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G丼
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翌朝。
ええと、今日は木曜日か?
アラーム時計を確認した。
よし、意識は正常だ。
隣で亜紀ちゃんが寝ている。
もう9時だ。
他の三人は学校へ行っただろう。
ロボは反対側で俺を見ていた。
俺は左腕を出して、亜紀ちゃんの顔の上で円を描いた。
そして顔の上で直線を描く。
ロボが亜紀ちゃんの顔の上に腹ばいになる。
頭がいい奴だ。
「むぎゅー」
亜紀ちゃんが起きた。
俺はロボの頭を撫でる。
ゴロゴロと喉を鳴らした。
「どいてー」
くぐもった声で亜紀ちゃんがロボに言った。
「顔を洗ってこい」
「もうちょっといます」
「ロボ、亜紀ちゃんの顔にオシッコしろ」
ロボが顔に向かって尻を向けた。
「わかったぁー! 起きるからやめてぇー!」
亜紀ちゃんがベッドを出た。
「もう! あれだけ心配したんだから、もうちょっと優しくしてくれても」
文句を言う。
俺は笑って早く行けと言った。
身体を確認した。
熱はそれほどないだろう。
身体の痛みもない。
重苦しさも抜けた。
ただ、急激に痩せたので筋肉が衰えている。
ベッドから降りた。
まだ歩行は覚束ない。
立つことはできる。
ベッドに腰かけた。
「タカさん、終わりましたよー」
亜紀ちゃんが戻って来た。
「悪いが、肩を貸してくれ」
「はい!」
トイレに入れてもらう。
手伝おうとする亜紀ちゃんを断り、追い出した。
手を洗いながら鏡を見た。
やつれてはいるが、死相はない。
俺はドアを開け、また洗面所まで手伝って貰う。
亜紀ちゃんが俺を座らせ、シェーバーで髭を剃ってくれた。
鷹が上がって来た。
「起きられたんですね!」
「ああ、おはよう。本当に大丈夫そうだ」
「はい!」
涙ぐんでいた。
亜紀ちゃんが抱きかかえて階段を降りてくれる。
リヴィングの椅子に座った。
「夕べ二つ作ったので、茶碗蒸しがありますが」
「そうか! 是非もらおう」
タカが電子レンジで温めてくれた。
そこへ、熱しただし汁をスプーンで掬い、ひとさじかけた。
味の調整なのだろう。
「あまり熱くはしませんでした」
俺の感覚の麻痺を心配してのことだろう。
俺はスプーンで掬って口に入れる。
美味い。
「美味しいよ、鷹」
「食べられそうですか?」
「ああ、問題なさそうだ」
一応、一口食べて様子を見る。
鷹が煎れてくれた日本茶を飲む。
「大丈夫だ!」
鷹と亜紀ちゃんが喜ぶ。
俺は梅を乗せた粥を食べ、大根の味噌汁も飲んだ。
空腹を感じていたが、今はここまでにしておく。
亜紀ちゃんはまたステーキを焼いていた。
三人でソファに移動して、日本茶を飲んだ。
コーヒーが飲みたいと言ったが、二人に今日はダメだと言われた。
俺は亜紀ちゃんにサンルームのPCを立ち上げるように言った。
メールが来ていた。
顕さんの友人の小林さんという方だ。
顕さんに聞いたと同じ内容のことが書いてあった。
そして、顕さんの病気のことも聞いており、俺への礼と、一度電話で話したいということが書いてあった。
俺は電話をした。
「突然、申し訳ありません。石神と申しますが」
「ああ! 小林です。わざわざ連絡いただいて」
少し甲高い声の方だった。
俺はメールの礼を言い、小林さんは顕さんのことの礼を言った。
「あのメールに書かれていたことなんですが」
「はい。若い時分に見たものなんですよ」
俺はあらためて、クロピョンの話をした。
「それは、あの一つ目が言っていたものなんですかねぇ」
「私にも分かりませんが、同じ長野ですし、あり得るとは思うんですが」
「石神さん、実はね、あの後の話があるんです」
「なんですか?」
「一週間ほど高熱を出しましてね」
「え!」
「それが病院へ行っても全然治らなくて。どんどん痩せて行くし。病名も分からず困っていたんですよ」
「それで、どうされたんですか?」
「母が有名な漢方医を連れて来て。その人の作った漢方薬を飲んだら助かりました」
「良かったですねぇ」
「ええ、でもね。後から聞いたら、その薬ってゴキブリだったんですって」
「えぇー!」
小林さんは、俺の驚きをゴキブリへの嫌悪感と受け取ったようだ。
「嫌ですよねぇ。漢方では、甕の中に土を敷いて育てるんらしいですけど。そんなもの飲まされて。でも命が助かったんですから、感謝ですかね?」
「あ、あははは」
俺は丁寧に礼を言い、電話を切った。
亜紀ちゃんと鷹が俺を見ている。
「お茶をくれ」
「はい!」
気分的に、口の中をさっぱりさせたかった。
鷹は亜紀ちゃんから電話の相手のことを聞いたらしい。
亜紀ちゃんがお茶を持って来た。
鷹と自分の分も注ぎ足す。
「一つ目を見た後で、高熱を出したらしい」
「「えぇー!」」
「病院でも原因が分からず、死に掛けたらしいぞ」
「どうやって助かったんですか?」
「ゴキブリを喰ったんだと」
「「えぇー!」」
「漢方薬のな。何でも、ゴキブリを甕に入れて飼育するらしいんだけど、それが甕の底に土を入れてやるらしいんだよ」
「え、それって!」
亜紀ちゃんが言った。
「ああ。皇紀と双子がゴミバケツでやった飼育と同じよな」
「「!」」
「タカさんも」
「ああ、喰っちゃったよなぁ」
「鷹さん」
「なに?」
「お昼はゴキブリ丼で」
「やだ」
「やめろー!」
昼前に亜紀ちゃんと風呂に入った。
夕べは入っていないから、気分が良かった。
J.ガイルズ・バンドの『堕ちた天使』を大声で歌った。
亜紀ちゃんがノリノリで手を打った。
鷹がドアを開けて笑って見ていた。
ロボがその足の間で覗いていた。
昼食は湯豆腐とほぐし鮭の粥を食べた。
冗談で済んで良かった。
ええと、今日は木曜日か?
アラーム時計を確認した。
よし、意識は正常だ。
隣で亜紀ちゃんが寝ている。
もう9時だ。
他の三人は学校へ行っただろう。
ロボは反対側で俺を見ていた。
俺は左腕を出して、亜紀ちゃんの顔の上で円を描いた。
そして顔の上で直線を描く。
ロボが亜紀ちゃんの顔の上に腹ばいになる。
頭がいい奴だ。
「むぎゅー」
亜紀ちゃんが起きた。
俺はロボの頭を撫でる。
ゴロゴロと喉を鳴らした。
「どいてー」
くぐもった声で亜紀ちゃんがロボに言った。
「顔を洗ってこい」
「もうちょっといます」
「ロボ、亜紀ちゃんの顔にオシッコしろ」
ロボが顔に向かって尻を向けた。
「わかったぁー! 起きるからやめてぇー!」
亜紀ちゃんがベッドを出た。
「もう! あれだけ心配したんだから、もうちょっと優しくしてくれても」
文句を言う。
俺は笑って早く行けと言った。
身体を確認した。
熱はそれほどないだろう。
身体の痛みもない。
重苦しさも抜けた。
ただ、急激に痩せたので筋肉が衰えている。
ベッドから降りた。
まだ歩行は覚束ない。
立つことはできる。
ベッドに腰かけた。
「タカさん、終わりましたよー」
亜紀ちゃんが戻って来た。
「悪いが、肩を貸してくれ」
「はい!」
トイレに入れてもらう。
手伝おうとする亜紀ちゃんを断り、追い出した。
手を洗いながら鏡を見た。
やつれてはいるが、死相はない。
俺はドアを開け、また洗面所まで手伝って貰う。
亜紀ちゃんが俺を座らせ、シェーバーで髭を剃ってくれた。
鷹が上がって来た。
「起きられたんですね!」
「ああ、おはよう。本当に大丈夫そうだ」
「はい!」
涙ぐんでいた。
亜紀ちゃんが抱きかかえて階段を降りてくれる。
リヴィングの椅子に座った。
「夕べ二つ作ったので、茶碗蒸しがありますが」
「そうか! 是非もらおう」
タカが電子レンジで温めてくれた。
そこへ、熱しただし汁をスプーンで掬い、ひとさじかけた。
味の調整なのだろう。
「あまり熱くはしませんでした」
俺の感覚の麻痺を心配してのことだろう。
俺はスプーンで掬って口に入れる。
美味い。
「美味しいよ、鷹」
「食べられそうですか?」
「ああ、問題なさそうだ」
一応、一口食べて様子を見る。
鷹が煎れてくれた日本茶を飲む。
「大丈夫だ!」
鷹と亜紀ちゃんが喜ぶ。
俺は梅を乗せた粥を食べ、大根の味噌汁も飲んだ。
空腹を感じていたが、今はここまでにしておく。
亜紀ちゃんはまたステーキを焼いていた。
三人でソファに移動して、日本茶を飲んだ。
コーヒーが飲みたいと言ったが、二人に今日はダメだと言われた。
俺は亜紀ちゃんにサンルームのPCを立ち上げるように言った。
メールが来ていた。
顕さんの友人の小林さんという方だ。
顕さんに聞いたと同じ内容のことが書いてあった。
そして、顕さんの病気のことも聞いており、俺への礼と、一度電話で話したいということが書いてあった。
俺は電話をした。
「突然、申し訳ありません。石神と申しますが」
「ああ! 小林です。わざわざ連絡いただいて」
少し甲高い声の方だった。
俺はメールの礼を言い、小林さんは顕さんのことの礼を言った。
「あのメールに書かれていたことなんですが」
「はい。若い時分に見たものなんですよ」
俺はあらためて、クロピョンの話をした。
「それは、あの一つ目が言っていたものなんですかねぇ」
「私にも分かりませんが、同じ長野ですし、あり得るとは思うんですが」
「石神さん、実はね、あの後の話があるんです」
「なんですか?」
「一週間ほど高熱を出しましてね」
「え!」
「それが病院へ行っても全然治らなくて。どんどん痩せて行くし。病名も分からず困っていたんですよ」
「それで、どうされたんですか?」
「母が有名な漢方医を連れて来て。その人の作った漢方薬を飲んだら助かりました」
「良かったですねぇ」
「ええ、でもね。後から聞いたら、その薬ってゴキブリだったんですって」
「えぇー!」
小林さんは、俺の驚きをゴキブリへの嫌悪感と受け取ったようだ。
「嫌ですよねぇ。漢方では、甕の中に土を敷いて育てるんらしいですけど。そんなもの飲まされて。でも命が助かったんですから、感謝ですかね?」
「あ、あははは」
俺は丁寧に礼を言い、電話を切った。
亜紀ちゃんと鷹が俺を見ている。
「お茶をくれ」
「はい!」
気分的に、口の中をさっぱりさせたかった。
鷹は亜紀ちゃんから電話の相手のことを聞いたらしい。
亜紀ちゃんがお茶を持って来た。
鷹と自分の分も注ぎ足す。
「一つ目を見た後で、高熱を出したらしい」
「「えぇー!」」
「病院でも原因が分からず、死に掛けたらしいぞ」
「どうやって助かったんですか?」
「ゴキブリを喰ったんだと」
「「えぇー!」」
「漢方薬のな。何でも、ゴキブリを甕に入れて飼育するらしいんだけど、それが甕の底に土を入れてやるらしいんだよ」
「え、それって!」
亜紀ちゃんが言った。
「ああ。皇紀と双子がゴミバケツでやった飼育と同じよな」
「「!」」
「タカさんも」
「ああ、喰っちゃったよなぁ」
「鷹さん」
「なに?」
「お昼はゴキブリ丼で」
「やだ」
「やめろー!」
昼前に亜紀ちゃんと風呂に入った。
夕べは入っていないから、気分が良かった。
J.ガイルズ・バンドの『堕ちた天使』を大声で歌った。
亜紀ちゃんがノリノリで手を打った。
鷹がドアを開けて笑って見ていた。
ロボがその足の間で覗いていた。
昼食は湯豆腐とほぐし鮭の粥を食べた。
冗談で済んで良かった。
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