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御堂家
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8月1日。
俺は子どもたちを連れて、山梨の御堂の家に向かった。
俺はハマーを運転しながら、子どもたちに「旧家」というものの説明をする。
「御堂の家は「旧家」と呼ばれる家なんだ」
「旧家というのは、古くからある名門の家柄、と覚えておけばいい。御堂の家は、これから行く山梨の甲府のあたりで、非常に古くから一帯を治めてきたんだ」
「タカさんと父と、大学時代は親友だったんですよね」
亜紀ちゃんが弟妹たちに説明した。
「そうだ。よく一緒に遊びに行ったよなぁ。ああ、それに花岡さんとも一緒に俺たちは遊んだ」
懐かしい。
「とにかく、だ。御堂の家は花岡さんの家みたいに大きな日本家屋で、庭は途轍もなく広い。日本家屋のことは、花岡さんの家で勉強したよな?」
「「「「はい!」」」」
「戸の開け閉め、障子や襖の開け閉め、畳の縁は踏まない! 大丈夫だな?」
「「「「はい!」」」」
「ああ、これは一番重要なことだが、何か壊したり汚したりしたら、必ず俺に言え! いいか、これは絶対だぞ」
「「「「はい!」」」」
「やっちゃったことはしょうがねぇ。俺が必ず何とかするから、言ってくれな」
「「「「はい!」」」」
中央道をガンガン飛ばし、俺たちは甲府で下りた。
甲府市内のうどん屋で食事をし、3時くらいに御堂の家に着く。
山の麓にあるその家は、花岡家のような高い塀はない。
生垣は多少あるが、全体を囲ってはいない。
「10分前には、もう敷地内に入ってたんだぞ」
「「「「えぇー!」」」」
家の前で、御堂と奥さんの澪さん、そして高校生二年と中学三年の姉弟が出迎えて待っていてくれた。
「石神、ようこそ」
「ああ、お世話になります」
「石神さん、また来てくれてありがとう」
「奥さんもお元気そうで」
「「石神さん、こんにちは」」
「ああ、二人とも大きくなったなぁ」
「石神さんほどじゃないけどね!」
姉の柳が笑って言う。弟は正利だ。
「山中のお子さんたちだね。はじめまして、御堂正嗣です」
御堂が子どもたちに挨拶する。
事情は御堂の家族全員が心得ている。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
柳が亜紀ちゃんに近づく。
「わたしは「りゅう」。柳って書くの、ヘンな名前でしょ?」
「亜紀です。ステキな名前だと思います」
「そう?」
柳はすぐに亜紀ちゃんを気に入ったようだ。
そして双子にも挨拶し、頭を撫でる。
皇紀には握手を求めた。
非常に社交的な奴だ。
正利は普通に自己紹介をするが、別に冷たい奴ではない。
御堂に瓜二つの落ち着いた少年で、動じることも緊張することもない。
俺にもよく懐いてくれている。
まあ、柳はそれ以上だが。
俺たちは座敷に案内され、麦茶を出された。
御堂のご両親もわざわざ挨拶に来てくれた。
正巳さんと菊子さんだ。
俺は東京の菓子折りの他、それぞれに土産を用意していた。
御堂にはドミニク・フランスのネクタイ。
奥さんの澪さんにはエルメスのスカーフ。
正巳さんには葉巻セット。
菊子さんにはエルメスのストール。
柳にはシャネルのスカーフ。
正利にはボッテガ・ヴェネタの長財布だ。
みんなに礼を言われた。
その他に、スイカを二つ。
御堂がちょっと不審な顔をしたが、俺がその説明をした。
「これは瑠璃と玻璃が庭で育てたものなんだ」
「そうなんだ。じゃあ冷やしてあとで頂こう」
「あー、ちょっとな、特殊なんだよ」
「?」
「まあ、みんなで食べた時に説明しよう」
御堂はよく分かっていないが、スイカを澪さんと一緒に運んだ。
子どもたちはすぐに打ち解けた。
まあ、コミュ力の化け物のような柳がいたからだが、正利も皇紀と仲良くなったようだ。
二人はなんだか、俺の話で盛り上がっている。
やがて子どもたちは屋敷を案内するという二人に連れられて行った。
「なんだか良さそうな子どもたちじゃないか」
「そうだろう。俺が好き勝手にやっててアレだからな」
「石神さんが好き勝手にやったら、さぞ面白い毎日でしょうね」
「そうなんですよ、こないだはね」
俺は毎週映画鑑賞会をしていることや、皇紀の第二次性徴をからかってむくれられたことなどを話した。
御堂は声を出して笑い、澪さんは大笑いした。
「まあ、珍しい。この人が声を出して笑うなんて、滅多にありませんよ」
「そうかな」
「そうですよ」
「まあ、石神が来たからな」
俺たちは近況を話し、三人で盛り上がった。
その後、俺は正巳さんの部屋へお邪魔した。
丁度菊子さんがお茶を出しており、正巳さんは俺の土産の葉巻を切っていた。
「石神さんのお茶もすぐに用意しますね」
「すみません」
正巳さんは葉巻に火を点けて、煙を味わう。
コイーバの最高級品だ。
「最近は家族みんなに止めろと言われていてね」
「そうだと思って、一杯買ってきました」
「ハハハ、やっぱり君はいい男だなぁ」
「人生の楽しみっていうのは、重要ですからね」
「そうだな」
お茶を持ってきた菊子さんも話しに加わる。
「いつ来ても、ここは最高ですね」
「そう言ってくれると嬉しいよ。我々にはちょっと慣れすぎた景色だからな」
「そうですね、東京はいろいろあるんでしょうが、こっちは何も変わらない」
「俺は東京が好きですが、ここには綺麗な波動があります」
「君はいつも同じことを言うなぁ」
「正巳さんが先祖から受け継いだ、大事なものですよ。それを今も守っていらっしゃる」
「僕などは、もう引退した身だ。正嗣に全部任せているよ」
「いいえ、正嗣はまだまだです。真面目な男ですが、まだ正巳さんの器じゃない」
「そう言ってくれると、ちょっと嬉しいかな」
「まだ県会議員は続けていらっしゃるんですよね?」
「うん、そろそろそちらも引退したいんだけどね」
「まだ早いですよ」
「ええ、家にいつかれると、私も困ります」
お二人が笑う。
しばらく雑談をし、俺は部屋を辞した。
「今回もゆっくりしていってください。子どもたちもいい子たちのようだ」
「ありがとうございます」
俺は茶の礼を言い、引き下がった。
子どもたちはどこにいるのか。
遠くで笑い声が聞こえる。
俺は子どもたちを連れて、山梨の御堂の家に向かった。
俺はハマーを運転しながら、子どもたちに「旧家」というものの説明をする。
「御堂の家は「旧家」と呼ばれる家なんだ」
「旧家というのは、古くからある名門の家柄、と覚えておけばいい。御堂の家は、これから行く山梨の甲府のあたりで、非常に古くから一帯を治めてきたんだ」
「タカさんと父と、大学時代は親友だったんですよね」
亜紀ちゃんが弟妹たちに説明した。
「そうだ。よく一緒に遊びに行ったよなぁ。ああ、それに花岡さんとも一緒に俺たちは遊んだ」
懐かしい。
「とにかく、だ。御堂の家は花岡さんの家みたいに大きな日本家屋で、庭は途轍もなく広い。日本家屋のことは、花岡さんの家で勉強したよな?」
「「「「はい!」」」」
「戸の開け閉め、障子や襖の開け閉め、畳の縁は踏まない! 大丈夫だな?」
「「「「はい!」」」」
「ああ、これは一番重要なことだが、何か壊したり汚したりしたら、必ず俺に言え! いいか、これは絶対だぞ」
「「「「はい!」」」」
「やっちゃったことはしょうがねぇ。俺が必ず何とかするから、言ってくれな」
「「「「はい!」」」」
中央道をガンガン飛ばし、俺たちは甲府で下りた。
甲府市内のうどん屋で食事をし、3時くらいに御堂の家に着く。
山の麓にあるその家は、花岡家のような高い塀はない。
生垣は多少あるが、全体を囲ってはいない。
「10分前には、もう敷地内に入ってたんだぞ」
「「「「えぇー!」」」」
家の前で、御堂と奥さんの澪さん、そして高校生二年と中学三年の姉弟が出迎えて待っていてくれた。
「石神、ようこそ」
「ああ、お世話になります」
「石神さん、また来てくれてありがとう」
「奥さんもお元気そうで」
「「石神さん、こんにちは」」
「ああ、二人とも大きくなったなぁ」
「石神さんほどじゃないけどね!」
姉の柳が笑って言う。弟は正利だ。
「山中のお子さんたちだね。はじめまして、御堂正嗣です」
御堂が子どもたちに挨拶する。
事情は御堂の家族全員が心得ている。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
柳が亜紀ちゃんに近づく。
「わたしは「りゅう」。柳って書くの、ヘンな名前でしょ?」
「亜紀です。ステキな名前だと思います」
「そう?」
柳はすぐに亜紀ちゃんを気に入ったようだ。
そして双子にも挨拶し、頭を撫でる。
皇紀には握手を求めた。
非常に社交的な奴だ。
正利は普通に自己紹介をするが、別に冷たい奴ではない。
御堂に瓜二つの落ち着いた少年で、動じることも緊張することもない。
俺にもよく懐いてくれている。
まあ、柳はそれ以上だが。
俺たちは座敷に案内され、麦茶を出された。
御堂のご両親もわざわざ挨拶に来てくれた。
正巳さんと菊子さんだ。
俺は東京の菓子折りの他、それぞれに土産を用意していた。
御堂にはドミニク・フランスのネクタイ。
奥さんの澪さんにはエルメスのスカーフ。
正巳さんには葉巻セット。
菊子さんにはエルメスのストール。
柳にはシャネルのスカーフ。
正利にはボッテガ・ヴェネタの長財布だ。
みんなに礼を言われた。
その他に、スイカを二つ。
御堂がちょっと不審な顔をしたが、俺がその説明をした。
「これは瑠璃と玻璃が庭で育てたものなんだ」
「そうなんだ。じゃあ冷やしてあとで頂こう」
「あー、ちょっとな、特殊なんだよ」
「?」
「まあ、みんなで食べた時に説明しよう」
御堂はよく分かっていないが、スイカを澪さんと一緒に運んだ。
子どもたちはすぐに打ち解けた。
まあ、コミュ力の化け物のような柳がいたからだが、正利も皇紀と仲良くなったようだ。
二人はなんだか、俺の話で盛り上がっている。
やがて子どもたちは屋敷を案内するという二人に連れられて行った。
「なんだか良さそうな子どもたちじゃないか」
「そうだろう。俺が好き勝手にやっててアレだからな」
「石神さんが好き勝手にやったら、さぞ面白い毎日でしょうね」
「そうなんですよ、こないだはね」
俺は毎週映画鑑賞会をしていることや、皇紀の第二次性徴をからかってむくれられたことなどを話した。
御堂は声を出して笑い、澪さんは大笑いした。
「まあ、珍しい。この人が声を出して笑うなんて、滅多にありませんよ」
「そうかな」
「そうですよ」
「まあ、石神が来たからな」
俺たちは近況を話し、三人で盛り上がった。
その後、俺は正巳さんの部屋へお邪魔した。
丁度菊子さんがお茶を出しており、正巳さんは俺の土産の葉巻を切っていた。
「石神さんのお茶もすぐに用意しますね」
「すみません」
正巳さんは葉巻に火を点けて、煙を味わう。
コイーバの最高級品だ。
「最近は家族みんなに止めろと言われていてね」
「そうだと思って、一杯買ってきました」
「ハハハ、やっぱり君はいい男だなぁ」
「人生の楽しみっていうのは、重要ですからね」
「そうだな」
お茶を持ってきた菊子さんも話しに加わる。
「いつ来ても、ここは最高ですね」
「そう言ってくれると嬉しいよ。我々にはちょっと慣れすぎた景色だからな」
「そうですね、東京はいろいろあるんでしょうが、こっちは何も変わらない」
「俺は東京が好きですが、ここには綺麗な波動があります」
「君はいつも同じことを言うなぁ」
「正巳さんが先祖から受け継いだ、大事なものですよ。それを今も守っていらっしゃる」
「僕などは、もう引退した身だ。正嗣に全部任せているよ」
「いいえ、正嗣はまだまだです。真面目な男ですが、まだ正巳さんの器じゃない」
「そう言ってくれると、ちょっと嬉しいかな」
「まだ県会議員は続けていらっしゃるんですよね?」
「うん、そろそろそちらも引退したいんだけどね」
「まだ早いですよ」
「ええ、家にいつかれると、私も困ります」
お二人が笑う。
しばらく雑談をし、俺は部屋を辞した。
「今回もゆっくりしていってください。子どもたちもいい子たちのようだ」
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子どもたちはどこにいるのか。
遠くで笑い声が聞こえる。
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