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紅の友
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六花が相談があると言って来た。
いつものように、響子が食事後に寝てから、一緒に食事をとる。
近所の「ざくろ」でランチを注文した。
「なんだよ、相談って」
「はい。実はタケとよしこが遊びに来ると言ってます」
「そうか、よかったな。久しぶりに楽しめよ」
「はい」
六花は、そのまま黙り込む。
「あの」
「あんだよ」
「タケとよしこが」
「今聞いたぞ」
「はい」
また沈黙。
六花は、時々めんどくさい。
「だから、相談ってなんなんだよ!」
「はい。タケとよしこと」
俺は六花の脳天にチョップを入れた。
「イタイです」
俺はもう一度構える。
「あの、どうやって楽しめばいいと思いますか?」
チョップ。
「イタイです」
「お前なぁ、いい加減にしろよ! お前ら、あの時楽しそうにやってたじゃねぇか!」
前に一緒に六花の父親の墓参りに行った時だ。
俺の都合も何も吹っ飛ばして、大宴会をやりやがった。
「でも、何をしてやればいいのか、分からないんです」
俺が分からねぇ。
「お前らいい仲間なんだろ? 何をやったっていいじゃねぇか」
「はい。でも、私たちは一緒に走っていた仲間ですので、それ以外で何かやったことがないんです」
「はい?」
「私もタケたちも、もう二輪は持ってませんし、じゃあ何をすればいいのかと」
言われて見れば、と思う。
基本的に六花は仕事しかない。
まあ、俺との関係というものもあるが、もちろんどちらもタケたちに当てはめることはできない。
六花には趣味や遊びというものがない。
響子のことと、俺のこと以外に何もない人間なのだ。
前回は六花が歓迎されての大宴会だった。
今回は六花がもてなす番だ。
悩みということがようやく理解できた。
「確かになぁ。分かったよ」
「あの、脳天がイタイです」
俺が構えると、六花も十字受けのポーズをとる。
「でもよ、別に普通に美味しいものでも食べて、昔話でもしてりゃいいんじゃねぇか?」
「そうなのかもしれませんが、折角来てくれたタケとよしこに、いい思い出をあげたいと」
「お前のような響子とエロしかねぇ奴が、何を高望みしてんだよ」
「でも……」
六花が辛い顔をしている。
まったくなぁ。
そんな顔をするなよ。
「分かったよ。何か俺にして欲しいことはあるか?」
六花の顔が明るくなる。
「はい! 是非、石神先生のお宅に伺わせていただければと」
「俺の家?」
「そうです。タケもよしこも、石神先生のことを非常に尊敬してまして」
「そうなのかよ」
「はい! こちらへ来たら、是非ご挨拶に伺いたいと」
「それは構わないけどよ」
俺の承諾を得た六花は、さらに踏み込んできた。
「それでですね。石神先生は、いつも来客をもてなすのが上手いじゃないですか」
「そんなこともないけどなぁ」
「いえ。私も度々お邪魔してますから分かります。響子はもちろん、花岡さんでも柳さんのことでも、石神先生は必ず相手を喜ばせ、感動させてくださいます」
「タケたちにもそうして欲しいってか」
「はい! 是非お願いします!」
「お前、俺に丸投げじゃねぇか」
「申し訳ありません。でも他に相談できる方が」
「一杯いるだろう。あの地獄の宴会メンバーだって、ちゃんと相談に乗ってくれるだろうよ」
「そうかもしれませんが、やはり石神先生が一番だと」
「まったくなぁ。まあ、他ならぬお前の頼みだから受けてやるけどな。でも、自分で考える人間になれよな」
「はい! 申し訳ありません!」
六花はようやく食事に箸をつけた。
和食御膳のような、様々な料理が皿に乗っている。
いちいち美味しいと感動しやがる。
カワイイ奴だ。
「でもな。冗談じゃなく、お前らでツーリングなんていいんじゃねぇか?」
「はぁ。タケたちは問題ないと思いますが、私はバイクの置き場所もありませんし」
「何言ってんだよ。お前のマンションの駐車場に置けばいいじゃねぇか」
「?」
ヘンな顔をしている。
「お前、まさか自分が駐車場を持ってるって知らなかったのか?」
「あるんですか?」
「あるに決まってるだろう」
「あ、いつも石神先生が停めていらっしゃる場所!」
「ちげぇよ! 俺はいつもゲスト用の場所に停めてるんだ。お前、俺が毎回使用の用紙に記入してるのを見てるだろう」
「ああ、そういえば! では自分のバイクや車を置いてもいいと?」
「当たり前だろう!」
「何か、素晴らしい夢が拡がりました」
「おめでとう!」
まったく。
「六花、お前、あのマンションの自分の部屋以外のことを、もしかして知らないのか?」
「はぁ」
「ゲストを無料で泊める部屋だってあるんだぞ?」
「え!」
「ホテルのように、オークラから料理を運ばせることだって出来るんだ」
「は?」
「忙しいお前が食事を作る余裕もなくなるのを心配して、アビゲイルが高木にそういうサービスのあるような所を探させたんだ。最初はオークラの部屋をとろうとまで考えてたんだぞ?」
「へ?」
本当に何も聞いてないのか。
「最初に高木から、ちゃんと話したはずだけどなぁ」
「そういえば、そんなことも」
「……」
「あの、石神先生」
「ダメだ」
「何も言ってませんが」
「お前は、「今晩うちへ来て、いろいろ教えていただけませんでしょうか」と言うんだろう」
「超能力者!」
「お前ほど分かりやすい人間もいねぇからなぁ」
「はぁ」
「他の人間なら、お前の「アレコレ」を心配して確認にも行くかもしれないけどな。あの二人ならば、何を見られてもいいだろうよ」
「そうですか」
よしこには、とんでもないシーンを見られたしな。
「まあ、俺に任せろ。うちで夕食でも一緒に、ということでいいか?」
「あの、できれば泊めて頂くことはできませんか?」
「ああ? まあ、あの二人には一応世話にもなったから、いいか」
「ありがとうございます」
「ところでよ。二人揃って来るなんて、自分の店とかホテルとかは大丈夫なのか?」
「はい。タケの店は建て替えるということです。その間暇になるので、こちらへと」
「よしこは?」
「よしこは基本的に時間を自由に出来ますから。ホテル経営などを手広くやってます」
「あのラブホテルか」
「いえ、他に市内に大きなホテルやレストランを経営してます」
「ちょっと待て。じゃあ、なんで俺たちはあの時、ラブホに案内されたんだ」
「それは楽しんで欲しいという配慮かと」
「……」
「お前の友達は本当にいい奴らだな」
「はい! 最高の仲間です!」
皮肉に最高の笑顔を浮かべる六花に、俺は眩しいものを感じた。
分かったよ、俺に任せろ。
楽しませてやるよ。
まったくお前は本当に最高にいい奴だよな。
いつものように、響子が食事後に寝てから、一緒に食事をとる。
近所の「ざくろ」でランチを注文した。
「なんだよ、相談って」
「はい。実はタケとよしこが遊びに来ると言ってます」
「そうか、よかったな。久しぶりに楽しめよ」
「はい」
六花は、そのまま黙り込む。
「あの」
「あんだよ」
「タケとよしこが」
「今聞いたぞ」
「はい」
また沈黙。
六花は、時々めんどくさい。
「だから、相談ってなんなんだよ!」
「はい。タケとよしこと」
俺は六花の脳天にチョップを入れた。
「イタイです」
俺はもう一度構える。
「あの、どうやって楽しめばいいと思いますか?」
チョップ。
「イタイです」
「お前なぁ、いい加減にしろよ! お前ら、あの時楽しそうにやってたじゃねぇか!」
前に一緒に六花の父親の墓参りに行った時だ。
俺の都合も何も吹っ飛ばして、大宴会をやりやがった。
「でも、何をしてやればいいのか、分からないんです」
俺が分からねぇ。
「お前らいい仲間なんだろ? 何をやったっていいじゃねぇか」
「はい。でも、私たちは一緒に走っていた仲間ですので、それ以外で何かやったことがないんです」
「はい?」
「私もタケたちも、もう二輪は持ってませんし、じゃあ何をすればいいのかと」
言われて見れば、と思う。
基本的に六花は仕事しかない。
まあ、俺との関係というものもあるが、もちろんどちらもタケたちに当てはめることはできない。
六花には趣味や遊びというものがない。
響子のことと、俺のこと以外に何もない人間なのだ。
前回は六花が歓迎されての大宴会だった。
今回は六花がもてなす番だ。
悩みということがようやく理解できた。
「確かになぁ。分かったよ」
「あの、脳天がイタイです」
俺が構えると、六花も十字受けのポーズをとる。
「でもよ、別に普通に美味しいものでも食べて、昔話でもしてりゃいいんじゃねぇか?」
「そうなのかもしれませんが、折角来てくれたタケとよしこに、いい思い出をあげたいと」
「お前のような響子とエロしかねぇ奴が、何を高望みしてんだよ」
「でも……」
六花が辛い顔をしている。
まったくなぁ。
そんな顔をするなよ。
「分かったよ。何か俺にして欲しいことはあるか?」
六花の顔が明るくなる。
「はい! 是非、石神先生のお宅に伺わせていただければと」
「俺の家?」
「そうです。タケもよしこも、石神先生のことを非常に尊敬してまして」
「そうなのかよ」
「はい! こちらへ来たら、是非ご挨拶に伺いたいと」
「それは構わないけどよ」
俺の承諾を得た六花は、さらに踏み込んできた。
「それでですね。石神先生は、いつも来客をもてなすのが上手いじゃないですか」
「そんなこともないけどなぁ」
「いえ。私も度々お邪魔してますから分かります。響子はもちろん、花岡さんでも柳さんのことでも、石神先生は必ず相手を喜ばせ、感動させてくださいます」
「タケたちにもそうして欲しいってか」
「はい! 是非お願いします!」
「お前、俺に丸投げじゃねぇか」
「申し訳ありません。でも他に相談できる方が」
「一杯いるだろう。あの地獄の宴会メンバーだって、ちゃんと相談に乗ってくれるだろうよ」
「そうかもしれませんが、やはり石神先生が一番だと」
「まったくなぁ。まあ、他ならぬお前の頼みだから受けてやるけどな。でも、自分で考える人間になれよな」
「はい! 申し訳ありません!」
六花はようやく食事に箸をつけた。
和食御膳のような、様々な料理が皿に乗っている。
いちいち美味しいと感動しやがる。
カワイイ奴だ。
「でもな。冗談じゃなく、お前らでツーリングなんていいんじゃねぇか?」
「はぁ。タケたちは問題ないと思いますが、私はバイクの置き場所もありませんし」
「何言ってんだよ。お前のマンションの駐車場に置けばいいじゃねぇか」
「?」
ヘンな顔をしている。
「お前、まさか自分が駐車場を持ってるって知らなかったのか?」
「あるんですか?」
「あるに決まってるだろう」
「あ、いつも石神先生が停めていらっしゃる場所!」
「ちげぇよ! 俺はいつもゲスト用の場所に停めてるんだ。お前、俺が毎回使用の用紙に記入してるのを見てるだろう」
「ああ、そういえば! では自分のバイクや車を置いてもいいと?」
「当たり前だろう!」
「何か、素晴らしい夢が拡がりました」
「おめでとう!」
まったく。
「六花、お前、あのマンションの自分の部屋以外のことを、もしかして知らないのか?」
「はぁ」
「ゲストを無料で泊める部屋だってあるんだぞ?」
「え!」
「ホテルのように、オークラから料理を運ばせることだって出来るんだ」
「は?」
「忙しいお前が食事を作る余裕もなくなるのを心配して、アビゲイルが高木にそういうサービスのあるような所を探させたんだ。最初はオークラの部屋をとろうとまで考えてたんだぞ?」
「へ?」
本当に何も聞いてないのか。
「最初に高木から、ちゃんと話したはずだけどなぁ」
「そういえば、そんなことも」
「……」
「あの、石神先生」
「ダメだ」
「何も言ってませんが」
「お前は、「今晩うちへ来て、いろいろ教えていただけませんでしょうか」と言うんだろう」
「超能力者!」
「お前ほど分かりやすい人間もいねぇからなぁ」
「はぁ」
「他の人間なら、お前の「アレコレ」を心配して確認にも行くかもしれないけどな。あの二人ならば、何を見られてもいいだろうよ」
「そうですか」
よしこには、とんでもないシーンを見られたしな。
「まあ、俺に任せろ。うちで夕食でも一緒に、ということでいいか?」
「あの、できれば泊めて頂くことはできませんか?」
「ああ? まあ、あの二人には一応世話にもなったから、いいか」
「ありがとうございます」
「ところでよ。二人揃って来るなんて、自分の店とかホテルとかは大丈夫なのか?」
「はい。タケの店は建て替えるということです。その間暇になるので、こちらへと」
「よしこは?」
「よしこは基本的に時間を自由に出来ますから。ホテル経営などを手広くやってます」
「あのラブホテルか」
「いえ、他に市内に大きなホテルやレストランを経営してます」
「ちょっと待て。じゃあ、なんで俺たちはあの時、ラブホに案内されたんだ」
「それは楽しんで欲しいという配慮かと」
「……」
「お前の友達は本当にいい奴らだな」
「はい! 最高の仲間です!」
皮肉に最高の笑顔を浮かべる六花に、俺は眩しいものを感じた。
分かったよ、俺に任せろ。
楽しませてやるよ。
まったくお前は本当に最高にいい奴だよな。
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