1,216 / 3,202
挿話: 決着! 下呂シリーズ
しおりを挟む
李愛鈴が早乙女に家を与えられた二日後。
「なんだろう? なんか臭いわ」
朝に目が覚めると、部屋の中が臭う。
窓を開けて換気をしようとしたが、開けた瞬間に、強烈な悪臭がした。
慌てて窓を閉める。
「なにこれ!」
異常事態だが、襲撃にしてはおかしい。
早乙女からは何かあったらすぐに連絡するように言われていた。
そのためのスマートフォンも与えられている。
しかし、こんなことで連絡してもいいのだろうか。
早乙女から、万一の場合と言われ、ガスマスクと防疫服を説明されていた。
「俺にもよく分からないんだけど、物凄い悪臭を持つ敵もいるそうなんです。何度か親友も襲われていて、念のために渡されたんですよ」
「そうなんですか」
そんな会話をした覚えがある。
まさか、本当にこんなものを使うことになるとは思わなかった。
気が引けたが、早乙女に連絡した。
「すいません。今朝起きたら、家の外が物凄く臭くなっていて」
「なんですって!」
「これから防疫服を着ようと思うんですけど」
「すぐにそうして下さい! 俺も向かいます!」
早乙女に躊躇は無かった。
愛鈴は早乙女の強い優しさを感じた。
早乙女が到着する前に、自分で確認しておこうと思った。
何の能力もない早乙女を危険に晒したくはなかった。
悪臭以外に、何ら攻撃はない。
もしかしたら、妖魔ではない可能性もある。
「でも、こんなに物凄い臭いは……」
玄関から出た。
ドアを開けても、悪臭は感じなかった。
用意された防疫服の性能が良いのだろうと思った。
気配がある。
愛鈴は庭を回った。
驚いた。
空中に50センチほどの円盤のようなモノがいる。
やはり妖魔だったか。
《お前は石神を知っているか?》
突然、頭に声が鳴り響いた。
「知りません!」
《そうか。俺は多少、人間の心が読める。お前は確かに知らないな》
「あなたは誰なんですか!」
《俺の名前は雲国斎下呂五郎。石神に怨みを持つ者だ》
「この臭いはあなたのせいなのですか!」
《そうだ。済まなかった。お前や他の人間を苦しめるつもりは無かった。石神を探してここまで来たのだが、ここにはいないようだった》
「あの、それでしたら、どうか攻撃をやめていただけませんか?」
《攻撃ではないのだがな。でも分かった。すぐに立ち去ろう。俺の臭いはなるべく回収して行こう。迷惑を掛け、済まなかった》
「いえ、この臭いを消して下さるのなら、それで」
《人間の女よ、もしも石神の居場所が分かったら、教えてもらえないだろうか》
「それは……」
《いや、お前に迷惑を掛けるつもりはない。お前がその気になったら、「雲国斎下呂五郎」と呼んでくれれば、それで良い》
「はぁ」
そう言って、何かの光を照射した後で謎の円盤は飛び去って行った。
その少し後で、早乙女が到着した。
防疫服を着ている愛鈴に驚く。
「何をやってるんですか!」
「今、円盤のような妖魔が来ていました」
「何故外に出たんですか!」
「自分で確かめておこうと」
早乙女が怒っていた。
愛鈴の腕を掴み、玄関へ入れる。
愛鈴は早乙女に、今見た「雲国斎下呂五郎」と名乗った妖魔について説明した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
別荘で早乙女から驚く連絡を受けた。
「愛鈴さんが、「雲国斎下呂五郎」という妖魔と遭遇したんだ」
「なんだと!」
「愛鈴さんの家の庭に浮いていたようだ。監視カメラにも映っていた」
「下呂五郎と名乗ったのか!」
「そうだ。最初に窓を開けた時には、耐えられないほどの悪臭があったそうだよ」
「間違いねぇ! でも下呂四郎じゃないのか」
「ああ、そこは確かだ」
不安が的中した。
やはり、あいつは自分の臭さに耐え切れずに分裂を繰り返してやがった。
そして俺を探して、家の近くまで来た。
不在だったので、向かいの愛鈴の所へ行ったのだろう。
愛鈴が俺のことを知らなかったので助かった。
関係者だと分かれば、何をされたか分からない。
早乙女から、俺を見つけたら連絡するように言われた話を聞いた。
決着を付けねば。
俺はハーを呼んだ。
「タカさん、来たよー」
「おう! 実はな、今朝うちの向かいにいる愛鈴の所へ、「雲国斎下呂五郎」という奴が行ったようだ」
「えぇー!」
「下呂四郎ではない。下呂五郎だ」
「それじゃ、下呂四郎もいるってこと!」
「そうだ。多分、もっといるだろう」
「大変じゃん!」
ハーも焦っている。
前回は危うくやられそうだったからだ。
「ありがたいのは、あの防疫服が有効だったことだ。愛鈴が着て外に出ても、臭いは感じなかったようだ」
「そうなんだ!」
「ただ、あの「ウンコビーム」は耐えられないだろう。防疫服が瞬時に溶解して、あの激臭でやられる」
「そうだね!」
「それに、何度もこれから襲われるのは敵わん。何とか決着をつけるぞ!」
「うん!」
俺たちは燃える瞳をぶつけ合った。
「タカさん」
「なんだ」
「でも、どうして私だけに?」
「お前、ウンコの専門家じゃん」
「……」
うちの家族で最も多くのウンコ問題に関わり、一度は全身にウンコを浴びた唯一の人間だ。
「頼むぞ」
「うん」
俺とハーは作戦を話し合った。
ハーは今後作戦指揮官として有望だ。
そういう俺の意向もあった。
ルーもそうだが、こういうことは「独り」で背負う必要がある。
ルーはまた別な機会だ。
「今度は、呼べば来るってことだよね?」
「そうだな」
「じゃあ、罠が張れるね!」
「おう」
今回は俺たちに有利だ。
これまでは、突然の襲撃で俺たちが後手に回ったことが苦戦の原因だ。
「罠はタヌ吉の「地獄道」だね」
「ああ、あれでいいな」
「問題は、下呂四郎や下呂六郎たちをどうするかだよね」
「全員を呼んでもらおう」
「え!」
俺は計画を話した。
本来はハーに全てやらせたかったが、まだ本当の「ワル」にはなっていない。
「タカさん! すごいね!」
「そうだろう」
「ワル過ぎでコワイね」
「こいつぅー!」
「じゃあ、下呂温泉!」
「それはやめろ。クレームが付く」
「ん?」
「「雲国斎温泉」だ」
「ふーん」
そういうことになった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
8月下旬の土曜日。
俺たちは丹沢の訓練場にいた。
愛鈴には、ここの場所に「石神」たちが集まることを伝えてもらった。
それと。
「何かお詫びがしたいと言ってました」
《なんだと?》
「みなさんのために、特別な居場所を提供したいということでした」
《なんと!》
「これまで、みなさんは居場所に困っていたのではないかと。ですので、お詫びに、みなさんで暮らせる場所を提供したいと」
《まことか!》
「是非、みなさんお揃いでいらして欲しいと」
下呂五郎は狂喜したようだ。
仲間の復讐はどうした。
日時と場所を伝えてもらっている。
俺と亜紀ちゃん、ルー、ハーの四人が、防疫服を着込んで待っている。
タヌ吉には、特別な温泉の空間を展開してもらう予定だ。
臭気計が反応した。
「来たぞ!」
「タカさん……」
全員が驚く。
多い。
《石神! 来たぞ!》
「よくお出で下さいましたぁ!」
《お前たちはどんなにウンコ塗れにしても飽き足らん!》
「申し訳ございません!」
《だが、我らの居場所を用意すると言う心がけは買う》
「ありがとうございますです!」
《見せてみろ。まやかしであれば、すぐに我ら650体がお前たちをウンコにしてやるぞ!》
「はい! 開け!」
目の前の空間が裂け、その向こう側に風光明媚な温泉郷が拡がった。
広大な空間で、無数の家が建ち、それぞれに専用の風呂がある。
中央には300平米の巨大な大温泉が拡がっている。
「こちらであれば、皆様は距離を取りながら一緒に生活が出来ます。あの温泉は体臭を激減させる効果がございます。まあ、皆様にとってどれほどかは分かりませんが」
正直に言う。
下呂シリーズたちが驚いているのを感じた。
《気に入った! 是非使わせてもらおう!》
「御存分に」
650体の下呂シリーズが次々に空間に飛び込んだ。
先に入ったモノが、大喜びしている。
《確かに臭いが減るぞ!》
その声を聞き、疑っていたらしい残りも飛び込んで行く。
「タマ!」
「なんだ」
着物姿のタマが現われる。
「隠れている奴は!」
「3体いるな」
「よし、クロピョン! 隠れているやつらを全部放り込め!」
長い触手が3本伸び、円盤を三つ放り込む。
「タヌ吉! 閉じろ!」
「はーい」
小屋で控えていたタヌ吉が空間の裂け目を閉じた。
「クロピョン! 一帯の臭いを取れ!」
触手が無数に現われ、地面や俺たちも薙いでいく。
作業が終わり、妖魔たちも帰らせた。
「タカさん、下呂たちは、温泉で暮らすんですか?」
亜紀ちゃんが問う。
「ああ、そうだな」
「そうですかー」
ハーが気分の悪そうな顔をしていた。
こいつだけが知っている。
温泉郷はもう「地獄道」に変わっている。
あの空間ごと「地獄道」に呑み込まれ、全ての下呂シリーズが消滅したはずだ。
ハーには、汚れ仕事というものを教えた。
全員が知る必要は無い、汚い役目だ。
これから、俺たちの戦いは綺麗事だけでは立ち行かない。
それを、指揮官としてのハーに教えた。
ハーを抱き締めた。
ハーは俺の胸に顔を埋めた。
「お前、ちょっと臭いぞ?」
「臭くないもん」
「皇紀が「虎温泉」を用意してるよ」
「うん」
「みんなで入ろう」
「うん」
「もう、いねぇだろうなぁ」
「アハハハハ!」
ハーが涙を浮かべていたが、笑った。
綺麗ないい笑顔だった。
「なんだろう? なんか臭いわ」
朝に目が覚めると、部屋の中が臭う。
窓を開けて換気をしようとしたが、開けた瞬間に、強烈な悪臭がした。
慌てて窓を閉める。
「なにこれ!」
異常事態だが、襲撃にしてはおかしい。
早乙女からは何かあったらすぐに連絡するように言われていた。
そのためのスマートフォンも与えられている。
しかし、こんなことで連絡してもいいのだろうか。
早乙女から、万一の場合と言われ、ガスマスクと防疫服を説明されていた。
「俺にもよく分からないんだけど、物凄い悪臭を持つ敵もいるそうなんです。何度か親友も襲われていて、念のために渡されたんですよ」
「そうなんですか」
そんな会話をした覚えがある。
まさか、本当にこんなものを使うことになるとは思わなかった。
気が引けたが、早乙女に連絡した。
「すいません。今朝起きたら、家の外が物凄く臭くなっていて」
「なんですって!」
「これから防疫服を着ようと思うんですけど」
「すぐにそうして下さい! 俺も向かいます!」
早乙女に躊躇は無かった。
愛鈴は早乙女の強い優しさを感じた。
早乙女が到着する前に、自分で確認しておこうと思った。
何の能力もない早乙女を危険に晒したくはなかった。
悪臭以外に、何ら攻撃はない。
もしかしたら、妖魔ではない可能性もある。
「でも、こんなに物凄い臭いは……」
玄関から出た。
ドアを開けても、悪臭は感じなかった。
用意された防疫服の性能が良いのだろうと思った。
気配がある。
愛鈴は庭を回った。
驚いた。
空中に50センチほどの円盤のようなモノがいる。
やはり妖魔だったか。
《お前は石神を知っているか?》
突然、頭に声が鳴り響いた。
「知りません!」
《そうか。俺は多少、人間の心が読める。お前は確かに知らないな》
「あなたは誰なんですか!」
《俺の名前は雲国斎下呂五郎。石神に怨みを持つ者だ》
「この臭いはあなたのせいなのですか!」
《そうだ。済まなかった。お前や他の人間を苦しめるつもりは無かった。石神を探してここまで来たのだが、ここにはいないようだった》
「あの、それでしたら、どうか攻撃をやめていただけませんか?」
《攻撃ではないのだがな。でも分かった。すぐに立ち去ろう。俺の臭いはなるべく回収して行こう。迷惑を掛け、済まなかった》
「いえ、この臭いを消して下さるのなら、それで」
《人間の女よ、もしも石神の居場所が分かったら、教えてもらえないだろうか》
「それは……」
《いや、お前に迷惑を掛けるつもりはない。お前がその気になったら、「雲国斎下呂五郎」と呼んでくれれば、それで良い》
「はぁ」
そう言って、何かの光を照射した後で謎の円盤は飛び去って行った。
その少し後で、早乙女が到着した。
防疫服を着ている愛鈴に驚く。
「何をやってるんですか!」
「今、円盤のような妖魔が来ていました」
「何故外に出たんですか!」
「自分で確かめておこうと」
早乙女が怒っていた。
愛鈴の腕を掴み、玄関へ入れる。
愛鈴は早乙女に、今見た「雲国斎下呂五郎」と名乗った妖魔について説明した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
別荘で早乙女から驚く連絡を受けた。
「愛鈴さんが、「雲国斎下呂五郎」という妖魔と遭遇したんだ」
「なんだと!」
「愛鈴さんの家の庭に浮いていたようだ。監視カメラにも映っていた」
「下呂五郎と名乗ったのか!」
「そうだ。最初に窓を開けた時には、耐えられないほどの悪臭があったそうだよ」
「間違いねぇ! でも下呂四郎じゃないのか」
「ああ、そこは確かだ」
不安が的中した。
やはり、あいつは自分の臭さに耐え切れずに分裂を繰り返してやがった。
そして俺を探して、家の近くまで来た。
不在だったので、向かいの愛鈴の所へ行ったのだろう。
愛鈴が俺のことを知らなかったので助かった。
関係者だと分かれば、何をされたか分からない。
早乙女から、俺を見つけたら連絡するように言われた話を聞いた。
決着を付けねば。
俺はハーを呼んだ。
「タカさん、来たよー」
「おう! 実はな、今朝うちの向かいにいる愛鈴の所へ、「雲国斎下呂五郎」という奴が行ったようだ」
「えぇー!」
「下呂四郎ではない。下呂五郎だ」
「それじゃ、下呂四郎もいるってこと!」
「そうだ。多分、もっといるだろう」
「大変じゃん!」
ハーも焦っている。
前回は危うくやられそうだったからだ。
「ありがたいのは、あの防疫服が有効だったことだ。愛鈴が着て外に出ても、臭いは感じなかったようだ」
「そうなんだ!」
「ただ、あの「ウンコビーム」は耐えられないだろう。防疫服が瞬時に溶解して、あの激臭でやられる」
「そうだね!」
「それに、何度もこれから襲われるのは敵わん。何とか決着をつけるぞ!」
「うん!」
俺たちは燃える瞳をぶつけ合った。
「タカさん」
「なんだ」
「でも、どうして私だけに?」
「お前、ウンコの専門家じゃん」
「……」
うちの家族で最も多くのウンコ問題に関わり、一度は全身にウンコを浴びた唯一の人間だ。
「頼むぞ」
「うん」
俺とハーは作戦を話し合った。
ハーは今後作戦指揮官として有望だ。
そういう俺の意向もあった。
ルーもそうだが、こういうことは「独り」で背負う必要がある。
ルーはまた別な機会だ。
「今度は、呼べば来るってことだよね?」
「そうだな」
「じゃあ、罠が張れるね!」
「おう」
今回は俺たちに有利だ。
これまでは、突然の襲撃で俺たちが後手に回ったことが苦戦の原因だ。
「罠はタヌ吉の「地獄道」だね」
「ああ、あれでいいな」
「問題は、下呂四郎や下呂六郎たちをどうするかだよね」
「全員を呼んでもらおう」
「え!」
俺は計画を話した。
本来はハーに全てやらせたかったが、まだ本当の「ワル」にはなっていない。
「タカさん! すごいね!」
「そうだろう」
「ワル過ぎでコワイね」
「こいつぅー!」
「じゃあ、下呂温泉!」
「それはやめろ。クレームが付く」
「ん?」
「「雲国斎温泉」だ」
「ふーん」
そういうことになった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
8月下旬の土曜日。
俺たちは丹沢の訓練場にいた。
愛鈴には、ここの場所に「石神」たちが集まることを伝えてもらった。
それと。
「何かお詫びがしたいと言ってました」
《なんだと?》
「みなさんのために、特別な居場所を提供したいということでした」
《なんと!》
「これまで、みなさんは居場所に困っていたのではないかと。ですので、お詫びに、みなさんで暮らせる場所を提供したいと」
《まことか!》
「是非、みなさんお揃いでいらして欲しいと」
下呂五郎は狂喜したようだ。
仲間の復讐はどうした。
日時と場所を伝えてもらっている。
俺と亜紀ちゃん、ルー、ハーの四人が、防疫服を着込んで待っている。
タヌ吉には、特別な温泉の空間を展開してもらう予定だ。
臭気計が反応した。
「来たぞ!」
「タカさん……」
全員が驚く。
多い。
《石神! 来たぞ!》
「よくお出で下さいましたぁ!」
《お前たちはどんなにウンコ塗れにしても飽き足らん!》
「申し訳ございません!」
《だが、我らの居場所を用意すると言う心がけは買う》
「ありがとうございますです!」
《見せてみろ。まやかしであれば、すぐに我ら650体がお前たちをウンコにしてやるぞ!》
「はい! 開け!」
目の前の空間が裂け、その向こう側に風光明媚な温泉郷が拡がった。
広大な空間で、無数の家が建ち、それぞれに専用の風呂がある。
中央には300平米の巨大な大温泉が拡がっている。
「こちらであれば、皆様は距離を取りながら一緒に生活が出来ます。あの温泉は体臭を激減させる効果がございます。まあ、皆様にとってどれほどかは分かりませんが」
正直に言う。
下呂シリーズたちが驚いているのを感じた。
《気に入った! 是非使わせてもらおう!》
「御存分に」
650体の下呂シリーズが次々に空間に飛び込んだ。
先に入ったモノが、大喜びしている。
《確かに臭いが減るぞ!》
その声を聞き、疑っていたらしい残りも飛び込んで行く。
「タマ!」
「なんだ」
着物姿のタマが現われる。
「隠れている奴は!」
「3体いるな」
「よし、クロピョン! 隠れているやつらを全部放り込め!」
長い触手が3本伸び、円盤を三つ放り込む。
「タヌ吉! 閉じろ!」
「はーい」
小屋で控えていたタヌ吉が空間の裂け目を閉じた。
「クロピョン! 一帯の臭いを取れ!」
触手が無数に現われ、地面や俺たちも薙いでいく。
作業が終わり、妖魔たちも帰らせた。
「タカさん、下呂たちは、温泉で暮らすんですか?」
亜紀ちゃんが問う。
「ああ、そうだな」
「そうですかー」
ハーが気分の悪そうな顔をしていた。
こいつだけが知っている。
温泉郷はもう「地獄道」に変わっている。
あの空間ごと「地獄道」に呑み込まれ、全ての下呂シリーズが消滅したはずだ。
ハーには、汚れ仕事というものを教えた。
全員が知る必要は無い、汚い役目だ。
これから、俺たちの戦いは綺麗事だけでは立ち行かない。
それを、指揮官としてのハーに教えた。
ハーを抱き締めた。
ハーは俺の胸に顔を埋めた。
「お前、ちょっと臭いぞ?」
「臭くないもん」
「皇紀が「虎温泉」を用意してるよ」
「うん」
「みんなで入ろう」
「うん」
「もう、いねぇだろうなぁ」
「アハハハハ!」
ハーが涙を浮かべていたが、笑った。
綺麗ないい笑顔だった。
1
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる