富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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御堂家の癒し Ⅸ

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 昼食はビーフカレーだった。
 俺はジャングル・マスターを誘って同席させた。

 「自分の食事は自分で作る」
 「いいから来い!」

 喰いにくいだろうが、座敷に座らせた。
 カレーが運ばれてくる。
 もう、最初の一人前は皿にルーを掛けた状態で配膳される。

 「うお! なんだこの美味そうな匂いは!」
 「いいだろ?」
 「ああ! 見た目はウン……」

 俺はジャングル・マスターの頭を引っぱたいた。

 「「「「「いただきまーす!」」」」」

 全員が手を合わせてそう言うので、ジャングル・マスターも合わせた。

 「イタダキマス」

 俺はキリスト教のプレイと同じことだと言った。

 「この食事は、当たり前に喰えるものじゃない。誰かがどうにかして、こうやって目の前に出してくれたんだ」
 「ああ、それに感謝するということか」
 「そうだ。旧い日本ではな、「一宿一飯の恩義」というのがあってな。一晩泊めてもらい、飯を食わせてもらったら、命懸けで恩を返さなきゃならない」
 「すげぇな、日本人!」
 「まあなー!」

 ジャングル・マスターがカレーをスプーンで掬い、口に入れた。

 「やっぱり美味い! 最高だぜ!」
 「そうだろう?」

 ジャングル・マスターはたちまち食べ尽くした。

 「まだ食べるか?」
 「ああ、頼む!」

 俺は笑って二杯目を作ってやった。

 「タイガー! このレシピを教えてくれ!」
 「ああ、後でメモを渡してやる。だけどな、この「カレー」にはいろいろな種類があるんだ。今回は簡単なもので教えるからな」
 「なんだと! 全部くれよ!」
 「めんどくせぇ。自分で調べろ」
 「おう!」

 市販のルーのものを教えよう。
 小学生でも作れるものを。

 子どもたちが物凄い勢いでカレーを食べて行く。
 ジャングル・マスターは横目で見ながら、自分も必死に食べて行った。
 やはりご飯が尽きた。
 澪さんがうどんを茹でて来た。

 「おい、なんだ、あのヌードルは!」
 「いいから喰ってみろ!」

 ジャングル・マスターは、また違った美味さだと言った。
 箸の使い方はアラスカで慣れている。

 「すげぇな、日本!」

 みんなで笑った。

 俺は食後に食器を片付ける澪さんに言った。

 「あいつね、確かに食事にはうるさいんですけど」
 「はい?」
 「でもね、レパートリーはそんなにないんですよ」
 「そうなんですか!」
 「だから、たまにいろいろ喰わせてやって下さい。大感激で、一層御堂家のために働きますから」
 「分かりました」
 「米も少し分けてやって下さい。ああ、最初にご飯の炊き方も教えて」
 「はい! 喜んで!」

 澪さんが嬉しそうに笑った。
 御堂家の役に立つのが嬉しいのだ。






 食事の片づけを終え、俺たちは出発した。
 御堂家のみなさん、ジェイたち、ジャングル・マスター、そしてオロチたちが見送りに来た。
 ジェイたちはみんな顔を腫らせ、足を引きずり、添木をしたり腕を吊っている連中もいる。
 子どもたちにやられたのだろう。
 幹部連中は、正装だ。
 また御堂に文句を言われている。

 「ジェイ! ここを頼むぞ!」
 「任せろ!」
 「ジャングル・マスター! うろうろしてオロチに喰われるなよ!」
 「ワハハハハハ!」

 オロチの頭を抱き、ニジンスキーたちの頭も撫でてやる。

 「亜紀ちゃん!」
 「はい!」
 「こいつらの名前、なんだっけ?」
 「もう! タカさん!」

 みんなが笑った。
 御堂家のみなさんにも挨拶する。
 柳は数日残る。

 「じゃあ、御堂。また来るからな」
 「ああ。僕も度々お邪魔するからな」
 「全然邪魔じゃねぇ!」
 「アハハハハ!」

 御堂が包装紙に包んだものを俺に渡した。
 
 「今朝やっと届いたんだ。本当は夕べ、お前と一緒に飲みたかったんだけど」
 「そうか。また機会は幾らでもあるさ」
 「そうだね」

 俺たちはハマーに乗り込んだ。

 「ロボ、いるかー」
 「にゃー」

 俺たちは出発した。





 「亜紀ちゃん、御堂に貰った包を開けてくれ」
 「はーい!」

 亜紀ちゃんが振り向いて、後の子どもたちにさっきの包みを渡すように言った。
 助手席で包みを開く。

 「ああ、お酒ですね」

 それは分かっていた。
 亜紀ちゃんが俺に箱を見せる。
 俺はハマーを止めた。

 「おい! 戻るぞ! もう一泊する!」
 「タカさん! 明日は自衛隊との演習があるんですよ!」

 シュバリエ・アポロンの「ナポレオン」だった。
 親父が大事にしていて、俺が叩き割ったものだ。

 「タカさん?」
 
 亜紀ちゃんが心配そうに俺を見ていた。
 俺は泣いていた。

 亜紀ちゃんが俺の肩を抱いた。
 後ろで子どもたちが心配そうに見ているのが分かった。

 「親父が大事にしていた酒なんだ」
 「タカさん……」

 俺は涙を拭った。

 「おし! 行くぞ!」

 俺はハマーを発進させた。
 この酒は御堂が来た時に飲もう。
 つまみは何にしようか。
 ああ、亜紀ちゃんも飲みたがるだろう。

 「おい、お前ら! この酒に合いそうなつまみを言え!」
 「え! えーと、タコワサ!」
 「ばかやろう! ブランデーだぁ!」
 「キャビア!」
 
 後ろでルーが言った。

 「おう、いいな! 他には!」
 「ハモンセラーノ、ブルーチーズ乗せ!」
 「おお! なかなか酒飲みのことが分かってるな!」
 
 ハーを褒めた。

 「ジャーマンポテト、岩塩多目!」
 「よし! 皇紀は一緒に飲もう!」

 亜紀ちゃんが必死に考えている。

 「プリン!」
 「あ?」
 「あの、ブランデーはチョコレートも合うって聞きましたので」
 
 最低のつまみだ。

 「最高だな! よし、同席を許す!」
 「やったー!」

 親父が作ってくれたプリンを用意しよう。
 まあ、合わないが、親父は笑ってくれるだろう。




 俺は親父のプリンが大好きだったからな。
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