富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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亜紀ちゃんとドライブ Ⅲ

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 午後5時になっていた。
 城ケ崎は近いが、問題はハラペコ大将だ。

 「柳たちは電話しとけばいいけど、俺たちは何を喰おうか」
 「前に来た時にはサンドイッチでしたね」
 「そうだったな。紅茶とな」

 「なら、ハンバーガーでどうです?」
 「ああ、そうするか」

 亜紀ちゃんがスマホで探す。
 
 「あ、ここにしましょう」
 
 俺に、綺麗な洋館のような店の写真を見せた。

 「シュークリームみたいなバンズですよ」
 「じゃあ、小さいのかな」
 「そうかもですね」

 亜紀ちゃんが電話した。
 ハンバーガーの種類を聞いている。
 復唱して俺にも聞かせる。

 「じゃあ、俺は甘辛ホタテと……」

 亜紀ちゃんが自分の分と合わせて注文した。

 「全部を20個ずつで、甘辛ホタテとスモークサーモンとカレーチキンは40個ずつ」
 「……」

 「え? 本当ですよ! 絶対に買いに行きますから!」

 なんか怒って電話を切った。
 全部で240個だ。
 
 20分後に店に行くと、半分くらいしか用意出来て無かった。
 材料の関係で、全部は出来ないと言われた。

 15分待ってくれと言われ、俺たちはサービスでバニラアイスのサンドを貰った。
 15分後にまだ出来ないので、亜紀ちゃんがキレそうになった。

 「ハッシュドビーフを二つくれ。それとアイスティー」

 亜紀ちゃんが多少収まった。
 ガツガツと食べた。
 まだ鬼顔だったので、俺の分もやった。

 「悪いんだけどさ。水差しに氷を入れて、アイスコーヒーを目一杯入れてくれ。水差しごと買うから。ああ、グラスも二つ」
 「いえ、それはちょっと」

 亜紀ちゃんがまた鬼顔を見せる。
 店員が黙って頷いた。

 結局30分後に店を出た。
 亜紀ちゃんはニコニコだ。

 「早く行きましょう!」
 「おう」

 俺はぶっ飛ばした。






 車を停め、前に来たベンチに亜紀ちゃんと座る。
 前は真冬だったが、今日は真夏だ。
 だが、陽が翳り海風が吹いて、ベンチは涼しかった。
 亜紀ちゃんはハンバーガーを取り出してテーブルに並べた。
 その時、強い風が吹いてハンバーガーを飛ばした。

 亜紀ちゃんが瞬間に動き、5つのハンバーガーを全部掴んだ。

 「危なかったですね!」
 「おう」

 袋から取り出しながら食べようと言った。
 俺が水差しからアイスコーヒーを注ぐ。

 夕暮れて行く海が綺麗だった。


 「懐かしいですね」
 「そうだな」

 二人でハンバーガーを食べながら海を見詰めた。

 「甘辛ホタテ、美味しいです!」
 「そうだな!」
 「流石タカさんの見立てですね!」
 「凄いな!」

 亜紀ちゃんはガンガン食べて行く。
 俺は5つも食べると、満足した。
 ニコニコしながら食べている亜紀ちゃんの頭を撫でる。
 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。

 「毎日ここに来ましょうか」
 「ばか」

 散歩に来た人たちは、暗くなるといなくなった。
 俺と亜紀ちゃんだけが残った。
 
 亜紀ちゃんが全てのハンバーガーを喰い尽くした。

 「満足か?」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが俺の肩に頭を寄せた。

 


 「なあ、亜紀ちゃん」
 「はい」
 「俺の今朝の夢な」
 「はい」
 「嫌な予感がするんだ」
 「え?」

 亜紀ちゃんが頭を離して俺を見た。

 「俺があんなに脅えるのは、何かを感じているからなんだ」
 「じゃあ、私たちが!」
 「いや、そうではないと思う」

 亜紀ちゃんが俺の手を掴んだ。

 「じゃあ、誰が?」
 「分からない。でも俺たちの大事な人間だと思う」
 「そんな……」

 「亜紀ちゃんたちであった可能性もある。でも、俺が全員に話したから、もうそうではない」
 「どういうことです?」
 「運命は巡る。必ずな。でも最初の予定とは限らない。しかし、必ず巡る」
 「それじゃ」
 「喪えば、俺が死にたくなるような人間ということだ」
 「!」

 亜紀ちゃんの俺の手を握る力が強くなった。

 「俺が最も結婚したいと思っている人間」
 「響子ちゃん!」
 「違う」
 「え! じゃあ誰ですか!」
 
 「御堂だ」
 「はい?」
 「冗談だ」

 亜紀ちゃんが手を放し、俺の肩をポコポコした。

 「タカさん! 私一生懸命に考えてたのに!」
 「いや、ちょっと真剣な雰囲気って苦手でよ。子どもの頃からな」
 「ばかー!」

 俺は笑って真面目な話だと言った。

 「御堂はな、両性具有なんだ」
 「え!」

 「冗談だ」

 亜紀ちゃんがまたポコポコする。

 「タカさん!」
 「待てって! 本当にちょっと今は真剣な雰囲気が嫌なんだ! お前たちが死んじゃったんだからな!」
 「もう!」

 俺は今度こそ真面目な話だと言った。

 「亜紀ちゃんたちは、狙おうったってもう難しいよ。だから、戦闘力が無く、しかも俺に多大なショックを与える人間が狙われる」
 「だから御堂さんですか!」
 「ああ。蓮花もそうだけど、あそこは防備が硬い。それは「業」も知っている。だからな」
 「でも、御堂さんの家も防衛システムがありますよ?」
 「そうだ。しかし、一度あそこは狙われて、戦力を測られている。多分、次の攻撃は行けると考えている」
 「そんな!」

 亜紀ちゃんが驚いている。

 「もちろん、前回も全てを見せたわけではない。それに、切り札もある」
 「オロチですか?」
 「それもあるが、また別なものだ」
 「それって!」
 「ここでは口に出来ない。でも、もしもの場合には必ずな」
 「分かりました」

 俺は亜紀ちゃんを抱き寄せた。

 「他の子どもたちには言うな。特に柳にはな」
 「はい!」
 
 亜紀ちゃんがまた、俺の肩に頭を預けた。

 「恐らく、今度はジェヴォーダンが来る」
 「え!」
 「俺たちもまだ知らない、陸戦タイプだ。タマがシベリアで観たらしい」
 「そうなんですか」

 「そう遠くない日だ」
 「来月は御堂さんの家にも行きますよね」
 「ああ、その時は来ないだろう。俺たちがいない時を狙って襲撃されるはずだ」
 「私たちの誰か、行きますか?」
 「いや、それでは俺たちが気付いたことが相手に分かる」
 「でも、危険では」
 「大丈夫だ。俺は絶対に御堂を守る」
 
 亜紀ちゃんが俺に抱き着いた。

 「タカさんがそう言うなら大丈夫ですね」
 「そうだ。何しろあの御堂だからな。俺は絶対にヘマをしない」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが俺に唇を重ねて来た。
 俺も応えてやる。

 「タカさん、何があっても私が傍にいますから」
 「ああ、知ってるよ」
 「皇紀もルーもハーも」
 「ああ」
 「大丈夫です」
 「そうだな」

 俺からキスをした。

 「何かあれば、俺たちはすぐに「飛んで」行ける」
 「はい」
 「御堂たちを守るぞ」
 「はい!」

 


 子どもたちが狙われたらと思うと、俺はまた胸が苦しくなった。
 俺があんな夢を見たのは、戦場の勘で俺が何かを捉えたからだ。
 子どもたちが死ぬということは、ジェヴォーダンだけではない、特別な奴が来ることを示している。
 しかし、その運命は避けられた。
 御堂に向かったのが感じられる。
 俺が御堂に話せば、また別な所へ運命が巡る。
 俺は自分が翻弄されて来た「運命」というものをよく知っている。
 
 (御堂の家ならば……)

 危険な戦いになるのは分かっていたが、俺はそれを引き受けた。

 (御堂、済まない。でも、必ず守るからな)

 俺は誓った。

 帰りの車の中で、亜紀ちゃんは眠った。
 今日は一日、俺を元気づけるために気を張っていたのだろう。
 静かに寝息をたてている、美しい娘を見た。

 「ずっと俺の傍にいろよな」

 小さく呟くと、亜紀ちゃんが笑った。
 いい夢を見ているらしい。

 「亜紀ちゃん、カワイーぞー」

 俺が呟くと、寝ながら笑った。

 「エヘヘヘヘ」

 


 俺も笑った。 
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