富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
920 / 3,202

蓮花研究所・訓練 Ⅳ

しおりを挟む
 翌朝。
 みんなで食堂で朝食を食べる。
 蓮花が俺たちの食事を賄ってくれている。
 ブランたちは、自分たちで基本は作っている。
 蓮花も、手をなるべく空けて、ブランたちのために作ろうとしている。
 今は俺たちがいるので、こちらに集中しているが。

 「このみりん干しは美味しいですね!」

 麗星が大声で言った。
 すでに三杯食べている。
 流石だ。
 子どもたちが、ヘンな顔で麗星を見ている。
 本当は俺もそうしたいが、俺はニコニコと眺めていた。

 「じゃあ、この後で駅まで送りましょう」
 「え?」
 「麗星さんもお忙しいんですから」
 「いいえ、別に?」

 図太い。

 「あのね、麗星さん。俺たちはここに訓練のために来ているんです」
 「はぁ」
 「だからね、外部の人間にはお見せ出来ないんですよ。大体ここへお連れすることだって問題があるんです」
 「さようでございますか」

 図太い。
 俺は最終手段を取った。

 「タヌ吉!」

 着物姿のタヌ吉が、廊下から部屋へ入って来た。
 突然に目の前に現われないのは、俺に人間扱いをして欲しいためだろう。
 「あやかし」が風呂に入りたがるなんて、あり得ない。

 「御呼びでございましょうか、主様」
 「麗星さんを御送りしてくれ。丁重にな!」
 「かしこまりました」

 「あの! 石神様!」
 「なんですか?」
 「わたくし、一人で帰れますから!」
 「いいえ、ご遠慮せずに。《地獄道》経由ならば、あっという間でしょうから」
 「そ、それだけは!」

 相当恐ろしいものを見たらしい。
 「あやかし」の専門家が、こうも怖がっている。

 「なら、やはり俺が送りましょうか?」
 「そうして下さいませ!」

 麗星は、更に二杯お代わりをした。




 麗星を高崎駅まで送りながら、俺は子どもたちを斬の屋敷へ連れて行った。
 チャイムを鳴らす。

 「よう!」
 「何でお前はいつも連絡をしないで来るんだ」
 「嫌がらせに決まってるだろう!」
 「……」

 俺たちは中へ入った。
 いつもの女性が茶と羊羹を出して来る。 

 「お前んちって、いつも羊羹な」
 「他のが良ければ連絡しろ!」
 「でも、羊羹だけは切らさないんだな?」
 「雅の好物だった」
 「あ?」
 「……」

 今も待っているのかもしれない。
 亜紀ちゃんが土産を渡した。

 「初めてだな」
 「うるせぇよ」

 鈴伝の栗菓子だ。
 御堂と塩野社長たちにしか持って行かない。
 俺の好物だ。
 俺は目の前で包みを開き、何粒か口に入れた。
 やはり美味い。

 「……」

 「今日も道場でやってるのか?」
 「ああ、後で案内する」



 道着に着替えて道場へ向かった。
 道場では、千万組の人間が組み手をしていた。
 俺たちが入ると、一斉に止まり、礼をした。

 「石神さん!」

 桜が駆け寄って来た。

 「おう! 元気そうだな」
 「はい! お陰様で」

 ハイキックをかますと、桜が左腕で受けた。
 それで、現在の仕上がりが分かった。

 「蓮花の所に来たんで顔を出した。後でご馳走になるな」
 「はい! もうみんなお待ちしてます!」

 俺たちは隅に離れ、組み手を見ていた。
 しばらくして、俺は立ち上がって叫んだ。

 「敵襲!」

 全員が俺を見る。

 「柳、行け!」
 「はい!」
 「お前ら! 柳をレイプしろ!」
 『オス!』
 「石神さん!」

 柳に50人の男が一斉に飛びかかる。
 柳は必死に応戦した。

 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとー!」

 男たちは次々に柳にぶっ飛ばされていくが、一人の男が道着の上を掴んだ。
 道着がめくれ、柳の下着が露わになった。

 「あれ、お前シャツ着てねぇの?」
 「道着なんて初めてですよー!」

 柳が上着を直しながら叫ぶ。
 その間も男たちが襲い掛かり、ついに諦めて応戦していく。

 「亜紀ちゃん、教えてねぇの?」
 「うっかり!」
 「柳、がんばー!」
 「石神さーん!」

 五分ほどで全員がのされた。
 柳は半泣きで戻って来る。
 こいつは、そういう星の人間だ。

 「斬! いい仕上がりだな」
 「ふん! まだまだじゃ」

 男たちはニヤニヤしながら、床に転がっていた。
 





 千万組の鍛錬を観終わり、俺たちは着替えた。
 桜をハマーに乗せ、千両の屋敷へ向かう。

 「お前ら! ヤクザの家だ! 喰い尽くせ!」
 「「「「はい!」」」」

 桜が笑った。

 門番は俺のハマーを見てすぐに門を開けた。
 桜に案内され、広間に入る。
 100人ほどの黒服や着物の男たちが、俺たちを迎えた。
 桜の号令で、全員が平伏する。

 「お前らぁ! まだおめおめと生きてやがったかぁー!」
 『オス!』
 「まあ、身体は大事にな!」

 全員が笑った。
 男たちの膳は既に用意してあった。
 俺たちが座ると、次々に食事が運ばれて来た。

 牛肉はもちろんだが、今回はイノシシや馬肉、鹿肉なども多くあった。
 普段食べないだろうものを用意されていた。
 まあ、双子はよくイノシシを食べているが。

 牡丹鍋や馬刺し、鹿肉のステーキなどに、子どもたちが喜ぶ。
 一通りの食事が、俺たちから離れた膳にも盛られていた。
 子どもたちも気付いているが、何も言わなかった。
 ただ、時折そちらを見て微笑んだ。


 「お前ら! 柳をレイプしろ!」
 「石神さん!」

 みんなが笑った。
 道場にいた何人かの連中が、他の人間に耳打ちし、あちこちで笑いが起こった。
 何人かが酒を注ぎに来る。

 「昼間から酒を飲む奴は人間のクズだ!」
 「石神さん、自分が送りますから」

 桜が言った。

 「そうなの?」
 「はい」

 俺はジャンジャン飲んで食べた。
 双子がイノシシやシカ肉を生で持って来させた。
 みんなの前で「電子レンジ」で焼く。
 それをカットして振る舞った。

 「あたしたちは、慣れてるからね!」

 ルーが自慢げに言う。
 確かに美味かった。
 焼き加減に工夫がある。

 「みんな! 今度キャプいこ?」
 「はい、喜んで!」

 多くの男たちが言った。
 俺も止めなかった。
 双子もキャンプ仲間が増えて嬉しそうだった。
 亜紀ちゃんと柳は聞こえない振りをして黙々と食べていた。
 特に亜紀ちゃんは大人気で、次々と酒を注がれている。
 隣の柳も強いんだと言われ、嬉しそうだ。

 子どもたちは悪魔のように食べた。
 その中で柳も信じられないほどに喰う。

 「千両、ありがとうな」
 「いいえ」
 「子どもたちの喰いっぷりを見れば分かる。お前たちが本当に歓待して用意してくれたことがな」
 「とんでもございません」
 「見ろよ、楽しそうだ」
 「はい」

 子どもたちが、笑顔で食べている。
 いつもよりも食べているはずだが、まだ収まらない。
 どこまでも食べられるように準備されているのが分かるのだ。
 うちの子らは、そういう食べ方をする。
 嬉しくて堪らないのだ。

 


 散々喰い散らかし、帰ることにした。
 俺はハマーから一振りの短刀を出し、千両に渡した。

 「これは?」
 「「虎王」の若打ちらしい。見事な短刀だ」
 「そのようなものを!」
 「今日の礼には到底及ばない。すまない」
 「石神さん、そんなことは!」
 千両がいつになく慌てている。

 「子どもたちが、あんなに嬉しそうに笑っていた」
 「いえ、そんな」
 「今の俺たちが、あんなに笑うことがな。それをお前がやってくれた」
 「石神さん……」
 「ありがとう、千両」
 「はい」

 「ところで、お前は「虎王」がどのような刀だと思う?」
 「はい。恐らく、信ずれば何でも斬れるのだと」
 「俺もそう思う」
 「若打ちは限度もあるでしょうが、石神さんの真「虎王」はまさしく」
 「ああ。この「虎王」は突然うちに送られて来たんだ」
 「それは?」
 「相手は分からん。送り元は完全な偽名だったからな」
 「そうですか」
 「お前に預ける。存分に使ってくれ」
 「かしこまりました」

 「みんな、身体を大事にな!」

 全員が腰を折る。

 「昼間から酒なんか飲むなよ!」

 全員が笑った。
 俺たちは桜の運転で出発した。




 「石神さん、わざわざ自分らの所までありがとうございました」
 「いいよ。一食分、浮いたからな!」

 桜が嬉しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...