富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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『マリーゴールドの女』 Ⅲ

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 緑子から追加のチケットが届いた。
 何故か亜紀ちゃんが配ると言い出した。
 別に構わないのでやらせた。
 学校帰りに病院に来て、あちこちに配った。

 「タカさーん」
 亜紀ちゃんが俺の部屋へ来た。

 「おう、配ったか?」
 「はい。でも院長先生の分も頼んでおけばと」
 「もういいよ」
 「また頼めませんかぁ?」
 「勘弁しろ」

 一江がニヤニヤして立ち上がった。
 亜紀ちゃんを呼んだ。

 「私が手配しようか?」
 「ほんとですか!」
 「あの劇団の「ゴールド会員」だから。チケットならある程度取れるよ?」
 「お願いします!」
 「じゃあ、洗いざらい話して」
 「はい!」

 楽し気に一江に話す亜紀ちゃんを見て、俺はゲンナリした。

 


 夕方、響子の部屋へ行った。

 「マリーゴールドの女!」

 響子と六花が、なんかポーズを決めて言った。
 右足を前に出し、左手は腰に。
 右手の親指と人差し指を顎に当てている。
 ジョジョ立ちのようなものだ。

 「おい」

 二人は真剣な顔でポーズしていた。
 待っていた。

 「ああ、カッコイイぞ」
 「「ワーイ!」」

 亜紀ちゃんが走って来た。

 「マリーゴールドの女!」
 また三人でやる。
 これを広めたくて来たのか。

 栞と鷹も来た。

 「マリーゴールドの女!」

 五人でやった。
 もういいぞ。



 家に帰ると、双子もやる。
 皇紀が部屋から出て来て、また四人で一緒にやる。
 皇紀も、なんか楽しそうだ。

 「ロボにも教えよう!」
 亜紀ちゃんがロボの前でポーズする。
 ロボはジルバを踊った。

 「違うよー」

 まあ、ガンバレ。



 夕食を食べていると、緑子から電話が来た。

 「よう! チケットありがとうな!」
 「石神! 何やったのよ!」
 「は?」

 緑子が動揺していた。

 「チケットが物凄い勢いで売れてるのよ!」
 「そうなの?」

 「こんなの初めてよ! あんたがやったんでしょ!」
 「知らないよ」
 「絶対やった!」
 「俺じゃないよ。俺は一江に頼んで、院長の分とか手配を……」

 俺はハタと気付いた。

 「ちょっと待て。あのバカはもしかしたら」
 「やっぱりあんたじゃないの!」
 「いや、俺じゃねぇ。一江の仕業かもしれねぇ」
 「一江さんって、あんたの部下の?」
 「ああ。あいつには散々ネットの拡散だのでやられてるんだ」
 「何よ、ちゃんと調べてよ」
 「分かった」

 一江に電話した。

 「あー、部長!」
 「お前、『マリーゴールドの女』でなんかやってるか!」
 「え、ええ。病院内で部長の脚本だってラインとか回したら、みんな観たいって」
 「あほう!」
 「もちろん、石神組は全員行きますよ!」
 「頼む、やめてくれ」
 「アハハハハ! もう遅いですって。これからネットでも広めますからね」
 「お前ぇー!」

 「最初に私を止めなかった人が悪いんです。私の性格はよく御存知のはずなのに、何も言いませんでしたよね」
 「おい、一江ちゃん!」
 「ご安心を。ネットでは「素晴らしい舞台」というモードで広めますから」
 「やめて、お願い」

 「ダァーッハッハッハ!」

 一江が電話を切った。





 亜紀ちゃんがサンルームのPCを立ち上げた。
 一江のサイト「ネット・バー プロトンさん」を出す。

 《ついに復活公演! あの伝説の舞台『マリーゴールドの女』が天才女優・坪内緑子の主演で復活します! 数々の評論家の絶賛を浴びた『マリーゴールドの女』を御見逃しなく!》

 前回までの公演の模様や評論家の賛辞、そして内容紹介や緑子のプロフィールなどがリンクで貼られていた。
 劇団のチケット申し込みサイトも飛べるようになっている。

 「タカさん……」
 「俺のせいなのか?」
 「私のせいじゃないですよね?」

 亜紀ちゃんを睨むと、目を反らせた。

 「マリーゴールドの女!」

 「……」
 
 俺は不貞腐れて風呂に入った。

 「ごめんなさい! ほら、こういう時はアレですよ!」

 亜紀ちゃんが響子のアヒルを持って来た。
 オチンチンけん玉を練習していると、俺も笑顔を取り戻した。

 「もう、回転して乗っけるのはマスターしたな!」
 「はい! あとは逆さでキープすれば!」
 「待て! それは本当に難しいんだ!」
 
 「あー! おしい!」
 「惜しかったな、今のは!」

 「「ワハハハハハ!」」





 風呂から上がって、亜紀ちゃんと酒を飲んだ。
 ワイルドターキーをロックで。
 鰆の西京焼きと、豆腐のシソ巻きをつまみにする。

 「なんか、亜紀ちゃんは『マリーゴールドの女』に夢中だな」
 「はい!」
 「どうしてだよ。俺の脚本だからか?」
 「それは大きいですけど」
 「他には?」

 「エヘヘヘヘ、秘密です」
 「なんだよ、教えてくれよ」
 「だってぇー」

 俺がオッパイをくすぐると、もっとやれと言うのでやめた。

 「人間には秘密が必要なんです」
 「どこのバカが言った!」

 俺を指さした。

 「マリーゴールドの女!」
 「ギャハハハハハ!」

 俺がやると、亜紀ちゃんが喜んだ。





 まあ、多分、分かった。
 惚れた男と別れ、引き取った孤児の青年と結ばれる話だ。
 亜紀ちゃんは、俺を独占したいのだろう。

 それは口に出せないことだ。
 亜紀ちゃんは幸せそうに酒を飲んでいた。
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