エディアメモリアル

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第四階層編

0:余命宣告

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 【事前用語解説:ダンジョン生物群】
 約二百年前に地層調査で偶然発見された超巨大生物群。内部には空を持つ広大な階層空間、時代を彷彿させて遡る生きた生態系が存在し、専門組織ダンジョン管理局によって管理されている。
 ダンジョンは「クラス」と「階層」の二重構造に定義され、表層の新生クラス~極めて危険な古生クラスまで。さらに未踏の《先カンブリアクラス》へと深度が増す。 階層に存在するモンスターは古生物を思わせる姿に加え、幻想的特徴も合わせ持っている――。

 【主要キャラクター紹介】
 ■エディア・カーラ(14)
 生まれつき不治の病を患う少女。万能薬入手を目指す。
 真面目で基本落ち着いてるが、関心事には前のめりになりがち。
 青緑色の瞳、薄水色のショートポニーテール、露出が少ない純白なローブ衣装を身に纏っている。

 ■カリス・バージェス(14)
 エディアとは親友の間柄。エディアと過ごす時間が居場所。
 基本元気な性格だが、寂しがり屋な一面もある。
 茶色の瞳、黒髪のミディアムボブに跳ねたアホ毛、低身長でまな板、肩が露出した黒いシーフ衣装を身に纏っている。

 ******
 ●エディア
 
 人生の終幕は、突然訪れるかもしれない。

 たとえ十四年間、今日まで裕福な家庭で、どこにでもいる普通の少女として日々を過ごしてきたとしても。
 親友カリスと語り合い、十五歳になれば正式にダンジョンダンジョン生物群へ潜れることを夢見ていたとしても……。
 それは、理不尽にも降りかかってくるみたい。
 そう――十四歳の誕生日に、両親から私の病と、余命が残り一年であることを明かされたように――それを聞いた瞬間、私の世界から音と色彩を失ってしまった……。
 暖かかったはずのリビングの空気は、一瞬にして凍てつき、両親の顔が、まるで遠い幻のように霞んで見えた。十四年間、当たり前のように存在していた未来が、音もなく崩れ落ちていく。目の前にある誕生日ケーキの甘い香りが、鉛のように重く、私の胃の腑に沈んでいくのを感じた。
「……噓、でしょ……?だって、今まで自分が病を患ってることすら、知らなかったのに……!」
 あまりの衝撃に事実を受け止め切れず、思わず私の口から言葉がこぼれ落ちる。それに対して、両親は静かに、しかしはっきりと告げた。
「本当よ。あなたは生まれつき、不治の病――《原生病》を患っているの。私たちは夫婦そろってダンジョンダンジョン生物群に潜ったことがあるから……それが原因かもしれないわ」
「治せない病だからな。せめて、これまでは知らずに、楽しく生きてほしくて黙っていたんだ。ごめんよ、エディア」

 両親の説明が、頭の中で反芻される。そう、《原生病》――ダンジョン生物群の探索中に稀に発症する未知の病。
 大人の死亡率は低いが、宿主となった親から生まれた子にも伝染し、子供の場合は、ちょうど十五歳になる直前で命を落とすことが多いと。
 そして、何よりも絶望的なのは、地上のどんな薬も、《奇跡》を持ってしても、この病を治す手立ては存在しない、ということだった。
「……もう、私には、何の手も残されていないのね」
 胸の奥に、鋭利な氷の刃が突き立てられたかのような痛みが走り、全身の血が凍りつくのを感じながら、私は続けた。
「ママ、パパ……少し、一人にさせて。すぐには、受け止めきれない」
 そう言って、私は最悪な誕生日パーティーを終わらせ、自室へと戻る。
 珍しく、しばらく泣いた。あと一年で、私は死ぬ。もう夢を見ることも、語り合うこともできない。
 その時ふと視線が、部屋の片隅に置かれたプレゼント箱へと向いた。
 「……そうだ。パーティーの前に、カリスからプレゼント、もらってたわ……」
「『恥ずかしいから、家で開けて』って……言ってたよね」
 親友カリスから贈られたプレゼント。
 その包装を、ひとつひとつ丁寧に剥がしていき、中身を確かめる。
 中に入っていたのは、らしき髪飾りと、「誕生日おめでとう」と書かれた、短いメッセージカードだった。
「ふふっ……してるのかな? それとも、偶然……?」
 乾いた笑いが喉の奥で響き、私はそっと呟いた。
「……明日、これを付けて、お礼を言わないとね。そして……私の余命のことも、伝えなきゃいけないんだよね……?」
 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。カリスの無邪気な優しさが、今の私にはあまりにも眩しすぎて、同時に、途方もない罪悪感となってのしかかる。
「……私だって、ずっと、ずっと一緒にいたいよ……」
 そう思いながら今夜はもう、何も考えられず――ふて寝することにした。

 ――次の日 昼頃――。

 ●カリス
 アタシの名前は、カリス・バージェス。
 普通の家庭に生まれて、姉と比べるとちょっと冷遇されてるけど……それ以外は、まあ特に変わったところのない、普通の生活。
 ――生まれの話はさておいて。
 昨日、親友エディアの家では、夕方に誕生日パーティーが開かれる予定だったから、アタシはプレゼントだけ先に渡して、早めに別れた。
「……プレゼント、喜んでくれたかな?、ちゃんと伝わってるといいケド」
 エディアに似合いそうだと思って選んだ、シュシュ――ヘアゴム。
 とはいえ、アタシにそこまでのセンスがあるわけじゃないから、店員さんのアドバイス込みだけど……。
 それでも、そこにはちゃんと隠れたメッセージを込めたつもりだった。
 ――
「……気づくといいな。っと、そろそろいつもの時間か」
 特に会う時間や場所を約束しているわけじゃない。それでも、エディアの家の裏で待っていれば、いつも決まって、柵の裏道を通ってエディアがやって来る。
 ――ほら、来た。
「エディア! ……あっ、そのヘアゴム、付けてくれたの? 嬉しい!」そう声をかけると、エディアは「うん……プレゼント、気に入ってるよ」って答えてくれた。でも――明らかに、いつもよりテンションが低い。
 何かあったのかな。そう思った次の瞬間、エディアの口から、次々と言葉がこぼれ落ちた――――――。

「……そんな……そんなの、あんまりだよ!」
 たぶん、エディア自身が一番そう思っているはずなのに。
 それでも、思わずアタシのほうから、そんな言葉が飛び出していた。
 エディアは悲しそうな顔で、「……もう、手はないみたい」と、静かに言う。
 今からでも一年間、楽しく過ごすプランを考えるか?
 ……そんな悠長なこと、考えていられるか。アタシは――ずっと、ずっとエディアと一緒にいたいんだ!
 諦めるなんて、できるわけがない……!このまま、エディアを失うなんて、絶対に嫌だ!
「……そういえば!」
 ふと、昔の会話を掘り起こす。
「結構前にエディアが話してたよね。……あれなら、治らない?」思いつくまま、提案してみた。

 《不死の植物?》―― それは、《ダンジョン生物群》の《原生階層》最深部に存在すると言い伝えられている、幻の存在。

 するとエディアは、首を振りながら言った。
「……存在するかも、疑わしいよ? 行くのも難しそうだし……手に入れたとしても、本当に効くかは分からない……」
 それに、アタシはすぐ反論する。
「でも! 可能性は、0じゃない。どうせなら残された時間で、それを探しに行こうよ! 夢だったダンジョン探索もできるし……アタシも仲間として、着いていくからさ」
 エディアは「……ッ!」と、小さく反応を見せ「……そういう考え方も、あるか」と、ぼそっと呟いた。
 ――明らかに、エディアの心が揺らいでいる。しばらくの間、思考に沈んだのか、エディアは硬直したように動かなかったけど……。やがて、暗かった表情に、ほんの少し光が戻ったように見えた。そして、ゆっくりと口を開く。
「……そうね。どうせなら、最後まで……あがいてみようかな」
「……とはいえ、ダンジョン探索するなら、年齢制限をクリアしないとね」
「……あ」――確かにそれは、完全にアタシの盲点だった。
 そういえば、《ダンジョン生物群》の探索規約って――を除き、原則十五歳以上》って、決められてる……!
 ……ん?を、除き?
「ねぇ、エディア。規約に書いてある特例って……どうやったら、なれるのかな?」
 するとエディアは、少し考えながら答える。
「……よっぽどの理由がない限り、認められないはずだよ。……ん? 少なくとも、私にとっては……命に関わるから、よっぽど、だね……」
 ――少しだけ、活路が見えた気がした。
「エディア!」思わず、声に力が入る。
「ダメもとでもいいから、《ダンジョン管理局》の相談窓口に、問い合わせようよ!」――――――。

 ●エディア
 それからのカリスは、風を切るような行動力で凄まじかった。
 私の腕を引っ張るようにして連れ出し、そのまま《ダンジョン管理局》の相談窓口まで直行。初対面の窓口担当者を前にして、私がオドオドと躊躇していると、カリスがすかさず代弁してくれた。
 ……なんて頼もしいんだろう。私は不安で思考が止まっていたというのに。しばらくして、カリスと話していた窓口の人が、険しい表情でこちらに向き直る。
「お気持ちは分かりますが、ダンジョン探索は危険を伴う行為です。特に未成年者の入域は、原則として固く禁じられています。ましてや、病を患っているとなれば……」
 カリスは、私の腕を掴む手に力を込め、一歩前に出た。その瞳には、決して諦めないという強い光が宿っている。
「でも、特例があるって、規約に書いてありますよね? エディアの病は、命に関わるんです。これ以上のがあるでしょうか!」
 窓口の人は、カリスの気迫に押されたように、一度は閉じたファイルを再び開いた。
「……確かに、数年前にもあなたと同じ症状を持つ、十五歳未満の子供で、ダンジョン探索を特例で許可された事例が、ごく稀にですが存在しますね。しかし、それはあくまで例外中の例外で……」
 そこで、窓口の人は私たちの顔を交互に見つめ、深くため息をついた。
「……分かりました。過去の事例も確認できました。今回も、特例として許可しましょう。ただし、条件があります。しっかりと準備を整えて、明後日に入口まで来てください。あと、同行者も一名は付けること。探索は、万一に備えて二人以上で行動することが義務付けられています。もうこの際、同行者の年齢も問いませんから……」
 ……え? 本当に、いいんですか!?ばんざーい! やったー!この時ばかりは、私も喜びに浮かされて、思わず心の中の口調がカリスみたいになってしまった。
 ――その後、帰り道。
「ねぇ、エディア。同行者のことなんだけどさ」
 そう切り出したカリスは、珍しく不安そうな表情をしていた。
「……アタシが、同行してもいいんだよね?」
「うん。カリスが一緒に来てくれると、嬉しい」
 そう答えつつも、私も胸の奥に残る不安を押し隠せず、続ける。
「……でも、本当にいいの?目指す場所は危険だし……カリスは、十五歳になってからでも探索できるのに……」
 するとカリスは、食い気味に言い切った。
「そんなの、関係ない……!アタシがエディアと離れたくないから。で、行くの」
「……カリス」
 私は小さく息を吸ってから、はっきりと言った。
「うん。頼りにしてる」
 ――、だよね。多分、気持ちは同じ。
 その日はそれぞれ家に帰り、親に事情を説明した。
 そして大急ぎで、旅立ちの準備を進める――。

 ******
 【用語解説:探索規約】
 ■第一条 探索資格:特例を除き、探索の許可は原則満十五歳以上の者に限られる。
 ■第二条 ガイドブック携行義務:探索者は、基本ガイドブックと探索者証明カードを必ず所持する。
 ■第三条 チーム行動:探索者同士、二人以上で行動しなければならない。
 ■第四条 探索者間の禁止行為:探索者同士による殺害、またはそれに準ずる行為を固く禁ずる。
 ■第五条 収集品の検閲:探索者はダンジョンを退出する際、収集品の検閲を受けるものとする。
 ■第六条 譲渡義務対象の収集品:レア度★五以上、又は未知の《遺物》に該当する収集品は、個人の所有を認めず、全て《ダンジョン管理局》へ譲渡する義務を負う――――――。
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