富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
288 / 3,202

奈津江 Ⅲ

しおりを挟む
 俺は奈津江との出会いを話した。

 「弓道部で一緒になったんだ。最初は、綺麗な人だなって程度だったよな」
 「どんな方だったんですか?」
 「そうだな。目がクリっとしてて、笑うと本当にカワイイ。背は160センチちょっとかな。ストレートの黒い髪が、肩の上くらいで。ああ、胸は全然なかったな」

 「そこはどうでもいいです!」
 俺たちは少し笑った。

 「そのうち花岡さんを紹介された」
 「花岡さんよりも綺麗な人だったんですか?」
 「どうかな。花岡さんの方が美人なんじゃないかな」
 亜紀ちゃんが俺の肩を叩いた。

 「奈津江さんの攻撃です」
 俺が笑った。

 「それで、どうして奈津江さんと付き合ったんですか?」
 「そうだな。どうしてだったかな。確か部活で一か月経って、新入部員として本格的に認められた。その新歓コンパだったな」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 先輩たちは、新入部員に大いに酒を飲ませた。
 女子はそれほどでもなかったが、それでも次々に注がれていった。
 奈津江は酒が弱かった。
 気分が悪くなっていたが、生憎先輩たちも飲むのに夢中で介抱する人間がいなかった。
 俺は肩を貸して、座敷の外に出た。
 外の空気を吸わせようと、連れ出した。

 近くの公園のベンチに奈津江を座らせ、自販機で買ったジュースを飲ませる。

 「大丈夫か?」
 「うん、ありがとう」
 奈津江は美味しそうにオレンジジュースを一口飲んだ。

 「辛かったら、送っていくぞ」
 「うん、でもうち遠いから」
 
 埼玉の蕨市なのだと言う。
 お兄さんと二人で暮らしていると言った。

 「まあ、とにかく少し休もう。気分が悪くなったら言ってくれ。救急車を呼ぶから」
 「そんな大げさにしなくても大丈夫。ありがとうね」
 俺も隣に座った。


 「石神くんって、大きいよね」
 「あ、ああ。そうだな」
 「筋肉もスゴイよね。巻き藁でも、重たい弓を平気で使ってる」
 「まあ、力はあるかな」
 「今ここで襲われても、抵抗できないよね」
 「そーだなー!」

 俺は奈津江の方を向いて、覆いかぶさるフリをする。
 奈津江はおかしそうに笑っていた。

 「私なんか襲っても旨味はないよ」
 「いや、すごい、綺麗じゃない」
 「え?」
 「綺麗だよ。最初は驚いた」

 「そんな」
 奈津江が恥ずかしがった。

 「まさか、くどいてる?」
 「いや、ぜんぜん」
 腕を殴られた。

 「石神くんって、女の子に人気だよね」
 「そうか?」
 「うん。先輩も何人も狙ってる」
 「興味ねーなー」

 奈津江は笑った。
 胸が痛むほどに可愛らしかった。

 「なんで笑ってるの?」
 「可愛いから」

 腕を殴られた。

 「やっぱりくどいてるじゃない!」
 「そうなのか?」





 奈津江が俺の手を握った。

 「すごい、ゴツゴツしてる」
 「うん」
 「こんな手じゃ、襲われたらダメよね」
 「襲うわけないだろう」

 「ダメ! 襲うの!」
 「はい?」

 「襲われたら大変だから。じゃあ正式に付き合ってあげる」
 「えと、ありがとう?」
 「なんで疑問形なのよ!」
 腕を殴られた。

 「怖いから付き合ってあげるよ」
 「よろしくお願いします」

 俺たちは手を握り、黙って座っていた。





 「ねえ」
 「なんだよ」
 「これからどうすんの?」
 「どうすんのって、お前の気分が良くなるまで」

 腕を殴られた。

 「そういうことじゃないの! 付き合うんだから、どうするのかってこと!」
 「あ、ああ。じゃあ、キスをするとか?」
 「だから! 襲っちゃダメなの!」

 難しい。
 俺とこれまでの女との付き合いは一本道だけだった。

 「俺がオチンチンを出すとか?」

 腕を殴られた。
 強かった。

 「もーう!」
 俺たちは笑った。






 「そういうのは、いつかね! でも付き合い始めはダメ。ちゃんと付き合ってください」
 「じゃあ、どこかへ出掛けようか」
 「うんうん」

 「どこがいい?」
 「石神くんが連れてってくれるなら、どこでも」
 「うーん、俺ってデートの経験が無いんだよなぁ」
 「そうなの?」

 「付き合った経験がねぇ。どーすんだ、こういうのって」

 俺が正直に言うと、奈津江は嬉しそうだった。

 「そこは男の子が考えて」
 「じゃあ、キスを」
 腕を殴られた。

 「うーん、御堂に相談してみるかぁ」
 「御堂くんって?」

 俺は入学早々に友達になったと説明した。
 御堂の魅力を存分に語る。

 「じゃあ、私も栞を紹介するね。そうだ! 最初は四人で遊びに行こうよ」
 「あ、いいな。俺も御堂に話すよ」

 俺たちは連絡先を教え合い、しばらくお互いのことを話した。



 そろそろ戻ろうかということになった。

 「ねぇ、本当に私と付き合っていいの?」
 「ああ。俺の魂が決定付けたからな」

 奈津江がおかしそうに笑った。

 「石神くんって、変わってるよね!」
 「そうかな」





 「ありがとう」
 奈津江が小さな声で呟いた。
 俺はもう、奈津江に夢中だった。

 こんな出会いがあるなんて、今まで知らなかった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...