エディアメモリアル

ハヤデビのゲーム工房

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第四階層編

1:旅立ち

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 ――旅立ちの日 早朝――。

 ●エディア
 ママに起こされた。
 出発前に、渡したいものがあるらしい……なんだろう?
 長旅で必要なものは、昨日までにパパから色々譲り受けたけど……。
「エディア。このも、持っていきなさい」
「……え? 日記手帳?」
 思わず聞き返してしまう。
「なんで、これを……?」
ダンジョンダンジョン生物群で見たこと、学んだこと、何でもいいわ。とにかく、その日にあった出来事や思い出を書きなさい」
「それが、きっと土産話になるから。だから――絶対に帰ってきて」
「字でいっぱいに埋まった、その日記手帳を……ママに、見せてね」
 その言葉は、私の胸に温かい火を灯すと同時に、鉛のように重くのしかかった。。それは、私が生きた証を刻むものであり、同時に、一年後の再会を願う、母の切なる祈りでもあった。
 この手帳が埋まる頃、私は本当に、母のもとへ帰ってこられるのだろうか。その約束の重さに、思わず手帳を握りしめる指に力がこもった……そうか。これが、になるかもしれないから――。
「ママ……」
「本当は、その歳で危険な地へ送り出したくはない。でも、エディアが前を向いて進むと言うのなら……無事を祈って、帰りを待つわ」
 最後に、強く抱きしめられた。
 涙を流しながらも、私は家を後にした――。

 ●カリス
 ……何となく、予想はしてたけど。
 親から、まったく心配もされずに家を出られるとは……まあ、とっくに親の愛情なんて、期待してないケド。
 今は、ダンジョン入口の前にある噴水付近で、エディアが来るのを待っている。
「アタシには、エディアがいればいいシ……」
 ぽつりと、口から漏れたその瞬間。
「カリス……! ごめん、待ちました?」
 そう声をかけられて、エディアがこちらへ近づいてきた。
「ア、アタシも、今来たばかりだから大丈夫だよ!」
 さっき漏れた言葉を聞かれていないか、少し照れつつ。定番みたいな返しをしてしまう。
「……ふふ、それなら良かった」
 エディアは、そう言って微笑んだ。 良かった。また、ちゃんと笑えるようになったんだ。多少なりとも、前向きになれたのかな?――そう思いながら、二人並んで歩き、ダンジョン入口へ向かう。
 入口の受付の人は、すでに事情を把握しているらしく、特例として探索者証明カードを発行してくれた。

 探索者証明カードは、再入場時の認証や、ドッグタグのような役割を持つ重要なものだ。と合わせて、常時所持を義務付けてるらしい。

 さらに最低限の説明を受ける。
ダンジョンダンジョン生物群は、未だに謎が多いです。 特に探索初心者は、基本ガイドブックを見ても分からないモンスター、植物には近づかないでください」――。
 色々説明を終えて、最後に基本ガイドブックもエディアが受け取る――ついに、ダンジョンへ入場……のはずだったけど。
 アタシたちは今、入口からそのまま塔の内部に入って、かれこれ一時間以上、螺旋階段を下り続けている。最初は物珍しさもあったが、延々と続く石段と、閉鎖された空間特有の湿った空気に、次第に息苦しさを覚える。足は鉛のように重く、膝は笑い、全身の筋肉が悲鳴を上げ始めた。休憩スペースで乾燥豆をつまみ、水を分け合うたびに、エディアと顔を見合わせては、苦笑いを浮かべる。
「ねぇ、本当にこれ、終わるの? もう何時間下りてるか分からないんだけど」
 カリスのぼやきに、エディアは疲れた声で答える。
「しょうがないよ。基本ガイドブックによれば、今向かってる《第四階層》は新生クラス最上層にあたる場所で、フィールド上空にあるが入口らしいし――」
「それに、新生クラスの階層だけは、初心者の安全確保のために、塔を建設してまで整備されてるんだって」
 なるほど、理屈は分かる。途中、ご丁寧に休憩用スペースまで設けられてはいるけど……。
 それでも、疲れるものは疲れる! 文句を漏らしながら降り続けていると、他の探索者とも何度か遭遇した。
「お前ら、ここは初めてか? 階段は一日かかる覚悟で行け」
 先輩探索者たちから、ありがたい助言をもらう。どうやら、初心者にとってのらしい。
 結局、さらに一日半ほど降り続けて、ようやく――。
「着いた――! この扉の先が、第四階層なんだよね!」
 狭い螺旋階段を下り切った先。目の前に大きく、鉄製で、重厚な扉がそびえ立っていた。
「うん……!」流石に疲れているはずなのに、エディアは内心ワクワクしている様子だ。

 二人がかりで力を振り絞り、重い扉を押し開くと――。

 そこには、本当にダンジョンの内部とは思えないほど、広大な針葉樹林が広がっていた。
 規則正しく伸びる木々は、まるで長い年月をかけて築かれた静かな要塞のようで、その奥には幾重にも重なった山々の稜線が、淡く霞みながら連なっている。地面には、溶け残った雪が白い傷跡のように点在して、この階層の気候を物語っていた。
 入口の塔の周囲には、見たこともない白い花が一面に咲き誇り、吐息のようにほのかな光を放ちながら、訪問者を迎え入れている。
 鼻腔をくすぐるのは、針葉樹の清々しい香りと、雪解け水で土が湿った匂い。肌を撫でる空気は、頬を刺すように冷たい。しかしそれらが、この広大な自然の中にいることをより実感させた。
 そして頭上には 天井のない空が広がり、夕暮れ色に染まった空の底で、太陽――らしき光源が、ゆっくりと世界の縁へ沈みかけていた。
 ……本当に、空まであるんだ。

「寒い けど、綺麗な景色。 表層なだけあって、ちらほら他の探索者も見えるね」
 光景に圧倒されて口が開いたままのアタシとは対照的に、エディアは白い息を吐きながら、素直な感想を口にした。
「向こうに見える群れは、モンスターかな? 知らない花もあるし、楽しみ……!」
 普段は落ち着いてるエディアだけど、関心のあることには、途端に興味津々になる。今にも辺りを走り出して満喫しそうなほど、目をきらきらさせていて――まるで、童心がそのまま前に出てきたみたいだ。
「……ちょっと、エディア? 、忘れてないよね?」
 珍しく、アタシのほうが諭す側になる。
「原生階層の最深部にあるが必要なんだよ?ゆっくり見てたら……時間余命、足りなくなるよ」
「もちろん、分かってるよ?……むぅ」
 ……可愛い。(カリスの本音)
「でも進む途中で、モンスターに出くわしたり、未知の植物を見かけたりしたら……それは、だよね……?」
 今のエディアは、完全に知的好奇心に駆られているようだ……。
「はいはい。そのときは、しょうがないね」
「うん!」エディアは、満面の笑顔で頷いた。
 ちくせう。その笑顔には、本当に弱い。でも、まあいいか。ふざけられるってことは、それだけ心に余裕が生まれてきた証拠だ。

 ――これから本当に、アタシ達のダンジョン探索が始まるんだ。多分、危険な長旅になるだろう……。
 アタシには、エディアしかいない。家族にすら期待できなかった温かさを、エディアはいつも惜しみなく与えてくれた。
 だからこそ、今度はアタシが、エディアの希望になる番だ。
 この命に代えても、万能薬不死の植物?がある《原生階層》まで届かせてみせる――。

 ******

 【用語解説(1):クラス別階層構成】
 ダンジョン内部は「クラス」と「階層」の二重構造になっている。
 ■新生クラス(表層):第四階層、新第三階層、古第三階層。
 ■中生クラス:白亜階層、ジュラ階層、三畳階層。
 ■古生クラス:ペルム階層、石炭階層、デボン階層、シルル階層、オルドビス階層、カンブリア階層。

 【用語解説(2):未到達領域】
 《ダンジョン生物群》全体の深さは現在も不明。最深部に位置すると考えられる未到達領域は、《先カンブリアクラス》と総称される。
 ■先カンブリアクラス:原生階層、太古階層、冥王階層。
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