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挿話:聖、その幸せ。

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 石神に呼ばれ、久しぶりの日本で死闘を終えた聖。
 しかし本人の中では、ただただ石神と共にいられた嬉しさしかなかった。
 ホノルルの空港を出てからずっと笑顔でいる。

 「やっぱトラはいい奴だなぁ! テンガってなんだよ、おい! 最高のプレゼントだぜぇ。なんで俺にこんなにしてくれんだろ?」
 バカだった。
 借りているコテージに戻る前に、町でハンバーガーを山ほど買った。
 待ちきれずに歩きながら一つを頬張った。

 「うーん、やっぱアメリカのバーガーはパンチがあるよなぁ。日本のも良かったけど、俺はやっぱこっちだぁ!」
 幸せな男だった。





 コテージに帰り、雇ったメイドに荷物を解かせる。
 二十代後半の、金髪の女性だった。
 いつでも命じられるよう、コテージに部屋を持たせた。
 そのことで、当初メイドは夜のサービスを要求されると思っていた。
 否はない。
 その分の金をもらうだけだ。
 しかし、一度も誘われたことが無かった。

 「これらはどこに仕舞いますか?」
 無表情でメイドが聖に聞いた。
 メイドが聞いてきたのは、聖の旅行カバンの中に残ったテンガとエロDVDだった。

 「あ、ベッドのヘッドに置いておけ」
 はい、と返事をしメイドは出て行った。
 ドアを閉めて、中指を立てたことを聖は知らない。

 すぐにでもテンガを使いたかったが、今日だけは我慢する。
 ゴンズに頼んで店の60歳以上の女を集めてもらっている。
 しかも、物凄く安い。
 何故だろうか、と聖は訝しんだ。
 極上の女がなぜ安い。

 売れないからだ、という思考は出来ない男だった。


 聖はメイドに生卵を10個持って来させる。
 自分のものに自信はあったが、折角の機会に精力をつけておきたい。

 「ロッキーは毎日飲んでたもんな!」
 ボウルにいれたそれを飲み込んでいく。
 10分後にボウルに吐いた。

 「あー、バーガーを喰いきる前で良かったぁ」
 ボウルに戻したものを、メイドに適当に焼けと言った。
 メイドが気持ち悪いと断る。
 胸倉を掴み、聖が聞いた。
 
 「お前、ほんとにできねぇってか?」
 メイドが涙目になって焼いてきた。
 ケチャップをかけて聖は貪り食った。
 メイドが捕まえたゴキブリを混ぜたことには気づいていない。
 三分の一は味に飽きた聖が残した。
 明らかな「足」が飛び出していた。
 聖は気づいていない。



 腹がくちて、少し眠くなった。
 まだゴンズの店の約束の時間まで数時間ある。

 「おい、4時に起こせ。てめぇ、1分でも遅れたらゴキブリ食わすぞ!」
 「はい」
 ソリャオメェだ、というメイドの呟きは、聖には聞こえなかった。

 3時58分。
 メイドが聖の部屋に行って声をかけ揺り起こした。
 
 起きない。

 顔を殴る。

 起きない。

 聖に渡されたM29(44口径マグナム拳銃)のハンマーを起こした。

 聖が飛び起き、一瞬で部屋の端に移動していた。
 手にはいつの間にかナイフを握っている。
 素っ裸だった。
 丁度4時だった。
 2分前に来て良かったと、メイドは思った。

 聖は裸のまま移動し、シャワーを浴びる。
 濡れた裸のままキッチンに来て、メイドにコーヒーを淹れろと言った。
 メイドは股間のミサイルを一瞬見たが、無表情で指示に従った。

 聖は人間としては最低の部類だ。
 しかし、金払いは非常に良い。
 二週間のメイドの金額は、二万ドルという破格だった。

 それ以上をもらおうと、何度かハニートラップを仕掛けた。
 わざと下着で聖の前に現われ、間違ったふりをして聖のいるシャワー室に裸で入った。
 聖は見向きもせず、平然と「シャワーは俺の後にしろ」と言った。

 性欲の無い男では決してない。
 メイドの前でも、オナニーを辞めようとはしなかった。
 メイドは自分の容姿やスタイルに自信があった。
 キーラ・ナイトレイに似ているとよく言われる。
 しかし、聖は一向に手を出さないばかりか、まったく興味を示さなかった。


 
 「アァッー!」
 聖が大きな声を上げた。
 
 「どうかしましたか?」
 「トラに折角DVDを一杯もらったけど、ここってデッキがねぇじゃん!」

 「?」

 「おい、俺が出掛けたらすぐにDVDデッキを買って来い!」
 聖はそう言って、1000ドル札をメイドに渡した。

 「足りるか?」
 「はい、十分かと」
 半分でもいいものが買える。

 「足りなかったから買えませんでした、じゃ許さねぇぞ! トラが俺のために厳選してくれたんだからな!」
 「トラ」が誰なのか、メイドは分からない。
 しかし、地球上に数人もしくは一人しかいない、聖の大事な人間だとは分かった。

 「はい。この金額で必ず買ってきます」
 「おう!」

 おつりはもらっておこう。
 渡された金の釣りを要求されたことはなかった。
 覚えていないのだということに、すぐに気づいた。

 「じゃあ、出掛けるからな! DVDは忘れんなよ!」
 「はい、行ってらっしゃいませ」





 「よう、ゴンズ!」
 「ヒジリー! 待ってたよー!」
 二人は抱き合い、笑い合った。

 「今日はちゃんと揃えてあるよ!」
 「ウォーーーーー! お前の店は最高だぁー!」
 ゴンズはニコニコとしながら、普段誰も買わない連中に高い金を払う聖を歓迎した。

 「みんな、どの穴も使えるからな! 6人かける3だね!」
 「ん? 何言ってんのかわかんない」
 「あ、どうもね! どうでもいいことね! ヒジリー、楽しんでね!」
 小学生の算数もできねぇのか、とゴンズは呆れた。

 「おう!」
 下は60歳から上は83歳の女たち。
 聖は大興奮で彼女らを舐めまわすように見る。
 次の瞬間、どうやられたか分からないまま、6人もの女たちは同時にベッドに全員後ろ向きにさせられた。
 驚いている間に、すべての服を丁寧に脱がされていった。
 

 3時間後、聖は大満足でゴンズに料金を支払い、ついでに高額のチップまで女たちに配っていた。

 「またね、ヒジリー! いつでも集めるからねー!」
 「うん!」
 子どものような無邪気な笑顔で聖は笑い、店を出た。
 ゴンズが部屋の様子を見に行くと、女たちは全員、満足そうな顔をして気を喪っていた。
 大量の男女の体液の匂いが充満している。
 
 「バケモノかよ……」





 コテージではメイドがまだ起きていて、聖を迎えた。
  
 「おかえりなさいませ」
 「うん、遅くなったね」
 「エッ?」
 そんな言葉をかけられたことはない。
 見たことが無い上機嫌だ。

 「あの、ご主人様。楽しそうですね?」
 「ああ、ハッスルしたからなぁ」
 さわやかな笑顔だった。

 「さようでございますか」
 「最近はトラに呼んでもらえるし、ゴンズはいい奴だし。俺は幸せ者だぁ。これまで真面目に生きてきて良かったよ」

 「はぁ」
 すぐ死ねよ、とメイドは思った。

 「おい、お前俺に興味ありそうだったな」
 「はい?」
 「今日は気分がいい。テンガ代わりに使ってやってもいいぞ」
 「はい?」

 メイドはその晩一万ドルを聖にもらった。
 バカンスが終わるまでは生きてていいぞ、と思った。 
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