富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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別荘の日々 XⅨ: 花火大会2

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 夏休みに入り、奈津江が俺のマンションに遊びに来た。
 最初は俺との関係が深まるのを心配して、あまり来なかった。
 しかし四年間も付き合うと、俺を信頼してくれ、気軽に来てくれるようになっていた。
 金を使わないデートの一環だ。
 二人で楽しく、花火大会の計画を練った。

 昼食を俺が作った。
 奈津江が好きなオムライスだ。
 俺がケチャップで、奈津江のオムライスにネコの顔を描いた。
 奈津江が喜んだ。

 「私もやってあげる!」

 奈津江が俺からケチャップを受け取り、何か描いた。

 「あんだこれ?」

 ナゾの四つ足動物の化け物だった。
 身体の横に巨大な目がある。

 「ネコだよ!」
 「車に轢かれた?」

 奈津江が自分の皿と交換しようとする。

 「俺はネコ悪魔を喰って闇の力を手に入れるんだ!」

 奈津江に肩を叩かれた。
 まあ、味は俺が作ったので美味かった。

 食べながら、楽しく話す。

 「車で行こうと思うけど」
 「篠崎公園だよね。地元の人の人気スポットだよ? 駐車場とかあっても一杯じゃないかな?」
 「ちょっと宛があるんだ。知り合いに頼んである」
 「そうなの! 電車で行くと大変みたいだよね」
 「百万人以上来るんだよな」
 「うん」

 「でも、知り合いって?」

 奈津江がちょっと心配そうだ。
 知らない人間と一緒になるのが不安なのだろう。

 「大丈夫。建築関係の人なんだ。近くで丁度建築中の現場があって、そこに停めさせてもらうんだよ」
 「へぇー! でも、その人たちも一緒なの?」
 「いや、花火には興味がないってさ。それに翌日も仕事だから、早々に家に帰るって言ってた」
 「そうなんだ!」
 「昔の知り合いでさ。偶然に会ったんだよ」
 「ふーん」

 俺は先週下見に行った。
 大混雑は分かっていたので、当日の段取りを組もうと思った。
 公園近くで建設中のビルがあった。
 丁度昼時で、現場の人間が外へ出て来る。

 見知った顔があった。
 俺の顔を見て驚く。

 「赤虎か!」

 以前に城戸さんの店で暴れ、俺がぶちのめしに行った田辺さんだった。
 その後に現場監督が間に入ってくれ、和解した。
 俺は迷惑をかけた詫びに、無償で現場で働いて、田辺さんたちとも仲良くなった。
 元来は気のいい人たちだった。

 「田辺さんですか!」
 「おう! 久し振りだな、懐かしいぜ!」
 「はい! 田辺さんもお元気そうで!」
 
 俺たちが偶然の再会を喜んだ。
 田辺さんは丁度昼だというので、一緒に食事をした。
 近所の中華料理屋だ。
 あの時田辺さんとつるんでいた三人も一緒だった。
 同じ建設会社の人間同士で、仲がいい。

 まず近況を話した。

 「へぇー! お前東大生なのかよ!」
 「はい!」
 「こんなとこで何やってんだ?」

 俺は付き合っている女と花火大会に来る予定なのだと話した。

 「そうか! じゃあ、俺たちに任せろよ!」
 「え?」
 「車で来るんなら、さっきの現場の駐車場を使っていいよ。俺が話を通しておくから」
 「ほんとですか!」
 「篠崎公園か。あそこは芝山が絶好のポイントだよな」
 「そうらしいですね」
 「じゃあ、そっちも場所を取っといてやる」
 「え、でも!」
 「任せろよ。赤虎のためなら、力を貸すぜ」
 「ありがとうございます! でも駐車場はともかく、公園の方は難しいんじゃ」
 「区の人間に顔が効く。ちゃんと場所を押えてやるよ」
 「本当に!」
 「ああ。まあ、場所は確保してやるけど、俺たちは花火なんて興味はねぇからな」
 「はぁ」
 「分かるようにしておいてやる。ゆっくり楽しめ!」
 「感謝します!」

 俺は有頂天になっていた。
 礼をしたいと言うと、断られた。
 俺は無理に昼食代を出させて欲しいと言い、そうさせてもらった。
 田辺さんたちは、礼はいいから彼女の話を聞かせろと言った。
 俺が話すと、大喜びで、散々俺をからかった。
 俺も楽しかった。






 俺は、高校時代に知り合った田辺さんたちの話をした。

 「へぇー! その人が高虎のために用意してくれたんだ」
 「うん。いい人なんだよ」
 「じゃあ、お世話になりましょう」
 「ああ」

 俺は中古のポルシェで奈津江を迎えに行くことにし、当日に持って行くものや弁当や飲み物の相談をした。
 二人で楽しく話し合った。

 コーヒーを淹れ、奈津江が映画を観ようと言った。

 「ちょっとコワイのがいいな」
 「大丈夫かよ?」

 奈津江はホラーが苦手だった。

 「今日はちょっと観たいな」
 「ほう」

 幾つかタイトルを選び、奈津江に決めさせた。
 奈津江は既に怖がって、目を瞑って、DVDのケースを掴んだ。

 よりによって、サム・ライミ監督『死霊のはらわた』だった。

 「本当にこれでいいのか?」
 「う、うん!」

 まだ目を瞑っていた。
 俺はデッキにセットし、二人掛けのソファに座って並んで観た。

 死霊が出て来ると、奈津江は硬直し、動かなくなった。

 「と、止めて!」

 俺は笑ってデッキを止めた。

 「なんだよ」
 「怖すぎだよー!」
 「自分で選んだんだろう!」
 「限度があるよー!」

 「アハハハハハ!」

 何で苦手なホラーを観たがったのか聞いた。

 「ちょっと高虎に抱き着こうと……」

 散々俺が聞くと白状した。
 俺は優しく奈津江を抱き寄せた。

 「そんなの、いつだって」
 「自然にそうしたかったの!」

 俺は笑った。
 奈津江はずっと俺に抱き着いていた。





 花火大会当日。
 俺はポルシェ928で蕨市の奈津江を迎えに行き、二人で江戸川に向かった。
 俺が弁当を作り、奈津江はいつものように菓子を用意した。
 魔法瓶にコーヒーとミルクティを入れ、氷を詰めたクーラーボックスに収めた。

 まだ3時だった。
 ゆっくり行っても時間に余裕がある。
 俺と奈津江は楽しく話しながら走った。

 奈津江はずっと楽しそうにしていた。
 俺は、それが何よりも嬉しかった。
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