富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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響子、麻布へ。 Ⅱ

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 「いらっしゃいませ!」

 いつもの女性店員が深々とお辞儀をしてきた。
 俺たちはいつもの窓際のいい席に案内された。
 態のいい看板だ。
 店長が挨拶に来る。

 「石神様、先日は誠に申し訳ないことを」
 一江は店の監視カメラの映像が投稿サイトに上がっていたことで、店にクレームを入れた。
 客のプライバシーを侵害したことに対して、巨額の賠償請求を提示した。
 俺が港区の大病院の重役であることを示し、その請求の正当性を訴えた。
 必死に謝罪を申し込んできた店に対し、俺は水に流すと言った。
 そして、店の宣伝に俺たちの写真を使うことを許可し、但し投稿サイトの動画は引き下げてもらった。

 オーナーは大層喜び、今後の飲食はすべて無料にすると言ってきた。
 俺はそれでは店に行きにくいので、別な提案をした。
 それは直ちに受け入れられた。




 「もういいんですよ。ほら、他のお客さんも驚いていますから。ああ、いつものサルサ・バーガーを俺は二つ、六花はどうすんだ?」
 「四つ!」
 「四つ!」
 響子も六花の真似をする。

 「いや、この子はお話ししたものを一つで」
 苦笑しながら、俺が訂正した。
 飲み物もそれぞれ注文した。

 「かしこまりました」
 店長は微笑んで離れた。

 「ここはな、六花とよく来る店なんだ」
 俺は響子にそう言った。

 「そーなんだ」
 響子は店内を見渡す。
 外に出ることの少ない響子には、何もかもが新鮮だ。

 「あ、タカトラと六花だ!」
 響子がテイクアウトのカウンターの奥の壁を指さした。
 楽しそうに笑っている、俺と六花のでかいポスターがあった。
 六花が、眩しいくらいに美しく笑っていた。

 「おい、なんだアレは?」
 「さあ、知りません」
 俺は確かに「宣伝に使っていい」と言った。
 しかし、それは公式HPなどでのつもりでいた。
 客が勝手にアップしている動画はまだ消えていない。
 公式HPに客が投降するコメントも自由だ。
 それらと連動してあのポスターは、謎のライダーカップルが訪れる店、という宣伝効果を狙っている。

 やり手のオーナーだ。

 客たちが、響子の指摘に気づき、俺たちに注目する。
 ハンバーガーが届いた。

 「あっ!」

 響子が叫んだ。
 俺たちのハンバーガーのバンズに、「六根清浄」と焼き印が押してある。
 響子の小さなバンズには、それに「To Sweet KYOKO(愛しの響子へ)TAKATORA&RICCA」とある。

 「これ!」

 響子が俺たちを見る。
 俺と六花はニコニコして響子を見ていた。

 「すごーーい!」
 響子は喜んでくれた。

 「これは超常連の俺たちだけのサービスだからな」
 「そうそう。それとお店の人がカワイイ響子のために、追加でやってくれたんです」
 「ありがとー!」

 響子は店の人に向かって叫んだ。
 店長たちがニコニコして手を振る。

 「私がタカトラのヨメの響子です!」

 余計なことも言う。
 店内で笑いが起きる。
 俺たちはありがたくいただいた。
 三人で手を合わせて「いただきます!」と言うと、店内の客が拍手してくれた。
 響子は上機嫌でハンバーガーをすべて食べ、飲み物を飲んだ。
 俺が口の周りの脂を拭ってやる。
 六花は夢中でまだ食べている。



 店長が来た。

 「こちらは、「超常連」の皆様へのサービスです」
 小さなアイスクリームを置く。
 ここに俺たちが来ることを強調して去って行った。
 響子は基本的に冷たいものはダメだが、まあこのくらいならばいいだろう。
 念のため、温かいココアを頼む。

 「響子、バイクはどうだった?」
 「うん、楽しかったよ」
 「怖くなかったか?」
 「全然大丈夫」

 六花は四つ目のハンバーガーに苦戦していた。

 「おかしいです。こないだは平気だったのに」
 「元々四つも喰う奴がおかしいんだ。持ち帰りにしてもらうか?」
 「いえ、少し休めば」
 そう言って、アイスクリームを食べ始めた。

 「響子、お前が男だったとして、大食いの彼女ってどうよ?」
 「え、六花は綺麗だからおーけー」
 「それもそうだな」
 俺たちは笑った。







 六花は恥ずかしそうに俺を見ている。







 「ゆっくり喰えよ。俺はずっと待ってるぞ」







 六花は嬉しそうな顔をして、再挑戦した。
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