富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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NY Passion

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 火曜日。
 今日、明日出勤すれば、また9日間の休暇だった。
 一江から先週の報告と、連休中の部下たちの予定を聞いた。

 「お前と大森もいつか連れて行くからな」
 「はい、お願いします」

 声を潜めて話した。

 「じゃあ、宜しく頼む」
 「はい!」

 一江が笑顔で答えた。
 こいつの笑顔は少々きつい。
 俺は一江に精一杯微笑みかけた。
 俺の中で激しい抵抗があったが、「こいつは仲間」と自分に言い聞かせた。
 先日、ロボの「あーん」によって、こいつの愛が俺に向いていることを知ってしまった。
 自分でもその気持ちには気付いていないようだ。
 今まで散々「ブサイク」とからかって来たが、悪いことをしたと思っている。
 好きな異性からそんなことを言われて、傷ついていたかもしれん。

 でも、やっぱり一江の顔はきつい。
 とくに笑顔は俺の罪悪感と絡まってますますきつい。

 「すまんな」
 「いいえ!」

 いっそうきつい顔になってしまった。

 俺は響子の部屋へ行った。
 響子はいつも以上にご機嫌だ。

 「タカトラー! 愛してるよー!」
 「アハハハハハ」

 響子が抱き着いて来る。
 カワイイ。
 俺の心が素直に響子を抱き締め、頬にチュッチュしてやる。

 旅行の話は俺が絶対にするなと言ってある。
 二人で喜びのジルバを踊った。
 六花が疲れるからやめろと言う。
 その六花も笑っていた。
 こいつの笑顔は飛びっきりで美しい。

 「響子の荷物は準備しているか?」
 「はい。もう急かされまして。今日すぐに送っています」
 「そうか」

 響子は興奮している。
 俺に笑いながら抱き着き、俺の身体をペタペタと触りまくる。

 「おい、あんまり興奮すると熱を出すぞ」
 「えー」
 「熱が出たら連れて行けないからな」
 「やだよー!」

 響子が俺から離れて寝る。
 手を伸ばして俺に抱き締めろと合図する。
 俺は笑って抱き締めてやった。

 「大人しくしていろよな。六花の言うことを聞いてな」
 「うん!」

 頭をポンポンして部屋を出た。




 今日明日はオペの予定を入れていない。
 俺がいなくなるので、術後の対処が出来ないためだ。
 他も同様で、オペは珍しく数件しかなかった。
 比較的簡単なものだけだ。

 俺は鷹を誘って昼食に出た。
 マグロの店に行く。

 「鷹は麗星とあまり話したことは無いよな?」
 「はい」
 「まあ、話さないでいいからな」
 「ウフフフフ」
 「鷹の良さは落ち着いた所にある。あいつの傍若無人が伝染すると不味い」
 「そうですか」

 「ああ、それと旅行中はアフロにしろよな」
 「嫌です」
 「何でだよ。俺が大好きなのに」
 「いつも笑ってますけど」
 「面白いから好きなんじゃねぇか」
 「酷いです」

 二人で笑った。
 
 鷹はよく栞に会いに行ってくれていた。
 最初は俺の同行を必須にしていたが、一人での「飛行」も問題ないと判断した。
 何しろ、鷹について来れる奴はいない。
 攻撃手段が無いのだ。

 念のため、毎回コースを変えるようには指示している。

 「よく笑うようになったんですよ?」

 誰が、とは言わずに鷹が言った。

 「幸せだからだろう」

 俺がそう言うと、鷹が微笑んだ。
 鷹は週に一度は行っているらしい。
 向こうでの滞在時間は数時間程度にしている。
 栞と話し、士王をあやす。
 それが鷹にも幸せな時間になっている。
 最初は俺を巡って多少諍いもあった。
 しかし、今では二人は互いを欲している関係となった。

 栞は鷹を頼りにし、鷹は自分が出来ないことを栞に託している。
 二人の女の愛を受けて、士王も幸せな時間を過ごしていることだろう。

 俺は月に一度程度しか行っていない。
 俺の動向を見張っている人間がいるかもしれない。
 鷹と同じく、俺を追える奴はいない。
 しかし、どこから栞と士王の居場所を掴まれるか分からない。
 今回はロックハート家への訪問の態だ。
 まあ、もうアラスカの基地が判明しても問題ない。
 完成まではしばらくかかるが、あそこを攻撃できる存在は地球上でほとんどないだろう。
 本格的な霊的防衛はこれからだが、今でも無策ではない。

 俺たちは病院へ戻った。

 俺は部下たちに論文を読ませ、講習会のようなものを開く。
 実際の事例を見せて、部下たちにオペの方針を立てさせる。
 蓮花の研究所のような、仮想現実の装置があれば、こういう指導も格段に進むだろう。
 やって出来ないことではない。
 しかし、技術的に現行のレベルを超え過ぎているので実現は出来ない。
 一江や大森には使えるかもしれない。
 まあ、蓮花の仕事が一段落したら考えよう。
 しばらく先になりそうだが。

 その蓮花の研究所では、戦闘訓練以外に仮想現実のシステムが実働している。
 ロボット工学や医療・生物分野での学習だ。
 100人程の研究所員が全員相当なレベルになっている。
 ブランの中にも優秀な人間が出て来ている。
 今後は人を増やしたいところだが、俺たちの秘匿性の高さがネックにもなっている。
 蓮花はAIロボットの活用を試みているが、やはり人間が欲しい分野もある。
 特にロボット工学、AIの専門家が欲しいところだ。
 これも今後の課題だ。




 俺たちは二日を無事に終え、金曜の夜にうちに集合した。
 全員早めに休み、翌日の6時に出発した。
 ハマーに俺、響子、六花、鷹、子どもたちと柳、ロボが乗り込む。
 響子はいつものベッドで寝ている。
 こいつに6時起きは期待していない。
 寝かしたまま抱き上げ、そのままハマーのベッドに入れた。

 二時間ほどで横田基地に着いた。
 ゲートで最敬礼で迎えられ、すぐに中へ入る。
 ジープが先行し、俺たちを滑走路へ案内した。

 銀色に輝く俺たちの機体「TIGER FANGS(虎の牙) TFPrt01」が既に離陸の準備をしている。
 コクピットにいた二人が席を離れて俺たちに挨拶に来た。
 ブランの二人で、青嵐と紫嵐だ。
 「TIGER FANGS」の操縦を熟知し、また機械工学全般のエキスパートだ。
 
 「石神様、皆様、お待ちしておりました」
 「ああ、青嵐、紫嵐、今回は宜しく頼む」
 「はい! お任せ下さい!」

 俺たちの荷物は既に積み込んである。
 響子のポッドの準備をした。
 
 二メートル×一メートル、高さ一メートルのスチール製の筐体だ。
 中にゲル状の物質が入っており、響子をGから守る設計になっている。
 柔らかなビロードの生地が響子の身体に合わせてくり抜かれたようになっており、響子はそこへ沈み込む。
 身動きは取れなくなるが、まあ、1時間もかからない。
 ウトウトしている間に着く。

 全長30メートル、幅20メートル、高さ10メートル。
 先端は尖っているが、ほぼ長方形の機体だ。
 揚力は必要ない。
 プラズマジェットで上に上がり、そのまま推進する。
 不格好だが、デザインは今後だ。
 今は機能だけで構築した。

 内部は下が貨物スペースになっており、その上に居室空間がある。
 一度巡航飛行になればGは無いので、俺たちは食事をした。
 ルーとハーが作ったサンドイッチやスープなどだ。
 軽食だが、別に構わない。
 向こうに着けば、ロドリゲスが待ち構えてくれているのだ。

 機体に窓は無い。
 青嵐たちが、でかいディスプレイに外の景色を映してくれた。
 成層圏を飛行しているので、上は暗い宇宙空間だ。
 下は広大な太平洋が拡がっている。
 時々雲海が映り、美しい景色にみんなが見惚れた。

 退屈することもなく、俺たちは聖の「セイントPMC」の敷地に降りた。
 予想よりも遙かにGの影響を感じなかった。





 「トラ!」
 「聖!」

 俺たちはニューヨークに降り立った。
 全員が歓声を挙げた。 
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