富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
736 / 3,202

暗黒龍とアークトリスメギラ Ⅲ

しおりを挟む
 石神に連れて行かれた焼肉店は、無茶苦茶だった。
 もちろん、店自体のことではない。
 店は有名な高級店だ。
 事前に予約していたのだろう。
 俺たちは笑顔で通された。

 石神と四人の子どもたち。
 レイという外国人の女性と柳という親友の娘だと言う女性。
 総勢七人だが、とにかく子どもたちの食べっぷりが凄かった。

 「今日は好きなものを好きなだけ喰っていいぞ!」

 石神がそう言うと、メニューも見ずに子どもたちが頼んでいく。
 二十皿単位だ。
 しかも、通常の盛り方ではない。
 石神家が注文する時の特別な、通常の3倍量だという。

 「あと、テールスープを人数分と、ご飯も!」
 「いつもありがとうございます!」

 顔見知りらしい店の人間が愛想よく去っていく。
 店が最初から石神たちのために用意しているらしい。
 大盛にされた皿がどんどん来る。
 コンロは二つだ。
 俺は石神とレイ、柳と一緒のコンロに座らされた。

 「早乙女、あっちには行くなよ。死ぬぞ?」
 「え?」

 すぐに分かった。
 子どもたちは物凄い勢いで食べ始めた。
 時々殴り合っている。
 プロボクサー以上のパンチが飛び交う。
 空気を裂く音が、こちらまで響く。
 石神たちは慣れているのか、普通にニコやかに食べていく。

 「柳、ちょっと皿持って来いよ」
 「え! 危ないですよ!」
 「もう俺たちのがねぇじゃん」
 「もしもの時は助けて下さいね」
 「分かってるよ」

 子どもたちの向こうにある皿を、柳が取りに行った。
 亜紀が蹴りを放つ。
 石神が空の皿を投げる。
 亜紀がそれを受け止めて唸っている間に、柳が帰って来た。

 「やっぱり危ないじゃないですかー!」
 「アハハハハ!」

 「次はレイ、松坂牛の皿を持って来い」
 「死にますって!」
 「皇紀を使え」

 レイが皇紀に皿を欲しいと言う。
 皇紀は額に汗を流し、高速パンチを姉妹に放つ。
 逆襲を受けている間に、レイが皿を持って来る。
 双子が取り返しに来た。
 石神が睨む。

 「なんだ?」

 怯んで引き下がった。
 皇紀は目の上を切っていたが、すぐに血が止まった。




 「今日は記録更新ですよ! 420万円です!」
 会計で店員が嬉しそうに言う。
 俺は少し出そうかと思ったが、諦めた。
 石神は子どもたちを睨んだが、子どもたちは階段で駆け去った。

 石神の家で風呂を借り、酒が出された。
 石神と亜紀が何か作り始める。
 味噌田楽。
 茄子の煮びたしと素揚げ。
 ふろふき大根。
 もろきゅう。
 各種ソーセージとハモンセラーノ。
 漬物各種。
 非常に手際がいい。

 何を飲むかと聞かれ、レイと同じウォッカをもらった。

 「あんまり飲んじゃダメですよ」
 「はい」

 レイに言われた。


 
 「さて、今日の戦闘をみんなに見せるからな」

 テーブルのPCで、戦闘に行かなかった人間が映像を観る。
 石神は、自分たちは運命共同体なのだと言った。
 信じられない戦闘に、みんな驚いている。
 しかし、思ったよりも動揺はない。

 俺が不審に思っているのを見て、石神が言った。

 「こいつらはああいうものに慣れているんだ。去年は亜紀ちゃんや双子たち、それにレイが100メートルの怪物にいきなり襲われた。驚いている暇なんてないさ。いつでも必死に戦っている」

 その映像は俺も観た。
 ただ、現実感が無かった。



 「皇紀、どう思う?」
 「はい。ジェヴォーダンとは違うものですね」
 「そうだな」
 「開発されたものではなく、もっと根源的なものかと」
 「なるほど」

 「ルーとハーはどう見た?」

 「クロピョンと同じかな」
 「そうか」
 「人間に入り込む奴がいるんだね」
 「そうだな」

 二人が口々に応えた。
 意味が分からない単語もあるが、俺は口を挟まなかった。

 「まあ、答え合わせはまたにしよう」

 石神が言った。

 「早乙女、今日は頑張ったな!」
 「いや、俺は」
 「お前、あんなバケモノに全然怯まなかったなぁ」
 「そんなことは」

 「お前が最初に傷をつけた」
 「ああ」

 「お前が最後に止めを刺した」
 「いや、あれはもう死んでいただろう」
 「そうじゃない。戦闘の終わりを、お前が刻んだんだ」
 「石神……」

 俺が戸惑っていると、レイがグラスに注ぎ足してくれた。
 レイがにっこりと笑ってくれた。
 俺は、その笑顔に救われた。




 「ところで早乙女。この始末は警察内でどうするんだ?」

 俺は自分の考えを話した。
 綺羅々たちの悪行は、幾つか掴んでいる。
 あいつらがいなくなれば、それは上にも通るだろう。
 何よりも石神から預かった資料が役立つはずだ。
 俺が掴んでいない隠れ家などの場所もある。

 「お前たちのことはもちろん伏せる。綺羅々たちは行方不明ということになるだろう」
 「そうか」
 「上には俺から上手く話す。お前たちには迷惑は掛けない」
 「そうか」

 石神は満足そうに頷いた。

 「石神、一つだけ教えて欲しい」
 「なんだ?」
 「綺羅々の部下たちだ。あいつらも化け物に通じていたのか?」
 「ああ。ルー! 話してやってくれ」

 「はい! あの時、亜紀ちゃんが一人相手にしたじゃないですか。あれは当然バケモノになっていたよね?」
 「あ、ああ」
 「他の連中も同じ。どいつもこいつも、とんでもない下衆な色をしてたよ。あんなのはもう人間じゃないよね」
 「色?」
 「最初に早乙女さんが撃ったじゃない。あの時に魂がすぐに地面に消えた。物凄いのが手を伸ばしてきたよ」
 「?」

 「この二人は普通の人間に見えないものが見えるんだよ。まあ、信じるかどうかはお前次第だ」

 「分かった。ありがとうな」
 「うん!」




 その後は楽しい宴会になった。
 俺は石神のエピソードを子どもたちに聞き、笑った。
 石神がギターを持って来て、凄い演奏を聴かせてくれた。
 その後でみんなで歌を歌った。
 俺も石原裕次郎の曲を歌わされた。
 ヘタクソだと言われた。

 「六花よりはマシかぁ」
 「そうですねぇ」





 俺は信頼できる人間を通して、赤星綺羅々たちの悪行の数々を上に通した。
 綺羅々の隠しマンションから、手の指をすべて切断され、両足を膝から喪った少年の遺体を見つけた。
 天井裏から、大量の虐殺のDVDやビデオが出てきた。
 他の部下たちの部屋や隠していたマンションからも、虐殺や拷問の証拠が大量に出てきた。
 石神から渡された資料で、それらは迅速に回収された。

 俺は自分で調べたことや、情報提供者から多くを得たと言い、公安内で高い評価を得た。
 何人かの上の人間が更迭された。
 綺羅々との強い結びつきのあった連中だ。

 俺は今回の業績を評価され、綺羅々に替わる公安内の攻勢の組織を任されることになった。
 これで石神と共に、来るべき「業」との戦いに備えられる。
 俺は部下の教育の他に、上層部とのパイプや他の官公庁とも伝手を拡げて行った。
 石神に話した。

 「そんな無理はするなよ」

 笑って言われた。

 「そんなことより、早乙女の親父さんとお姉さんの墓参りをさせてくれ」




 俺は石神を案内し、石神は丁重に弔ってくれた。
 寺に頼んで供養の手続きまでしてくれた。

 「みんな、戦って死んだんだ。それでいいよな」

 石神の言葉に、俺はやっと泣くことが出来た。

 墓の前で俺が泣き止むまで、石神は経を唱えてくれた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

処理中です...