富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
906 / 3,202

救出作戦

しおりを挟む
 ハワイで俺たちは乗り換え、聖の会社には、早朝の6時過ぎに着いた。
 「セイントPMC」には、私有の滑走路がある。
 ここから直接、輸送機で出撃することもある。
 武装のある軍用機は無理だが、人員を輸送するだけの航空機は自前で持つことが出来る。

 聖が出迎えてくれた。

 「よう! 世話をかけたな」
 「トラ! まずは飯だ!」

 聖は何も言わず、まず食堂へ案内してくれた。
 俺たちのために職員を集め準備してくれていた。
 大量のステーキとバーガーがある。
 子どもたちが旺盛に喰い出した。
 俺も聖もガンガン食べる。

 「拉致現場が特定できた。ブロードウェイだ。監視カメラに、突然倒れたレイを運ぶ男たちが写っていた」
 「ブロードウェイ?」
 「ああ。他の監視カメラの映像も見てみた。よくあそこへ行っていたようだ。静江夫人に聞いたら、何か思い出があったらしい」
 「レイ!」

 亜紀ちゃんたちが突然泣き出した。
 俺に、ニューヨークで三人が案内してもらったのだと言った。
 警察などの伝手で、聖はカメラの映像を集め、検索してくれていた。

 「そうか。行動を読まれていたんだな」
 「ああ。レイチェルを最初から狙っていたんだろう。お前の親しい女だったらしいからな」
 「そうだ」

 俺の顔を見て、亜紀ちゃんたちが硬直した。
 恐ろしい顔をしていたのだろう。

 「映像では誰も接触していない。倒れてからだ」
 「麻酔弾か」
 「多分な。エアガンでやられたんだろう。映像はトロくて写ってないけどな」

 レイに戦闘経験は無い。
 気付けば対応できただろうが、こういうやり方には無力だっただろう。
 
 「それで行き先は?」
 「今、警察の監視カメラ網を使って追っている。レイチェルを積み込んだバンまでは分かっている。西に向かっているらしい」
 「西? じゃあ」
 「ああ。多分D基地だろうな」
 
 「俺たちに協力するという人間から何か聞いているか?」
 「確認したが、何も知らないようだ」

 俺は決意した。
 もう実力行使しかない。

 「聖、「ヴァーミリオン」の中枢と渡りをつけたと言ってたよな」
 「ああ」
 「そいつに、レイを帰さなければ基地を破壊すると伝えてくれ」
 「分かった」
 「NSAと陸軍の方にも、同じことが出来るか?」
 「ああ、やってみるよ」
 「俺はロックハートとマリーンにも働きかける。5時間以内に解放だ。さもなければ終わりだと」
 「おし、分かった!」
 「1時間後に示威行為をする」
 「うん?」
 「まあ、そう伝えてくれ。午前8時な」
 「あ、ああ、分かったよ」


 俺たちはロックハートの家まで送ってもらった。
 でかいリムジンの中で、聖は俺の隣に座り、目を閉じていた。
 静江さんが青い顔で待っていた。
 アルは出掛けている。

 「石神さん!」
 「お陰様で、こんなに早く到着できました。ありがとうございます」
 「いいえ!」

 俺は聖と話した内容を静江さんにも伝えた。

 「ロックハートからも、NSAと陸軍に御伝えしてもらえますか。もちろん、皆さんのご迷惑にならない方法で」
 「分かりました。必ず」
 「これからD基地へ向かいます」
 「はい」
 「必ずレイを取り戻しますよ」
 「はい! お願いします!」

 静江さんが泣きながら俺の手を握った。

 俺たちは着替えた。
 タイガーストライプのコンバットスーツ。
 「Ω」の翅を縫い込んである。
 顔にペイントをし、ロングヘアーのウィッグを被った。



 走ってブロードウェイまで行った。 
 まだ朝は早いが、人通りはそこそこある。
 俺たちの格好は異様だが、ここではそれほど目立たない。
 特に双子のあどけなさは、むしろ可愛らしくさえある。

 亜紀ちゃんが超特大の「轟閃花」を頭上に放った。
 頭上を覆うように極大の電光が拡がり、街の上空を覆った。
 そこから地上に幾つもの稲妻が降り注ぐ。
 一瞬で街の電灯、自動車、様々なものが停止した。

 俺たちは空中へ上がり、「飛行」した。



 二時間後に、ソルトレークシティ近くの山に降りた。



 聖に電話をする。
 俺たちの電話には「Ω」の翅が付いている。
 電磁波の障害は受けない。

 「お前ら、派手にやったな」
 「当然だ。あれを喰らいたいなら、それまでだけどな」
 「今、慌てて交渉しているはずだ」
 「何とかなりそうか?」
 「分からねぇよ。あいつら、屁理屈が大好きだかんな」
 「そうか」

 静江さんにも連絡したが、まだ事態は動いていない。
 あと二時間だ。

 ルーとハーが野生のシカを捕まえて来た。
 四人で焼いて食べる。
 みんな口数は少ない。
 黙って時間を過ごした。



 二時間後、聖から電話が来た。

 「トラ、だめだ。それにお前らがテロリスト扱いになってる」
 「そうか」
 「行くんだな?」
 「ああ」
 「俺の手が必要なら、すぐに呼べ」
 「その時は頼む」

 静江さんにも連絡したが、進展は無かった。

 「ルー、ハー! 分かるか!」
 「はい! あっちです」

 ハーが指さした。

 「物凄い嫌な感じだよ」
 「あんなのは見たことない」

 二人が心底嫌そうな顔をした。
 俺は三人に小さなピルケースを配った。

 「俺が合図をしたら、この中身を飲め」
 「タカさん、これは?」
 「お前らを守るためのものだ。いいか、絶対に飲めよ!」
 「「「はい!」」」

 子どもたちは不審がったが、頷いた。

 


 「行くぞ!」
 「「「はい!」」」

 俺たちは向かった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...