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《オペレーション・ラストソング》 Ⅵ
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「総長、ダリニで救助した方々は、「トラキリー」に引き渡しました」
私は「バビロン」で休まれている総長に報告した。
先ほど「ゲート」で20京の数の襲撃を受けたが、全員で退けた。
もうその数は我々の脅威ではない。
あの「北京大空洞」での激戦が、あたしたちを飛躍的に高めたのだ。
みんな必死で妖魔と戦い続け、限界を超える経験をしたことの結果だった。
石神さんや聖さんは、きっとそういう経験を何度もしているのだろう。
人間の能力は「日常性」にあるのだと、度々石神さんから教わっている。
当たり前だと思うことが、その人間の能力であり、またその人間そのものであるのだと。
だからこそ、「非日常」が重要になると言われている。
あの「北京の大空洞」での経験は、あたしたちの「日常性」を向上させたことは確かだ。
「分かった」
総長は気を緩めることなく答えられた。
こんな折だが、総長はお美しい。
その超絶の美貌で前方を見ておられる。
総長が立ち上がり、甲板の前方にいる柏木さんに問われた。
作戦開始から、柏木さんはずっとそこにいる。
真剣に何かを祈りながら、霊能で広範囲を探っているのだ。
高速で移動しているため、甲板は非常に寒い。
しかし柏木さんは微動だにせず、立っている。
強化外骨格「朧」を装着しているために大分いいのだろうが、それでも快適な環境ではないはずだった。
特に今は顔の部分は剥き出しだ。
「柏木さん、何か反応はありますか?」
「いいえ、まだ。ですが西方に僅かに感ずるものが」
「分かりました。作戦区域も西方ですので、このまま進みます」
「お願いします。私も全力を尽くします」
マンロウと御坂は柏木さんの傍から片時も離れない。
万一の場合は、二人で柏木さんを絶対に逃がすことになっている。
そのための訓練は相当にしているはずだった。
マンロウたちも油断は無い。
平野部は《ソリッド・バイオレンサー》がまだうろついていて、それらは無視して進行した。
今は少しでも早く救出目標地点へ行きたいからだ。
戦闘は出来れば避けたい。
寸秒が救出の分かれ目になることもあるはずだ。
私たちは東から西へ進行して行った。
シベリアの大森林は「トラキリー」に任せ、あたしたちは平野部、主に街から逃げ出した人々を救う任務だ。
やはり敵は「紅六花」だと気付き、徐々に攻撃の波が大きくなっている。
あまり良い状況ではない。
このままでは、最終目標のキーウまで行き付けない可能性が高まって来た。
「アリサルダフに近付きました」
「分かった、全員、用意しろ!」
『オス!』
命じながら、総長が先頭を切ってレッドオーガで飛び出して行く。
私らもその後へ続いて行く。
柏木さんはまだ「バビロン」の中だ。
私たちが出撃したので、マンロウと御坂が一層の緊張で事態を見守っている。
「!」
総長が停止を命じた。
直後に「霊素観測レーダー」から通信が入る。
「非常に高い霊素反応! これは《青い剣士》です!」
「総員退避! 急げ!」
総長が命じられた。
しかし、先ほどまでは何も反応は無かったはずだ。
「ゲート」が開いた痕跡も無い。
一体《青い剣士》はどこから来たのだ!
「総長も!」
「私が喰いとめる! お前たちは早く戻れ!」
「総長!」
意味は分かっていた。
あの《青い剣士》には総長しか対応出来ない。
総長は私らを退避させる時間を稼ごうとされているのだ。
ここでグズグズしていれば、総長のご負担になる。
私はすぐにやるべきことをした。
その前に状況を《轟霊号》の石神さんに知らせなければ!
「よしこ! 全員退避だぁ!」
「タケ! 本部に応援を!」
「もうやってる!」
既に石神さんには知らせた。
私たちは全力で「バビロン」に向かい、同時に「バビロン」も退避するように指示した。
間に合ってくれ!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
敵は唐突に現われた。
「ゲート」の反応は絶対に無かった。
ただ、敵は気配を消失させていた、完璧に。
そこから考えられることは、敵は「ゲート」で送り込まれたのではなく、最初からここにいたのだ。
気配を消し、私たちを待ち構えていた。
《刃》がそういう能力を持っていたことを思い出した。
「界離」という、この空間から身を隠す能力だ。
西安ではそのために聖さんが死に掛け、皇紀君も危うかった。
たくさんの犠牲者が出た。
(だけど、それは不可能なはず……)
私たちが移動していることは敵にも悟られている。
しかし私たちは一定の方角ではなく、ランダムに見える行程で移動しているのだ。
それも《レイ》の高度な計算だった。
「業」にそれが見抜けるはずもない。
私たちがどこへ向かっているのかは、絶対に分からない。
だから「ゲート」で送り込むしかないのだ。
実際にこれまでの行程でも「ゲート」による攻撃だった。
その攻撃は「霊素観測レーダー」によって感知され、私たちは迎撃出来た。
柳さんが編み出した「オロチ・ストーム」が「ゲート」を効率よく無力化出来るためだ。
それがどうした!
どうしてここだけは「ゲート」ではなく、待ち伏せしていられたのだ!
(まさか、「予言」!)
私は短い思考でそこまで考えた。
よしこたちに撤退命令を出し、「バビロン」も後退させるよう命じた。
「総長も!」
「私が喰いとめる! お前たちは早く戻れ!」
「総長!」
タケが泣きそうな声で叫んだ。
だがタケも分かっている。
私に背を向けて副長のよしこと共に後退する。
「タケ、「予言者」かもしれない! トラに伝えろ!」
「は、はい!」
それだけを告げた。
タケがよしこを連れて急いで去る。
それでいい。
私は《青い剣士》に向かい合った。
やはり不気味な気配だ。
だが、負けるわけには行かない!
私は「バビロン」で休まれている総長に報告した。
先ほど「ゲート」で20京の数の襲撃を受けたが、全員で退けた。
もうその数は我々の脅威ではない。
あの「北京大空洞」での激戦が、あたしたちを飛躍的に高めたのだ。
みんな必死で妖魔と戦い続け、限界を超える経験をしたことの結果だった。
石神さんや聖さんは、きっとそういう経験を何度もしているのだろう。
人間の能力は「日常性」にあるのだと、度々石神さんから教わっている。
当たり前だと思うことが、その人間の能力であり、またその人間そのものであるのだと。
だからこそ、「非日常」が重要になると言われている。
あの「北京の大空洞」での経験は、あたしたちの「日常性」を向上させたことは確かだ。
「分かった」
総長は気を緩めることなく答えられた。
こんな折だが、総長はお美しい。
その超絶の美貌で前方を見ておられる。
総長が立ち上がり、甲板の前方にいる柏木さんに問われた。
作戦開始から、柏木さんはずっとそこにいる。
真剣に何かを祈りながら、霊能で広範囲を探っているのだ。
高速で移動しているため、甲板は非常に寒い。
しかし柏木さんは微動だにせず、立っている。
強化外骨格「朧」を装着しているために大分いいのだろうが、それでも快適な環境ではないはずだった。
特に今は顔の部分は剥き出しだ。
「柏木さん、何か反応はありますか?」
「いいえ、まだ。ですが西方に僅かに感ずるものが」
「分かりました。作戦区域も西方ですので、このまま進みます」
「お願いします。私も全力を尽くします」
マンロウと御坂は柏木さんの傍から片時も離れない。
万一の場合は、二人で柏木さんを絶対に逃がすことになっている。
そのための訓練は相当にしているはずだった。
マンロウたちも油断は無い。
平野部は《ソリッド・バイオレンサー》がまだうろついていて、それらは無視して進行した。
今は少しでも早く救出目標地点へ行きたいからだ。
戦闘は出来れば避けたい。
寸秒が救出の分かれ目になることもあるはずだ。
私たちは東から西へ進行して行った。
シベリアの大森林は「トラキリー」に任せ、あたしたちは平野部、主に街から逃げ出した人々を救う任務だ。
やはり敵は「紅六花」だと気付き、徐々に攻撃の波が大きくなっている。
あまり良い状況ではない。
このままでは、最終目標のキーウまで行き付けない可能性が高まって来た。
「アリサルダフに近付きました」
「分かった、全員、用意しろ!」
『オス!』
命じながら、総長が先頭を切ってレッドオーガで飛び出して行く。
私らもその後へ続いて行く。
柏木さんはまだ「バビロン」の中だ。
私たちが出撃したので、マンロウと御坂が一層の緊張で事態を見守っている。
「!」
総長が停止を命じた。
直後に「霊素観測レーダー」から通信が入る。
「非常に高い霊素反応! これは《青い剣士》です!」
「総員退避! 急げ!」
総長が命じられた。
しかし、先ほどまでは何も反応は無かったはずだ。
「ゲート」が開いた痕跡も無い。
一体《青い剣士》はどこから来たのだ!
「総長も!」
「私が喰いとめる! お前たちは早く戻れ!」
「総長!」
意味は分かっていた。
あの《青い剣士》には総長しか対応出来ない。
総長は私らを退避させる時間を稼ごうとされているのだ。
ここでグズグズしていれば、総長のご負担になる。
私はすぐにやるべきことをした。
その前に状況を《轟霊号》の石神さんに知らせなければ!
「よしこ! 全員退避だぁ!」
「タケ! 本部に応援を!」
「もうやってる!」
既に石神さんには知らせた。
私たちは全力で「バビロン」に向かい、同時に「バビロン」も退避するように指示した。
間に合ってくれ!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
敵は唐突に現われた。
「ゲート」の反応は絶対に無かった。
ただ、敵は気配を消失させていた、完璧に。
そこから考えられることは、敵は「ゲート」で送り込まれたのではなく、最初からここにいたのだ。
気配を消し、私たちを待ち構えていた。
《刃》がそういう能力を持っていたことを思い出した。
「界離」という、この空間から身を隠す能力だ。
西安ではそのために聖さんが死に掛け、皇紀君も危うかった。
たくさんの犠牲者が出た。
(だけど、それは不可能なはず……)
私たちが移動していることは敵にも悟られている。
しかし私たちは一定の方角ではなく、ランダムに見える行程で移動しているのだ。
それも《レイ》の高度な計算だった。
「業」にそれが見抜けるはずもない。
私たちがどこへ向かっているのかは、絶対に分からない。
だから「ゲート」で送り込むしかないのだ。
実際にこれまでの行程でも「ゲート」による攻撃だった。
その攻撃は「霊素観測レーダー」によって感知され、私たちは迎撃出来た。
柳さんが編み出した「オロチ・ストーム」が「ゲート」を効率よく無力化出来るためだ。
それがどうした!
どうしてここだけは「ゲート」ではなく、待ち伏せしていられたのだ!
(まさか、「予言」!)
私は短い思考でそこまで考えた。
よしこたちに撤退命令を出し、「バビロン」も後退させるよう命じた。
「総長も!」
「私が喰いとめる! お前たちは早く戻れ!」
「総長!」
タケが泣きそうな声で叫んだ。
だがタケも分かっている。
私に背を向けて副長のよしこと共に後退する。
「タケ、「予言者」かもしれない! トラに伝えろ!」
「は、はい!」
それだけを告げた。
タケがよしこを連れて急いで去る。
それでいい。
私は《青い剣士》に向かい合った。
やはり不気味な気配だ。
だが、負けるわけには行かない!
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