富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《オペレーション・ゴルディアス》 XⅧ : 花岡斬

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 エカテリンブルク。
 かつてはロシア有数の大都市だった。
 昔から工業都市として栄えた。
 ロシア革命で拘束されたツァーリ一家がここで処刑され、その跡地にロシア正教会が建てられたという。
 それは「血の上の教会」と呼ばれ、「業」はその地下深くに自分の居城を築いた。
 衛星からの測距で俺たちはその場所だったということについて掴んでいる。
 俺と聖、石神家剣聖50名、斬、亜紀ちゃん、総勢54名とデュールゲリエ50名。
 敵は「業」とその妖魔軍団。
 事前の作戦会議では、俺と聖で「業」を斃し、その他の妖魔たちを残りの全員で迎撃するという大雑把なものだった。
 「業」以外は、もうどうにでもなるためだ。

 双子が見出してくれた「意識外の攻撃」は、俺と聖の連携でしか成し得ないだろう。
 精妙なタイミングで攻撃する必要があり、下手な援護は邪魔になる。
 ただ、俺だけはこの戦闘が綺麗には流れないだろうことを思っていた。
 斬がいるからだ。

 斬は全く喋らなかった。
 元々無口な男だったが、俺には斬が既に決めていることを感じていた。
 斬は人類のためとか「虎」の軍の仲間が、などとは全く考えない。
 栞や士王たちにはとんでもない愛情を抱いているが、それは斬のほんの一面に過ぎない。
 斬は修羅なのだ。
 そして修羅の裏側には深遠な愛がある。
 その愛故に、修羅は激しく戦うのだ。
 斬の場合、愛は一部の家族にしかない。
 栞、士王、千歌、契、そして亡くなった雅さんと菖蒲さん、その他に何人もいないだろう。
 「業」に対しては、俺には想像も付かない。
 決して憎悪ばかりではないのではないかとも思う。
 斬は冷徹な人間に見せているが、愛情が深い男なのは知っている。
 自分に懐いたゴリラにまで愛情を注ぐ人間だ。
 「遠士」と名付けたゴリラの墓標を時々参っているのを、斬の世話をしている五月さんから聞いた。
 では「業」に対してはどうなのか。




 「高虎さん、もうすぐですね」

 虎蘭が俺の隣で言った。
 こいつはさっきから全然俺の傍を離れねぇ。
 「虎」の軍の通信機器や装置は扱えないので、亜紀ちゃんに頼んで状況を聞いて俺に報告している。
 その亜紀ちゃんも俺の傍にいるので、はっきり言って二人とも                                   余計だ。
 戦場の感覚は俺にも分かる。

 聖は少し前から「バハムート」を改造した移動要塞を装着している。
 高速移動をしながら「業」を攻撃するはずだ。
 《位相反射》がどれほどの精度とスピードで追い掛けるのかを試すつもりだった。
 そして俺は「業」に接近して攻撃する。
 剣技を《位相反射》はどのように返すのか、接近戦での「螺旋花」などはどうなのか。
 興味深い。

 「業」の居城から20キロの場所へ着いた。
 予想通りに「ゲート」が俺たちを取り囲むように展開する。
 虎白さんたちが一斉に迎撃し、膨大な数の妖魔は一向に近づくことはない。
 その中で虎蘭は迎撃に参加せずに俺の隣にいた。

 「おい、お前も行けよ」
 「必要ありませんよ」

 まあ、確かにその通りだ。
 虎白さんたちも余裕だったので、文句も言われない。
 亜紀ちゃんは俺の近くで通信機器を操って忙しそうだ。
 亜紀ちゃんはあまりそういう作業に慣れてない。
 デュールゲリエたちにやらせれば良いのだが、それでは自分が俺の傍にいる理由を喪うからだ。
 デュールゲリエたちは操艦と武器管制の方に集中させている。
 それにいざという時の救助の役目もある。

 「あれ、高虎さん」
 「あんだよ」
 「斬さん、どこ行きました?」
 「!」

 斬の姿が見えなかった。
 これだけの実力者の中にあって、気付かれずに姿を消すとは思わなかった。
 本当に誰一人気付かなかった。
 俺も虎蘭もまだ戦闘に参加してはいないが、決して気を緩めたつもりはない。
 これほどの最強の人間の集まった中での気配消失などとんでもない奴だ。
 虎蘭が気付いたのは斬に話し掛けたかったかららしい。

 「斬さんに気配を伺いたかったんですけど」
 
 斬が「業」と血のつながりがあったからだ。
 何かを感じているのか聞きたかったらしい。
 その時、前方で激しい爆発があった。

 「高虎!」

 虎白さんが叫んだ。

 「斬です! あいつ突っ込みやがった!」
 「なんだと!」

 全員抜刀した。
 俺は前方に飛び、聖はもう俺の周囲に射線を張っている。
 俺に向かって何が来ても、自分が撃ち落とすつもりだ。
 虎白さんたちはまだ動かない。
 斬が飛び出したことは驚いているが、斬の気持ちは理解しているのだろう。
 斬は自分がけりを着けるつもりなのだ。
 この世に「業」を解き放った責任を自分で取るつもりだ。
 雅さんと菖蒲さんが責任を果たせず、だから今度は自分がやるのだ。
 それは栞と士王たちが安心して暮らすためだ。
 口にはしなかったが、そう思っている。
 斬は人類の運命などは関係無い。
 ただ一つだけ、栞たちのために戦うのだ。
 そのために、今日まで己を極限まで鍛え上げ、磨き上げて来た。
 危険極まりない技を億すことなく試し、ものにしてきた。
 常により強く成ることのみを考え、弛まずに努力して来た。
 俺はあれほど自分を鍛え上げた人間を知らない。
 石神家の虎白さんたちでさえ、斬の無茶には脱帽し呆れている。
 そして、ここに来て斬は俺たちの誰にも気付かれずに飛び出して行った。
 あいつの目的はただ一つ、「業」を討つことだけなのだ。
 俺もその心が分かっていたので、何も言わなかった。
 止めて止まる奴でもない。

 前方の爆発は引き続き、俺の他にも全員が前に出て来ていた。
 どいつもこいつも役割分担など微塵も考えていない。
 亜紀ちゃんもニコニコして付いて来る。

 「お前は戻れよ!」
 「イヤですよ!」
 「このやろう!」
 「アハハハハハハハ!」

 分かっている。
 全員が斬の最期を看取るつもりなのだ。




 斬の命の最期の光はこのためにある。
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