728 / 3,202
亜紀の修学旅行 Ⅳ
しおりを挟む
「あー! 夕べのことを早くタカさんに話したいのにー!」
亜紀は「柊屋」の豪勢な朝食を食べながら唸った。
真夜は笑って見ている。
「本当に不思議なご縁でしたよね」
「そーなのよー!」
メールで送ればと真夜は言ったが、そっちも拒否されているとのことだった。
一応緊急連絡先は石神の病院だが、滅多なことでは使えない。
後で石神の怒りは受けたくない。
「「亜紀ちゃん道」に外れてる!」
「アハハハハ!」
朝食の後、亜紀は着物に着替えた。
石神に買ってもらった、元極道の妻の遺品だ。
「カッコイイ!」
「ね?」
亜紀はご機嫌だった。
先ほどの怒りは微塵もない。
真夜は、そんな亜紀のさっぱりとした性格も好きだった。
感情を明確に示すが、それに引きずられない。
切り替えが早いのだ。
タクシーで、哲学の道に行く。
「タカさんはね、西陣会館で着物を借りて奈津江さんと二人で歩いたんだって」
「そうなんですか」
真夜は何も知らないが、亜紀が行きたい所なら喜んで付き合うつもりだった。
「お昼は「チロリン茶漬け」でね!」
「はい!」
石神の話だと、歩いていると見つかるということだった。
しかし、一向に見えない。
「おっかしーなー」
亜紀が言う。
「潰れちゃったんですかね」
「そんなぁー」
ついに最後まで見つからなかった。
銀閣寺まで着いてしまった。
「亜紀さん、ほら、あそこのお店にしましょうよ」
「うーん」
団子を売っている店があった。
中で食事もできそうだ。
「折角着物まで着たのにな」
「お綺麗ですよ!」
真夜は何とか亜紀の機嫌を直そうとした。
「ひゃー、素敵な御着物ですなぁ」
すれ違った、品のいい老婦人に褒められた。
「父に買ってもらったんですよ」
「そうどすかぁ」
真夜はドキドキした。
前の柄はともかく、背中に般若だ。
「失礼ですが、前にこれを着てはらした方は?」
「え、分かるんですか? 父の友人の呉服屋さんで頂いたもので。すいません、前の方はよく知らなくて」
「へぇ。でもとっても大事にされてたもんやなぁ。お嬢さんに着てもろうて、ありがたい、おっしゃってるわぁ」
「そうですか!」
一気に亜紀の機嫌が直った。
団子と茶そばをどんどん持って来て、と言う。
老婦人は笑顔で会釈し、立ち去った。
「あの、今の方は?」
亜紀が店の人に聞いた。
「へぇ、まあちょっとお話しできへんわ」
「そうですか」
亜紀が食事に満足し、二人で出た。
「今日はみんな自由行動だったよね?」
「亜紀さん、それ何か私たちに関係あります?」
「アハハハハハ!」
二人は一度宿に戻り、亜紀は着替えた。
「じゃあ、蛤御門に行くよ!」
「はい!」
タクシーで移動する。
「ここかぁ」
亜紀は京都御所西の「蛤御門」を初めて見た。
しばらく、門とそこに刻まれた数々の傷を眺めた。
「ここでね。奈津江さんはタカさんに「蛤御門の変」の話を詳しくしたんだって」
「そうなんですか」
「タカさんが、懐かしそうに話してた。大事な思い出だったのね」
「はい」
「ところで亜紀さん、「蛤御門の変」って、どういうものだったんですか?」
「え? ああ、ほら。今はみんなネットで自分で調べる時代だよ」
「はぁ」
二人でウィキペディアを読んだ。
「「ふーん」」
真夜に顔を向けられ、亜紀は戸惑った。
「あたしってさ。幕末は何と言っても新選組だから」
「はぁ」
「タカさんにね、『新選組血風録』ってDVDを見せてもらったの! もう最高よ!」
「そうなんですか」
「あれはいいわー! 主役の土方歳三を演じた栗塚旭が、もう最高にいいのよ!」
「へぇー」
「タカさんが「神掛り的名演」って言ってた。本当にそうなの!」
「私も観てみたいな」
「今度タカさんに借りてあげる!」
「本当ですか!」
真夜は、亜紀がそこまで絶賛するものに興味を抱いた。
それに、石神が勧めているのだ。
タクシーは三時間借り切っていた。
「あー、もうタカさんと奈津江さんの思い出のコースは回っちゃったしなー」
「私、一か所行きたい所があるんですけど」
「え! なんだ、早く言いなよ」
「すいません。大徳寺って、どうですか?」
「おし! 行くよー!」
タクシーの運転手が笑って出発した。
「でも、どうして大徳寺?」
「あの、家族に納豆のお土産を」
「へぇー!」
二人は境内の散策もそこそこに、早速店に入った。
「じゃー、まずは食べよう!」
「はい!」
予約はしていなかったが、店の人が特別に精進料理を用意してくれた。
亜紀も、一人前だ。
美しい膳と、京都の品の良い味に、二人は喜ぶ。
土産に大徳寺納豆を大量に買い込んだ。
その後も名所に詳しい運転手と話しながら、二人であちこちを回った。
「じゃあ、宿に戻ってゆっくりするかぁー」
5時に戻り、早めの夕食を用意してもらった。
また、大量の食事が出る。
「亜紀さん、私はとても入りません」
「そーお?」
亜紀は気にせずにどんどん食べた。
二人で風呂に入り、部屋で寛ぐ。
真夜は、浴衣の亜紀をマッサージした。
「亜紀さん、あんなに食べてどうして太らないんですか?」
「さー」
真夜は笑った。
亜紀は石神と奈津江の話を真夜にした。
真夜は真剣に聞いていた。
「あのね、タカさんの前では絶対に奈津江さんの話はしないでね」
「分かりました」
「タカさんは今でも奈津江さんが特別なの。思い出すと辛いようだから」
「優しい人なんですね」
「そうなの!」
夜になっていた。
「じゃあ、今夜も素敵な出会いを求めて!」
「やっぱり行くんですね」
真夜は笑って浴衣を着替えた。
また真夜は亜紀に化粧する。
亜紀は動きやすい、ジーンズに長袖のTシャツに、薄手のシャネルの黒い革のジャケットを羽織る。
真夜は同じくジーンズに白のシルクのブラウス、フェラガモの茶のジャケット。
亜紀に任せ、二人は地下のバーに入った。
ヤバい男たちがいた。
亜紀は「柊屋」の豪勢な朝食を食べながら唸った。
真夜は笑って見ている。
「本当に不思議なご縁でしたよね」
「そーなのよー!」
メールで送ればと真夜は言ったが、そっちも拒否されているとのことだった。
一応緊急連絡先は石神の病院だが、滅多なことでは使えない。
後で石神の怒りは受けたくない。
「「亜紀ちゃん道」に外れてる!」
「アハハハハ!」
朝食の後、亜紀は着物に着替えた。
石神に買ってもらった、元極道の妻の遺品だ。
「カッコイイ!」
「ね?」
亜紀はご機嫌だった。
先ほどの怒りは微塵もない。
真夜は、そんな亜紀のさっぱりとした性格も好きだった。
感情を明確に示すが、それに引きずられない。
切り替えが早いのだ。
タクシーで、哲学の道に行く。
「タカさんはね、西陣会館で着物を借りて奈津江さんと二人で歩いたんだって」
「そうなんですか」
真夜は何も知らないが、亜紀が行きたい所なら喜んで付き合うつもりだった。
「お昼は「チロリン茶漬け」でね!」
「はい!」
石神の話だと、歩いていると見つかるということだった。
しかし、一向に見えない。
「おっかしーなー」
亜紀が言う。
「潰れちゃったんですかね」
「そんなぁー」
ついに最後まで見つからなかった。
銀閣寺まで着いてしまった。
「亜紀さん、ほら、あそこのお店にしましょうよ」
「うーん」
団子を売っている店があった。
中で食事もできそうだ。
「折角着物まで着たのにな」
「お綺麗ですよ!」
真夜は何とか亜紀の機嫌を直そうとした。
「ひゃー、素敵な御着物ですなぁ」
すれ違った、品のいい老婦人に褒められた。
「父に買ってもらったんですよ」
「そうどすかぁ」
真夜はドキドキした。
前の柄はともかく、背中に般若だ。
「失礼ですが、前にこれを着てはらした方は?」
「え、分かるんですか? 父の友人の呉服屋さんで頂いたもので。すいません、前の方はよく知らなくて」
「へぇ。でもとっても大事にされてたもんやなぁ。お嬢さんに着てもろうて、ありがたい、おっしゃってるわぁ」
「そうですか!」
一気に亜紀の機嫌が直った。
団子と茶そばをどんどん持って来て、と言う。
老婦人は笑顔で会釈し、立ち去った。
「あの、今の方は?」
亜紀が店の人に聞いた。
「へぇ、まあちょっとお話しできへんわ」
「そうですか」
亜紀が食事に満足し、二人で出た。
「今日はみんな自由行動だったよね?」
「亜紀さん、それ何か私たちに関係あります?」
「アハハハハハ!」
二人は一度宿に戻り、亜紀は着替えた。
「じゃあ、蛤御門に行くよ!」
「はい!」
タクシーで移動する。
「ここかぁ」
亜紀は京都御所西の「蛤御門」を初めて見た。
しばらく、門とそこに刻まれた数々の傷を眺めた。
「ここでね。奈津江さんはタカさんに「蛤御門の変」の話を詳しくしたんだって」
「そうなんですか」
「タカさんが、懐かしそうに話してた。大事な思い出だったのね」
「はい」
「ところで亜紀さん、「蛤御門の変」って、どういうものだったんですか?」
「え? ああ、ほら。今はみんなネットで自分で調べる時代だよ」
「はぁ」
二人でウィキペディアを読んだ。
「「ふーん」」
真夜に顔を向けられ、亜紀は戸惑った。
「あたしってさ。幕末は何と言っても新選組だから」
「はぁ」
「タカさんにね、『新選組血風録』ってDVDを見せてもらったの! もう最高よ!」
「そうなんですか」
「あれはいいわー! 主役の土方歳三を演じた栗塚旭が、もう最高にいいのよ!」
「へぇー」
「タカさんが「神掛り的名演」って言ってた。本当にそうなの!」
「私も観てみたいな」
「今度タカさんに借りてあげる!」
「本当ですか!」
真夜は、亜紀がそこまで絶賛するものに興味を抱いた。
それに、石神が勧めているのだ。
タクシーは三時間借り切っていた。
「あー、もうタカさんと奈津江さんの思い出のコースは回っちゃったしなー」
「私、一か所行きたい所があるんですけど」
「え! なんだ、早く言いなよ」
「すいません。大徳寺って、どうですか?」
「おし! 行くよー!」
タクシーの運転手が笑って出発した。
「でも、どうして大徳寺?」
「あの、家族に納豆のお土産を」
「へぇー!」
二人は境内の散策もそこそこに、早速店に入った。
「じゃー、まずは食べよう!」
「はい!」
予約はしていなかったが、店の人が特別に精進料理を用意してくれた。
亜紀も、一人前だ。
美しい膳と、京都の品の良い味に、二人は喜ぶ。
土産に大徳寺納豆を大量に買い込んだ。
その後も名所に詳しい運転手と話しながら、二人であちこちを回った。
「じゃあ、宿に戻ってゆっくりするかぁー」
5時に戻り、早めの夕食を用意してもらった。
また、大量の食事が出る。
「亜紀さん、私はとても入りません」
「そーお?」
亜紀は気にせずにどんどん食べた。
二人で風呂に入り、部屋で寛ぐ。
真夜は、浴衣の亜紀をマッサージした。
「亜紀さん、あんなに食べてどうして太らないんですか?」
「さー」
真夜は笑った。
亜紀は石神と奈津江の話を真夜にした。
真夜は真剣に聞いていた。
「あのね、タカさんの前では絶対に奈津江さんの話はしないでね」
「分かりました」
「タカさんは今でも奈津江さんが特別なの。思い出すと辛いようだから」
「優しい人なんですね」
「そうなの!」
夜になっていた。
「じゃあ、今夜も素敵な出会いを求めて!」
「やっぱり行くんですね」
真夜は笑って浴衣を着替えた。
また真夜は亜紀に化粧する。
亜紀は動きやすい、ジーンズに長袖のTシャツに、薄手のシャネルの黒い革のジャケットを羽織る。
真夜は同じくジーンズに白のシルクのブラウス、フェラガモの茶のジャケット。
亜紀に任せ、二人は地下のバーに入った。
ヤバい男たちがいた。
0
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる