたら凍る!」

そのやり取りを尻目に、柊は淡々とコーヒーを淹れていた。
黒のスーツに無駄のない所作。
見ているだけで背筋が伸びる――のに、どこか柔らかい雰囲気もある。

(あれ? 昨日の“理想の上司”の人も、コーヒー片手に呟いてたような……)
(……まさか、ね?)



昼休み。
デスクで弁当をつつきながら、真由はスマホを開いた。
「……ん?」

《@WORK_LIFE_BALANCE:部下の成長を見届けるのは、
 一番嬉しくて、一番切ない瞬間かもしれない。》

投稿は2分前。
いつも仕事の合間っぽい時間に呟かれる、リアルな会社員の言葉。

(この人、なんでこんなに“わかる”んだろ……)

ふと、視線を感じて顔を上げると――
柊が真由のデスク前に立っていた。

「……藤原、昼休み中にすまんが、この資料、少し見てくれ」
「は、はいっ!」

彼の手には、自分が昨日作った提案書。
丁寧に赤ペンで修正されている。

「直すのはここだけだ。全体は悪くない」
「えっ……ありがとうございます!」

(“ありがとう”って言える上司こそ理想――)

昨日の投稿と、まったく同じ言葉が頭に浮かぶ。
思わず顔が熱くなる。

(やっぱり……似てる。言葉も、タイミングも。)



夜。
帰宅してスマホを開く。
またバズっている。

《#理想の上司はこうあってほしい》
「“完璧な人”なんていない。
 でも、部下の失敗を笑って許せる余裕は持っていたい。」

「……これ、今日のあの時の言葉そのままじゃん」

胸の鼓動が早まる。
いいねの数は10万を超えている。

(いや、偶然、だよね。だって課長がSNSなんて……)

震える指でプロフィールを開く。

その時、通知が一件――

『あなたのいいねを@WORK_LIFE_BALANCEさんがリポストしました』

「――えっ!?」

画面の中の“理想の上司”が、
確かに、自分の“いいね”を見ていた。

そして、翌朝。

「藤原」
「は、はい!」
「昨日の件だが……君、SNSはよく使うのか?」

その笑みは、
いつもよりほんの少しだけ――柔らかかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...