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御堂家の癒し
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中央自動車道の途中のサービスエリアに寄った。
そろそろ、俺も腹が減ったためだ。
子どもたちも、「食事」の気配で起きて来る。
駐車スペースから、食事コーナーへ歩く。
さっき朝食を食べたばかりだが、子どもたちが嬉しそうだ。
俺は亜紀ちゃんにカレーを頼み、好きなように食べろと言った。
亜紀ちゃんのいつもの陣頭指揮で、子どもたちが各売り場へ買いに行く。
大量の食事が集まる。
「タカさんはいつもカレーですよね?」
亜紀ちゃんが争って食べながら言った。
「ああ、間違いないからな」
「そうですね。大体はうちでいつも食べてるものに比べると」
「お前ら、俺へ感謝しろ」
「はい!」
亜紀ちゃんが持っているケバブが美味そうだった。
「おい、俺にもくれ」
亜紀ちゃんが振り向くと、もうそれが最後の一個だった。
亜紀ちゃんは後ろを向いて、思い切りケバブに喰いついた。
シッポしか残ってねぇ。
俺に突き出した。
「すいません、これで最後でした」
「……」
ニコニコして「食べますか?」と言う。
「てめぇ」
亜紀ちゃんは慌ててケバブを買いに走った。
再び、高速をぶっ飛ばす。
亜紀ちゃんが後ろを向いて号令を掛ける。
「じゃー! タカさんが好きな時代劇名シーンのモノマネ!」
「また私が知らないものをー!」
柳が叫ぶ。
「今度生まれるときはな、俺はお前のような人間に生まれたいと思っている」
亜紀ちゃんが目を大きく見開いて言った。
「おお、『新選組血風録』だな! 沖田総司との別れのシーンかぁ!」
「当たりですぅー!」
「ワハハハハ!」
俺もノッて来た。
「てめぇら、人間じゃねぇ! たたっ斬ってやるぅ!」
「最高だな! 叶刀舟!」
ルーが嬉しがる。
「剣を地摺り下段に構え、円を描く。円を描き切るまで立っていた者はいない」
「出たな! 円月殺法! よ! 眠狂四郎!」
「ギャハハハ!」
ハーが喜ぶ。
「この額の傷が目にへぇらねぇのかぁ!」
「カァーーー!! 旗本退屈男かよ! 来たなぁ!」
「アハハハハハ!」
皇紀が笑う。
柳が戸惑っている。
「この紋所が目に入らぬかー!」
「あー」
「あれ?」
「俺、水戸黄門って好きじゃねぇんだよな」
「またですかー!」
「またって言われてもなー」
「前に私が歌ったら、ドラエモンも嫌いって言ってましたよね!」
「ああ、そうだったな」
「なんでー!」
俺は笑った。
なんでこいつはこうも外すのか。
「だってよ。水戸黄門って、印籠一つで何でも終わらせるだろ? あんなのなぁ」
「いいじゃないですか、世直し旅!」
「あんな簡単に言ったら、この世に不幸はねぇよな」
「えーん」
由美かおるのオッパイは良かった。
御堂の家が近くなったので、柳に電話をさせた。
暑いので出迎える必要は無いと言ったが、やはり全員が外で待っていた。
ジェイたちもいる。
「みなさん、暑い中をすみません!」
「ようこそ、石神さん、みなさんも」
正巳さんが真っ先に言ってくれた。
全員が挨拶する。
俺は子どもたちに荷物を降ろさせ、オロチを見に言った。
御堂も一緒に来る。
「大分良くなっているんだけどな」
「そうか」
庭を回ると、干し草を敷いた上にオロチが横になっていた。
俺が近付くと、首を持ち上げる。
「おい、無理するな」
俺は頭を抱いて楽な姿勢にさせた。
オロチは舌を出し入れし、喜んでいるようだ。
軒下からニジンスキーたちも出て来る。
しゃがんだ俺の足元に集まった。
一匹ずつ、頭を撫でてやる。
「オロチ、調子はどうだ?」
オロチは俺に顔を向け、腹を見せた。
傷痕はまだあるが、全て塞がっている。
「御堂、食欲はどうだ?」
「ああ、まだそれほどは無いかな。毎日食べてはいるんだけど」
「そうか」
オロチが横になっている周囲には、水が回されている。
側溝を組んでくれたようだ。
水が周っているので、涼しい。
エサは御堂たちが、生肉を食べさせているらしい。
もちろん、卵もだ。
排泄物も掃除されていて、清潔だった。
「じゃあ、また何日かいるからな! 後でな!」
俺は御堂と家の中に入った。
子どもたちは荷物を運び終え、座敷に集まっていた。
冷たい麦茶を頂く。
「石神さん、また一杯お肉とか頂いてしまって」
澪さんが恐縮して言う。
「とんでもない! こいつらが毎回どれだけ食べやがるのか!」
御堂家の皆さんが笑う。
今回は肉を200キロ持って来た。
冷蔵の容器に入れているので、コンセントをさせばそのままでいい。
御堂家の大きな冷蔵庫でも入りきらないためだ。
一休みし、子どもたちは食事の準備を始めた。
天ぷら蕎麦だと聞いている。
俺は御堂に話があると言った。
「じゃあ、僕の部屋で聞こう」
御堂と二人で部屋を出た。
御堂の部屋で俺は、麗星から聞いた親父のことを話した。
すぐに電話で話さなかったのは初めてのことだ。
直接、御堂を前に話したかった。
「そうだったのか」
「ああ、情けないが、俺もまだ心の整理が出来ていないんだ」
「うん。でも、僕も前に石神から聞いた時に、おかしいとは思っていたんだ」
「そうか」
「石神を育てた人なんだろう? だったらやっぱりおかしいよ」
「そう思うか」
「もちろんだ。突然裏切るような別れ方をするなんてね。でも何も分からないから、今までは黙っていたんだ」
御堂は俺を見ていた。
「石神、良かったな」
「ああ、まあな」
「ずっとお前は苦しそうだったよ」
「そうか」
「これでやっとお前も親父さんのことを思い出せる」
「……」
「お母さんと一緒にな」
「御堂……」
御堂の言う通りだった。
俺はお袋のことを思い出すたびに、親父のことも思い出して苦しんでいた。
「子どもたちは知っているのかい?」
「いや、亜紀ちゃんだけだ」
「そうか。すぐじゃなくてもいい。でも、いつか話してやれよ」
「ああ、そうする」
御堂が優しく微笑んでいた。
その笑顔が、俺には何にも増して有難かった。
御堂は、やはり俺の親友だった。
俺の胸の裡を知り、俺に優しい赦しを与えてくれた。
俺は、やっと親父に謝ることが出来る。
御堂のお陰だ。
そろそろ、俺も腹が減ったためだ。
子どもたちも、「食事」の気配で起きて来る。
駐車スペースから、食事コーナーへ歩く。
さっき朝食を食べたばかりだが、子どもたちが嬉しそうだ。
俺は亜紀ちゃんにカレーを頼み、好きなように食べろと言った。
亜紀ちゃんのいつもの陣頭指揮で、子どもたちが各売り場へ買いに行く。
大量の食事が集まる。
「タカさんはいつもカレーですよね?」
亜紀ちゃんが争って食べながら言った。
「ああ、間違いないからな」
「そうですね。大体はうちでいつも食べてるものに比べると」
「お前ら、俺へ感謝しろ」
「はい!」
亜紀ちゃんが持っているケバブが美味そうだった。
「おい、俺にもくれ」
亜紀ちゃんが振り向くと、もうそれが最後の一個だった。
亜紀ちゃんは後ろを向いて、思い切りケバブに喰いついた。
シッポしか残ってねぇ。
俺に突き出した。
「すいません、これで最後でした」
「……」
ニコニコして「食べますか?」と言う。
「てめぇ」
亜紀ちゃんは慌ててケバブを買いに走った。
再び、高速をぶっ飛ばす。
亜紀ちゃんが後ろを向いて号令を掛ける。
「じゃー! タカさんが好きな時代劇名シーンのモノマネ!」
「また私が知らないものをー!」
柳が叫ぶ。
「今度生まれるときはな、俺はお前のような人間に生まれたいと思っている」
亜紀ちゃんが目を大きく見開いて言った。
「おお、『新選組血風録』だな! 沖田総司との別れのシーンかぁ!」
「当たりですぅー!」
「ワハハハハ!」
俺もノッて来た。
「てめぇら、人間じゃねぇ! たたっ斬ってやるぅ!」
「最高だな! 叶刀舟!」
ルーが嬉しがる。
「剣を地摺り下段に構え、円を描く。円を描き切るまで立っていた者はいない」
「出たな! 円月殺法! よ! 眠狂四郎!」
「ギャハハハ!」
ハーが喜ぶ。
「この額の傷が目にへぇらねぇのかぁ!」
「カァーーー!! 旗本退屈男かよ! 来たなぁ!」
「アハハハハハ!」
皇紀が笑う。
柳が戸惑っている。
「この紋所が目に入らぬかー!」
「あー」
「あれ?」
「俺、水戸黄門って好きじゃねぇんだよな」
「またですかー!」
「またって言われてもなー」
「前に私が歌ったら、ドラエモンも嫌いって言ってましたよね!」
「ああ、そうだったな」
「なんでー!」
俺は笑った。
なんでこいつはこうも外すのか。
「だってよ。水戸黄門って、印籠一つで何でも終わらせるだろ? あんなのなぁ」
「いいじゃないですか、世直し旅!」
「あんな簡単に言ったら、この世に不幸はねぇよな」
「えーん」
由美かおるのオッパイは良かった。
御堂の家が近くなったので、柳に電話をさせた。
暑いので出迎える必要は無いと言ったが、やはり全員が外で待っていた。
ジェイたちもいる。
「みなさん、暑い中をすみません!」
「ようこそ、石神さん、みなさんも」
正巳さんが真っ先に言ってくれた。
全員が挨拶する。
俺は子どもたちに荷物を降ろさせ、オロチを見に言った。
御堂も一緒に来る。
「大分良くなっているんだけどな」
「そうか」
庭を回ると、干し草を敷いた上にオロチが横になっていた。
俺が近付くと、首を持ち上げる。
「おい、無理するな」
俺は頭を抱いて楽な姿勢にさせた。
オロチは舌を出し入れし、喜んでいるようだ。
軒下からニジンスキーたちも出て来る。
しゃがんだ俺の足元に集まった。
一匹ずつ、頭を撫でてやる。
「オロチ、調子はどうだ?」
オロチは俺に顔を向け、腹を見せた。
傷痕はまだあるが、全て塞がっている。
「御堂、食欲はどうだ?」
「ああ、まだそれほどは無いかな。毎日食べてはいるんだけど」
「そうか」
オロチが横になっている周囲には、水が回されている。
側溝を組んでくれたようだ。
水が周っているので、涼しい。
エサは御堂たちが、生肉を食べさせているらしい。
もちろん、卵もだ。
排泄物も掃除されていて、清潔だった。
「じゃあ、また何日かいるからな! 後でな!」
俺は御堂と家の中に入った。
子どもたちは荷物を運び終え、座敷に集まっていた。
冷たい麦茶を頂く。
「石神さん、また一杯お肉とか頂いてしまって」
澪さんが恐縮して言う。
「とんでもない! こいつらが毎回どれだけ食べやがるのか!」
御堂家の皆さんが笑う。
今回は肉を200キロ持って来た。
冷蔵の容器に入れているので、コンセントをさせばそのままでいい。
御堂家の大きな冷蔵庫でも入りきらないためだ。
一休みし、子どもたちは食事の準備を始めた。
天ぷら蕎麦だと聞いている。
俺は御堂に話があると言った。
「じゃあ、僕の部屋で聞こう」
御堂と二人で部屋を出た。
御堂の部屋で俺は、麗星から聞いた親父のことを話した。
すぐに電話で話さなかったのは初めてのことだ。
直接、御堂を前に話したかった。
「そうだったのか」
「ああ、情けないが、俺もまだ心の整理が出来ていないんだ」
「うん。でも、僕も前に石神から聞いた時に、おかしいとは思っていたんだ」
「そうか」
「石神を育てた人なんだろう? だったらやっぱりおかしいよ」
「そう思うか」
「もちろんだ。突然裏切るような別れ方をするなんてね。でも何も分からないから、今までは黙っていたんだ」
御堂は俺を見ていた。
「石神、良かったな」
「ああ、まあな」
「ずっとお前は苦しそうだったよ」
「そうか」
「これでやっとお前も親父さんのことを思い出せる」
「……」
「お母さんと一緒にな」
「御堂……」
御堂の言う通りだった。
俺はお袋のことを思い出すたびに、親父のことも思い出して苦しんでいた。
「子どもたちは知っているのかい?」
「いや、亜紀ちゃんだけだ」
「そうか。すぐじゃなくてもいい。でも、いつか話してやれよ」
「ああ、そうする」
御堂が優しく微笑んでいた。
その笑顔が、俺には何にも増して有難かった。
御堂は、やはり俺の親友だった。
俺の胸の裡を知り、俺に優しい赦しを与えてくれた。
俺は、やっと親父に謝ることが出来る。
御堂のお陰だ。
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