富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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I ♡ NY Ⅵ

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 「レイさん、とても順調ですよ」
 皇紀が笑顔でそう言った。

 「そうですか」
 「レイさんがいろいろ事前にやってくれたお陰です。ありがとうございました」
 「いいえ、私など」
 レイは懸命に取り組む皇紀を、非常に好意的に思っていた。
 真面目で、それでいて優しい。
 レイのことを作業の途中でいつも気遣っている。

 「石神さんのお子さんね」
 レイは呟いた。

 初日に、レールガンのシステムはすべて仕上がり、テストも終わった。
 荷電粒子砲も、間もなく終わりそうだ。

 「こっちは主に通常兵器用ですからね。広域殲滅も含めて、この屋敷を守ります」
 「はい」
 
 レイは休憩にしましょうと、皇紀を誘った。
 皇紀も笑って頷いてくれた。
 コーヒーを運ばせる。
 皇紀が好きなモンブランも。

 「タカさんが栗が好きなんですよ」
 「そうなんですか」
 「はい。あまり好き嫌いって言わないんですけど、栗ご飯は大好物なんだって教えてくれました」
 「クリゴハン」
 「ああ、ご飯と一緒に栗の実を炊くんです。美味しいですよ」
 「是非食べてみたいですね」
 「ええ、レイさんにも食べさせてあげたいです」

 皇紀と話すのは楽しい。
 三人の姉妹がいると後ろに下がってしまいがちだが、レイはそれが遠慮や委縮ではないことに気付いていた。
 皇紀という少年は、いつでも人に笑っていて欲しいのだ。
 嫌なことは自分で引き受け、嬉しいことは誰かに譲りたい。
 三姉妹も、そのことは分かっているようで、特に下の双子は皇紀と仲良しだ。

 「タカさんから、米軍一個師団に対応できるようにしろと言われた時は、意味が分かりませんでした」
 「はい」
 「でも、考えてみれば、ロックハートの方々は「僕ら」に味方してくれているわけで、そうなれば国益とぶつかる可能性だってありますよね」
 「そうかもしれません」
 
 「このシステムならば、一個師団でも大丈夫ですが、そうなるとニューヨークは火の海ですね」
 「そうならなければいいですね」
 優しい皇紀は、顔を曇らせた。

 「でも、僕らはそうまでしても、ロックハートの方々を守りたいです」
 「ありがとうございます」
 皇紀は作業を再開した。




 その夜、石神から連絡が来た。

 「「「「タカさーん!」」」」

 子どもたちが喜んだ。
 ハンズフリーでみんなで話す。

 「おう! みんな元気か?」
 「「「「はーい!」」」」

 「皇紀、進捗はどうだ?」
 「はい! 予定の60%をこなしました」
 「早いな!」
 「はい! レイさんが事前準備をたくさんしてくれてましたので」
 「そうか。いい人だな!」
 「はい!」
 聞いていたレイが喜ぶ。

 「亜紀ちゃん!」
 「はい!」
 「聖の所はどうだ?」
 「大変ですよ! 訓練厳しいし。今日は休日って言われましたけど、マフィアの屋敷に突っ込まされました」
 「アハハハハハ!」
 「笑い事ですか!」

 「最初に聖と俺が突っ込んだんだ。まだあいつが一人の時な。ジャンニーニだろ?」
 「はい」
 「聖へ支払う金を渋りやがってなぁ。それで一緒に落とし前をつけた」
 「へぇ」
 「あいつが会社作ってからは、もっぱら戦闘実戦訓練でやってるらしいぞ」
 「そうなんですか」

 「まあ、亜紀ちゃんたちの場合、訓練じゃなくストレス発散だな」
 「え!」
 「聖に散々やられっぱなしだろ? だからだよ」
 「あー! やっぱり優しい人なんですね」
 「まあな。大分ネジはおかしいけどな」
 「アハハハハ」

 ルーとハーとも一しきり話す。

 「ハーは死にました」
 「生きてるもん!」
 「アハハハハ」
 「お前ら聖には全然だろう?」
 「「うん!」」
 「弱点を指摘されたか」
 「「はい!」」

 「お前らの場合、作戦が嵌れば強いよ。でも、読まれた途端にもうダメだ。海上の戦いでもそうだったろ?」
 「なるほど!」
 「じゃあ、一つだけ指南してやろう」
 「「お願いします!」」
 「同時攻撃をやってみろ。違う動きじゃない。二人で同じ攻撃をしてみろよ」
 「「やってみます!」」

 「じゃあ、みんな元気に遊んで来い!」
 「「「「はい!」」」」

 石神の電話は、子どもたちに見違えるような明るさを灯した。
 別に誰も落ち込んでいたわけではない。
 明るい笑顔が、輝くような笑顔に変わった。

 レイは、不思議な人だと感じた。




 その夜、レイは亜紀ちゃんを誘って酒を飲んだ。
 屋敷の外の、バーに行った。
 いろいろな人間が陽気に呑んでいる。

 「騒がしい店だけど、いいかな」
 「はい! 楽しそうですね」

 亜紀はニコニコしている。
 普通の十代の少女なら、怖がるかもしれない。
 粗野な言葉で、みんなが騒いでいる。
 カウンターで、ロックを頼んだ。
 しかめ面の店主が、黙って差し出す。
 レイが支払った。

 「ニューヨークらしい店だから、亜紀ちゃんにはいいかと」
 「好きですよ、こういうお店!」
 「そう、良かった」

 しばらく、石神のことを二人で話した。
 盛り上がった。

 「レイさんはタカさんが好きですか?」
 「うん。もう止められないわ」
 「そうですか!」

 「亜紀ちゃん、あなたには言っておくわね」
 「なんですか?」
 「私ね、日本へ行って、石神さんの傍で暮らすつもりなの」
 「ほんとですか!」
 「少し前に静江様に命じられたの。ううん、静江様が私の心を知って、手配して下さったのね」
 「嬉しいです! いつからですか?」
 「皇紀くんのシステムが仕上がって、本格稼働を見てからかな」
 「じゃあ、もうすぐですね!」
 「うん。楽しみなんだ!」

 「タカさんはそれを?」
 「いいえ、まだなの」
 「じゃあ、びっくりさせちゃう?」
 「そうね。でも、拒絶されたらと思うと怖いわ」
 「大丈夫ですよ!」
 亜紀がレイの肩を叩いた。

 「タカさん、レイさんのこと気に入ってますもん!」
 「そうかな」
 「だって、ハーを助けてくれたし。それ以前にも、真面目で優しくて信頼できる人だって褒めてました」
 「ほんとに!」
 「だから大丈夫ですよ。びっくりさせてください」
 「ありがとう!」

 


 夜道を歩いて帰った。
 レイは、石神が好きな歌だと『人生劇場』を亜紀から教わった。
 明日は、CDを探してみようと思った。
 でも、石神の歌が聞きたいと思った。
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