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レイラ Ⅲ
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金曜日。
また早乙女から連絡が来た。
「石神、あの生徒の暴行事件な。やはりとんでもなかった。それと、同じ時期に若い愚連隊の殺人事件もある。関連はまだ不明だが、お前に直接会って話したい」
「分かった」
「お前の家でいいか?」
「ああ、夜の7時には戻っている」
「じゃあ、その時間に」
「手間を掛けるな」
「言うな。俺はお前のためならば何でもやる」
「ありがとう」
電話を切った俺は、まだ一縷の希望を持とうとしていた。
レイラの美しい顔を思い浮かべていた。
家に7時前に帰ると、もう早乙女が来ていた。
夕飯を出そうとする亜紀ちゃんを止め、俺たちは地下へ移動した。
亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「いや、いいんだ。早速だけど」
そう言って早乙女は何枚かの写真を鞄から出して拡げた。
「これはもちろん外には出せないものだ。俺の部署で強引に借り受けて持って来た」
「分かった」
女子高生の暴行事件の現場写真と、被害者の少女たちを写したものだった。
潰れたビリヤード場の空き部屋だったそうだ。
床に渇いてどす黒くなった血の跡があった。
四脚の木の椅子があり、それに縛られていたそうだ。
少女たちは全員眼球を潰され、顔が刃物で何度も抉られていた。
鼻や耳を喪っている者もいる。
両手の指は全て切り取られている。
真直ぐな切り口から、警察では鉈のようなもので一気に切ったと考えている。
股間はズタズタだ。
恐ろしい力で肉を抉ったかのような惨状だった。
「いつのものだ?」
「9月2日だ。犯行は恐らく9月1日。一晩かけて拷問のようにやられたらしい」
「今、この四人は?」
「全員死んだ。全身の傷口に汚物を塗られていたようだ。元々激しい暴行で衰弱していたが、結局敗血症で死んだよ」
「そうか」
恐ろしい執念だ。
「相当なショックで、証言もろくに取れなかったようだ」
「そうだろうな」
「学校側にも聞いたらしいが、ごく普通の生徒だったようだ。多少派手な格好だったが、問題を起こすようなことは無かったと」
「そうか」
学校が把握していないことがある。
俺はそう確信していた。
「これだけの暴行だ。怨恨にしても、ここまではとてもやれない。素人ならばな。だからカルト教団の線で、俺が強引に事件を乗っ取った。本当にその可能性も高いと思う。変質者の線もあるが、それも流石にここまでは。もしそうならば、以前にも何かやっているはずだ。初めての犯行じゃない」
「ああ」
早乙女は別なファイルを出した。
「こっちは愚連隊、まあ奴らは「暴威(ボウイ)」などと言っていたらしいけどな。16歳から29歳の14名の愚連隊だ。好き勝手に暴れていたらしい」
俺はそいつらの素性には興味は無かった。
「全員アジトのマンションで殺されていたよ。こっちも酷い。全員下半身を潰されている。現場から察するに、犯人たちは潰されてからゆっくりと死んで行くのを待っていたようだな」
「これも複数なのか?」
「そうとしか考えられない。14名がほとんど抵抗した形跡がないんだ。大勢で押し掛けてやったのだろう」
「どうやって下半身を潰したんだ?」
「まだ分からない。室内でやられたはずなんだが、何かの機械を使っただろうと考えられている。人間の力では無理だよ」
「大がかりだな」
「ああ。まあ、こいつらは相当恨みも買っていただろうからな。拉致してレイプなどもしょっちゅうだったようだ」
「マンションの他の住民は?」
「それが廃マンションなんだ。勝手に使っていたらしい」
「どちらも凄まじい暴力だな」
「ああ。直接の関連はまだ繋がっていないが、手口というか、これほど残虐なやり方は、俺は同じ人間たちだと思う」
「そうか」
話を終え、俺は早乙女をリヴィングに上げて一緒に食事をした。
もちろん、子どもたちには何も話さない。
俺は雪野さんのことを聞いた。
早乙女が幸せそうな顔で、雪野さんがどんなに素敵な女性かを熱弁した。
子どもたちが笑って聞いていた。
俺は翌日にレイラに会いに行った。
電話は通じなかった。
そして、あのアパートにもいなかった。
翌週に学校へ連絡すると、担任からしばらく学校へは来ていないと聞いた。
担任も本人に連絡を取ろうとしていたようで、俺に電話しようと思っていたと言われた。
「もう2週間にもなるんですよ」
「そうですか。私も探してみますね」
「宜しくお願いします」
レイラは忽然と消えた。
1月の中旬の木曜日の朝。
俺は出勤する直前に、六花からの電話を受けた。
「石神先生! 襲われました!」
「なに!」
「マンションを出た所を、覆面をした細い人物から! 「花岡」を使われました!」
「なんだと!」
「危なかったです。まさかと思いましたから」
「お前は無事か!」
「はい、なんとか。服が破かれた程度です」
「そうか」
俺は安堵した。
「あの、石神先生」
「なんだ」
「向こうも、私が「花岡」を使うのを見て驚いていたようでした」
「なに?」
「「槍雷」を使って来たのですが、「闇月花」で防いで、私も「槍雷」を撃ちました。それに驚いて、それ以上は攻撃はしないですぐに逃げ去りました」
「そうか」
「「業」の仲間でしょうか?」
「そうではないだろう。でも十分に注意しておいてくれ。俺もすぐに病院へ行く」
「響子の所へ行っても大丈夫ですか?」
「ああ。普段通りでいい」
「分かりました」
俺は急いで病院へ行き、響子の部屋へ内線し、六花を呼び出した。
空いている会議室で話す。
俺は、レイラのことを六花に話した。
事件のことはぼやかす。
六花には陰惨な状況を知られたくない。
単に、自分を虐めていた連中に復讐したとだけ話した。
それでも六花はショックを受けていた。
俺の輸血が原因ではないかと話したせいだ。
そうでなければ、レイラが「花岡」を使えるわけがない。
「じゃあ、石神先生の血があの子にあんな力を!」
「そうとしか考えられない。俺にもまだ信じられないんだが」
「そんなことが!」
「お前も顔を見られている。レイラは俺を求めているんだ。恋人がいると言った。お前がそうだろうと、あいつは考えたんだろう」
「分かりました」
「お前が強いことを知った。だからしばらくは襲われないだろうが、注意はしておいてくれ」
「はい!」
俺は席を立った。
「石神先生は?」
「レイラを探す。何とか止めないとな」
「私もお手伝いします!」
「ああ、でもまずは探してからだ。響子は念のために子どもたちで護衛する。日中はお前に任せるから、宜しくな」
「はい、分かりました!」
俺は早乙女に連絡し、またあの近辺での事件を洗ってもらった。
暴行事件や強盗などだ。
レイラに渡した金は、もうそれほどないはずだ。
あいつは自分で金を稼いでいる。
恐らくはまともな方法ではない。
愚連隊からいくらかせしめたかもしれないが、大した金額ではないはずだ。
ならば、何かの犯罪を犯している可能性が高い。
自分が無敵の力を手に入れたと思っている。
だから大胆に行動している。
俺はそう考えた。
数時間後、早乙女から連絡が来た。
「石神の言った通りだった! 5カ所の宝石店や景品所などが襲われていた!」
「そうか。じゃあまだ犯人はあの辺りにいるな」
「お前は犯人の目星がついているのか?」
「早乙女。お前に迷惑をかけたくない。俺に任せてもらえないか?」
「……」
早乙女はしばらく黙っていた。
「分かった。お前を信じる。でも俺の力が必要な時はすぐに言ってくれ」
「ありがとう」
俺は電話を切った。
俺は一江を呼び、明日一杯まで出掛けると言った。
一江は察して、俺に何も聞かずにすべて引き受けてくれた。
俺は双子を呼び、ハマーでレイラの町へ行った。
向かう途中で説明した。
「俺の血を輸血した女の子が「花岡」を使うようになった」
「「エェ!」」
「俺にも信じられないが、事実のようだ。人を襲い、店を襲っている。止めなければならん」
「でも!」
「お前たちには、その子を探して欲しい。俺にもよく分からんが、俺の血で「花岡」を使う人間だ。それで分かるか?」
「うん、大丈夫だと思います」
「それに加えて、どす黒い。自分に酷いことをした連中に復讐した。尋常ではないやりようだった」
「分かりました」
俺は最初にレイラのいたアパートに行った。
双子がレイラの部屋を見ていた。
「ひどいね、ハー」
「うん。これはもうダメだね」
二人がそう言い放ち、俺はこの後でやらねばならないことを思い、暗澹たる気分になった。
また早乙女から連絡が来た。
「石神、あの生徒の暴行事件な。やはりとんでもなかった。それと、同じ時期に若い愚連隊の殺人事件もある。関連はまだ不明だが、お前に直接会って話したい」
「分かった」
「お前の家でいいか?」
「ああ、夜の7時には戻っている」
「じゃあ、その時間に」
「手間を掛けるな」
「言うな。俺はお前のためならば何でもやる」
「ありがとう」
電話を切った俺は、まだ一縷の希望を持とうとしていた。
レイラの美しい顔を思い浮かべていた。
家に7時前に帰ると、もう早乙女が来ていた。
夕飯を出そうとする亜紀ちゃんを止め、俺たちは地下へ移動した。
亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「いや、いいんだ。早速だけど」
そう言って早乙女は何枚かの写真を鞄から出して拡げた。
「これはもちろん外には出せないものだ。俺の部署で強引に借り受けて持って来た」
「分かった」
女子高生の暴行事件の現場写真と、被害者の少女たちを写したものだった。
潰れたビリヤード場の空き部屋だったそうだ。
床に渇いてどす黒くなった血の跡があった。
四脚の木の椅子があり、それに縛られていたそうだ。
少女たちは全員眼球を潰され、顔が刃物で何度も抉られていた。
鼻や耳を喪っている者もいる。
両手の指は全て切り取られている。
真直ぐな切り口から、警察では鉈のようなもので一気に切ったと考えている。
股間はズタズタだ。
恐ろしい力で肉を抉ったかのような惨状だった。
「いつのものだ?」
「9月2日だ。犯行は恐らく9月1日。一晩かけて拷問のようにやられたらしい」
「今、この四人は?」
「全員死んだ。全身の傷口に汚物を塗られていたようだ。元々激しい暴行で衰弱していたが、結局敗血症で死んだよ」
「そうか」
恐ろしい執念だ。
「相当なショックで、証言もろくに取れなかったようだ」
「そうだろうな」
「学校側にも聞いたらしいが、ごく普通の生徒だったようだ。多少派手な格好だったが、問題を起こすようなことは無かったと」
「そうか」
学校が把握していないことがある。
俺はそう確信していた。
「これだけの暴行だ。怨恨にしても、ここまではとてもやれない。素人ならばな。だからカルト教団の線で、俺が強引に事件を乗っ取った。本当にその可能性も高いと思う。変質者の線もあるが、それも流石にここまでは。もしそうならば、以前にも何かやっているはずだ。初めての犯行じゃない」
「ああ」
早乙女は別なファイルを出した。
「こっちは愚連隊、まあ奴らは「暴威(ボウイ)」などと言っていたらしいけどな。16歳から29歳の14名の愚連隊だ。好き勝手に暴れていたらしい」
俺はそいつらの素性には興味は無かった。
「全員アジトのマンションで殺されていたよ。こっちも酷い。全員下半身を潰されている。現場から察するに、犯人たちは潰されてからゆっくりと死んで行くのを待っていたようだな」
「これも複数なのか?」
「そうとしか考えられない。14名がほとんど抵抗した形跡がないんだ。大勢で押し掛けてやったのだろう」
「どうやって下半身を潰したんだ?」
「まだ分からない。室内でやられたはずなんだが、何かの機械を使っただろうと考えられている。人間の力では無理だよ」
「大がかりだな」
「ああ。まあ、こいつらは相当恨みも買っていただろうからな。拉致してレイプなどもしょっちゅうだったようだ」
「マンションの他の住民は?」
「それが廃マンションなんだ。勝手に使っていたらしい」
「どちらも凄まじい暴力だな」
「ああ。直接の関連はまだ繋がっていないが、手口というか、これほど残虐なやり方は、俺は同じ人間たちだと思う」
「そうか」
話を終え、俺は早乙女をリヴィングに上げて一緒に食事をした。
もちろん、子どもたちには何も話さない。
俺は雪野さんのことを聞いた。
早乙女が幸せそうな顔で、雪野さんがどんなに素敵な女性かを熱弁した。
子どもたちが笑って聞いていた。
俺は翌日にレイラに会いに行った。
電話は通じなかった。
そして、あのアパートにもいなかった。
翌週に学校へ連絡すると、担任からしばらく学校へは来ていないと聞いた。
担任も本人に連絡を取ろうとしていたようで、俺に電話しようと思っていたと言われた。
「もう2週間にもなるんですよ」
「そうですか。私も探してみますね」
「宜しくお願いします」
レイラは忽然と消えた。
1月の中旬の木曜日の朝。
俺は出勤する直前に、六花からの電話を受けた。
「石神先生! 襲われました!」
「なに!」
「マンションを出た所を、覆面をした細い人物から! 「花岡」を使われました!」
「なんだと!」
「危なかったです。まさかと思いましたから」
「お前は無事か!」
「はい、なんとか。服が破かれた程度です」
「そうか」
俺は安堵した。
「あの、石神先生」
「なんだ」
「向こうも、私が「花岡」を使うのを見て驚いていたようでした」
「なに?」
「「槍雷」を使って来たのですが、「闇月花」で防いで、私も「槍雷」を撃ちました。それに驚いて、それ以上は攻撃はしないですぐに逃げ去りました」
「そうか」
「「業」の仲間でしょうか?」
「そうではないだろう。でも十分に注意しておいてくれ。俺もすぐに病院へ行く」
「響子の所へ行っても大丈夫ですか?」
「ああ。普段通りでいい」
「分かりました」
俺は急いで病院へ行き、響子の部屋へ内線し、六花を呼び出した。
空いている会議室で話す。
俺は、レイラのことを六花に話した。
事件のことはぼやかす。
六花には陰惨な状況を知られたくない。
単に、自分を虐めていた連中に復讐したとだけ話した。
それでも六花はショックを受けていた。
俺の輸血が原因ではないかと話したせいだ。
そうでなければ、レイラが「花岡」を使えるわけがない。
「じゃあ、石神先生の血があの子にあんな力を!」
「そうとしか考えられない。俺にもまだ信じられないんだが」
「そんなことが!」
「お前も顔を見られている。レイラは俺を求めているんだ。恋人がいると言った。お前がそうだろうと、あいつは考えたんだろう」
「分かりました」
「お前が強いことを知った。だからしばらくは襲われないだろうが、注意はしておいてくれ」
「はい!」
俺は席を立った。
「石神先生は?」
「レイラを探す。何とか止めないとな」
「私もお手伝いします!」
「ああ、でもまずは探してからだ。響子は念のために子どもたちで護衛する。日中はお前に任せるから、宜しくな」
「はい、分かりました!」
俺は早乙女に連絡し、またあの近辺での事件を洗ってもらった。
暴行事件や強盗などだ。
レイラに渡した金は、もうそれほどないはずだ。
あいつは自分で金を稼いでいる。
恐らくはまともな方法ではない。
愚連隊からいくらかせしめたかもしれないが、大した金額ではないはずだ。
ならば、何かの犯罪を犯している可能性が高い。
自分が無敵の力を手に入れたと思っている。
だから大胆に行動している。
俺はそう考えた。
数時間後、早乙女から連絡が来た。
「石神の言った通りだった! 5カ所の宝石店や景品所などが襲われていた!」
「そうか。じゃあまだ犯人はあの辺りにいるな」
「お前は犯人の目星がついているのか?」
「早乙女。お前に迷惑をかけたくない。俺に任せてもらえないか?」
「……」
早乙女はしばらく黙っていた。
「分かった。お前を信じる。でも俺の力が必要な時はすぐに言ってくれ」
「ありがとう」
俺は電話を切った。
俺は一江を呼び、明日一杯まで出掛けると言った。
一江は察して、俺に何も聞かずにすべて引き受けてくれた。
俺は双子を呼び、ハマーでレイラの町へ行った。
向かう途中で説明した。
「俺の血を輸血した女の子が「花岡」を使うようになった」
「「エェ!」」
「俺にも信じられないが、事実のようだ。人を襲い、店を襲っている。止めなければならん」
「でも!」
「お前たちには、その子を探して欲しい。俺にもよく分からんが、俺の血で「花岡」を使う人間だ。それで分かるか?」
「うん、大丈夫だと思います」
「それに加えて、どす黒い。自分に酷いことをした連中に復讐した。尋常ではないやりようだった」
「分かりました」
俺は最初にレイラのいたアパートに行った。
双子がレイラの部屋を見ていた。
「ひどいね、ハー」
「うん。これはもうダメだね」
二人がそう言い放ち、俺はこの後でやらねばならないことを思い、暗澹たる気分になった。
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