富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
546 / 3,202

「クロピョン」独白

しおりを挟む
 最初の記憶はない。

 しかし、後の「私」が思うに、それは溶岩の対流からだったのではないかと思う。
 今はもう少なくなったが、時々振動するそれらが、「私」にそう語りかけている。

 一定のリズムで巡り続けるそれから、地表へ噴出する振動。
 その振動が、あるとき一定のリズムを刻んだ。
 長い年月、そのリズムが続いた。

 ある時、宇宙龍がそのリズムに気付いた。
 宇宙龍は楽しみ、地表へその爪を突き刺した。
 一定の間隔に開けられた穴は、様々な「音」を奏でるようになった。

 また長い年月の後に、再び宇宙龍が訪れた。
 自分の「音」を楽しみ、更に別な場所に爪を突き立てた。
 「和音」が出来た。
 満足して、宇宙龍は飛び立っていった。

 ある時、無数のものが空から落ちてくるようになった。
 その衝撃が、「和音」と共鳴する瞬間があった。



 「私」が生まれた。



 「私」は、「音」を自在に操れるようになった。
 次々に「音」を生み出すものを作って行った。

 それらは「私」の一部になり、さらに多くの「音」を生み出していった。


 長い年月が経つと、面白いモノを見つけた。
 それは、小さいが独特の「音」を持っていた。
 「音」ではないものに満ちている世界に現われた小さな「モノ」。
 自分以外の「音」を持つモノに興味を抱いた。
 しかし、「私」が近づきすぎると、それらは「音」を喪った。
 
 ある時、その「音」を「私」が吸収できることに気付いた。
 面白くなって、たびたび小さな「音」を拾い集めるようになった。

 同じ「音」を集めるのに飽きて来た頃、小さな「音」の種類が突然広がった。

 嬉しくなって、「私」は様々な「音」を集めた。
 そして次第に、それも飽きて行った。




 「私」以外にも、「大きい彼」がいることに気付いていった。
 海に、空に、光に、様々な「大きい彼」はいた。
 時折近づき、時には争ったりもした。
 「私たち」はそのうち、互いに触れ合わないようになっていった。
 小さな「音」が、争うたびに消えて行ったからだ。
 「私たち」は、小さな「音」を守りたいと考えていた。
 自分たちに、さまざまな楽しみを与えてくれるからだ。
 「音」のない世界に、小さな者たちは貴重だった。




 面白い小さな「音」が生まれた。
 それは次第に少しずつ「音」の大きさや種類を変えられる連中だった。
 それらは、次々に面白い「音」を自ら生み出していった。

 あちこちに拡がり、新しい「音」を奏でて行く。
 時には好ましくない「音」を奏でるので、「私」が消すこともあった。

 何はともあれ、面白い小さな「音」は、「私」と同じく「音」を生み出すことが出来たのだ。


 「私」は幾つかの面白い小さな「音」を吞み込んでみた。
 素晴らしいことが分かった。
 面白い小さな「音」は、「私」の中で「音楽」を奏でた。
 あまりにも面白かったので、次々に呑み込んでみたこともある。
 そのうちに、「私」は面白い小さな「音」を大事にしたいと思うようになった。
 本当に面白い者たちだった。


 その面白い小さな「音」の中に、時折「私」を感じる者たちが生まれた。
 他の小さな「音」も、「私」が近づけば感じる。
 それとは別な感じ方だった。
 僅かなものだが、「私」を少しだけ理解する感じ方だった。

 「私」は興味を抱き、呼びかけに応じることも多かった。
 ごく稀にしか生まれないその者たちのために、望むことをやった。
 だがある時、それが時折「悪意」であることを知った。
 「私」は面白い小さな「音」のことをよく知るようになり、「私」への呼びかけには「悪意」を許さないようになった。


 「悪意」とは、「私」が存在するこの世界の「理」に反することだ。
 「私」の唯一の中心にあることは、「理」に適うことだった。
 それが「私」というものだった。

 それを見分けるために、「私」は代価を求めるようになった。
 自分の「音」と引き換えに望むことは許すようになった。
 別のこともした。
 「私」を求める際に、その者を「試す」こともあった。
 自分の「音」が消えるのを知った時に、その者がどのような反応をするのか。
 それを見極めて、望むことを為すようになった。
 代価や試練の後、それらの者は私が呑み込んだ。
 「私」の中にまた「音楽」が灯った。
 


 
 「私」を感じる者の中に、「私」を呼びかける「名」を与える者がいた。

 「大黒丸」

 その者は、「私」をそう呼んだ。
 それが「名」であることを理解したのは、その者の「音」が消えた後だ。
 「私」を感じられない者たちが、「私」をそう呼ぶようになったからだ。
 しかし、その者たちも、「私」の代価や試練を恐れるようになっていった。
 面白い小さな「音」は、次第に私から離れ、私を忘れて行った。
 


 それとは別に、「私」に共鳴する存在たちが次第に増えて行った。
 「大きい彼」ほどではないが、小さい「音」と比べて格段に大きかった。
 「私」から生まれたのか、別に生まれた者が「私」に近かったからか。
 それらは「私」に従い、「私」を崇めるようになった。
 「私」はそれらを好み、傷つけるものを許さない。


 
 楽しい「音」を持つ者が生まれた。
 「私」は久しぶりにその者に興味を抱いた。
 面白い小さな「音」の一つであったが、その者は特別だった。
 よく様々な「音楽」を奏でていた。
 「音楽」と共にあるようだった。
 その者の中では、常に「音楽」が奏でられているようだった。
 他の面白い小さな「音」とよく争っていたが、その争いそのものがその者の「音楽」であった。

 「私」が好む「山」の中にもよく来た。
 そこでも様々な「音楽」を奏でた。
 その者は誰にやられたのか、間もなく死ぬ運命だった。
 「私」がその運命を取り除いた。
 望まれもしないでそのようなことをしたのも久しぶりだった。
 「私」はそれほど、その者に興味を持っていた。
 その者の「音楽」を欲した。



 その者がまた、面白い小さな「音」の中でも珍しい「音」を持つ者たちと一緒になった。
 その者たちがまた面白い「音楽」を奏で始めた。
 「私」はよく見ようと、その者たちに近づくことも多くなった。
 その者たちの中に、また久しく現われなかった「私」を感じる者がいた。
 しかも二つだ。
 
 「私」は「名」の意味を理解していた。

 「タカさん」と呼ばれる、私がこれまでで最も大きな興味を持つ者。
 他にも幾つかの「名」があったが、すべて覚えた。

 「タカさん」が、ある日私に願った。
 
 面白い願いだった。
 小さくて大きなものだった。
 「タカさん」の核にある音楽が迸っていた。
 「私」はずっと以前に覚えた「笑う」ことを感じた。

 同時に、そういうことをして欲しくはなかった。
 「私」は仕方なく試練を与えた。
 間もなく「タカさん」の音が消えてしまうことが「悲しい」と感じた。
 私がほとんど抱いたことのなりものだった。




 しかしその後、「私」は次々と、今まで感じたことのないものを味わうことになった。

 「タカさん」は試練を乗り越えた。
 「驚き」を感じた。
 これまで、ただの一度もそのようなことは無かった。
 さらに、その「タカさん」は「私」を従えると宣言した。
 試練を乗り越えた者がいなかったため、「私」はそれを承服した。
 これも、今までただの一度もなかったことだ。

 さらに驚いたことがあった。
 「タカさん」に従うことは楽しかった。
 「私」が一つだけ抱いていること。
 この世の「理」に適うことが、「タカさん」に従うことでさらに明瞭になっていった。
 「不思議」というものを感じたのも、初めてのことだった。

 「私」の存在が「歓び」で震えた。

 「私」が本当の「私」になった。
 「タカさん」が言う「クロピョン」がその本当の「私」になった。



 次元の異なる高い世界では、「私」のことを理解し知る者も多かった。

 ある時、元は面白い小さな「音」だった、「大いなる者」が現われて言った。


 「どう? 私の「彼」は最高でしょ!」


 その言葉に「私」は「笑う」こと以上のものを覚えた。






 「私」の存在が「大笑い」というものを知った。 
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...