富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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道間家の休日

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 9月の初旬。
 「タイガーファング」の道間家専用機《ドーマン・セーマン》が着陸場に降りた。
 最初に石神家の虎蘭様が降り、周囲の安全を確認して下さる。
 見事にさり気ない所作であり、本当にカッコイイ!
 次いで母上が幼い空華(くうげ)を抱き崇座(すうざ)の手を引いて、天狼お兄様、私、そして弟妹たちがデュールゲリエに囲まれながらが続く。
 青月と美空も一緒だ。
 最後に神が降りて来た。
 私は神の手を握って一緒に歩いた。
 
 「神は「オロチランド」に来た事はある?」
 「いいえ、初めてです、奈々様のお陰でこうしてやって来れました」
 「うん、良かったね!」
 「あはははは」

 まあ、神が別に遊園地など興味が無いのは知っている。
 私が頼んだから付いてきてくれたのだ。
 私のことが好きだから。
 
 今日は父上に言われて、たまには遊園地に遊びに行ってみろということだった。
 私たちは普段《道間城》にいて、あまり外へは出ない。
 母上はたまにお一人で先斗町へ飲みに出掛けられたりするし、私も神と一緒に外で遊ぶこともある。
 でも天狼兄上や弟妹たちは、普段はほとんど《道間城》の外へ出ることは無い。 
 別に不自由なことも無いし、母上や私以外は外へ出たいとも思わないのだが。
 天狼兄上は毎日熱心に鍛錬をされているし、夜羽、白蓮 翠明もそうだ。
 だけど父上がおっしゃったように、外に遊びに出ることもいい。
 天狼兄上たちも喜んでいた。
 それに今回は虎蘭様や青月、美空も一緒だ。
 同じように虎蘭様たちも、あまり遊びには行かないようだ。
 うちと同じように鍛錬ばかりしている。
 石神家だから当たり前なのだろうけど。
 ともかく私たちは「オロチランド」に遊びに来た。
 護衛は付かないが、母上も虎蘭様も強い。
 それに天狼兄上も相当だ。
 私だってそれなりにやる。
 それに「オロチランド」には、お父様の子、《美虎》がいる。
 「マンモスの牙隊」も頼もしい。
 まあ、安心ですね。

 デュールゲリエは天狼兄上の「灰羅(はいら)」、私の「久流々(くる)」、夜羽の「波流々(はるる)、白蓮の「美果里(みかり)」、翠明の「阿果里(あかり)」、天外の「胡芳(こほう)」、鎧雨の「瑞鶴(ずいかく)」、崇座の「夜刀(やと)」、そして空華の「夢煙(むえん)」が付いている。
 ちなみに青月には「槐(えんじゅ)」、美空には「孔雀(くじゃく)」が付いている。
 私たちの世話係だが、もちろん強力な護衛でもある。
 みなアンドロイドモデルのユニークタイプだ。
 それぞれに違った美しい容姿になっていて、性格も違う。
 《夢煙》が母上から空華を預かり、《夜刀》が崇座を引き受けた。
 私の隣にも久流々が来て一緒に歩いた。
 神に「イヤラシイ目で奈々様を観るな」と言って、神の尻を蹴っていた。

 すぐに「マンモスの牙隊」のジェイさんたちが来た。
 超VIPの私たちなので、《美虎シティ》の防衛長官であるジェイさんたちの出迎えと挨拶だ。
 まあ、当然「正装」だった。
 あの恰好は父上が認めているので、誰も文句は言えない。
 私は気にならないのだが、母上が嫌そうな顔をしていた。
 ジェイさんの顔は笑顔だが引き攣っている。
 なんだろう?
 長い牙の脇から手を伸ばして、ジェイさんが握手を母上に求めた。 
 母上は嫌そうな顔を隠そうともせずに手を握った。
 上下に振られ、牙にお母様の手が当たった。
 母上のお顔が一層険しくなる。
 
 「あなた。また殺しますよ」

 瞬間にジェイさんが硬直した。
 顔中に大量の汗が出て来る。

 「大変失礼いたしました」

 あの歴戦の方が明らかに怯えている。
 短い歓迎の言葉を告げて、ジェイさんたちは急いで去っていった。
 大きな観光バスが来て、みんなでそれに乗った。
 車内で母上のお隣に座った。

 「母上、ジェイさんたちとは、何かあったのですか?」
 「ええ、昔、何度か殺したことがございます」
 「まあ!」
 「前の屋敷の地下に闘技場があったでしょう」
 「はい! ありましたね!」
 「あの10人には、あそこで特別な鍛錬をいたしました」
 「そうなのですか!」
 「今も骨身に染みているようですね。まあ、何度も内臓を潰して死にましたから」
 「そうなのですか!」

 実際には幻術であるのだが、本人にとっては紛れもない現実だ。
 それにもしかしたら、リアルだったのかもしれない。
 母上のお力は計り知れない。

 「それよりも奈々」
 「はい、母上?」
 「あなたはまたそのようなものを持ち歩いて」
 「エヘヘヘヘ」

 今日はS&WのM629を腰に提げている。
 「ステルスハンター」というステンレスのボディをマットブラックに仕上げたモデルだ。
 元になっているM29は鉄製なので使用している間にエロージョンと呼ばれる銃身内の焼き付け現象が起きることがある。
 それを防ぐためのステンレスモデルがM629だ。
 父上がニカラグアの戦場で使用していたそうで、そのお話を聞いて私もすぐに手に入れた。
 その当時父上は、ステンレス製のためにどうしても光ってしまうのが困ったとおっしゃっていた。
 まあ、父上は接近戦が多かったので、そのデメリットは少なかったようだげど。
 でもそうしたことから後にマットブラックのステンレスモデルが出来たようだ。
 私の「ステルスハンター」もそうで、このモデルの特別な7.5インチのバレルのものを持っている。
 母上は困った顔をしながらも、微笑んでいた。
 私は母上のこうしたお顔が大好きだ。
 お好みのことではないことがあっても、もっと大切なことを見てくれている時の表情だからだ。
 
 「仕方の無い子ですね」
 「はい!」

 私も微笑んで母上を見てお聞きした。

 「母上は私がガンを持ち歩くのを、あまり止めないのですよね?」
 「まあ、良いことだとは思っていませんが」
 「どうして止めないのですか?」

 母上が前に座っている神の背中のシートを蹴った。
 神は驚いて振り向いたが、母上がもう一度蹴ると愛想笑いをして前を向いた。

 「あなたは旦那様の血が濃いようですね」
 「はい!」

 嬉しかった。
 父上との繋がりを母上が認めて下さっている。
 
 「それも、旦那様の青春の血。旦那様は青春真っ只中で、銃を使って、また格闘技を駆使して戦っておられました」
 「そうですね!」

 もちろん私も知っている。
 父上の若い血が激しく燃えていた時代だ。
 今の様に「花岡」を極め「石神家剣技」を高く収めたものではない。
 ご自分の努力で身に付けられ、高めて行かれたものだ。
 その時代の父上の血なのだと母上はおっしゃった。

 「奈々、お前は《道間七道》です。好きなことをおやりなさい。お前は「選ぶ者」なのです。お前が選んで道間家に新たな道をもららすのです」
 「はい、分かりました!」
 「でも、雑なものはいりませんよ?」

 母上はまた神の背を蹴りながらおっしゃった。
 
 「はい、分かっております!」

 脇から見ると、神が泣きそうな顔をしていた。
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