富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《オペレーション・ラストソング》 Ⅴ

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  《オペレーション・ラストソング》では人間の生存者だけを扱うのではなかった。
 ロシアの動植物も可能な範囲で移送したかった。
 方法は単純でアラスカの神獣ワキンがロシア上空から動物を集めて行く。
 神獣であるワキンには、特殊な「呼びかけ」方があり、あらゆる動物を移動させることが出来た。
 また植物に関してはクロピョンが安全性を確認したものを、同じく安全を確保した土地に移動させていく。
 どちらもアラスカで改めて検疫を行なうのだが、動物はワキンが《轟霊号》に、植物は予め指定した場所にクロピョンが移動する。
 《轟霊号》で運んだ動物たちも、最終的には同じ場所に移動するという作戦だった。
 「業」の《ニルヴァーナ》は人間のみが感染することは分かっていたし、妖魔を埋め込まれた生物は「霊素観測レーダー」で分かる。
 そもそもが、ワキンによって妖魔に汚染されていない個体だけが移動してきていた。
 俺は出来るだけロシアの生命を引き継ぎ、いずれロシアが浄化され戻れるようになったら、再びロシアの大地で生存させたかった。
 アラスカには20万平方キロの土地を用意していた。
 主に集めるのはシベリア大森林が多かったが、ワキンは遠方の自然環境からも可能な限り集めて来てくれた。
 そのため、ワキンは《オペレーション・ラストソング》が立案された当初から活動していたのだ。
 既にワキンがアラスカへ直接運んだ生物も多い。
 特に俺が大好きなアムールトラはほぼ全個体を運んでくれたようだ。
 狼の集団や熊も多いし、イノシシやシカなどの大型の哺乳類も大勢だ。
 もちろんげっ歯類などの小動物から鳥類、爬虫類、昆虫類まで様々だ。
 ワキンの特殊な「呼びかけ」によって集まって来た動物は想定以上に膨大にいて、俺は至急「タイガーファング」を招集して先に移送を始めた。
 ワキンが「指示」して動物たちが乗り込んでいく様は奇観にして壮観だった。
 本来は捕食し捕食される動物たちが整然と一緒に移動していく。
 一体どういう説得なのか分からない。
 クルーの連中があんぐりと口を開けて見ていた。
 そうだよねー。
 俺もこうなるとは思わなかったねー。

 アラスカではまたワキンの指示で動物の棲み分けが行なわれ、餌は出来るだけ俺たちで準備して自然環境での食物連鎖を始めないようにした。
 個体数をなるべく減らさないためだ。
 アラスカでは受け入れ態勢が大変だったが、また双子が頑張ってこなしてくれた。
 いつも苦労を掛けている。
 植物はクロピョンが異空間を使って移送し、アラスカの指定の場所に移植し、環境も整えてくれた。
 だからちゃんと菌類まで移動している。
 ミミクンも手伝って、広大な森林や草原が拡がった。
 後から聞いたが、途中で亜紀ちゃん大好きのヒーちゃんまでやって来て整理していたそうだ。
 どうなってんのかなー。
 緯度が似ているので、アラスカでの生息は問題無さそうだった。
 更にクロピョンが地熱などを催して、快適な環境を作ってくれた。
 まあ、俺がクロピョンとワキン、ミミクンに「出来るだけの動植物を」と頼んだわけだが、妖魔の王と大妖魔たちは俺の想定以上に働いてくれた。
 正直に言うと、多すぎる。
 双子は用意していた餌では足りず、世界中から急遽かき集めることとなった。
 妖魔との意思疎通は相変わらず難しい。
 多くの「虎」の軍の人間も動員されて大変だった。
 すまんね。


 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 
 作戦開始から45分、今の所は予測の範囲を超えていない。
 生存者は続々と《轟霊号》に運ばれている。
 「紅六花」が救助した人間も運ばれるようになった。
 六花たちは一旦「バビロン」に収容し、合間を見て「トラキリー」が《轟霊号》へ移送している。
 《レイ》の予測では、全部で15時間以内での作戦終了だった。
 「トラキリー」はシベリア山中での生存者の救出が終了次第、「紅六花」の受け持ち箇所に向かっていく予定だ。
 それが6時間以内と《レイ》は予測していた。
 もちろん、途中での反撃への対応も織り込んでいる。
 これまでの「業」の反撃パターンを解析しての予測だ。
 実際シベリア山中にも「ゲート」が連続的に開き、羽入と紅が忙しく対処していく。
 真夜と真昼も高速で移動し、同様に撃破していった。
 まだ余裕がある。
 《レイ》の予測よりも速い進捗で進んでいる。
 だが俺は戦場の勘で、そろそろ何かが起きると感じていた。
 虎蘭が俺の傍に来る。
 俺と同じく、戦場の風を感じているのだ。
 俺も虎蘭も何も言わない。
 その時、観測員が叫んだ。

 「《クリムゾン・ヘル》の霊素反応!」

 ブリッジの全員が驚いた。
 六花の固有技《クリムゾン・ヘル》は強大な広域殲滅技であり、今回の救出作戦では撃つはずが無いのだ。
 「ゲート」へは「オロチ・ストーム」が有効なので、強力な広域殲滅の攻撃は必要無い。
 一体何が起きたのかと全員が考えている。

 今、六花は現在アリサルダフの南西にいるのが分かっていた。
 「ブレイド・ハート」の情報では、町から離れた場所の教会に生存者がいるはずだった。
 優秀な自警団が護っているらしく、感染者《ソリッド・バイオレンサー》を全て駆逐し、食糧などもなんとかしているようだ。
 周囲にまだ《ソリッド・バイオレンサー》がうろついている可能性はあるが、《クリムゾン・ヘル》を撃つまでの敵はいないはずだ。
 「霊素観測レーダー」では「ゲート」の反応も、妖魔の反応も無かった。
 やはり想定外の事態が起きたのだ。

 「何があった!」

 すぐにタケから通信が入った。

 「《青い剣士》出現! 数は3体! 《タイガー・レディ》が交戦中! 至急応援を求む!」

 同時に「紅六花」の後方で「ゲート」の反応があった。
 観測員が「霊素観測レーダー」から捉えた。
 しかし出現した《青い剣士》は最初からそこにいて、気配を消していたのだ。
 それは《刃》が持っていた、自分の気配を完全に消し去ってしまう「界離」という技だろう。
 更に「界離」はどのような攻撃も無効にしてしまう。
 まあ、何重のも「魔法陣」でブーストすれば空間ごと破壊するので撃破出来るが。
 だがそのためには敵の位置を知る必要もある。 

 「常世渡理」を持った虎蘭が俺の隣で言った。

 「高虎さん、行きます」
 「頼む!」

 俺はすぐに指示を出した。

 「石神家に連絡! 《青い剣士》が出たと伝えろ!」
 「はい!」

 俺は「紅六花」後方の「ゲート」には亜紀ちゃんを向かわせた。
 そちらにも《青い剣士》がきっと出る。
 俺の感覚では、すぐに多くの《青い剣士》が出て来るはずだった。
 「業」は「紅六花」とシベリアに展開している部隊を全て潰そうとして来る。
 今確認されているのは3体だが、多分俺たちの初動を観ている。
 今回の最大戦力が出向くと考えているに違いない。
 それに応じた数の《青い剣士》を繰り出すつもりだろう。
 そして俺を除けばその通りだった。

 だが、虎蘭は強いぜ、「業」!
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