富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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五度目の別荘 XⅤ

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 幾つかスイカを切り取って別荘に戻った。
 俺は寝ている響子と六花の隣にロボと横たわった。
 いつの間にか寝てしまったようだ。
 響子が俺にキスをしていた。
 
 「おお、俺の最愛のツルツルか」
 「エヘヘヘヘ」

 響子が俺に抱き着いて、顔にキスを一杯する。

 「モジャモジャも起こしてやるか」

 一番モジャモジャの子を顔に乗せる。

 「うーん、重いー」

 ロボが六花の顔を舐める。
 六花はロボをどかせた。

 「起きたか?」
 「はい」

 俺の顔を見て、ニコニコした。
 俺は顔を洗い、下に降りた。
 みんなで映画を観ていた。
 『初恋のきた道』だった。
 栞と鷹がソファに座り、子どもたちが椅子を集めて観ていた。

 「お前ら、ついにこれを観てしまったか」
 「「「「「?」」」」」
 「鷹と前にここで観たんだよな?」
 「はい。石神先生は、子どもたちには見せたくない、とおっしゃってました」
 「「「「?」」」」

 「タカさん、いい映画だったよ?」

 ハーが言った。
 俺は、あの後ろで手を組むポーズをした。

 「ハー、やってみろ」

 ハーがやった。

 「鷹、やっぱりとんでもなくカワイイぞ!」
 「はい!」

 鷹が大笑いした。
 鷹がみんなに、このポーズをされたら俺が怒れなくなると説明した。
 みんなが笑った。
 栞が大笑いした。




 お茶を飲んで、夕飯の支度をした。
 俺は鰻係だ。
 バーベキューなので米は炊かないつもりだったが、一升を炊く。
 亜紀ちゃんが俺と一緒に捌き方から一通りの調理を覚える。
 鷹の陣頭指揮で柳と他の子どもたちがバーベキューの準備を。
 栞は吸い物を作った。

 「ウナギの肝って、なんかエイリアンみたいだよね」
 「日本に来た時にギーガーが鰻を喰ったんだろうよ」
 「へー」

 知らん。
 俺は料理をしながら栞とギーガーの「バイオメカノイド」などの話をし、ズジスワフ・ベクシンスキーの絵画の話をした。

 「ギーガーも好きなんだけど、ベクシンスキーというポーランドの画家がいてな」
 「へー、知らない」
 「徹底して恐怖と絶望を描いた画家なんだ。しかもこの世界ではない景色でな」
 「ふーん」

 栞は知らないので、感想の言いようもない。

 「それで俺はさ、ベクシンスキーの作品の情景を全部見たことがある気がするんだよ」
 「そうなんだ」

 栞は一段落したので、スマホを持って来て検索した。

 「うわ! なにこれ!」
 「な、凄いだろ?」

 栞は魅入っている。

 「気持ち悪いのかもしれないけど、なんだか引き込まれるね」
 「ああ」



 夕飯が出来、みんなでワイワイと食べた。
 最初に鰻が狙われる。
 俺は先に皇紀に三枚渡し、ゆっくり喰えと言った。
 白焼きも渡したが、半分亜紀ちゃんに喰われた。

 「皇紀に喰わせてやれって言っただろう!」
 「ワハハハハハー!」

 まあ、こいつらなりのコミュニケーションなのだろう。
 皇紀も笑っていた。
 響子にも小さな茶碗で鰻を食べさせ、白焼きを俺と一緒に食べる。
 響子は焼き鳥も好きだが、和食の「たれ」が好みのようだった。
 美味しそうに食べている。

 六花はもちろん幸せそうな笑顔で頬張っている。
 栞と鷹もニコニコして食べていた。

 鰻はすぐに食べつくされ、本格的なバーベキューになった。
 亜紀ちゃんが皇紀に焼いた肉を渡そうとしている。
 泣き顔になっている。

 「皇紀、これあげる」
 「え?」
 「ほら!」
 「え、いいよ」
 「なんでよ?」
 「自分で好きな焼き方で食べるから」
 「てっめぇー!」

 亜紀ちゃんが強烈な回し蹴りを放ち、皇紀が必死に防いだ。

 「何やってんだよなぁ」
 「なんか、いつも通りね」

 響子が見ていた。
 二匹のケダモノが争っているうちに、双子と柳がどんどん喰っていた。
 響子は頑張って吸い物の肝を食べた。
 顔をしかめ、口の中で咀嚼する。

 「!」
 「どうした?」
 「なんか分かった!」
 「そうか、響子はカワイーなー」
 「ウフフフ」

 亜紀ちゃんが他の連中にも攻撃を始めた。
 一気に騒がしくなる。

 「お手!」

 俺が宣言し、子どもたちと柳が離れた場所に立つ。
 五人が後ろ手に組んだポーズをする。

 「分かった! 解除! 仲良く喰え!」

 みんなが笑った。




 食事が終わり、片づけをしながら、俺は花火の準備をした。
 みんなで楽しんでいると、ロボがまたパチパチ始めた。
 
 「これはそういんじゃねぇからぁー!」

 必死に止めた。
 俺は楽しそうに花火をしているみんなを見ながら、コーヒーを飲んだ。
 栞が隣に座る。

 「楽しいね」
 「ああ」

 栞はミルクをピッチャーから注いで飲んだ。

 「石神くんって、花火をしてると時々寂しそうな顔をするよね」
 「そうか?」
 「うん。どうしてかなって思ってた」
 
 モモの話は誰にもしていない。
 
 「まあ、思い出すことがあるんだ」
 「そうなんだ」

 鷹もこちらへ来た。
 コーヒーをカップに注いで、一緒に座った。

 「石神先生、どうかされました?」

 鷹が心配そうに聞いて来る。
 自分では笑顔でみんなを見ていたつもりだったが。



 俺は二人にモモの話をした。

 「三本だけだったんだ。それしかモモに渡せなかった」
 「石神くんは、だからいつも花火を一杯買うのね?」

 栞が俺の肩を抱いた。
 鷹も反対側から俺を抱き締めてくれた。



 「あ! 青い花火だぁー!」

 響子が叫んでいるのが聞こえた。

 「六花! 見てぇー!」

 六花が響子の脇に座って一緒に観ていた。
 青い炎だった。

 「石神くん!」

 栞と鷹が強く俺を抱いてくれた。
 俺は二人を連れ、響子の傍に行った。

 「タカトラー! 見て!」
 「ああ。響子、良かったな」
 「うん!」



 青い花火は、俺が観た中で、一番美しかった。
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