192 / 3,202
あの日、あの時 Ⅲ アラスカ前編
しおりを挟む
「高校生の頃からの友だちで、アメリカに住んでいる奴がいるんだ」
照明はほとんど落ち、淡い光になって、俺たちはほとんど夜の闇の中にいた。
「俺は高校を卒業して、半年くらいアメリカで働いていたんだ。その時一緒にいた奴なんだよ」
「その後もそいつはアメリカに残り、石油の会社に勤めて、当時はニューヨークにいた。俺は夏休みとか、時間があるとニューヨークに行って、そいつに会っていたんだ」
「ずい分と親しい方だったんですね」
亜紀ちゃんが聞いた。
「そうだな。御堂とは違う、俺の大親友だったよな。俺が一番苦しい時に助けてくれ、一緒にいてくれた、というな」
「そうなんですか」
俺はそれ以上のことは語らない。
「聖という奴な。御堂と違って、俺と一緒にバカなことをやる奴だった。だからしょっちゅう喧嘩もしたよなぁ」
「タカさんと同じだったら、大変ですよね」
俺は皇紀の顔を掴んで握り締める。
痛がってるが、声は出ない。
「お前、ずい分と言うようになったなぁ」
他の三人が笑った。
「でも、まあそうだな。本当にバカなことをしてた。これから話すオーロラのこともそうだ。そういえば、お前ら、オーロラって何か知ってるか?」
「「「「はい!」」」」
「高緯度地方で見られる、美しい空の光だよな。実はまだなんでオーロラが出るのか、詳しいことはわかってねぇんだ」
「俺が大学の冬休みに聖のアパートメントにいた時、テレビでオーロラの特集をしてたんだよ。それを二人で見て、「見てぇなぁ」って言ったの。それで行こうってことになったんだ」
「ずい分と軽いノリですね」
「そうだな。まあ、それが後で話す喧嘩の原因にもなるんだけどな」
「アラスカに飛行機で行くのはいいんだけど、他にどうしたらいいのか分からない。取り敢えず、「寒いんだろうな」ということは思ったわけだ。ニューヨークもいい加減寒いけど、アラスカは多分もっと寒いだろう、と」
「本当にいい加減ですね」
「皇紀、あんまり調子に乗るなよ!」
俺は笑って言った。
「でも、皇紀の言う通りだった。俺たちが考えたのは、寒いだろうから、防寒着を用意しようってことだけだったからな。まあ、多少知恵を回して、今度だけだから買うのはもったいないって。じゃあレンタルしようってなぁ」
別荘の周辺には街灯もない。
広い山林は闇に溶けている。
今、この場所だけに微かな灯がある。
「丁度季節柄で、毛皮のレンタルのためのでかい倉庫があったんだ。そこへ行って毛皮を選んだ」
「どうして毛皮だったんですか?」
ルーが聞く。
「ああ、今ならもっと安いダウンコートとかアルミ蒸着の機能性の高いものもあるけどな。当時は毛皮が一番だったんだよ」
「それで、俺は出会ったんだ!」
「なにに?」
ハーが言う。
「オオカミの毛皮だよ! まあ、今だったら確実に買ってるな。当時は俺もまだ金がそんなにねぇからな。もったいないからレンタルって言ってたんだけど、それを見たら、もう欲しくてたまらなくなった」
「どんな毛皮だったんですか?」
亜紀ちゃんが聞く。
「シルバーの美しい毛並みに、薄っすらと黒い筋が何本かあってなぁ。それで肩にあったんだよ!」
「何がですか!」
「オオカミの頭だ!」
子どもたちがみんな笑った。
「あ、お前ら笑うけどな! 本当にカッチョ良かったんだよ、あれは!」
「それで店の人に聞いたの。気に入ったから売って欲しいって。そうしたら6000万円だって」
また子どもたちが笑う。
「まあ、流石になぁ。それでレンタルでってことで聞いたら、一週間で140万円だと!」
「えぇー!」
「そんなの、レンタルしたんですか?」
「お前! そんなのって言うな! 皇紀くんは明日の朝食はいらないそうです」
「えぇー!」
「他の毛皮は全然安いんだよ。シルバー・フォックスで一日1万円とかな。今思うと吹っかけられたのかもな」
「聖はそういう安い奴を借りてさ。それでチケットも手配してアラスカへってなったのな。もう翌日よ」
「ニューヨークじゃ、全然必要なかったんだけど、俺はもう嬉しくてさ。颯爽と毛皮を着て空港へ行ったのな。聖もそう。飛行機の中でも脱がねぇ。まあ、暑かったよなぁ」
爆笑。
「それでアラスカにはすぐに着いたんだ。ああ、二人とも手ぶらな。二、三日だろうからって、何も持ってねぇ」
「下着とかどうしたんですか?」
「そんなもの! 若い男は数日同じパンツでいいんだよ!」
「きったなー」
「げぇー!」
双子が非難する。
聞いた亜紀ちゃんも困った顔をしていた。
「まあ、そういうのもアレだ。ロマンティシズムよな」
「誤魔化してませんか?」
「皇紀くんは来週から斬のじじぃのところで鍛えてもらいます」
「勘弁してください!」
「それで空港に着いたんだ。俺が聖に「どこへ行くんだ?」って聞いたの。もの凄い寒いから、早く宿で何か喰いたかったんだよ。そうしたら「え?」って」
「ホテルとか取ってなかったんですか?」
「そーなんだよ、亜紀ちゃん! あいつ、チケットだけ手配して、ホテルを予約してねぇの! 信じられないよなぁ。外は吹雪なんだぜ?」
「どうしたんですか?」
「取り敢えずぶん殴った」
爆笑。
「空港のロビーで殴り合いの喧嘩よ。あいつも俺みたいに強かったからなぁ。そうしたら警備員が飛んできて、俺たちはすぐに肩を組んで笑った」
爆笑。
「とにかくホテルを探そうって、空港を出て。吹雪になってるから、通りには誰もいねぇ。辺りは薄暗いしな。日本みたいにあちこち交番があって道を聞けるわけでもない。土産物を売ってる店で、ようやくホテルの場所を教えてもらった」
あの日、俺たちは罵り合いながら、吹雪の中を進んだ。
三十分も歩くと、お互いに安否確認だけになった。
更に三時間ほど歩き、ようやく俺たちはホテルの前に立った。
照明はほとんど落ち、淡い光になって、俺たちはほとんど夜の闇の中にいた。
「俺は高校を卒業して、半年くらいアメリカで働いていたんだ。その時一緒にいた奴なんだよ」
「その後もそいつはアメリカに残り、石油の会社に勤めて、当時はニューヨークにいた。俺は夏休みとか、時間があるとニューヨークに行って、そいつに会っていたんだ」
「ずい分と親しい方だったんですね」
亜紀ちゃんが聞いた。
「そうだな。御堂とは違う、俺の大親友だったよな。俺が一番苦しい時に助けてくれ、一緒にいてくれた、というな」
「そうなんですか」
俺はそれ以上のことは語らない。
「聖という奴な。御堂と違って、俺と一緒にバカなことをやる奴だった。だからしょっちゅう喧嘩もしたよなぁ」
「タカさんと同じだったら、大変ですよね」
俺は皇紀の顔を掴んで握り締める。
痛がってるが、声は出ない。
「お前、ずい分と言うようになったなぁ」
他の三人が笑った。
「でも、まあそうだな。本当にバカなことをしてた。これから話すオーロラのこともそうだ。そういえば、お前ら、オーロラって何か知ってるか?」
「「「「はい!」」」」
「高緯度地方で見られる、美しい空の光だよな。実はまだなんでオーロラが出るのか、詳しいことはわかってねぇんだ」
「俺が大学の冬休みに聖のアパートメントにいた時、テレビでオーロラの特集をしてたんだよ。それを二人で見て、「見てぇなぁ」って言ったの。それで行こうってことになったんだ」
「ずい分と軽いノリですね」
「そうだな。まあ、それが後で話す喧嘩の原因にもなるんだけどな」
「アラスカに飛行機で行くのはいいんだけど、他にどうしたらいいのか分からない。取り敢えず、「寒いんだろうな」ということは思ったわけだ。ニューヨークもいい加減寒いけど、アラスカは多分もっと寒いだろう、と」
「本当にいい加減ですね」
「皇紀、あんまり調子に乗るなよ!」
俺は笑って言った。
「でも、皇紀の言う通りだった。俺たちが考えたのは、寒いだろうから、防寒着を用意しようってことだけだったからな。まあ、多少知恵を回して、今度だけだから買うのはもったいないって。じゃあレンタルしようってなぁ」
別荘の周辺には街灯もない。
広い山林は闇に溶けている。
今、この場所だけに微かな灯がある。
「丁度季節柄で、毛皮のレンタルのためのでかい倉庫があったんだ。そこへ行って毛皮を選んだ」
「どうして毛皮だったんですか?」
ルーが聞く。
「ああ、今ならもっと安いダウンコートとかアルミ蒸着の機能性の高いものもあるけどな。当時は毛皮が一番だったんだよ」
「それで、俺は出会ったんだ!」
「なにに?」
ハーが言う。
「オオカミの毛皮だよ! まあ、今だったら確実に買ってるな。当時は俺もまだ金がそんなにねぇからな。もったいないからレンタルって言ってたんだけど、それを見たら、もう欲しくてたまらなくなった」
「どんな毛皮だったんですか?」
亜紀ちゃんが聞く。
「シルバーの美しい毛並みに、薄っすらと黒い筋が何本かあってなぁ。それで肩にあったんだよ!」
「何がですか!」
「オオカミの頭だ!」
子どもたちがみんな笑った。
「あ、お前ら笑うけどな! 本当にカッチョ良かったんだよ、あれは!」
「それで店の人に聞いたの。気に入ったから売って欲しいって。そうしたら6000万円だって」
また子どもたちが笑う。
「まあ、流石になぁ。それでレンタルでってことで聞いたら、一週間で140万円だと!」
「えぇー!」
「そんなの、レンタルしたんですか?」
「お前! そんなのって言うな! 皇紀くんは明日の朝食はいらないそうです」
「えぇー!」
「他の毛皮は全然安いんだよ。シルバー・フォックスで一日1万円とかな。今思うと吹っかけられたのかもな」
「聖はそういう安い奴を借りてさ。それでチケットも手配してアラスカへってなったのな。もう翌日よ」
「ニューヨークじゃ、全然必要なかったんだけど、俺はもう嬉しくてさ。颯爽と毛皮を着て空港へ行ったのな。聖もそう。飛行機の中でも脱がねぇ。まあ、暑かったよなぁ」
爆笑。
「それでアラスカにはすぐに着いたんだ。ああ、二人とも手ぶらな。二、三日だろうからって、何も持ってねぇ」
「下着とかどうしたんですか?」
「そんなもの! 若い男は数日同じパンツでいいんだよ!」
「きったなー」
「げぇー!」
双子が非難する。
聞いた亜紀ちゃんも困った顔をしていた。
「まあ、そういうのもアレだ。ロマンティシズムよな」
「誤魔化してませんか?」
「皇紀くんは来週から斬のじじぃのところで鍛えてもらいます」
「勘弁してください!」
「それで空港に着いたんだ。俺が聖に「どこへ行くんだ?」って聞いたの。もの凄い寒いから、早く宿で何か喰いたかったんだよ。そうしたら「え?」って」
「ホテルとか取ってなかったんですか?」
「そーなんだよ、亜紀ちゃん! あいつ、チケットだけ手配して、ホテルを予約してねぇの! 信じられないよなぁ。外は吹雪なんだぜ?」
「どうしたんですか?」
「取り敢えずぶん殴った」
爆笑。
「空港のロビーで殴り合いの喧嘩よ。あいつも俺みたいに強かったからなぁ。そうしたら警備員が飛んできて、俺たちはすぐに肩を組んで笑った」
爆笑。
「とにかくホテルを探そうって、空港を出て。吹雪になってるから、通りには誰もいねぇ。辺りは薄暗いしな。日本みたいにあちこち交番があって道を聞けるわけでもない。土産物を売ってる店で、ようやくホテルの場所を教えてもらった」
あの日、俺たちは罵り合いながら、吹雪の中を進んだ。
三十分も歩くと、お互いに安否確認だけになった。
更に三時間ほど歩き、ようやく俺たちはホテルの前に立った。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる