富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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挿話: 魔法陣ブルブル

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 少し遡る、昨年の10月のある土曜日の朝。
 俺を双子が起こしに来た。

 「タカさーん! 朝ですよー!」
 「朝食、もうすぐですよー!」

 俺は笑ってお尻を見せろと言った。
 二人とも笑いながら、ペロっと見せてくれた。

 「よし! 今日も良いお尻だな!」
 「「うん!」」

 朝食を食べ、コーヒーを飲んでいると、双子が傍に寄って来た。

 「タカさん」
 「なんだ?」
 「あのね、ちょっと夕べハーと話してたんだけど」
 「うん」

 「『魔法少女リリカルなのは』とかでさ、魔法陣みたいの出るじゃん」
 「ああ、出るな」
 「『オーバーロード』なんかだとさ、もうでっかいのが空に浮かんだりするじゃん」
 「ああ、でっかいな」
 
 「「あれがやりたい!」」
 「あ?」

 「花岡」の技を撃つ時に、ああいう視覚効果的なものをやってみたいと言う。
 まあ、気持ちは分かる。
 別に俺たちは技名を叫んで「花岡」をやってるわけじゃない。
 「虚震花」にしろ「ブリューナク」にしろ、黙って動いて撃ち出す。
 大体いちいち叫んでいたら敵にも分かってしまう。
 それに呼吸の問題もある。

 「それでさ。光子を操ってみたら、こんなのが出来た」

 ハーが空中に「ロボちんちん」と描いた。

 「ニャ!」

 ロボが慌てて自分の股間を見た。
 何も無いので安心したのか、ペロペロする。

 「ほう! 面白いな」
 「ね! ちょっと追及してみてもいい?」
 「ああ、やってみろよ」
 「「うん!」」

 その日から、密かに双子の研究が始まった。




 
 「直線の描き方が分かった!」
 「円陣ができたよ!」

 たまに、俺に報告に来て、目の前で見せてくれる。
 亜紀ちゃんは興味なさそうに、何やってんだかと言っていた。

 そのうちに、俺にまた相談に来た。

 「タカさん。何かカッコイイ文字ってないかなー」

 俺は欧文の幾つかのフォントを見せてやった。

 「こんなのもあるぞ」

 俺はルーン文字を見せた。

 「アングロサクソン・ルーン文字って、カッコイイよなぁ」
 「「そうだね!」」

 気に入ったようだ。
 その他にも日本の神代文字の阿比留文字や出雲文字などを書庫から資料を持って来て見せた。

 「ヒエログリフもあるし、古代文字ってロマンよな!」
 「「うん!」
 「それに「魔法陣」ったってよ。本格的なものからデザイン性のいいものまでいろいろあるんだ」

 面倒なので、俺は双子を書庫に連れて行った。
 書庫のでかい年輪のテーブルに次々に資料を持って来て見せる。
 ユダヤ教のセフィロトからエリファス・レヴィの集めたもの、膨大な蔵書を開いて見せた。

 「それによ、今のデザイナーが作るものなんかもカッチョイイんだぞ」
 
 俺はPCを立ち上げて画面でいろいろと見せた。

 「あ、これいいよ!」
 「こっちもいい! 円陣からはみ出るのもアリだね!」
 「円が多いけど、三角とか多角形のもいい!」
 「対称性が無いのも邪悪な感じでいいじゃん!」

 二人は大興奮だった。
 俺も一緒になって騒いだ。
 まったく、こいつらと話すのは楽しい。




 その後、双子がデザイン画を描いて俺に見せるようになった。
 俺がカッチョよさを追求してアドバイスしていった。
 図形が複雑な分、それを空中に展開するのは非常に困難だった。
 だが、途中から双子が「解析」し出して、そこから急速に展開図形の方面で進んだ。
 その間にも三人であれこれと話し合った。

 一年半後。
 俺たちは完成を遂げた。
 双子が大好きなファミマの「メロンミルク」(ちょっと高い)の飲み放題とファミチキ食べ放題で祝った。




 双子とロボを連れて竹芝桟橋に行った。
 今日はまた細川に猪鹿コウモリを誘ってもらい、早乙女夫婦も誘った。
 皇紀は忙しいので、亜紀ちゃんだけを誘った。

 「え、別にいいですよ」
 「そんなこと言わずにさ」
 「なんか、「花岡」を汚しているような」
 「魔法陣効果でオッパイが大きくなるかもよ?」
 「行きます!」

 鷹や響子、六花も誘った。
 季節外れの花火大会のようなものだ。
 響子のために花火もちょっと持ってった。

 ハマーで竹芝桟橋に着くと、細川と猪鹿コウモリが待っていた。
 満月が綺麗な晩で、雰囲気は最高だった。

 「今日は新技を見せていただけるとか!」
 「ええ、楽しみにして下さい」
 
 猪鹿コウモリがもう興奮状態だった。
 早乙女が挨拶する。

 ロボがいつもの「ばーん」をやった。
 みんなでロボを褒め称える。
 ロボは喜んでジルバを踊った。

 「じゃあ、次はルーとハーの新技を!」

 俺は合図し、ルーとハーが構える。
 一人では出来ない。
 制御が上手いハーが魔法陣を描き、ルーが「槍雷」を撃つ。
 そういう段取りだった。

 ハーが直径10メートルの魔法陣を展開する。
 全体に赤く光る円陣に、様々な文字や図形が組み込まれていく。
 超カッコイイ!
 その中心に向かってルーが「槍雷」の特大なものをぶちかました。
 同時にやったのは初めてだ。
 俺たちはハーの魔法陣の見事さを確認しただけだった。

 太い「槍雷」が伸びて行く。
 なんかおかしい。
 魔法陣の向こう側で、太さが数百倍にもなった。

 「おい!」

 双子も驚いている。



 時空が裂けた。



 海上に巨大な裂け目が出来た。
 その向こうから、棘のびっしり生えた超巨大なタコの触手なようなものが出て来た。
 一瞬見ただけで分かった。
 あれは相当ヤバい奴だ。

 「亜紀ちゃん! みんなを守れ!」
 「はい!」
 「ロボ! 最大の「本気ばーん」だ!」
 「にゃ!」

 俺は躊躇せずに最大秘奥義の一つ「グングニール」を撃った。
 アメリカ西海岸でやったものよりも大きい。
 巨大な触手が千切れてぶっ飛んで行った。
 亜光速のはずだ。
 
 後ろでロボが巨大化していた。
 みんなが驚いて見ている。
 全長10メートルにもなったロボの尾が割れ、巨大な弧電で辺りが真昼のように輝いた。
 そして何も見えなくなった。

 衝撃波が来て、六花が響子を守り、亜紀ちゃんは猪鹿と細川を守り、双子が早乙女たちを守った。
 俺は前に出て全員を守る。

 闇が戻り、時空の裂け目は消えていた。
 ロボも元のサイズに戻っていた。
 荒い呼吸をしている。
 ロボの背を撫でてやった。
 
 「タマぁ!」
 「どうした、主」
 「俺以外の全員の「魔法陣」に関わる記憶を消せ!」
 「分かった」

 タマの身体が光り、全員が記憶を改竄された。
 ロボの「ばーん」を見に集まったことになった。

 六花が響子と花火を始めた。
 柳と双子も加わって楽しそうだ。

 「タカさん、綺麗でしたね!」
 
 亜紀ちゃんが俺に近づいてそう言った。

 「そうだな」
 「アレ?」
 「どうした?」
 「お月さまになんか……」

 俺も月を見上げた。
 月の表面に、何か黒い紐のようなものがある。

 「……」

 みんなが月を指差して見た。

 「じゃあ、今日はそろそろ解散にするかー!」
 「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」




 後日。
 NASAが月に小惑星が衝突したことを発表した。




 「ねぇ、タカさん」
 「あんだよ」
 「『魔法少女リリカルなのは』とかさー」
 「あ?」
 「魔法陣ってカッコイイじゃない」
 「そうだな」
 「「花岡」の技を出す時にね」
 「やめとけ」
 「え?」
 「俺たちの「花岡」を汚すな」
 「「はーい」」




 俺は魔法陣関連の書籍を仕舞った。
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