富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
336 / 3,202

ウインナー、なし!

しおりを挟む
 フェラーリが大破した翌日の日曜日の朝。
 ウンコが鳴っている。

 「おう! ジョウジは堪能したか?」
 「お前ぇ!」
 斬はドスの利いた声で叫んだ。

 「あ、調理法をメモするのを忘れてたな! ちゃんと食べられたか?」
 「お前! あれはなんなんだ!」
 「だからジョウジだって。そう自分で喋ってなかったか?」
 「ふざけるな! 危うく若死にするところだったわ!」
 もう90歳に近いだろう。

 「そうか、美味しくいただけたか」
 「あれが何なのか教えろ」
 「教えると思うか?」
 俺は大笑いした。
 いままでの立場が逆転している。

 「殺すぞ!」
 「やってみろ、時代遅れの元祖!」
 俺たちはしばらく罵り合った。

 「交換条件じゃ」
 「なんだ、言ってみろ」
 「「花岡」の技をすべて教える」
 「大きく出たな」
 「だから教えろ」
 「信じられねぇな」
 「わしは今までお前にウソを言ったことはない」
 確かにそうだった。
 はぐらかしたり、黙ってはいても、少なくともウソは無かった。
 まあ、それでも信用はできねぇが。

 「そんなこと言われてもなぁ。ほら、俺ってあっさり「花岡」超えちゃったじゃない」
 「こんのぉ!」
 「だからそんな話じゃ無理よ」
 「お前が超えただと? ふん、「花岡」を何も知らんくせに」
 「まあ、序盤の下らん場面はどうでもいいんだよ。俺は最終回まで見ちゃってるんだ。今更、興味はねぇなぁ」
 「「虚震花」の新技か。あれが究極だとでも?」
 本音が引き出せた。



 「俺とじじぃの仲だ。まあ、ちょっとだけ教えてやってもいい」
 「本当か!」
 「俺はお前にウソを言ったことはねぇ」
 「それがウソだぁ!」
 斬がいきなり本気で怒鳴りやがった。

 「まあ聞け。あのジョウジは「花岡」の技が通じなかったろ?」
 「そうじゃ。どうして通じない」
 「俺の親しい研究機関が開発したんだよ。おまえんちって、日本中から嫌われてるじゃん。昔から対抗手段はみんなで仲良く考えてたんだよな」

 「なんだと!」

 「長いことかかったけど、ようやくな。昔やった動物実験で悪いが、お前にプレゼントしてやった。もう完成したから、隠す必要もねぇ」

 「……」

 「そういえば、ちゃんとジョウジは無事なんだろうな?」
 「「虎徹」がへし折れたぞ」
 「それでジョウジは?」
 「真っ二つじゃ。二本目の「虎徹」でな」
 「お前、やっぱいいもん持ってんだなぁ」
 凄まじい剣技だ。
 巨大ゴキを正面から斬り裂いたのか。

 「庭にジョウジを埋めてやってくれ。今度遊びに行った時に弔いたいからな」
 「ふん!」
 「交換条件については、また連絡する。ああ、栞の弟は元気か?」
 「「業(かるま)」か。あいつのことはわしも知らん。外人部隊は辞めておる」
 「そうか」

 俺は電話を切った。






 まだ、朝の七時だ。
 年寄りは早起きだ。
 トイレに行って、もう一度寝よう。
 亜紀ちゃんが、丁度ドアを開けて出てきた。

 「おはようございます」
 「ああ、おはよう。腹は平気か?」
 亜紀ちゃんはパジャマをまくって見せてきた。
 うっすらと青いが、ほとんど治っている。
 凄まじい回復力だ。
 常人ならば、内臓破裂している蹴りだった。

 「パンツも降ろせ」
 「ヘッ?」
 「冗談だ!」
 亜紀ちゃんはパジャマの下にかけた指を外す。
 赤くなっている。
 俺は笑って、亜紀ちゃんを抱きしめた。

 「悪かったな。本気で蹴った」
 「いえ、そんな」
 俺は亜紀ちゃんの手を引き、双子の部屋へ入る。
 まだ寝ている。
 俺は口元に指を当てて、静かにするように亜紀ちゃんに合図した。

 「ぱらのーまる」

 双子が苦しみ出した。
 亜紀ちゃんは笑いを堪えている。
 俺はハーのベッドに行き、揺り起こした。
 ルーも同様にする。

 「あ、タカさん!」
 「おはようございます」
 「どうだ、身体は平気か?」
 「「うん!」」
 「昨日は思い切り蹴ったからな。大丈夫で良かった」
 「「ごめんなさい」」
 俺はハーを抱いて、ルーのベッドで抱きしめてやる。

 「なんかね、コワイ夢を見てたの」
 「そうか。どんな夢なんだ?」
 「覚えてないの。でもコワイの」
 ルーとハーが交互に説明する。
 亜紀ちゃんが、また笑いを堪えている。
 こいつらは二人で同じ夢を見ていることに、不思議を感じていない。

 俺は三人を引き連れ、皇紀の部屋へ行く。
 廊下で打ち合わせをし、亜紀ちゃんをポイントマンにして強襲する。
 皇紀はヘッドフォンをし、下半身丸出してテレビを見ていた。
 握っている。
 画面では、俺が貸したエロDVDが流れている。
 腹の前にティシュがある。

 ドアを開けた亜紀ちゃんは、廊下を向いて双子に合図した。

 「GO! GO! GO!」

 双子は戸惑いつつも、俺の指示通りに皇紀の頭と足を押さえつけた。

 「待て、待て、待てぇ!」
 俺が止めた時には遅かった。
 振り返った亜紀ちゃんは、状況を認識した。

 「ギャァーーーー!」

 双子は、おそましいものを見たように、顔をしかめている。

 「はい! いまのナシ! みんな、何も見てないぞー!」

 俺は三人を連れて出て行った。
 無言でキッチンに行き、朝食の支度を始めた。








 皇紀は朝食が終わるまで泣いていた。

 その日、いつものウインナーは出なかった。
 もう、今日はお腹いっぱいだ。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...