富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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道間麗星という女 Ⅱ

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 「わたくしは、道間の歴史の中でも少々特殊なのです」

 麗星はそう言った。

 「道間に生まれた者は、すべて特殊な教育を施され育てられます。三歳までに子どもの特性が見い出され、またそれぞれに見合った教育が」
 「その中で麗星さんは特殊だったと?」
 「はい」

 俺は麗星に特異な才能があったのだと考えた。

 「わたくしは父から自由に生きるように言われました」
 「それは?」
 「はい。わたくしには、まったく道間の才能がございませんで。ただ美しいだけのつまらぬ女です。オーホホホホホ!」
 
 麗星は高笑いし、五平所が頭を抱えた。

 「ですので、道間の者としては珍しく外の世界に出ることが出来まして。高校にも通いましたし、京都大学にも! それからヨーロッパを随分と旅行したりもしました」
 「はぁ」

 俺は話の展開に理解が追いつかなかった。
 特殊な才能で俺の何かを見出したのかと思っていたのだが。

 「ああ! ヨーロッパでの楽しかった日々を思い出します! 多くの男たちと恋を語り愛し合った! あれがわたくしの青春でした!」
 「あの、その辺はまた今度ということで」
 「そうですの?」
 「はい、またお願いします」

 「あの、一つだけ宜しいですか?」
 「はい、一つなら」
 「多くの素敵な男性を知りましたが、石神様以上の方はいらっしゃいません」
 「そうですか」
 「もう一つ宜しいですか?」
 「もうダメです」
 「そうですか」

 俺たち三人はうんざりした。
 五平所は酒を煽っていた。
 大振りのぐい呑みに切り替えている。
 俺もそれを指差して、同じものを貰った。

 「そしてわたくしは「わたくしの」石神様と出会ったわけですが、わたくしはそれまで知っていた男性の方々が羽虫程度のものであったことを知りました」
 「そうですか」

 また続くのか?

 「その時、わたくしの中で不思議なことが起こりました」
 「それは?」
 「誰も知らなかった、もちろんわたくし自身も。ですので、「宇羅」も存じません」
 
 麗星の顔が変わった。

 「わたくしは、石神様のために役立つことが出来るようになりました」

 麗星はそう言った。

 「どういうことですか?」
 「わたくしには、それが分かるようになったのです。わたくし自身でも理由や何故そうするのかは分かりません。ですが、石神様をお助けすることになることは分かっております」

 何となくは分かる。
 麗星自身が意図したことではなくとも、この女は俺のために必要なことをしてくれる。
 レイが死ぬ前に、俺に秘薬を届けてくれたのもその一つだ。
 あれが無ければ、俺たちはアメリカを滅ぼしていたかもしれない。
 しかし麗星は、どのようなことが俺たちに起こるのかは分かっていなかった。

 「もちろんそれだけではございません。石神様には一生を捧げても返せない恩義をいただきましたので」
 「別に、そんなものはありませんよ」
 「いいえ。わたくしたちに、二度と会えないと思っていた者たちを頂きました」
 「あれはルーとハーがやったことですよ」
 「そうではありません。わたくしたちには分かります。石神様が道間家のことを思って下さったので、あの者たちもここにまた来れたのだと。そのようなことが分かる者が、道間には居ります」
 「……」

 麗星と五平所が深々と頭を下げた。

 「もういいですよ。話を戻しましょう。俺の血がどうしてレイラを変貌させたと麗星さんはお考えですか?」
 「恐らくは、石神様がその女性へ抱いたお気持ちと、その女性が石神様に抱いた気持ちがそうさせたのだと」
 「それは?」

 麗星も酒に口を付けた。
 何かの決意をしているように見えた。

 「石神様は、その少女をお好きになられましたね?」
 「それは……」

 レイに似ていた。
 そのことで、俺が特別な感情を抱いたのは確かだ。

 「そして少女も石神様を。その心の交錯が、少女の中に石神様の中にある大黒丸の器官に似たものを形成したのかと」
 「そんな!」
 
 俺は驚愕した。

 「もちろん、ごく小さなものでしょう。しかしそれでもあの大黒丸のものです。途轍もない変貌を遂げさせたのだと思います」
 「俺の血の中に、それをさせるものがあると?」
 「さようでございます。ですので、万一敵に御身の血や身体の一部が渡ったとしても、今回のようなことは起こりません。愛情の交錯が無ければ、石神様に害を為すことは出来ないでしょう」
 「そうか……」
 「ですが、石神様が愛し、その者も石神様を愛するのならば」
 「また同じことが起きると」
 「はい」

 麗星は俺を見詰めていた。

 「その力は、また同じように破壊に向かうと思いますか?」
 「それは分かりません。ですが並みの者であれば、石神様の嵐のようなお力に振り回されることもあるかと思います」
 
 麗星はそう言った。

 「もう一つ。レイラが数ヶ月で衰弱したのも、俺の力のせいですか?」
 「そうではないと思います。少女は自分で自分を滅ぼしたかったのかと」
 「それは自分の罪悪感のせいですか」
 「その通りでございます」

 俺を愛するが故に力が発動し翻弄され、俺を愛するが故に自滅していく。

 「何かそれを止める方法は……」
 「卑小な人の身では難しいかと。石神様が御身を他の者に渡さぬことが一番と思いますが」
 「そうですね」

 「それと、わたくしと契って下さい」
 「それが何か力の譲渡を軽減させるんですか!」
 「いいえ。わたくしの希望ですが?」

 「「「……」」」

 五平所が麗星の頭を引っぱたいた。
 結構強かったらしく、麗星がしばらく頭を撫でていた。

 「部長!」

 それまで黙って聞いていた一江が言った。

 「私に、蓮花さんの所で撮ったMRIとCTの画像を調べさせていただけませんか?」
 「あの俺の全身の断層画像かよ」
 「はい。何か発見出来るかもしれません」
 「まあ、お前なら任せてもいいけどな。でもチンコだけでもいいんじゃないか?」
 「全身下さい!」
 「そお?」
 「はい!」

 「あの、オチンチンはわたくしに」

 五平所が麗星の頭をぶん殴った。






 話は一通り終わった。
 俺たちは話題を変え、楽しく飲んだ。

 「ああ、麗星さん。俺に言ってくれればいいから、今後は早乙女にたかるのはやめてもらえませんか」
 「ああ!」

 「あいつは結構金はありますが、俺のとばっちりで利用されるのはどうも」
 「はい。でも、あの方は石神様のために何かするのは、大きな御歓びのようですよ?」
 「まあ、そうかもしれませんが」

 麗星はそのことを分かって、いつも早乙女を巻き込もうとするのか。

 「いつも早乙女さんは石神様のことを思っていらっしゃいます。わたくしも早乙女さんのような方は好ましく思いますので、つい機会があればと」
 「そうですか」
 「はい」
 「麗星さんも助かりますしね」
 「はい!」

 嬉しそうに笑う。
 そちらも本心のようだ。
 早乙女のような純真な人間にたかるのが楽しいのだろう。
 俺は一江に言い、タブレット端末を持って来させ、早乙女の動画を麗星たちに見せた。
 麗星と五平所が大笑いする。

 「楽しい方ですね」
 「ええ。酒のつまみに丁度良くて。毎週みんなで観ています」
 「本当に」
 「結婚式で、こいつの詩に曲を付けて、うちの子どもらと演奏してやったんですよ」
 「それは!」

 「早乙女が気絶しましてね。一時動画のアップが無くなりまして」
 「残念でございます」
 「でも、最近また始めたんですよ。俺がしょっちゅう楽しみにしてるんだって言ったらです」
 「オホホホホホホ!」
 「ワハハハハハハ!」

 麗星と五平所がまた大笑いした。

 「何でサングラスしているか分かりますか?」
 「いいえ?」
 「自分が浜田省吾にそっくりだって思ってるんですよ。それはあいつの唯一の自慢のようで」

 俺以外の三人が大爆笑した。
 五平所もハマショーは知っているようだった。

 「そう言えば、早乙女様にご結婚のお祝いを差し上げていませんでした」
 「お屋形様、すぐに用意いたしましょう!」

 五平所も早乙女が気に入ったようだった。

 「「霊破」はダメですよ!」
 「そうですか?」

 あぶねぇ。

 






 その後、麗星は童女の日本人形を早乙女に送った。
 早乙女からその件で相談された。

 「毎日、向きが変わってるんだ」
 「へー」
 「置いた棚の周りに、小さな足跡があるんだ」
 「ほー」
 「毎晩午前二時に物凄い光が出るんだ」
 「すごいね」

 毎日、霊的に悪いものを祓うものらしい。 
 そう聞いている。

 「最近、ちょっと髪が伸びたような気がする」
 「こわいね」

 俺が良いものだと言うと、早乙女は安心した。
 まあ、うちには絶対に置かないが。
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