富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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挿話: 愛深き女

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 ミユキや他のブランたちとも何度も相談した。
 みんな、石神様の御優しさに感動し、相談にも積極的に協力してくれた。
 戦うことにしか興味を示さなかったブランたちが、こうやって石神様のすべてに仕えたいと思うようになった。
 この上なく嬉しいことだ。

 それもみな、石神様がブランたちを戦うだけの兵士ではなく、「虎」の軍団としての戦う仲間であることを御示し続けて来られたからだ。
 戦闘訓練はもちろんなされるし、厳しい。
 しかし、石神様はそれ以外に一緒に食事をされ、一人一人に話し掛けられ、歌いギターを弾き、ピクニックなども御連れ下さる。
 
 「ブランたちに、温かな美しい「思い出」を持たせてやりたい」

 そう石神様は仰った。
 何千回も思って来た、石神様に全てを捧げようと誓う心が、また持ち上がった。
 たとえ石神様が全ての神から嫌われようと、私は石神様と共に滅び、地獄へ行こう。
 全てを喪って、世界に自分一人しかいなくなっても、私は石神様のために戦い、笑って死のう。
 その決意を抱いて、初めて石神様の広大な端にやっと触れられたように思う。

 何故石神様が、何度も死に直面しても、あれだけの傷を負いながらも、ここまで来られたのかが分かった。



 「それでは、ミユキはやはり言葉は自在に喋る方が良いと考えるのですね?」
 「はい、蓮花様。石神様が御創りになるものが、他のロボットと同じ程度ではおかしいと思います」
 「なるほど! ミユキ! 良いことを申しました!」
 「ありがとうございます」

 ミユキの意見で、私の中の霧が晴れた。
 石神様からの御指示で特別な訓練をしている桜花たちにも聞いてみた。

 「それでは、睡蓮はやはりある程度様々なことが出来た方が良いと?」
 「はい。私たち三姉妹はそれぞれの特徴を持っていますが、それでも誰もが栞様と士王様のためにお仕え出来ることを習得しています。それが私たちの「お役目」でございますから」
 「なるほど! 睡蓮! いいこと言ったぁー!」
 「はい?」

 私の中で、明確な設計思想が出来上がった。
 


 大きさの制限はある。
 様々なことをさせたいが、ロボットの大きさは人間のサイズまでだ。
 せいぜい2メートルまで。
 しかし、それでは私が考える性能を全て満たすことは出来ない。
 「ヴォイド機関」は小型化が実現できた。
 音速でいつまでも走り続ける運動を想定しても、腹部に収めることが出来るだろう。
 石神様のロボットは、それくらい出来なくてはならない。

 問題は知性だ。
 人間同士と会話するほどの能力を実現する人工知能は、どうしても量子コンピューターになってしまう。
 その小型化は人間のサイズで収めようとすると、他の性能が限定されてしまう。

 「すみません、理解不能です」

 そう言わせれば、ある程度は身体機能は充実させることが出来る。
 でも、石神様のロボットがそんな幼稚な程度で良いはずはない。
 私は悩んだ。
 これまで集めた、ロボット関連の資料を全部見直した。

 《VF-1バルキリー: ファイター(戦闘機形態)、バトロイド(人型形態)、ガウォーク(万能形態)》

 これだ!
 そうだ、求められる仕事、状況によって可変すればよいのだ!
 私は更に資料を漁った。

 《RX-78GP01-Fbフルバーニアン》

 感動した。
 そして私の中に、美しい光明が挿し込んだ。
 そうか!
 必要に応じて「機能」を交換すればよいのだ!

 こうして、私の設計思想は実現化できることになった。



 「石神様、お待たせしました。やっと乾様への「ロボット」の仕様がまとまりました」
 「そうか、ご苦労だった」
 「それで、石神様の御要望には十分にお応えできるのですが、わたくしの愚考しました若干のことも付け加えてもよろしいでしょうか?」
 「ああ、構わないよ。前に見せてもらった蓮花の趣味のロボットはなかなか良かったしな。可愛らしさも重要だ。せいぜい楽しみながらやってくれよ」
 「はい。何か少々考えるところもございますが」
 「なんだ?」
 「いえ、何でもございません。石神様は流石と思いました。外見にもそのようにご配慮なさるとは」
 「いや、それはお前の趣味だろ?」
 「さようでございましたね。オホホホホ」
 「アハハハハハ!」



 御許可は頂いた。
 齟齬があるような気もするが、石神様は私にお任せ下さった。
 その信頼にはお応えしなければ。
 それにしても、見た目の可愛らしさとは、まったくの盲点だった。
 やはり、ご相談して良かった。
 石神様は、私のずっと先を歩いていらっしゃる。
 そのことを痛感した。



 設計の仕様が固まれば、後はやるだけだった。
 私は石神様にご心配かけないように、無理を決してせずに、乾様のためのロボット「デトロイト・デストロイ:愛称ディディ」を完成させた。
 僭越ながら、私自身で乾様に納品させていただくことにした。

 「石神様に先に性能をご披露したいのですが」
 「ああ、蓮花を信頼してるからな。それに、そちらへ行く時間が今無いんだ。いいよ、納品の当日に一緒に見させてもらうよ。運搬機能とか大丈夫だよな?」
 「もちろんでございます。支障なく、大型バイクを丁寧に運ぶようにしております」
 「ああ、やっぱりな。蓮花に任せて良かったよ。ありがとう」
 「もったいないお言葉でございます」

 良かった。
 石神様も喜んで下さった。
 乾様の御仕事のお役に立てば、石神様も御歓びになり、私自身も嬉しい。



 納品当日。
 わざわざ石神様もお忙しい中をいらっしゃって下さった。
 ミユキに8トントラックを運転させ、時間通りに到着した。
 万一の渋滞などを考慮し、早目に到着し、少し離れた場所で3時間ほど待機した。
 お時間に遅れがあってはならない。

 石神様が、ハーレーでいらしたことが、探知レーダーで分かった。
 予定よりも30分早い。
 待っていて良かった。
 ミユキに命じて、フルスピードで発進させた。
 石神様の1分前に到着した。

 「お待ち申し上げておりました」
 「おい、物凄いスピードで追い抜いて行っただろう!」
 「いえ、主をお待たせするわけにはございませんので」
 「無茶するなよなぁ」

 石神様が、乾様の御店に入られた。
 お二人で駐車場に出て来られる。

 「おい、トラ! 俺はやめてくれって言ったよなぁ!」
 「ダメですよ、乾さん。俺はダメって言われて止まったことがないワルガキだったんですからね」
 「てめぇ!」

 石神様はお楽しそうだ。
 こんなに嬉しそうなお顔は滅多に観れない。
 私はミユキに指示して、「ディディ」を作動させた。
 起動が完全に終わるまでの間、お二人に説明させていただいた。

 「名前は「ディディ(Detroit Destroy(デトロイトをぶっ飛ばせ)」です。ご存知のように、デトロイトは世界最大のモーターサイクル産業の街です。乾様には、デトロイトをぶっ飛ばすような大きなお店になっていただきたく」
 「おい! 俺はそんなこと考えてねぇぞ!」
 「まあまあ、夢は大きくっていうやつですよ」
 「夢見てねぇ!」

 「ディディの身長は2m18㎝。体重は標準装備で130キロです」
 「トラ! この女、他人の話を聞いてねぇぞ!」
 「アハハハハ!」

 ディディはスリープモードからアクティヴになり、トラックから降りて来る。
 ディディの姿に、お二人が驚かれている。
 今日は動きやすいように、白いパンツとブラウスを着せている。

 「六花じゃねぇか!」

 そう、私は世界で最も美しい方のお顔をディディに与えた。
 研究所にいらした際の映像を集め、コンピューター制御で造形した。
 ボディは若干大きな2メートルサイズだが、スタイルもなるべく似せた。
 顔は300の人工筋肉を制御し、様々な表情も見せることが出来る。
 六花様と同じ、明るい茶の髪とオッドアイの美しい瞳を持っている。

 「笑ってんのか!」
 「おい、トラ! 歩いてんぞ!」
 「そりゃそうですよ。動かなきゃしょうがない」

 石神様が苦しそうなお顔で仰った。

 「おい、荷台じゃなくしたんだな」
 「はい。一台でしたら、自分で押して動きます。もちろん石神様の御指示通り、荷台を引いて10台を同時に移動出来ますが。そのような場面はそうは無いかと思いまして」
 「なるほどな。確かにそうだろうな」

 石神様は少し引き攣ってはいるが、御満足そうだ。
 石神様が、ご自分のハーレーで押してみせろを仰った。
 ディディは丁寧にスタンドを解除し、ゆっくりと押した。
 何百回もテストしているので、私も安心して見ている。




 「若干、修理なども出来るようにいたしました」
 「ほんとかよ! でも繊細なものだから、乾さんたちがやるだろうけどな」
 「さようでございましたね。では、デモンストレーションの御つもりでご覧ください。ディディ、石神様のマシンを拝見して」
 「かしこまりました、蓮花様」
 「おう、随分と流暢に話すな」

 石神様がまた御歓びになった。
 「ディディ・アイ」から探査レーザーや赤外線、X線を照射し、石神様のハーレーを診断した。

 「少々チェーンの張りに問題がございます。それから……」

 石神様は驚かれ、乾様に問題の点検をお願いされた。

 「おい、言ってた通りだぞ! もちろん走行にまったく支障はねぇけどよ。でも調整すればもっと走りが良くなるのは確実だ」
 「そうなんですか。おい蓮花、驚いたぞ」
 「差し出がましいことを致しました。宜しければ、交換の必要なもの以外はすぐにディディにやらせますが」
 「できんのかよ!」
 「はい」

 石神様は少し考えられていらっしゃったが、「じゃあ頼む」と仰った。
 乾様にお願いされ、ディディの動きを見ると仰った。

 「ディディ、聞いての通りです」
 「かしこまりました。石神様、畏れ多いことでございますが、大切なマシンに触れさせて頂きます」
 「おい! 会話の内容を理解してんのかぁ!」
 「オホホホホ」

 ディディはトラックから「整備モード」の装備を装着した。

 「合体すんのかよ!」

 36本のマニピュレーターが、石神様のハーレーに取りつく。
 各マニピュレーターが、独自に一斉に動き、1分ほどで調整を終えた。

 「乾さん!」
 「完璧だ!」

 乾様が動きを見ておられ、その後で確認された。

 「おい、トラ!」

 乾様は石神様の御胸倉を掴まれた。
 ディディが止めた。

 「乾様、どうかお鎮まり下さいませ」
 「止めんのかよ!」
 「何だこの状況判断はぁ!」
 
 お二人が驚かれ、乾様は腕を離された。

 「トラ、とにかく一度中に入れ」
 「はい。おい、蓮花も来い!」
 「石神様、わたくしもご一緒して宜しいでしょうか?」

 「「……」」





 四人でお店に入った。
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