富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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KYOKO DREAMIN Ⅴ

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 陸戦式ジェヴォーダン・タイプA。
 万能タイプと呼ばれる、全長40メートルの集団だった。

 「園長先生!」

 子どもたちは恐怖に泣き叫んで、園長の名を呼んだ。

 「みんな! 大丈夫だ。僕が必ずみんなを守るからね!」
 「でも、怖いよー」

 亜蘭は子どもたちを集めた。
 
 (良かった。全員いる)

 ジェヴォーダンは4体。
 孤児院「暁園」の正門に集まっている。

 「皇紀さんのシステムがあるからね! それに「紅六花」の人たちもきっと駆けつけてくれる!」
 
 亜蘭は子どもたちに言うが、みんな脅えているままだった。
 無理もない。
 恐ろしい姿の巨大な怪物が自分たちを睨んでいるのだ。
 今は「皇紀システム」を恐れて離れている。
 ギリギリの間合いを知っている。
 1キロだ。

 「暁園」に備えられた「皇紀システム」は、それほど強力ではない。
 まさかここまで襲われるとは、誰も考えていなかった。
 近づけば、ジェヴォーダンにも対抗できるだろうが、「皇紀システム」を学びつつある現在、亜蘭は一抹の不安を感じていた。

 (何故、あそこで待っているのか)

 亜蘭の不安はそこにある。
 「暁園」が襲われていることは、既に「紅六花」に通報されているはずだ。
 既に3分が経過した。
 何の連絡もまだない。

 (早く来て下さい)

 亜蘭は祈った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「タケ! 「暁園」にもジェヴォーダンがいるぞ!」
 「よしこ、落ち着け!」
 「あたしは行く!」
 「待て! 今は無理だ。分かっているだろう!」

 「紅六花」の町は80体のジェヴォーダンの襲撃を受けていた。
 既に前線にほとんどの「紅六花」のメンバーが派遣されている。
 司令塔のタケとよしこ、それにキッチはメンバーへの指示に追われている。

 「タイプAがほとんどですが、タイプG(超重量型)も4体います!」
 「タイプF(飛行型)は?」
 「まだ確認されていません!」

 キッチが次々と入る情報をまとめて報告していた。

 「タケ!」
 「だめだ、よしこ! あたしらは崩れた戦線に「飛んで」行かなきゃならない! そのために残ってるんだろう!」
 「「暁園」を見捨てるのかぁ!」
 「そうじゃない! あそこには亜蘭がいる!」
 「あいつじゃ!」
 
 タケは震えて怒るよしこの肩に手を置いた。

 「信じろ! 虎の旦那が回してくれた人だ! あの双子に鍛えられた奴だぞ」
 「くそぉー!」

 「南のタイプGが戦線を突破しました!」
 「よしこ、行け!」
 「わ、分かったぁー! コノヤロォォォーー!」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「なんで誰も来ないんだぁ!」

 亜蘭は焦っていた。
 何かあったのだ。

 (ここは自分が何とかするしかない!)

 「みんな! よく聞いてくれ! 全員庭の地下の避難所に入るんだ。僕が必ず守る! 信じてついてきて!」

 子どもたちが亜蘭を見ている。

 「園長先生! 僕も戦います!」

 竹流が手を挙げて言った。
 竹流は中学校を卒業してから、ずっと暁園を手伝っていた。

 「竹流くんも一緒に行くんだ」
 「いえ! 僕も戦います! 神様が言ってたんだ!」
 「なんだって?」

 「奇跡は起こるって!」

 亜蘭はにっこりと笑った。
 竹流が石神のことを「神様」と呼んでいるのをよく知っている。
 本当に石神を神の如くに尊敬し、信じている。
 そして、その信心のせいか、竹流は子どもたちの中で最も「花岡」の習得が優れていた。

 「分かった。竹流くんも僕と一緒に。でも絶対に僕の前には立たないで」
 「分かりました!」

 「じゃあみんな行くよ!」
 「はい!」

 「これが終わったら、みんなでお風呂に入ろうね!」
 「え、それは嫌」
 
 「えぇー!」

 全員から断られた。





 亜蘭は子どもたちを安心させるため、声を掛け続けた。

 「大丈夫だからな。皇紀さんのシステムがみんなを守ってくれる」
 「僕もちゃんと絶対に守るよ!」
 「毛がボウボウでちょっとコワイけど、「紅六花」の人たちは優しいからね!」
 「亜蘭ちゃん、言ってることが分かんない」

 年少の女の子が言った。
 
 「とにかくみんな大丈夫だから!」
 「お風呂は別ね」

 「……」

 子どもたちが庭に出ると、陽が翳った。

 「た、タイプF!」

 「皇紀システム」の「轟雷」が起動した。
 しかし、翼長20メートルのプテラノドンに似たタイプFのジェヴォーダンは、軽々とかわしていく。
 タイプFから「槍雷」が放たれた。

 「ウォォォォーーー!」

 亜蘭も「槍雷」を放ち、対消滅させながら子どもたちの非難を急がせた。
 後ろで竹流が「虚震花」を放つ。
 「皇紀システム」も高速移動するタイプFに「虚震花」を放った。
 その瞬間、1キロ先で待機していた4体のタイプAが急速に迫って来た。
 「皇紀システム」の間隙を狙ったのだ。

 亜蘭は躊躇なく、門の外に出た。
 あの重量でぶつかって来れば、子どもたちが無事では済まない。

 タイプAは次々と「槍雷」を放ちながら迫って来た。
 亜蘭はそれを無視し、「ブリューナク」を放つ。

 「槍雷」による地面や外塀の破片を浴びながら、亜蘭は3体のタイプAを斃した。
 タイプFは「皇紀システム」と飛行した竹流の「虚震花」によって撃墜していた。

 しかし、最後のタイプAが目前に迫っていた。

 亜蘭は「槍雷」の衝撃で意識が飛んでいた。
 大きな破片が頭部に当たっていた。
 全身にも破片による裂傷が多い。
 左腕は骨が飛び出していた。


 「亜蘭園長!」


 竹流が叫んだ。
 亜蘭はタイプAの突進をまともに受けた。

 子どもたちが叫んだ。










 「まったく、無茶するな、ロリコン!」

 「よしこさん!」

 両脇を抱えられ、亜蘭は空中にいた。
 下を見ると、タイプAはキッチの「ブリューナク」によって粉砕されていた。
 亜蘭は園の庭に降ろされた。
 子どもたちが駆け寄って来る。

 「園長先生ー!」
 「亜蘭ちゃーん!」

 亜蘭は子どもたちを抱き締めた。
 一斉に子どもたちが離れた。

 「……」

 亜蘭のあらんが起っきしていた。



 「遅れて済まなかった。町にも80体以上のジェヴォーダンが襲って来たんだ」
 「そうだったんですか」
 「ここにも来ていたのは分かっていた。でも、お前がいるからな」
 「ダメですよー! 僕は全然弱いんですから!」

 よしこが大笑いした。

 「ジェヴォーダンを3体瞬殺するのは、うちの幹部でも何人もいないぞ」
 「そんなー!」

 亜蘭は肩を叩かれた。
 そして、自分が全裸であることに気付いた。
 マッハ50での高速移動に、服が耐えられなかったのだ。
 よしこに触れ、亜蘭のあらんは萎んだ。

 「よくやった、亜蘭! リッカチャンハンを喰わせてやろう!」
 「いえ、あの、ルーさんとハーさんの名前のなんかありませんか?」
 「お前! 総長の名前じゃ嫌だって言うのかぁ!」
 「六花さん、毛が生えてますよね?」

 よしこがまた大笑いした。
 子どもたちに向かって言った。

 「みんな、よく頑張ったな! 後で車を回すから。みんなで「虎チャーハン」と「リッカチャンハン」を食べよう!」

 子どもたちが笑顔で喜んだ。
 竹流が亜蘭に近づいて来た。

 「園長先生! 奇跡がやっぱり起きましたね!」
 「そうだね!」
 
 亜蘭も笑った。
 子どもたちは無事だ。
 子どもたちは笑っている。
 亜蘭はそれが嬉しかった。

 「お前、早くパンツ履けよ」
 「でも、この後みんなでお風呂に入りますから!」

 絶対嫌、と子どもたち全員が言った。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「誰?」

 「響子、どうしたの?」
 「「紅六花」の人たちは分かるの」
 「え?」
 「あいつ、誰?」

 「夢を見たの?」
 「うーん。そうなんだけどー」

 響子は起き上がり、腕を組んで考えていた。

 「生える前は会いたくないなー」
 「何が?」

 六花は、響子のポーズを可笑しがった。

 「なんだか分からないけど、いい夢だった?」
 「うん、そうなんだけどー」
 「なんなのよ」
 「うーん、微妙?」
 「アハハハハハハ!」

 六花はウェットティッシュで響子の顔を拭った。

 「またタケさんたちと会いたいな」
 「うん! 絶対に行こうね!」





 二人で微笑み合った。
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