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恋のために
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9月最初の水曜日の朝。
皇紀が帰って来た。
俺は病院で電話を受けた。
「タカさん。帰りました」
「ご苦労だったな。まずはゆっくり休め」
「はい」
「悪かったな。お前に全部押し付けてしまった」
「いいえ、とんでもありません」
「夜にでも話を聞かせてくれ。ああ、眠っていたら起こさないからな。遠慮しないで寝てくれな」
「はい」
俺は電話を切った。
声は元気そうだったが、やはりいろいろと考えているようだ。
亜紀ちゃんたちにも、ゆっくり休ませるように言っている。
大変な役目を果たしてくれた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
タカさんに送られて、羽田からロックハートの自家用機に乗った。
アビゲイルさんが一緒だった。
「コウキくん。大丈夫かね?」
「はい。まだ信じられない思いです」
「そうだね。僕も同じだ」
アビゲイルさんから、レイさんの話を聞いた。
タカさんから聞いたことの他に、幾つか知らないことも伺った。
レイさんとは、何も個人的な話をしてなかったことを思い知った。
いつも防衛システムの話ばかりで、あとはレイさんの勉強のこと。
レイさんが何が好きなのかすら、何も知らなかった。
そういうことは、全部タカさんからしか聞いていなかった。
「レイが大学を卒業する時、我々はロックハートの仕事をさせたかったんだ。でもレイは外で働くと言った」
「どうしてなんでしょうか」
「口にはしなかったけどね。外でいろいろな技術を学んで、それをロックハートのために生かしたかったんだよ」
「そうなんですね」
「結果的にはあまり上手くは行かなかった。まあ、レイが優秀過ぎたんだね。それで男性の嫉妬を買って」
「そのお話は聞いています。ミスを押し付けられたと」
「そうだ。僕たちはレイの潔白を証明しようとした。でも、レイがもう愛想を尽かせていた。レイは僕たちに謝ったんだ。折角ロックハートのために何かを掴みたかったけど、何も出来なかったって」
「そうですか」
「その言葉でね。僕たちはレイがロックハートのために何かをしたかったんだと分かった。シズエがレイに、気にせずにうちで働いて欲しいと言った。レイは泣いていたな」
「……」
アビゲイルさんは、優しく僕を見ていた。
「君たちの家でも、レイは頑張っていただろう?」
「はい! あんまり頑張るんで、タカさんに怒られてました」
「アハハハハ! 聞いたよ。ドライブに連れてってもらって、本当に嬉しかったんだと。思いを打ち明けたかったらしいけど、タカトラに説教されて。でも、それがまた嬉しかったようだ。忙しいのに、ちゃんと自分を見て、自分を心配してくれる。それが嬉しかったと言っていた」
「そうですか。タカさんはそういう人ですからね」
「そうだな。レイはタカトラのために頑張りたかった。それに、コウキくんやルーとハー。君たちが如何に素晴らしい技術と発想を持っているのか、いつも僕に嬉しそうに話していた。イシガミ・ファミリーは素晴らしいんだと。君たちのために、絶対にやり遂げると言っていた」
「はい」
「レイはいつでもそうだった。ロックハートで「セブンスター」を建造するのに、何度も倒れた」
「アハハハ、レイさんですね、確かに」
「シズエがいつも心配していた。一度はプロジェクトから外すことも考えた。でも、必死になっているレイを見て、それは出来なかったよ」
「分かります」
「でもね、自慢の「セブンスター」が、タカトラに「バカみたい」と言われた。相当ショックだったようだ」
「アハハハハハ!」
二人で笑った。
「でも、アビゲイルさん。あの船だったから、何とかなったんです」
「そうかな」
「はい。それに、レイさんが命を懸けて守ってくれたお陰です」
「ああ。レイが誇らしげに言っていたな。タカトラに「戦うことを諦めるな」と言われた。その通りに諦めなかったんだと」
「その通りです」
「あれがレイの恋だったんだな」
「え?」
「タカトラのために命懸けでやることだ。レイは自分がタカトラに受け入れられなくてもいいと思っていた。レイがタカトラのために何でもしたかった。それがレイの唯一の……」
明るく話そうとしていたアビゲイルさんの言葉が詰まった。
ハンカチを出し、目頭を押さえた。
「はい! レイさんは最高でした!」
僕はそう叫ぶしかなかった。
食事を挟み、アビゲイルさんは少し眠られた。
しばらくして起きて、また僕とレイさんの話をしたがった。
僕もレイさんとの思い出を何でも話した。
僕たちはずっと話し続けた。
JFK空港から、ロックハート家までリムジンで移動した。
ロックハート家では、アルジャーノンさんと静江さんが玄関で出迎えてくれた。
二人に抱き締められた。
僕は食堂に案内され、食事をいただいた。
ロドリゲスさんが自ら食事を運んでくれた。
僕の顔を見て、ロドリゲスさんが涙を零した。
「すいません。みなさんこそ悲しいのに」
「ロドリゲスさん。レイさんが言ってました。ロドリゲスさんと仲良くなったんだって。それが嬉しいって」
静江さんが通訳してくれた。
「そうですか! レイがそう言ってましたか!」
ロドリゲスさんは顔を押さえながら部屋を出て行った。
静江さんに勧められて、食事をいただいた。
とても美味しかった。
心を込めて作ってくれたのが分かった。
食後に、アルジャーノンさん、静江さん、アビゲイルさんと四人で話した。
「コウキくん。早速で悪いんだが、君の立場を説明しておくよ」
アルジャーノンさんがそう言い、僕に話してくれた。
僕はタカさんの名代となっていて、それは今回のアメリカとの敵対関係を終わらせる役目があること。
そのために、大統領を筆頭に、政府や軍の高官たちとも話し合う必要があること。
タカさんとロックハート家が話し合っているので、万事任せて欲しいということ。
タカさんから、特別に聞いていることがあれば、その通りにすること。
レイさんの葬儀は国葬に準ずるものとなること、これは政府が国家機関による一般市民の殺害と認め、その中でレイさんが勇敢に戦い国難を退けたということになっているためらしい。
国家機関の一部を操りアメリカを滅ぼす陰謀を、犠牲になりながらも未然に防いだというものだ。
そのために、タカさんたちが協力し、国家的危機を救った。
事実とは異なるが、それで事態が収まることは僕にも理解できた。
「君はだから、救国の英雄の一人として表では扱われる」
「え、なんですって!」
「大丈夫だ。我々が万事上手く運ぶ。君たちは極秘の戦力だとされているからね。マスコミが接触することはないし、コウキくんが何かをやる必要は、ほとんどない」
「ちょっとはあるんですか!」
「まあね。関係者以外をシャットアウトした場所で、君にちょっとだけスピーチをしてもらう。それだけだ」
「エェー!」
「大丈夫だ。内容はこちらで用意する。むしろ、コウキくんには「敗戦国」としての賠償や終戦条件などの目録を持って帰って欲しい。それだけだよ」
「僕、中学生なんですけど!」
「アハハ、知っているよ。レイも13歳で何とかした。君もガンバレ」
「はぁ」
そう言われては、何も言い返せない。
「分かりました」
僕はアルジャーノンさんに、タカさんから預かった包を渡した。
みんなでレイさんの部屋から集めた髪だ。
10本を持って来た。
袱紗を開き、アルジャーノンさんと静江さんが中を見た。
「そうだね。君はこのために来たんだね。僕は本当につまらないことを話してしまった」
アルジャーノンさんはそう言い、袱紗を静江さんに預けた。
静江さんはそれを胸に抱いて泣いた。
「いいえ。僕はタカさんの名代です。何でもやりますよ」
「そうか」
翌朝。
僕は大統領補佐官と面会した。
ロックハート家の中でだ。
子どもの僕を見て驚かれたが、アルジャーノンさんが僕のことを「天才工学者」と紹介した。
そして「石神」の中枢にいる人間だと。
アルジャーノンさんが通訳しながら立ち会ってくれた。
タカさんが言った終戦の条件はすべて受け入れられたらしい。
アラスカの割譲が難題だったようだけど、それも結果的には実現する。
条項が書かれた、大統領のサイン入りの写しを僕は受け取った。
タカさんに持ち帰り、問題がなければ、ということだ。
NSAや軍部の高官が謝罪したいということを知らされた。
僕はタカさんに言われた言葉を告げた。
「俺たちはレイを救うために即座にアメリカへ飛んだ。お前たちはアメリカを救うためにどうするんだ?」
大統領補佐官は直立し、必ず伝えると言って帰って行った。
アルジャーノンさんが笑っていた。
レイさんの葬儀には、大勢の人間が集まった。
事前に公開された議事堂には、マスコミが伝えたレイさんの悲劇と勇敢さに感じた市民が、連日集まって花を捧げ、祈りを捧げ、泣いてくれていた。
僕も行ったが、レイさんの明るく笑う大きな写真が掲げられ、その前に大きな棺が置かれていた。
広い会場には、花が埋め尽くされていた。
棺の前に、金属のプレートが掲げられていた。
《この棺の中には、恋人と友人によって集められたレイチェル・コシノ氏の髪が納められています》
それを読んだ人々が、みんな泣いていた。
僕も泣いた。
葬儀に集まった人々は、きっと偉い人たちなのだろう。
僕には分からなかった。
でも、ロックハート家の方々、ロドリゲスさんや執事長さんや、家の世話をしている方々も多くいた。
そして海兵隊のターナー少将やジェイさんたち。
もう一人、オリヴィアさん。
その方々が、レイさんのために本当に泣く人々だ。
僕はアルジャーノンさんと静江さんの隣に立った。
アルジャーノンさんが弔辞を読んだ。
長い弔辞の最後に言った。
「レイは国のため、そして恋のためにその命を捧げました」
静江さんがずっと通訳してくれていた。
その言葉を、声を詰まらせながら僕に伝えてくれた。
僕は声を上げて泣いた。
「私は、恋をするために来たのです」
僕たちと一緒に暮らすと言ったあの日。
あの日のレイさんの、嬉しそうな顔で言ったその言葉。
僕は絶対に忘れない。
皇紀が帰って来た。
俺は病院で電話を受けた。
「タカさん。帰りました」
「ご苦労だったな。まずはゆっくり休め」
「はい」
「悪かったな。お前に全部押し付けてしまった」
「いいえ、とんでもありません」
「夜にでも話を聞かせてくれ。ああ、眠っていたら起こさないからな。遠慮しないで寝てくれな」
「はい」
俺は電話を切った。
声は元気そうだったが、やはりいろいろと考えているようだ。
亜紀ちゃんたちにも、ゆっくり休ませるように言っている。
大変な役目を果たしてくれた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
タカさんに送られて、羽田からロックハートの自家用機に乗った。
アビゲイルさんが一緒だった。
「コウキくん。大丈夫かね?」
「はい。まだ信じられない思いです」
「そうだね。僕も同じだ」
アビゲイルさんから、レイさんの話を聞いた。
タカさんから聞いたことの他に、幾つか知らないことも伺った。
レイさんとは、何も個人的な話をしてなかったことを思い知った。
いつも防衛システムの話ばかりで、あとはレイさんの勉強のこと。
レイさんが何が好きなのかすら、何も知らなかった。
そういうことは、全部タカさんからしか聞いていなかった。
「レイが大学を卒業する時、我々はロックハートの仕事をさせたかったんだ。でもレイは外で働くと言った」
「どうしてなんでしょうか」
「口にはしなかったけどね。外でいろいろな技術を学んで、それをロックハートのために生かしたかったんだよ」
「そうなんですね」
「結果的にはあまり上手くは行かなかった。まあ、レイが優秀過ぎたんだね。それで男性の嫉妬を買って」
「そのお話は聞いています。ミスを押し付けられたと」
「そうだ。僕たちはレイの潔白を証明しようとした。でも、レイがもう愛想を尽かせていた。レイは僕たちに謝ったんだ。折角ロックハートのために何かを掴みたかったけど、何も出来なかったって」
「そうですか」
「その言葉でね。僕たちはレイがロックハートのために何かをしたかったんだと分かった。シズエがレイに、気にせずにうちで働いて欲しいと言った。レイは泣いていたな」
「……」
アビゲイルさんは、優しく僕を見ていた。
「君たちの家でも、レイは頑張っていただろう?」
「はい! あんまり頑張るんで、タカさんに怒られてました」
「アハハハハ! 聞いたよ。ドライブに連れてってもらって、本当に嬉しかったんだと。思いを打ち明けたかったらしいけど、タカトラに説教されて。でも、それがまた嬉しかったようだ。忙しいのに、ちゃんと自分を見て、自分を心配してくれる。それが嬉しかったと言っていた」
「そうですか。タカさんはそういう人ですからね」
「そうだな。レイはタカトラのために頑張りたかった。それに、コウキくんやルーとハー。君たちが如何に素晴らしい技術と発想を持っているのか、いつも僕に嬉しそうに話していた。イシガミ・ファミリーは素晴らしいんだと。君たちのために、絶対にやり遂げると言っていた」
「はい」
「レイはいつでもそうだった。ロックハートで「セブンスター」を建造するのに、何度も倒れた」
「アハハハ、レイさんですね、確かに」
「シズエがいつも心配していた。一度はプロジェクトから外すことも考えた。でも、必死になっているレイを見て、それは出来なかったよ」
「分かります」
「でもね、自慢の「セブンスター」が、タカトラに「バカみたい」と言われた。相当ショックだったようだ」
「アハハハハハ!」
二人で笑った。
「でも、アビゲイルさん。あの船だったから、何とかなったんです」
「そうかな」
「はい。それに、レイさんが命を懸けて守ってくれたお陰です」
「ああ。レイが誇らしげに言っていたな。タカトラに「戦うことを諦めるな」と言われた。その通りに諦めなかったんだと」
「その通りです」
「あれがレイの恋だったんだな」
「え?」
「タカトラのために命懸けでやることだ。レイは自分がタカトラに受け入れられなくてもいいと思っていた。レイがタカトラのために何でもしたかった。それがレイの唯一の……」
明るく話そうとしていたアビゲイルさんの言葉が詰まった。
ハンカチを出し、目頭を押さえた。
「はい! レイさんは最高でした!」
僕はそう叫ぶしかなかった。
食事を挟み、アビゲイルさんは少し眠られた。
しばらくして起きて、また僕とレイさんの話をしたがった。
僕もレイさんとの思い出を何でも話した。
僕たちはずっと話し続けた。
JFK空港から、ロックハート家までリムジンで移動した。
ロックハート家では、アルジャーノンさんと静江さんが玄関で出迎えてくれた。
二人に抱き締められた。
僕は食堂に案内され、食事をいただいた。
ロドリゲスさんが自ら食事を運んでくれた。
僕の顔を見て、ロドリゲスさんが涙を零した。
「すいません。みなさんこそ悲しいのに」
「ロドリゲスさん。レイさんが言ってました。ロドリゲスさんと仲良くなったんだって。それが嬉しいって」
静江さんが通訳してくれた。
「そうですか! レイがそう言ってましたか!」
ロドリゲスさんは顔を押さえながら部屋を出て行った。
静江さんに勧められて、食事をいただいた。
とても美味しかった。
心を込めて作ってくれたのが分かった。
食後に、アルジャーノンさん、静江さん、アビゲイルさんと四人で話した。
「コウキくん。早速で悪いんだが、君の立場を説明しておくよ」
アルジャーノンさんがそう言い、僕に話してくれた。
僕はタカさんの名代となっていて、それは今回のアメリカとの敵対関係を終わらせる役目があること。
そのために、大統領を筆頭に、政府や軍の高官たちとも話し合う必要があること。
タカさんとロックハート家が話し合っているので、万事任せて欲しいということ。
タカさんから、特別に聞いていることがあれば、その通りにすること。
レイさんの葬儀は国葬に準ずるものとなること、これは政府が国家機関による一般市民の殺害と認め、その中でレイさんが勇敢に戦い国難を退けたということになっているためらしい。
国家機関の一部を操りアメリカを滅ぼす陰謀を、犠牲になりながらも未然に防いだというものだ。
そのために、タカさんたちが協力し、国家的危機を救った。
事実とは異なるが、それで事態が収まることは僕にも理解できた。
「君はだから、救国の英雄の一人として表では扱われる」
「え、なんですって!」
「大丈夫だ。我々が万事上手く運ぶ。君たちは極秘の戦力だとされているからね。マスコミが接触することはないし、コウキくんが何かをやる必要は、ほとんどない」
「ちょっとはあるんですか!」
「まあね。関係者以外をシャットアウトした場所で、君にちょっとだけスピーチをしてもらう。それだけだ」
「エェー!」
「大丈夫だ。内容はこちらで用意する。むしろ、コウキくんには「敗戦国」としての賠償や終戦条件などの目録を持って帰って欲しい。それだけだよ」
「僕、中学生なんですけど!」
「アハハ、知っているよ。レイも13歳で何とかした。君もガンバレ」
「はぁ」
そう言われては、何も言い返せない。
「分かりました」
僕はアルジャーノンさんに、タカさんから預かった包を渡した。
みんなでレイさんの部屋から集めた髪だ。
10本を持って来た。
袱紗を開き、アルジャーノンさんと静江さんが中を見た。
「そうだね。君はこのために来たんだね。僕は本当につまらないことを話してしまった」
アルジャーノンさんはそう言い、袱紗を静江さんに預けた。
静江さんはそれを胸に抱いて泣いた。
「いいえ。僕はタカさんの名代です。何でもやりますよ」
「そうか」
翌朝。
僕は大統領補佐官と面会した。
ロックハート家の中でだ。
子どもの僕を見て驚かれたが、アルジャーノンさんが僕のことを「天才工学者」と紹介した。
そして「石神」の中枢にいる人間だと。
アルジャーノンさんが通訳しながら立ち会ってくれた。
タカさんが言った終戦の条件はすべて受け入れられたらしい。
アラスカの割譲が難題だったようだけど、それも結果的には実現する。
条項が書かれた、大統領のサイン入りの写しを僕は受け取った。
タカさんに持ち帰り、問題がなければ、ということだ。
NSAや軍部の高官が謝罪したいということを知らされた。
僕はタカさんに言われた言葉を告げた。
「俺たちはレイを救うために即座にアメリカへ飛んだ。お前たちはアメリカを救うためにどうするんだ?」
大統領補佐官は直立し、必ず伝えると言って帰って行った。
アルジャーノンさんが笑っていた。
レイさんの葬儀には、大勢の人間が集まった。
事前に公開された議事堂には、マスコミが伝えたレイさんの悲劇と勇敢さに感じた市民が、連日集まって花を捧げ、祈りを捧げ、泣いてくれていた。
僕も行ったが、レイさんの明るく笑う大きな写真が掲げられ、その前に大きな棺が置かれていた。
広い会場には、花が埋め尽くされていた。
棺の前に、金属のプレートが掲げられていた。
《この棺の中には、恋人と友人によって集められたレイチェル・コシノ氏の髪が納められています》
それを読んだ人々が、みんな泣いていた。
僕も泣いた。
葬儀に集まった人々は、きっと偉い人たちなのだろう。
僕には分からなかった。
でも、ロックハート家の方々、ロドリゲスさんや執事長さんや、家の世話をしている方々も多くいた。
そして海兵隊のターナー少将やジェイさんたち。
もう一人、オリヴィアさん。
その方々が、レイさんのために本当に泣く人々だ。
僕はアルジャーノンさんと静江さんの隣に立った。
アルジャーノンさんが弔辞を読んだ。
長い弔辞の最後に言った。
「レイは国のため、そして恋のためにその命を捧げました」
静江さんがずっと通訳してくれていた。
その言葉を、声を詰まらせながら僕に伝えてくれた。
僕は声を上げて泣いた。
「私は、恋をするために来たのです」
僕たちと一緒に暮らすと言ったあの日。
あの日のレイさんの、嬉しそうな顔で言ったその言葉。
僕は絶対に忘れない。
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