富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,222 / 3,202

別荘の日々 XⅥ: ハチのムサシは……

しおりを挟む
 翌朝。
 今日は月曜日だ。
 朝食の後で、亜紀ちゃんが食材の相談に来た。

 「どうだ?」
 「はい、もうちょっとお肉が欲しいですかね」
 「今晩はフレンチの予定だろ?」
 「そうは言っても、結局みんなお肉を焼きますし」
 「まあ、いいけどなぁ」
 「店長さんに相談してみますね」
 「そうだなぁ」

 双子が来て、何か獲って来ようかというので、絶対やめろと言った。
 まあ、子どもたちに我慢はさせたくない。
 亜紀ちゃんに電話させようとすると、俺のスマホに電話が来た。
 スーパーの店長さんだった。

 「おはようございます」
 「ああ、おはようございます。何かありましたか?」
 「実はご相談が」

 話を聞くと、ある客から山形牛を頼まれて仕入れたのだが、急にキャンセルされてしまったとのことだった。

 「もしも石神先生のお宅で御入用ならと思いまして」
 「そうなんですか! 丁度娘と追加の肉を頼もうと相談していた所なんですよ」
 「本当でございますか!」
 「30キロくらいなんですが」
 「ございます! 本当に助かりました」
 「こちらこそ」
 「もちろん、御値引させていただきますので」
 「ありがとうございます」

 亜紀ちゃんに話すと、大喜びだった。
 肉はすぐに届けてくれると言っていた。

 「他の食材は大丈夫だよな?」
 「はい!」

 「柳!」
 「はい!」
 「昨日のダンスは幸運を呼ぶようだぞ!」
 「……」

 柳が泣きそうな顔をしていた。




 
 俺はロボを連れて散歩に行った。
 「ばーん」をやらせるためだ。
 
 ロボは嬉しがって、俺の前を走って行く。
 少し先で立ち止まり、振り向いて俺を待っている。
 カワイイ。

 何度か繰り返し、ロボも疲れたのか一緒にゆっくりと歩く。
 陽が高くなってきたが、木々に遮られ、道は涼しい。
 前に来た、少し開けた場所に出る。

 「おい、ちっちゃいのだぞー。無駄だろうけどなー」

 ロボは尾を割り、激しい放電を始めた。

 「でかいぞー」

 目を輝かせ、口の前に光球を生み出す。

 「それ、でっかいぞー」

 光球が上に吹っ飛んで行く。



 ドッグァァァァーーーーン!
 


 巨大な閃光と共に、光の帯が無数に拡がって行った。

 「やっぱ、今日も全力かよ」

 ロボが俺に駆け寄り、足に身体をこすりつける。
 俺はロボを抱き上げ、少し先の林で休んだ。
 レジャーシートを敷き、ロボにミルクを皿に注いでやった。

 
 ドサ。


 「ん? なんだ?」

 何か落ちて来た。
 ロボも見ている。

 一緒に近づくと、ミツバチだった。
 体長50センチだったが。

 「なんだ、こいつ?」

 身体が痙攣している。
 また、あっち系か。

 「「ばーん」にやられたか?」
 「にゃ」

 ロボが近付いて匂いを嗅いだ。

 「どうだ、何か分かったか?」
 「にゃ」

 分からん。

 ミツバチがこっちを向いた。
 痙攣しながら、下顎を左右に動かしている。
 空を見上げたが、仲間らしいものはいない。

 「あ! 「みなしごハッチ」だ!」
 「……」

 虫の表情は分からないが、心なし呆気に取られたような気がする。

 「仕方ねぇ。これをやるから勘弁してくれ。うちのロボが悪かったな」

 俺はポケットからピルケースを出し、「Ω」の粉末とオロチの抜け殻を練り込んだ丸薬を取り出した。
 俺たちは万一の事態のために、全員が常に携行している。

 一粒を下顎に入れた。

 「あー、呑み込めないかー」

 ロボが爪を出した。

 スボッ。

 丸薬を押し込んだ。

 「おし! これで貸し借りなしな!」

 なんだか分からんが、そういうことにした。
 俺たちはシートを畳んで帰った。
 帰りはロボがフヨフヨと空中に浮くので、俺がお尻を軽く押しながら歩いた。

 ぽふ……スゥー……ぽふ……スゥー……

 ロボが喜んだ。




 昼食は、子どもたちが大量のおにぎりと総菜を作っていた。
 ピクニックだ。

 俺と響子とロボが荷台に乗り、子どもたちに轢かせる。
 皇紀にサスペンションを工夫させ、去年のような振動はもう無い。

 「響子、乗り心地が良くなったろう?」
 「うん!」

 響子はニコニコして荷台のベンチシートに座っている。
 ロボは響子の膝に上半身を乗せて気持ちよさそうだ。

 みんなで倒木の広場まで行き、子どもたちがレジャーシートを敷いて食事の準備をする。
 ウメ、オカカ、鮭、コンブ、肉みそ、シーチキン、様々な具のおにぎりと、俺が大好きな稲荷。
 それに大量の唐揚げやだし巻き卵、ハムなど。

 シンプルだが、外で食べるのはこういうものがいい。
 亜紀ちゃんがお茶を配り、みんなでゆったりと食べる。

 食べ終わると横になって寝たり、みんなで遊ぶ。
 柳は真面目に、対妖魔用の技を磨いている。

 六花が響子に「股間のヒモ」ダンスを教えていた。
 楽しそうだ。
 柳が辛そうな顔をする。

 「あ!」

 ハーが叫んだ。

 でかいハチが飛んで来た。

 「てきしゅうー!」
 「六花さん! 響子ちゃんを守って!」

 ハーが叫び、亜紀ちゃんが構えて言った。

 《さきほどは助けていただい……》

 「おい、待て!」

 俺は叫んだが遅かった。

 柳が未完成の技を撃った。
 ハチに命中した。

 
 ドサ。


 「……」
 「にゃー……」

 「柳さん、やったぁー!」
 「エヘヘヘヘ」

 俺とロボが近付いても、ハチは動かなかった。
 俺はハチの身体を持ち上げた。

 「捨ててくるな」
 「「「「「はーい!」」」」」

 ポケットから丸薬を取り出し、ロボがまた口の中に押し込んだ。

 「悪いな」

 小声で呟き、ハチを林の中に横たえた。




 帰りの荷台で、俺は歌った。

 ♪ ハチーのムサシは死んだのさー はたーけのひだまりつちのうえー ♪
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...