富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アラスカ「虎の穴」基地 Ⅲ

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 その晩。
 栞と一緒に風呂に入った。
 鷹も誘ったが遠慮された。

 お互いに身体を洗い合った。
 栞が求めて来たが、俺は愛撫だけにした。

 「溜まってるんじゃないの?」

 栞が笑って言う。
 我慢すると言うと、栞が微笑んだ。

 風呂から上がり、一緒に寝た。
 俺は荷物から手紙を取り出し、栞に渡した。
 斬からのものだった。

 「栞に会う時があったら渡して欲しいと頼まれた」
 「そうなの!」

 栞はデスクで手紙を読んだ。
 俺はベッドに腰かけて読み終わるのを待った。

 途中で栞が泣き始めた。
 俺は近づかなかった。
 栞がベッドに来る。
 俺は優しく肩を抱いた。

 「おじいちゃんがね」
 「ああ」
 「すごく心配してくれてた。身体を冷やすなとか」
 「俺がこんな極寒の地に送ったけどな」

 栞が笑って俺の横腹を突く。

 「「花岡」のことは気にするなって。子どもを元気に育ててくれって」
 「そうか」
 「石神くんと幸せになれって」
 「当たり前のことを言うなって返事してくれ」

 俺は栞の肩を抱き締めた。
 栞の身体が震えていたからだ。

 「自分のせいで「業」の災禍に巻き込んで済まないって書いてあった」
 「バカだな」
 「「業」のことは自分に任せればいいってね。おじいちゃん、死んじゃうのに」
 「俺が戦うよ」
 「うん」

 栞の心は複雑に揺れているだろう。
 斬の愛情もあるが、自分をこれほどに愛しながら、もう一人の孫は敵として見ている。
 ほとんど会うことも無かっただろうが、「業」は紛れもなく栞の弟だ。

 俺たちは布団に入った。

 「おい」
 「なに?」
 「お前、流石に腹が大きくなったな」
 「そりゃそうだよ!」
 「布団に空間が出来てる」
 「しょうがないじゃない!」
 
 栞がくっついてきた。

 「おー! あったかいな!」
 「ウフフフ」

 俺たちはぐっすりと寝た。





 翌朝。
 俺が目覚めると、栞が微笑んで俺の顔を見ていた。

 「なんだよ」
 「久しぶりに石神くんの寝顔を見た」
 「今度一杯送ってやるよ」
 「うん!」

 明るい部屋の中で、枕元にアルバムが置いてあるのを見つけた。
 見なくても分かる。
 何度も繰り返し見ていることが伺えるからだ。
 俺や日本での日々の写真だろう。
 栞はここで、何百回もこのアルバムを見ていたに違いない。

 「なに!」
 「栞、愛してるぞ!」
 「なによ」

 抱き着いた俺を、栞は笑った。

 「私もよ」

 長いキスをした。
 何度もした。




 朝食は鷹が作っていた。
 桜花たちも一緒に食べるように言っていた。

 六人で食べた。
 桜花たちは鷹の料理を絶賛した。

 「お米がどうしてこんなに違うんですか!」
 「多分、浸して炊いているんじゃないかな?」
 「え、そういうものじゃないんですか?」
 「最新のお釜はね、浸す時間を短縮して炊き上げるようになっているの。だから浸してからだと逆に美味しくないのよ」
 「「「えぇー!」」」

 鷹に次々に質問していく。

 昼は俺と鷹でおにぎりとおかずを作り、六人でドライブに出掛けた。
 夕べは俺がいるので、桜花たちの護衛も外していた。
 ハンヴィーを借りて、基地の外へ出る。
 広い雪原でハンヴィーを止め、車の中で食事をする。

 「何もねぇなー」
 「そういうとこに石神くんが送ったんだからね!」
 「アハハハハハ!」

 基地に戻り、みんなで紅茶を飲んだ。
 俺は月岡に会いに行き、栞と鷹を二人にした。
 いろいろ話したいこともあるだろう。

 月岡から工事の進捗と、膨大な記録写真のデータを預かった。

 「順調なんですが、何かあったら仰って下さい」

 月岡には工事全般の管理を任せている。

 「それで、あの方たちには会って行かないんですか?」
 「今回はいいよ。今はやることやってへたばってるだろう?」
 「そうなんですけどね」
 「また起きてもらうことになる。その時だな」
 「分かりました」

 急ピッチで仕上げるにあたり、俺は四人の人間に力を借りていた。
 どいつも変わり種だが、能力は非常に高い。

 「千両がよ、話すたびにお前のことを聞いて来るんだ」
 「はい」
 「ちゃんとやってるか、元気にしてるかってな」
 「そうですか」

 「死にそうだったって言っとくな」
 「なんでですか!」
 「そうすりゃ、飛んでくるかもしれねぇだろう」
 「石神さん……」

 「お前をこんな世界の果てまで飛ばして悪かったな。千両の傍にいてぇだろうに」
 「いえ、自分は石神さんのためにやりたいです」
 「ありがとうな」

 俺たちは握手をした。

 「まあ、そのうち千両たちも連れて来るよ」
 「アハハハハ」
 「あの動じねぇ千両が口開けて驚く顔が見てぇな!」
 「はい! 是非!」

 「またあいつは「いい冥途の土産が」なんて言うのかな」
 「しれませんね」
 「あいつ、ちょっと暗いんだよなぁ!」
 「アハハハハハハハ!」

 


 俺は栞の部屋へ戻った。
 栞と鷹は風呂に入っているようだった。

 少し早いが、俺は夕食の準備をする。
 また桜花たちが手伝おうとするので追い払った。

 「今日は俺が作る」

 すき焼きにする。
 シイタケが無かったので、エリンギを用意した。
 焼き豆腐が無かったので少し考えたが、ジャガイモを入れた。
 ご飯は鷹が言ったように、浸さずに炊いた。

 また六人で食べた。

 「すいません、シイタケも焼き豆腐もなくて」
 「アラスカ風だぁ!」

 みんなで笑った。
 ご飯が美味しいとまた桜花たちが喜んだ。
 当たり前だと言っておいた。
 鷹、ありがとう。

 食事を終え、俺と鷹は帰る支度をした。
 栞は下まで送ると言ったが、俺が泣くから辞めろと言った。

 「また近いうちに来るからな!」
 「うん!」
 「だからもう暴れんじゃねぇぞ!」
 「アハハハハハ!」

 栞は泣いていた。
 桜花たちが栞の肩を抱き寄せていた。




 ターナー少将に送られ、また基地の外へ出た。

 「鷹! じゃあ来た時よりも上空を飛んでみよう!」
 「はい!」

 鷹は来た時よりも嬉しそうに笑った。
 美しい鷹と、夜空を駆け抜けた。
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