富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
3,069 / 3,202

双子の多忙な日々 Ⅷ

しおりを挟む
 「「業」は妖魔を複製出来る。だけど、以前のあの時点ではまだ能力に限界があって、《刃》は三体までしか現成出来なかった。多分、西安にいた奴がオリジナルで、他の二体が複製。オリジナルが最も強かったと思われるけど、複製であってもあの時は強敵だった」
 「はい、存じてます」

 《刃》については、本当に苦慮した。
 タカさんが「魔法陣」をある程度解禁しなければならなかったのだ。
 多くの犠牲が出た。
 あの石神家の剣技を操り、更にそれを100本の腕で同時に放って来るのだ。
 聖でさえ、死に掛けた。
 石神家のみなさんも、《刃》相手に戦えば全員戦死していただろう。
 皇紀ちゃんももしかしたら死んでいてもおかしくなかった。
 皇紀ちゃんの「城塞」が一切効かなかったのだ。
 何よりも、《刃》によって諸見さんと綾さんが死に、保奈美さんも助けられなかったことが悔やまれる。
 私たちには非常に苦い記憶となってしまった。

 「私たちは《刃》をもう降せるけど、今も強敵であることには変わりないです。あちこちで出現したら、とんでもない被害が出る。石神家の剣聖でも油断できない。ソロで対戦出来るのは、タカさん、聖、怒貪虎さん、虎白さんとか石神家の剣聖と亜紀ちゃんくらいかな。それと今は羽入さんか」
 「それにもっとコワイことがある。《刃》が更に進化していた場合、ヤバ過ぎるよ」
 「でも俺なんかが斃したんですから」
 「《流星剣》の途轍もない威力があったからね。そっちも本当は解析したいけど、今は忙しくって」
 「羽入さん、がんばー」
 「は、はい!」

 みんなで笑った。
 羽入さんは《青い剣士》を瞬殺したけど、それは《流星剣》の限定解除の威力のお陰だ。
 でも、そのために羽入さんは心肺停止に陥った。
 今後は死なずに使いこなす訓練が必要なのだ。
 少しずつ力を解放しながらの手さぐりになる。
 難しいことだけど、やるしかない。
 それが「神剣」の担い手なのだ。
 今後は石神家の剣聖の人と、紅さんが霊素観測をしながらの訓練になる予定だった。
 万一の蘇生チームも用意する。
 羽入さんも十分に分かっていることなので、話題を変えた。

 「羽入さん、「型崩し」って知ってる?」
 「いいえ、初めて聞きましたが」
 「そう。私たちも詳しくないんだ。でも石神家の剣技では、型をなぞらない剣技があるんだって」
 「え!」

 羽入さんはすぐに私たちの言葉の重みを理解した。

 「ね、コワイでしょ?」
 「それは一体どういうもんなんですか?」
 「だから分からないんだって。私たちも一度だけ聞いただけの」
 「私たちって、技の解析が得意なのね。だから虎白さんに教わってた時に、虎白さんの技の動きで何が出るのか解析しながらやってたの」
 「そうしたら、全然知らない動きから「煉獄」が出て、びっくりしちゃった!」
 「虎白さんに「ズルだ」って言ったら、笑って「型崩し」と言うんだと教えてくれた」

 多分あの時、虎白さんは私たちが解析しているのをからかったつもりだったのだろう。
 もちろん、私たちの解析能力をちゃんと認めてくれていて、その上の段階を見せてくれたということなのだろうが。

 「それ以上は教えてくれなかったけどね」
 「あそこは深いね!」
 「そういうものが……」

 紅さんのパンケーキが美味しくて全部頂いた。
 コーラフロートも作ってもらって、満足してお礼を言った。

 「いいお話を聞けました!」
 「じゃあ、とっておきの情報をお教えします」
 「え、なんですか?」
 「士王が士官学校の先輩のソフィと初体験したって」
 「オッパイのおっきい子だよ!」
 「「……」」

 私たちは望岡へ向かった。
 また「タイガーファング」の中で211の事案を片付けた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 羽入さんたちと話して、《青い剣士》がどうやら石神家の剣技を使ったのではないかという予想が私たちの中で確信となった。
 要は「型崩し」だ。
 それを虎白さんに確かめたい。
 前に確認したけど、タカさんも「型崩し」に関しては知らなかった。
 石神家の秘奥義のようだった。
 タカさん、当主なんだけどなー。
 私たちがタカさんに虎白さんから聞いた「型崩し」を話すと、驚いていた。
 タカさんも秘奥義であることは一瞬で理解し、それを隠すために公の発表では《青い剣士》が石神家の剣技を使った可能性は秘匿したのだ。
 そして私たちに調査を命じた。
 だから《青い剣士》のことはトップシークレットになっていて、石神家の人たちにも映像や情報はまだ見せていなかった。
 私たちが羽入さんに直接確認し、タカさんの許可をさっき取ったところだ。

 盛岡に着いたのは、夕方の5時だった。
 丁度鍛錬を終えて、みなさんが里に戻る頃だ。
 「タイガー・ファング」が山頂の発着場に着くと、みなさんが出迎えてくれた。

 「よう、嬢ちゃんたち! よく来たな!」
 「「虎白さーん!」」
 「おう、丁度終わったとこだぜ。一緒に飯食うか!」
 「「食べるー!」」

 やったぁ!

 下へ降りて、虎白さんのお宅に行った。
 虎白さんが私たちのために、食事の量を増やすように言ってくれた。
 いつもやさしーなー!

 「丁度先日、鹿を狩って来てよ」
 「「やったぁー!」」
 「丁度いい熟成の頃合いだ。みそ焼きでいいか?」
 「「はい!」」

 いろんな部位のステーキが来た。
 みそ焼きが多いが、幾つか塩コショウだったり、グレービーソースもあった。
 私たちが喜んで食べていると、虎白さんがニコニコしてくれてる。

 「おい、何か緊急の問題でもあんの?」
 
 私たちが端末をいじってるんで、気になったようだ。

 「いつものことですから」
 「ゆっくりするために必要なの」
 「そうかよ。大変だな」
 「「いいえー」」

 何のことは無い。
 食事をしながら、近況を話した。
 今一番熱い話題は士王の童貞喪失だ。
 虎白さんは大笑いしていた。

 「高虎より早いんじゃねぇか?」
 「ううん、タカさんは11歳」
 「知子ちゃんだよ」
 「そ、そっか」

 虎白さんが「高虎のくせに」と小声で文句を言っていた。
 美味しい食事のお礼を言い、聴きたいことがあると話した。

 「おう」
 「前にさ、虎白さんが「型崩し」って教えてくれたじゃないですか」
 「あ?」
 「先日、重慶に出た《青い剣士》が石神家の剣技を使ってた可能性があって」
 「羽入さんが感じたの。確かに剣技の型はちがってたから、公式にはまだ認められてないんです」
 「そうか」

 虎白さんの顔が険しくなった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...