富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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佐藤家の訪問者

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 バレンタインデー後の土曜日。

 「タカさーん、ちょっといいですかー!」
 亜紀ちゃんが俺を呼んだ。
 朝食後の午前10時。
 俺は玄関に降りた。
 ロボが付いて来る。
 見知らぬ中年の男性が玄関に立っていた。

 男の顔を見て、俺はゆるい「轟雷」を浴びせた。

 「どうもすみません。知り合いの家を探しているのですが」
 「はい、どちらですか?」
 「佐藤〇〇という人の家なんですけど」
 「ああ!」

 「数日前に、伺う約束をしてまして」
 「そうなんですか」

 「あの、どの辺りなのか御存知ありませんかね?」
 「はい、知ってますよ」
 「助かったぁ!」
 「案内しましょうか?」
 「本当ですか! 助かります!」

 俺は靴を履こうとした。

 「あの、申し訳ないのですが」
 「なんでしょう?」
 「先ほどからお腹が痛んで。お手洗いをお借りできませんでしょうか」
 「それは大変だ。どうぞどうぞ」

 俺は男を中へ案内した。
 ロボが尻尾をパチパチさせる。
 
 「こら、ロボ!」
 「?」
 「冬場は静電気が溜まりやすくて、すみません」
 「? いいえ、とんでもない。そういえば私もさっき、ちょっとピリピリしましたよ」
 「あははは」

 男はトイレに入った。

 「タカさん」
 「大丈夫だ。俺が案内するよ」
 
 亜紀ちゃんを宥めた。
 男が出てきた。

 「すみません、結構な下痢でした。それでまた申し訳ありませんが、お水をいただけないでしょうか」
 「ああ、いいですよ」

 俺は男を応接室に案内し、亜紀ちゃんにお茶を持って来るように言った。

 「申し訳ありません。あつかましいことを」
 「いえいえ。下痢は辛いですからね。水分を摂ってないと大変なことになりますし」
 「おや、そういう心得があるんですか?」
 「まあ、これでも医者の端くれでして」
 「そうなんですか! ああ、それでこんな大きなお宅に」
 「お恥ずかしい。大したものではないんですよ」
 「そんなそんな! 家具もご立派なものですよねぇ」
 「アハハハハ」




 男は「山田芳樹」と名乗った。
 秋葉原の電気店の名刺を渡された。
 佐藤家とは遠い親戚とのことだった。

 「この辺は初めてで。ちょっと用事があって来たのですが」
 「そうなんですか」
 「石神さんは、いつ頃から?」
 「昨年からここを借りています。家賃は結構安いんですよ?」
 「そうなんですか」

 一瞬、男の目が光った。

 「じゃあ、ご案内しましょうか」
 「よろしくお願いします」

 俺たちは出掛けた。
 歩きながら、山田は俺にいろいろ聞いて来る。

 「ガレージにあった車! スゴイですね!」
 「ああ、友人のものを預かっているんです。駐車場代わりですよ」
 「そうなんですね」
 「僕はそんなにお金はないので。ああいう車に乗って見たいですね」
 「そうですなぁ」

 「お子さんは何人ですか?」
 「三人です。妻はもう亡くなってしまって」
 「そうなんですか。それは失礼なことを」
 「いえいえ。もう十年にもなりますし」
 「お気の毒に」





 佐藤家に着いた。

 「こちらですよ」
 「ありがとうございました」
 「いいえ。佐藤さんとはつい先月もお会いしてます」
 「そうなんですか」
 「山田さんもこれから会われるんですよね?」
 「はい?」

 門を開けて中へ入った。

 「もうここで結構ですよ」
 「いえ、呼ばないといけませんから」
 「え?」
 「さあ、玄関へ」
 「いや、もうここで」


 「クロピョン、来い!」


 雰囲気が変わる。
 男も気付く。

 「クロピョン、こないだ喰った奴をもう一度出せ」
 「?」

 バン!
 玄関の曇りガラスに、血まみれの女が貼りついた。

 「!」

 「佐藤さんはいらっしゃいましたね。さあ、入りましょう」
 「い、い、いえ」

 俺は引き戸を開け、山田を中へ入れた。
 廊下の奥に子どもがいる。

 「ああ、お子さんもいましたよ」

 「ギャァァァーーーー!」

 男が上がり框に倒れた。
 口から泡を吹き、白目を剥いていた。

 「タマ、来い!」
 細長いイタチのようなものが現われる。

 「こいつの記憶を探れ。どこの誰で、何の目的で来たのかだ」
 タマが男の額に潜る。

 俺に説明した。
 公安警察「ゼロ」の「銀狼部隊」。
 俺の家への侵入経路の確認と、内部に盗聴盗撮装置の設置。
 俺と家族への直接接触。
 仕掛けた機械の場所を聞いた。

 「クロピョン、また全部喰え」

 山田芳樹も消えた。



 俺は家に戻った。

 「タカさん! さっきの人、勝手に門を開けて庭をウロウロしてたんですよ!」
 「ああ、分かってる」
 「誰だったんですか?」
 「ああ、ちょっと頭に障碍がある人だったようだな」
 「それで!」
 「心配ないよ。佐藤さんの家で引き取ってもらった」
 「そうですか」

 俺は新たな敵の存在を知った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「おい、芳樹が家に入ったぞ! それにさっきから全然芳樹の「音」も「映像」も拾えない!」
 「バカな。あの家には誰もいないから、「留守のようです」で帰るはずだろう」
 「でも、玄関に女がいたぞ?」
 「何を言ってる!」

 「石神だけ出てきたな」
 「ああ。まずいな、始末されたか?」
 「行ってみよう。まだ死体は処理されていないはずだ」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 




 俺はクロピョンに、あの家に入って来る奴は全部喰えと言ってある。
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