富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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神剣 大お披露目会 Ⅵ

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 高虎さんが演習場に向かって叫んだ。
 
 「クロピョン! 出せ!」

 高虎さんの前に、地面から三振りの剣が現われた。
 鞘は無い。
 高虎さんがそれらを祭壇に置き、一振りずつ説明する。

 「これが三輪山の《魔剣炎蛇(えんじゃ)》だ」

 《魔剣炎蛇》は直線ではなく、その名の通り蛇行する剣だった。
 輝く赤味を帯びている。
 恐らくは炎に関する特殊な能力があるのだろうことが私には感じられた。

 「次は妙見山の《霊刀無明(れいとうむみょう)》だ」

 黒い金属であり、しかも螺旋状に渦巻いていた。
 剣としては異形だが、もう私にも神剣がただの刀剣でないことは理解している。

 「これは大雪山の《絶剣神威(ぜっけんかむい)》だ」

 《絶剣神威》は肉厚の青龍刀のような形だが、透き通った水晶のようなもので出来ていた。
 これも威力は分からない。
 高虎さんも何もやって見せない。
 本当に、神剣を見せるということだけだった。

 「じゃあ、最後に怒貪虎さん、いいんですか?」
 「ケロケロ」

 怒貪虎さんが腰の剣を抜いた。
 やはり長い棒に見える。
 直線であり、直径40ミリほどで長さは4尺(約120センチ)。
 色は赤銅であり、あれはヒヒイロカネか。
 怒貪虎さんはそれを握り、片腕で天を衝いた。
 刀身から巨大な黒い稲妻のようなものが迸り、天空に伸びていく。
 そして上空では横に拡がり、また黒い稲妻が拡がって行った。
 強烈な威力と共に、広域殲滅の力もあるらしい。
 虎白さんたちが半身を起こして拍手しようとし、激痛で倒れた。

 「さて、これで全部です」
 「おい、高虎、その神剣はどうすんだよ?」

 虎白さんが激痛に呻きながら言った。

 「ああ、大切に保管しますよ。百家にあった《皇猿王》は返しますし」
 「冗談じゃねえ! 俺に寄越せ!」
 「あ?」
 「そのために俺たちに観せたんだろうが!」
 「何言ってんです。見たがってたから観せただけですよ」

 虎白さんたちが怒り狂った。
 同時に痛みで呻いてのたうち回っている。
 気持ちは分かるが無茶苦茶な人たちだ。

 「冗談じゃねぇぞ! こんな身体を引っ張って来たんだぜ!」
 「それは自業自得でしょう!」
 「お前がやったんだろう!」
 
 みんなが大騒ぎする。
 「高虎のくせに」とか言ってる。
 あ、ちょっと私が黙らせようか。

 「分かったよ! じゃあ、好きなのを選んでみろ!」
 
 途端に虎白さんたちが喜んだ。
 動けない身体を無理矢理引きずって、神剣に近寄ろうとする。
 車椅子の虎豪さんが一番早く到達した。

 「虎豪、てめぇ!」
 「ガハハハハハハハ!」

 虎豪さんは《魔剣炎蛇》を選んだ。
 笑いながら握って青眼に構えようとした。
 その瞬間に全身が炎に包まれた。

 「ガァァァァァァーー!」

 《魔剣炎蛇》を手放すと炎が消えた。
 道間家の方が消火器を持って来て虎豪さんの燻ぶった衣服に掛けていく。
 浴衣を着ていたが、もうほとんど布は残っていない。
 皮膚は多少焙られた程度で、赤くなっているが火傷というほどではないようだ。
 あのまま持ち続けていれば分からないが。
 高虎さんは大笑いしていた。
 虎豪さんの有様を観て、虎白さんたちが立ち止まった。

 「どうしたんですか? お好きな物をどうぞ」
 「高虎、てめぇ!」
 「ほれほれ」

 虎白さんたちが物凄い目付で高虎さんを睨み、それでも神剣に近寄っていく。
 ああ、この人たちは……

 「虎白さん、どれにしますか?」
 「……」
 「じゃあ、言ってた《皇猿王》を」

 高虎さんが虎白さんに手渡した。
 その瞬間、虎白さんの全身から血が噴き出す。

 「グッギャァァァァァァ!」
 「ワハハハハハハハハ!」
 「ケロケロ……」

 怒貪虎さんが困った顔で嘆いていた。
 笑っていた高虎さんが、真剣な顔で怒鳴った。

 「おい、神剣を舐めてんじゃねぇぞ!」
 『!』
 「これを持つってことはなぁ! 人間の生き方を捨てるってこったぁ! てめぇらにはその覚悟がねぇ! だから神剣に拒まれてんだぁ!」

 虎白さんたちが黙り込んだ。

 「高虎、俺はよ……」
 「うるせぇ! 今度は死ぬぞ!」
 「!」
 
 高虎さんは毅然として虎白さんたちを見渡し、誰も動かないのを確認した。
 みんな諦めたのか。
 高虎さんは神剣をまた祭壇に戻した。
 その時、怒貪虎さんが言った。

 「ケロケロ」
 「え?」
 「ケロケロ」
 「そうなんですか!」

 あーあ。

 「高虎ぁ! 怒貪虎さんは違うって言ってっぞ!」
 「怒貪虎さん!」
 「バカヤロウ! みんな行くぞ!」

 虎白さんが苦痛に顔を歪ませながら、《霊刀無明》を手にした。
 その瞬間上半身が捻じれた。

 「グッギャァァァァァーーー!」
 「バカですか、まったく」

 また全員が止まり、顔を見合わせている。
 
 「あのですね、ここにある神剣はどれも気位が高いんですよ。だから認めた人間にしか触らせてもくれない。ほんとに死にますよ?」
 『……』
 「みんなまだ最初だからその程度で勘弁してもらってますけどね。二度目はねぇ! その覚悟でどうぞ」
 「高虎ぁ……」
 「俺に怒ってもダメですって。神剣に言って下さいよ」

 その時青月が前に出て来た。
 私が動くと、高虎さんが止めた。
 《魔剣炎蛇》に近付く。

 「大丈夫だ、呼ばれてる」
 「あ! 確かに!」

 私にも分かった、
 青月が《魔剣炎蛇》を持ち上げて演舞をする。
 青月の周囲に炎の軌跡が拡がり、美しい舞になった。
 美空も来た。
 美空は《霊刀無明》を持った。
 演舞をすると、美しい音色が響き渡った。

 「おい、高虎……」

 虎白さんが呆然としている。
 他の剣聖たちも同じだ。
 観れば分かる。
 それは神剣の主の舞なのだ。
 
 「ランちゃんはわたくしのですからね!」

 麗星さんが《御剣乱雨》を抱き締めていた。
 まあ、誰も奪いませんよ。
 虎白さんたちはうなだれてその場に寝転がった。
 道間家の方々が来て、元のストレッチャーや車椅子に戻す。
 そして大人しく「タイガーファング」に乗せられ帰って行った。

 「高虎さん、素晴らしいものを拝見しました」
 「そうか」
 「わたくしも! あの、この神剣たちは本当にどうするんでございますか?」
 「そうだなぁ、《皇猿王》は百家に戻すとして、《炎蛇》と《霊刀無明》は青月と美空に持たせるかぁ」
 「ありがとうございます!」
 
 私はお礼を言った。

 「《絶剣神威》はどうしようか。おい、麗星、ここで預かってくれるか?」
 「ここでよろしいのですか!」
 「ああ、日本じゃここが一番安全だろう。《ハイファ》、どうだ?」

 すぐに《ハイファ》が現われた。
 
 「はい、かしこまりました。必ずや石神様の命のあるまでお預かりいたします」
 「おう、よろしくな」

 その後で、道間家で夕飯を御馳走になった。
 高虎さんのお好きな鰻のお重が出て、他にも京料理の豪勢な食事だった。
 鰻は本当に美味しくて、他の料理も絶品だ。
 青月も美空も喜んでいる。

 その後でお風呂を頂き、お酒が出た。

 「高虎さん、青月や美空が神剣に選ばれるって分かっていらしたんですか?」
 「いや、それはねぇよ」
 
 高虎さんが微笑んで言った。

 「虎蘭にも分かるだろうけど、神剣には意志がある。だから俺たちがどうこうも出来ねぇし、理解することも無い。分かるのは、そいつが選ばれた時だけだ」
 「ああ、なるほど」

 私にもよく分かった。
 あの時は虎白さんたちを見て慌てて青月を止めようとしたが。

 「でも、虎白さんたちにも観せたのは、その可能性を考えてのことですよね?」
 「まあな」

 高虎さんが笑って言った。

 「あの人ら、どうしても神剣を欲しがってるからなぁ。チャンスは与えてやりたいよ」
 「そうですね」

 高虎さんは大笑いした。

 「まあ、ああなるんじゃねぇかとは思ってたけどな!」
 「まあ!」
 「オホホホホホ! ランちゃんは渡しませんし!」
 「な!」

 麗星さんも大笑いしていた。
 私は思っていたことを高虎さんに聞いてみた。

 「あの、《御剣乱雨》は麗星さんが主なのですか?」
 「まあ、そうじゃねぇな。親友って感じだけどな」
 「そうですの!」
 「ではいずれ、誰かが主に」
 「それは分からんよ。この時代じゃねぇかもしれんしな」
 「そうですか」

 麗星さんが微笑んで言った。

 「わたくしには分かります」
 「ほう」
 「そうなのですか!」
 「はい。天狼が必ず主となります。ランちゃんも楽しみにしております」
 「そうか!」

 高虎さんがまた笑って麗星さんの肩を抱いた。
 麗星さんは喜んで高虎さんに身体を預ける。
 ちょっとうらやましい。

 私が見ていると、高虎さんが私も引き寄せた。
 私も素直に身体を預けた。
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