富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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真剣 大おヒラメ会 Ⅷ

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 《蓮花研究所》

 「稔! ミユキ! みんなももっと食べなさい!」
 「「はい!」」
 『はい!』

 蓮花さんが料理の監修をし、研究所員全員が今日の夕飯に集まった。
 普段の食事は交代だし、全員参加の催しでも、一部は研究のために参加できないこともある。
 蓮花研究所では月に一度の宴会や映画鑑賞会などがある。
 外にピクニックなどにも行く。
 だから大食堂は全研究所員13000名が一度に集まれる広さになっている。
 こんな広い食堂を持っているのはここだけだ。
 蓮花さんがそういうものを強く望んだのだ。
 高さ20メートルの伽藍があり、ステンドグラスに囲まれた素敵な場所だ。
 まあ、普段は他の普通の大きさの食堂で食べているが、催し物は毎回ここで行なう。

 最初に巨大な「おヒラメ様」を全員が見た。
 石神さんからいただいた塊が、夕べのうちに元の大きさに戻ったのだ。
 細胞研究班が驚いて研究資料を採取したが、石神さんから途轍もない細胞分裂が起きると聞いて諦めた。
 量は多いが、うちは人数も多いので普通に食べ切れるだろう。
 それに蓮花さんのお料理は最高だ!

 お刺身や揚げ物などはもちろん、カレーやチャーハン、お鍋やバーベキューでの焼物もある。
 焼き物は塩コショウもあるがタレを付けたものや鰻のように手の込んだものまであった。
 炒め物は様々な野菜と一緒で、これも美味しかった。
 ジェシカさんはカレーが気に入ったようで、ミユキさんと一緒に嬉しそうに食べていた。
 カレーは「おヒラメ様」の骨でフォンを採り、身がフライが乗っているものだ。
 これは本当に美味しかった!
 「暁園」から来た子たちもミユキさんと一緒に様々なものを食べ比べて蓮花さんに嬉しそうに報告している。
 あの子たちが来てくれて、蓮花さんが本当に明るくなった。
 嬉しそうに自分から料理を勧めている。
 また楽しい思い出が増えた。




 《イシガミ・レギオン》

 朝の5時前。
 目を覚まして部屋を出ると、下が騒がしい。
 何かあったのだろうか。
 「業」の急襲であれば、真っ先に私に知らせにくるはずなので、そうではないのだろうが。
 廊下に出るとすぐに今日の食事当番だという播磨という剣士が来た。

 「あ、虎蘭さん! 大変です!」
 「どうしたの?」
 「とにかく、こちらへ来て下さい!」

 私は浴衣のままで下に降りた。
 ここには5万人の剣士が寝起きしているので、厨房は恐ろしく広い。
 デュールゲリエたちが食事や清掃などの世話をしてくれているが、剣士たちにも交代でやらせている。
 自分たちの食事を作ったり清潔を保つのは、当たり前のことだ。
 まあ、私は料理がからっきしだったが。
 申し訳ない。

 厨房に行くと、巨大な魚が大型の冷蔵庫の扉から溢れていた。

 「え、なにこれ?」
 「さっき「紅六花」に問い合わせたんですが、どう見てもヒラメなんで」
 「そうだね」

 うなずいたけど、うーん、ヒラメってこんな感じ?
 生憎お料理をしないので、本当はヒラメがどういう魚か知らなかった。

 「昨日の夜、「紅六花」の方々が虎蘭さんたちに召し上がって欲しいとヒラメの大きな塊を持って来たんですよ。「おヒラメ様」って、海神様の使いらしいんですけど」
 「そうなんだ」
 「夕飯は出来ていたので、あの冷蔵庫に入れておいて、そうしたら今朝見たらこんなでして」
 「ふーん」

 なんだかよく分からないが、もう「おヒラメ様」は死んでいる。
 どうして一部の塊からこんな姿になったのかは不思議だが、悪い感じは微塵も無い。
 私は処理を頼んで、鍛錬に出た。
 人数が多いので幾つかの鍛錬場に分かれているから、自分の鍛錬の他、それぞれを見て行く。
 青月と美空の姿があった。
 私を見て駆け寄って来る。
 カワイイ。

 「お母さん! 「おヒラメ様」は見た?」
 「うん、今朝見たよ?」
 「スゴイよね!」
 「大きかった!」
 「そうだね。高虎さんが送ってくれたらしいの」
 「そうなんだ!」
 「お父さんが!」
 
 二人とも無邪気に喜んでいる。
 鍛錬を終えて朝食を食べるために食堂へ行った。
 私たちは普段は家族用のそれほど広い部屋ではない場所を使っている。
 そこへ播磨が朝食を運んで来た。
 「おヒラメ様」ではなかった。
 ちょっと期待していたのに……

 「今、「おヒラメ様」の解体をしています。大きいので大分時間がかかりそうです」
 「そうですか」
 「漁業組合の方々が来てくれて助かりました。ああ、後から「紅六花」の方から連絡が来て、必ず全部食べ切るようにとのことです」
 「全部?」

 相当大きかったはずだ。

 「ええ、一部でも残すと、また元のサイズに戻るそうで」
 「それは大変ですね」
 「はい。十分に注意します。骨や皮などは全て焼却すれば良いそうで」
 「そうですか、お願いします」

 まあ、剣士は多いから、全部食べてしまえるだろう。
 夕飯に食べることにしたが、結局また切り身から増えたそうだ。
 でも全て頂いた。
 本当に美味しかった。
 青月と美空も喜んで食べていた。
 高虎さん、ありがとうございます。



 《石神家本家》

 「あんだ、こりゃ……」

 今朝、里の女たちが慌てて俺の家に来た。
 行ってみると、巨大なヒラメが家をぶっ壊して横たわっていた。
 高虎から連絡が来て、夜中に元の姿まで戻ったものらしい。
 まったくあいつは厄介なものを送りやがって!

 俺が解体し、里の女たちに料理を任せた。
 高虎から、全部食い切るようにと言われた。
 放っておくと、幾らでも元のサイズに戻るらしい。
 わかったよ!

 夕方に鍛錬を終えて里に戻ると、広場に宴会場が出来ていた。
 あちこちにいる剣士たちを全部呼び寄せて、里の端々にまで拡がって食べた。
 あまりにも美味すぎて、酒が大いに進んだ。
 結局昼間にまた増えたらしいが、これだけの人数がいりゃどうとでもなる。
 まあ、余裕で食い切った。

 翌朝、また里の女たちに呼ばれた。

 「何切れか残ってたようで、また戻ったの」
 「……」

 8頭になりやがった。
 高虎のやろう!
 あいつに連絡すると、逆に怒られた。

 「だから言ったじゃないですかぁ!」
 「てめぇ! ふざけんな!」
 「今日こそは食い切って下さいね! 本当に大変なことになりますよ!」
 「分かったよ!」

 まあ、美味かったから、また全員で楽しく喰った。
 また酒が進みやがった。




 翌朝、67匹に増えてた。
 おい、誰かどうにかして……
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