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《オペレーション・ゴルディアス》 XⅡ : キリール鬼獄
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聖が俺に言った。
「トラ、いるぜ」
「ああ。いや、待て!」
俺たちは超弩級の敵を見つけて、そこへ向かっていた。
まだ「霊素観測レーダー」では何の反応も無いが、俺と聖は同時に捉えていた。
間違いなく「業」の側近だ。
宇羅とミハイルは降しているので、恐らくは別な、キリールあたりと俺は踏んでいた。
しかし、直前に桜から緊急の通信が入った。
「タイガー! 「業」と接敵! レジーナ様が重傷です! 信じられません! ですが実際に……」
「なんだと!」
あり得ない報告だった。
ルイーサがやられるとは!
ルイーサは俺と聖に並ぶ、「虎」の軍の最大戦力だった。
石神家の虎白さんであっても、ルイーサには届かない。
数千年を生きたノスフェラトゥの女王の桁違いの戦闘力なのだ。
だから俺たちとは反対方向から進軍を任せた。
どんな反撃があっても、ルイーサがいれば撃破出来る。
万一「業」と邂逅したとしても、ルイーサならば後れを取ることは無いと考えていた。
「状況を話せ!」
混乱している桜が俺の言葉に正気に戻った。
「レジーナ様は、「業」に心臓を潰されたとおっしゃっています!」
「生きているのか!」
「はい、何とか! 一瞬潰され、また何らかの方法で再生されたようです!」
「そうか!」
俺は一応安堵した。
ルイーサはやはり強い。
「今そちらへ向かっています! レジーナ様がタイガーに告げなければならないとおっしゃっています!」
「分かった。俺たちもこれから側近と戦闘に入る。なるべく早く片付けるからな!」
「はい、では後程! あと9分も掛かりません」
「油断せずに来い!」
通信を切り、あらためて前方の敵を見据えた。
まだ姿は見せない。
俺が桜と遣り取りしている間、聖が油断なく見張っていた。
俺たち二人とも、もう敵の位置を捉えている。
「霊素観測レーダー」にはまだ反応は無かったが、間違いない。
《星墜》
俺は九重の「魔法陣」で撃った。
少し盛り上がった地面が瞬間に爆散し、轟雷と暴風を巻き起こす。
聖が「聖光」でそれを吹き飛ばした。
だが、これほどの攻撃を敵は凌いでいる。
やはり只者ではない。
俺が前へ飛び出て、聖が援護の準備をする。
いつも通りだ。
俺は奥義を繰り返し、前方を攻撃し続ける。
(来る)
地面が激しく持ち上がった。
ようやく地面の下からそいつが姿を現わした。
イソギンチャクのような姿だが、何しろ巨大だ。
直径は5キロ、高さは10キロ以上あるだろう。
無数の触手が上方にうごめいている。
全身が半透明の身体で、そして下の胴体には多くの「人間」が閉じ込められているのが見えた。
数万はいそうだ。
「トラ! あいつの中に!」
聖が慌てている。
人間の姿が見えたからだ。
「ビビるな! あれは《ニルヴァーナ》の製造器官だ! もう生きてはいない!」
俺の言葉に聖が覚悟を決めた。
表情は戦闘時の冷徹なものだが、中で考えていることは分かる。
俺も同じだからだ。
とんでもない邪悪な奴だ。
絶対に許してはおけない。
「やっちまっていいんだな!」
「思い切り撃て!」
《ニルヴァーナ》は人間の肉体を使って培養される。
まさかこうやって作られていたとは!
《ニルヴァーナ》に製造工場などは無かったのだ。
こいつに呑み込まれる時、一体どれほどの絶望を感じたことか。
全ての人間が目を閉じて身動きもしないことが、僅かな救いだ。
内部で死んでいる。
いや、まだ生きている人間もいるのかもしれない。
しかしそれは、死ぬよりも辛いことだろう。
もう救い出すことは出来ないのは分かっていた。
《ニルヴァーナ》に蝕まれ、まともな思考をしていないことだけは確かだ。
〈イシガミかぁ!〉
怪物がどうやってか発声した。
言葉としては人間的なそれだが、それに乗る意識は遙かに離れたものと感じる。
まるで憎悪に塗れ切った、巨大な感情の波が伝わって来る。
「キリールか!」
〈イシガミ! お前だけは絶対に殺す!〉
「おう!」
キリールの怪物が、情報から黒い雲を湧き出させる。
《ディラック・クラウド》か!
あれもこいつが発生させていたのだ。
恐らく、自分の構造を進化させていったに違いない。
俺を憎むあまり、「業」に最大限の貢献を果たした奴。
もはや人間の憎悪や怒りの範疇を大きくはみ出し乗り越え、邪悪な存在そのものへなってしまった憐れな奴。
俺が「虎王」で攻撃すると、触手が特殊な空間を作るらしく攻撃が届かない。
聖の支援攻撃も同じだ。
《ジャガーノート》が「オロチストーム砲」でディラック・クラウドを消滅させながら、キリールの怪物へも攻撃をしていく。
《青い剣士》の「界離」の発展版なのだろうが、攻撃が通らない。
だが、俺たちもこれまでではない。
俺は接近して側面から大技を撃った。
《獄星花》
一挙に巨大な胴体に大穴が開く。
触手のレジストも貫通したのだ。
次元の壁を超えて、崩壊した壁も吹き飛ばしながら貫通する攻撃だった。
次元の壁を打ち壊す技を撃てる者は何人もいるが、こうして崩壊そのものも破砕する技は、俺と聖だけだ。
タイミングを合わせて聖が「聖光」で大穴に追撃する。
高速の再生も間に合わずに巨大な傷口が拡がって行く。
俺もそこに畳み込んで攻撃を続けた。
5キロの巨体が割れ、触手も動かなくなって行く。
内部にいた「人間」が変化していった。
ドス黒く溶解して消えていく。
俺は広範囲を一気に壊した。
《華流羅》
前方に130の「魔法陣」を展開し、数百キロの範囲を攻撃する。
聖も同様に80の「魔法陣」で千切れ飛んで行く敵の破片を攻撃して行った。
敵の肉体はたちまち霧散し、動くものは一切見えなかった。
しばらくの間、俺たちの攻撃で生じたプラズマの嵐が一体を覆っていた。
肉体は消え去ったことは確かだが、まだキリールの怨念は辺りを漂い続けた。
「トラ、いるぜ」
「ああ。いや、待て!」
俺たちは超弩級の敵を見つけて、そこへ向かっていた。
まだ「霊素観測レーダー」では何の反応も無いが、俺と聖は同時に捉えていた。
間違いなく「業」の側近だ。
宇羅とミハイルは降しているので、恐らくは別な、キリールあたりと俺は踏んでいた。
しかし、直前に桜から緊急の通信が入った。
「タイガー! 「業」と接敵! レジーナ様が重傷です! 信じられません! ですが実際に……」
「なんだと!」
あり得ない報告だった。
ルイーサがやられるとは!
ルイーサは俺と聖に並ぶ、「虎」の軍の最大戦力だった。
石神家の虎白さんであっても、ルイーサには届かない。
数千年を生きたノスフェラトゥの女王の桁違いの戦闘力なのだ。
だから俺たちとは反対方向から進軍を任せた。
どんな反撃があっても、ルイーサがいれば撃破出来る。
万一「業」と邂逅したとしても、ルイーサならば後れを取ることは無いと考えていた。
「状況を話せ!」
混乱している桜が俺の言葉に正気に戻った。
「レジーナ様は、「業」に心臓を潰されたとおっしゃっています!」
「生きているのか!」
「はい、何とか! 一瞬潰され、また何らかの方法で再生されたようです!」
「そうか!」
俺は一応安堵した。
ルイーサはやはり強い。
「今そちらへ向かっています! レジーナ様がタイガーに告げなければならないとおっしゃっています!」
「分かった。俺たちもこれから側近と戦闘に入る。なるべく早く片付けるからな!」
「はい、では後程! あと9分も掛かりません」
「油断せずに来い!」
通信を切り、あらためて前方の敵を見据えた。
まだ姿は見せない。
俺が桜と遣り取りしている間、聖が油断なく見張っていた。
俺たち二人とも、もう敵の位置を捉えている。
「霊素観測レーダー」にはまだ反応は無かったが、間違いない。
《星墜》
俺は九重の「魔法陣」で撃った。
少し盛り上がった地面が瞬間に爆散し、轟雷と暴風を巻き起こす。
聖が「聖光」でそれを吹き飛ばした。
だが、これほどの攻撃を敵は凌いでいる。
やはり只者ではない。
俺が前へ飛び出て、聖が援護の準備をする。
いつも通りだ。
俺は奥義を繰り返し、前方を攻撃し続ける。
(来る)
地面が激しく持ち上がった。
ようやく地面の下からそいつが姿を現わした。
イソギンチャクのような姿だが、何しろ巨大だ。
直径は5キロ、高さは10キロ以上あるだろう。
無数の触手が上方にうごめいている。
全身が半透明の身体で、そして下の胴体には多くの「人間」が閉じ込められているのが見えた。
数万はいそうだ。
「トラ! あいつの中に!」
聖が慌てている。
人間の姿が見えたからだ。
「ビビるな! あれは《ニルヴァーナ》の製造器官だ! もう生きてはいない!」
俺の言葉に聖が覚悟を決めた。
表情は戦闘時の冷徹なものだが、中で考えていることは分かる。
俺も同じだからだ。
とんでもない邪悪な奴だ。
絶対に許してはおけない。
「やっちまっていいんだな!」
「思い切り撃て!」
《ニルヴァーナ》は人間の肉体を使って培養される。
まさかこうやって作られていたとは!
《ニルヴァーナ》に製造工場などは無かったのだ。
こいつに呑み込まれる時、一体どれほどの絶望を感じたことか。
全ての人間が目を閉じて身動きもしないことが、僅かな救いだ。
内部で死んでいる。
いや、まだ生きている人間もいるのかもしれない。
しかしそれは、死ぬよりも辛いことだろう。
もう救い出すことは出来ないのは分かっていた。
《ニルヴァーナ》に蝕まれ、まともな思考をしていないことだけは確かだ。
〈イシガミかぁ!〉
怪物がどうやってか発声した。
言葉としては人間的なそれだが、それに乗る意識は遙かに離れたものと感じる。
まるで憎悪に塗れ切った、巨大な感情の波が伝わって来る。
「キリールか!」
〈イシガミ! お前だけは絶対に殺す!〉
「おう!」
キリールの怪物が、情報から黒い雲を湧き出させる。
《ディラック・クラウド》か!
あれもこいつが発生させていたのだ。
恐らく、自分の構造を進化させていったに違いない。
俺を憎むあまり、「業」に最大限の貢献を果たした奴。
もはや人間の憎悪や怒りの範疇を大きくはみ出し乗り越え、邪悪な存在そのものへなってしまった憐れな奴。
俺が「虎王」で攻撃すると、触手が特殊な空間を作るらしく攻撃が届かない。
聖の支援攻撃も同じだ。
《ジャガーノート》が「オロチストーム砲」でディラック・クラウドを消滅させながら、キリールの怪物へも攻撃をしていく。
《青い剣士》の「界離」の発展版なのだろうが、攻撃が通らない。
だが、俺たちもこれまでではない。
俺は接近して側面から大技を撃った。
《獄星花》
一挙に巨大な胴体に大穴が開く。
触手のレジストも貫通したのだ。
次元の壁を超えて、崩壊した壁も吹き飛ばしながら貫通する攻撃だった。
次元の壁を打ち壊す技を撃てる者は何人もいるが、こうして崩壊そのものも破砕する技は、俺と聖だけだ。
タイミングを合わせて聖が「聖光」で大穴に追撃する。
高速の再生も間に合わずに巨大な傷口が拡がって行く。
俺もそこに畳み込んで攻撃を続けた。
5キロの巨体が割れ、触手も動かなくなって行く。
内部にいた「人間」が変化していった。
ドス黒く溶解して消えていく。
俺は広範囲を一気に壊した。
《華流羅》
前方に130の「魔法陣」を展開し、数百キロの範囲を攻撃する。
聖も同様に80の「魔法陣」で千切れ飛んで行く敵の破片を攻撃して行った。
敵の肉体はたちまち霧散し、動くものは一切見えなかった。
しばらくの間、俺たちの攻撃で生じたプラズマの嵐が一体を覆っていた。
肉体は消え去ったことは確かだが、まだキリールの怨念は辺りを漂い続けた。
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